プロローグ
「…サ、…ッサ」
意識のずっとずっと奥で、誰かが何かを言っている。
私に一体何の用なんだろう。今は猛烈に疲れていて、相手をしていられる程元気ではない。
あの騒動の後、私の心は強烈なくらいに冷え切って、自分が今どうして生きているのか分からないくらい情緒が不安定になった。
思えば私の人生は、ロクでもない事ばかり起こった。
高校では大して仲良くもないクラスメイトからほぼ毎日のように宿題を写されたり、クラスの1軍から聞こえるくらいの音量で自分の悪口を言われたり、バイト先では変な客にばかり絡まれたり…。
他の人は経験しないような事が、私にばかり降りかかって、内容は何でもいい、こんな世界から抜け出したいと強く思うようになった。
そういえばあのお兄さん、そんな私を見かねて冗談を言ってきたな。確か…
「…リッサ、メリッサ!」
「…へっ?」
耳元で強い口調で呼びかけられて、ぼんやりと目を覚ます。
辺りを見渡すと、私は小さな船に乗っていて、オレンジ色の空と太陽、同じくオレンジ色に染まった浜辺が見えた。そして…
「おはよう、ぐっすり寝てたね。相当疲れてたんだね」
金髪に碧眼の瞳、白い肌に端正な顔立ちの…あのお兄さんがいた。
「もうすぐしたら陸に着くから、荷物の準備とかしといた方がいいよ」
「えっ…ちょ、ちょっと!」
ん?と目を少し見開きながら私を見つめるお兄さんに、私は純粋な疑問をぶつけた。
「陸って…どういう事?あの時私…」
慌てる私を見て「あぁ」と納得した声を出したお兄さんは、私に向かってこう言った。
「島から出たんだよ、俺達」




