倒すべき敵
「…あ!まあ、私の力を怖がって近寄らない人も多いんだけどね!それに、命まで狙う人はそんなにいないかも!」
この国の理不尽で身勝手な価値観をシリアスに語った為か、暗くなった場の雰囲気を変えようと、出来るだけ明るい口調でナディアは語る。
表情と話し方はさっきと同じだが、声色には少し寂しさが混じっている。
……ナディア、こんな状況でも太陽みたいに元気で前向きなあなたの事を、私は心から尊敬するよ。
私は自分の置かれた状況をポジティブに見る事も出来ないくらいに弱いから。
……でも、いくら辛い状況でも強く振る舞う事が美徳なんじゃないんだよ。きっと。
強くなれって言ったり、理不尽な状況に我慢する人を称賛する人は、正直大した人じゃない。偏見とか思い込みとかじゃなくて、私にそんな言葉を吐く人が大抵そうだったからだ。
「…この考えってさ、結構昔からあるの?」
先程まで静かに耳を傾けていたケントが質問する。
「あ、それがね…。私の親が若い頃は全然無かったって。むしろ、国中をいろんな容姿の人が歩いていて、それもカラフルで綺麗だったって。
…でも、20年くらい前に国の総統になった人が突然、それも女性限定にそんな価値観を広げて。で、それが今も続いてるんだよ」
…なるほど?この国に昔から根付いている訳じゃない、むしろ比較的最近できた考えなんだ?
という事は……。
「…その総統とやらを倒せば、そんな意味分かんない考えも政策も、急になくなる…とはいかなくても、マシな方向には持っていける…だよね?」
…大分説明を省いた気もするけれど、ケントが一応この状況の突破法を述べた。
「あ、うん…。多分そう…だけど…」
「ならさ、
俺達も協力するからさ、一緒に倒そうよ。その総統とやらも、この国の理不尽な価値観も」
「おいケント…!」
アデルがケントの発言に動揺する。…でも、これはアデルの反応に同意だ。
アラクの一件といい、ライプチヒの一件といっても、ケントはいわば国家を崩壊させる行為を、「一緒にコンビニ行こうよ」くらいのテンションで誘っているんだから。それも、いくらこの国で理不尽な扱いを受けているとはいえ、出会ったばかりの女の子に。
「なんっでお前はそんなとんでもねぇ事をしれっとやろうとするんだよ!」
「とんでもない?でもそのとんでもない事をアデルも一緒にやったじゃん。でもってそれを達成できたし」
「ぐっ…」
つい先日あった出来事を思い出し、さすがのアデルも事実を突き出されて反論できなくなる。
「…みんなが戦えるっていうのは知ってるけど、この国の軍も、総統も強いよ。それに4人で対抗するの?簡単に言ってるけど」
ナディアが静かな口調かつやや訝しげな顔で言う。
「うん。大丈夫だよ。こーゆーのはまずはやってみないと。それに、この価値観に悩まされてるのは、多分ナディアだけじゃないでしょ」
「それはうん…そう…」
「じゃあさ、みんな望んでるんじゃない?ありのままの姿で堂々と歩ける世界を」
ケントのその言葉で、ナディアは過去の、幼少期の出来事を思い出した。




