白馬の王子様みたいな美男子の地雷
可愛らしい。でもただ高くてわたあめみたいな甘ったるい声ではなく、愛嬌のある中にどこか芯の強い、ブレない何かを感じさせる声をしていて、男性複数名に囲まるという一見すると不利な状況にも関わらず、毅然と反抗する態度から、一瞬であの子は気が強い子だなと分かった。
「てか。私にそんな事言うあんた達の顔、一回鏡で見てみたら?
そっちの方が綺麗じゃないから」
「なっ!」
まさかここまで言い返されるとは思っていなかったのか、男性達は顔を真っ赤にさせる。
「こんの…!クソ」
「そこまでにしなよ」
男性が右手をグーにして殴りかかろうして、女の子もそれに抵抗しようと動いたその瞬間、男性の腕を誰かが掴んで止めた。
「一人の人をこんな大人数で追い詰めるってダサいし、というか、こんな大人数じゃないと勝てないとでも思ったの?」
男性達がその声に気付いて振り返ると、そこには金髪碧眼のうなじが丁度隠れるくらいの所謂ミディアムヘアーの髪に毛穴が見当たらないくらい綺麗な白い肌、小さな顔に長いまつ毛、長い手足の全身のバランスというバランスが整った人物が立っていた。
ケントだ。この状況はまずいと思い、慌てて三人で止めに来たのである。
頭に血が上った男性達が相手なので、軽い乱闘みたいになるかなと思ったら、次の瞬間、なかなか予想外の事が起こった。
「うおー!金髪美女!綺麗な女はたくさん見た事あるけど、こんな美女見た事ねぇ!」
男性達はさっきの乱暴な態度は一体どこへ、鼻の穴を広げながら、欲望を隠し切れない目でケントに視線を集中させた。
…あっ。これはちょっと…。まずいかも…。
そう思ってケントの顔をちらりと確認すると、一瞬の間を置いてにこりと笑顔を浮かばせた。
……「俺は男だ」と言わんばかりの怒りの籠った笑顔を。
一瞬天使みたいな綺麗な笑顔を浮かばせると次の瞬間、ケントは右足で思いっきり回し蹴りを食らわせ、その衝撃で男性は数メートル先まで蹴飛ばされた。
男性は白目を剝きながら気絶し、他の男性達がその状況を大きく口を開けながら唖然としていると、ケントがゆっくり口を開いた。
「…俺、男に欲情されて対応できるほど優しくないんだけど」
顔は笑顔だが、明らかに目が笑っていない。通りすがりの鳥たちもケントのその殺気に満ちたオーラを感知したのか、真上でぎゃあぎゃあと騒いでいる。
その笑顔を見た途端、男性達は「ごっ、ごめんなさーい!」と気絶した男性を回収して泣きながら逃げ、私とアデル、そして女の子もゾッとしながらその状況を見ていた。
…今のやり取りで、ケントの地雷が少し分かったような気がする。
白馬の王子様みたいな美男子の、悪魔みたいに恐ろしい地雷を知ったその時、近くから声が聞こえてきた。
「あっ!ねえ!助けてくれてありがとう!私の事助けてくれた人って、会うの初めてかも!」
さっきは気の強い態度全開だったが、今はそんな態度は感じさせない、天真爛漫で明るい、年相応の女の子といった感じの態度で私達にお礼を言ってきた。




