お兄さんとの出会い
5時になった。私は更衣室で深緑のトレーナーと黒のスキニーに着替え、店から出た。
辺りを見渡すと空が少し濃い青色になっていて、夕方特有の冷たい風が肌を刺した。
今日も店長から売れ残ったパンを紙袋1つ分貰い、中身を確認する。ウインナーロール、チョココロネ、チーズパン、そしてさっきのさくらあんぱん。
…うん、これだけあれば、あの子達も喜んでくれるはず。
心の中でよしと呟き、紙袋をリュックに入れて帰ろうと歩き出したその時だった。
「おお、今から帰る所かい?」
聞き馴染みのある声が後ろからして、反射的に振り返った。
「そんな怪訝な顔しなくても、いつも会っとるじゃないか〜」
「…え、何で…」
さっきのセクハラじじい…初老の男性客がいて、私をニヤニヤと見つめている。
今までは絡まれるだけで、シフト終わりに待ち伏せされるなんて事は無かった。完全に想定外だ。
困惑する私に近付いて、じじいは私の手を両手で握ってきた。
「…実はかみさんに出て行かれて寂しいんだ。朝起こしてくれる人もいない、食事を作ってくれる人もいない、掃除や洗濯をしてくれる人もいない、そして…」
私がドン引いた顔をしているのも気付かないままペラペラと言い続ける。
…あれをやってしまう?…いや、あんなの一般人に喰らわせるわけにはいかないし…
ぐるぐると思考を回していると、次の言葉に私は戦慄した。
「夜の相手をしてくれる人もいなくなってねぇ」
その言葉に、私は数年前の出来事を思い出して体が硬直し、頭が真っ白になった。
数年前のあの日、私の中の何かが大きく歪んだあの出来事。考えるだけで冷や汗が出た。
「君は綺麗だし、優しそうだし、僕の愛人に…」
混乱して涙が出そうだったその時、ふわりと優しい匂いが私の肩を抱いて、男性から離してくれた。
思考が戻ってきて、思わず隣を見ると、そこには金髪碧眼のやや長い髪に透き通るような白い肌、白の少し大きめのシャツに黒いスキニーを着用した、すごく綺麗な女性…じゃなくて男性がいた。パッと見女性じゃないかと思うくらい中性的で端正な人だった。
「…女の子を口説くんだったらさ、女の子を怖がらせるなんて論外でしょ。…ま、そもそも口説く時点で異性に飢えてますって自分から公表してるようなもんだけど」




