変わっていく心情 Side:ナディア
私の髪のセットを終えると、「また今度来ても良いかな?」と聞いてきたので、私は後日会う約束をすると、ルカは帰って行った。
数時間前の私がこの状況を見たら、きっと泡を吹いてドン引きするだろう。何せ、自分が苦手なはずの存在と再び会う約束をしたんだから。
でも、こうやって会話してみて、「私を揶揄う為に近付いて来た人」から「とりあえず偏見はない人」に一応のグレードアップはしたので、その辺りの認識は改めておく事にする。
……にしても。
髪をセットしてもらったはずなのに、どうも違和感がある。髪は確かにルカの言う通り綺麗になったし、さっきまでとは印象は違う…が。
……上手く言えないが、妙な違和感がある。私はその違和感の正体を確認する為にも、じっと目の前のドレッサーの鏡を見つめる。
数十秒程鏡と睨めっこをして、ようやくその正体に気付いた。
服だ。服がダサいんだ。
ほとんど外出をしない関係で、綿素材のダボっとした茶色のワンピースや、白いブラウスに黒いスカートという、こだわりもクソもない適当な格好を毎日使い回すように着ているので、着ているものが強烈にダサいのだ。おまけに何年も着ているせいで単純にボロい。
私は以前母親が「ナディアに似合うと思って買ってきたの。気が向いたら着てみて」と送ってくれた、どうせ着る機会もないだろうと開けてもいなかった長方形の箱を開ける。
そこには丸い襟に黒い蝶結びのリボンが付いた白いワンピースが入っていて、とりあえずこれを着たらある程度髪型とのバランスが取れるかなと、あまり深くは考えずに着てみた。
すると同時に母親が「ナディアー?入るわよー」とノックして部屋に入ってきたのだが、いつもは何の躊躇いもなく入るのに、この時は部屋に入る直前にぴたりと立ち止まり、私の姿を驚いた顔で見つめた。
「ナディア…!それは私が贈ったワンピースだけど、その髪型…!」
「え?ああ…。前に町で私が助けた子がやってくれて…!」
すると母親は目を輝かせながら「…友達?友達ね!?」と興奮する声を上げる。
「ナディアも友達ができたのね!お母さん嬉しい!それに、その髪型も格好もすごく似合ってる!元々可愛いナディアの魅力がさらに磨かれた!」
「いやちょ…!」
私の話を聞こうとせず、「ごはんできてるから、いらっしゃい!」とスキップしそうなくらいウキウキと部屋を去っていく母親を、私は呆然と見つめた。
…友達って…。まだそう言える程お互いの事を知らないのに。
…でも。
私みたいなのでも、友達って作ってもいいんだ。
友情を築くことを望んでもいいんだって、私の存在がまた再び、認められたような気がした。




