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第一話 さよなら『わたし』


 アイドルを引退することになった。人気が出なかったのが大きな原因だが、一番は自分自身がアイドルの自分に限界を感じていたからだ。アイドルは好きだ。笑顔と歌声でファンに元気を与えてくれる、食べるだけで元気が出るケーキのような存在。私もその一人になりたかった。けれど、現実は甘くなかった。

 ラムネソーダのような水色の髪を二つのお団子にまとめ、水色のカラコンを入れる。メイクさんに化粧を施してもらい、お団子には生クリームのように白いリボンを飾り、同じ色のリボンのイヤリングを着ける。フリルをふんだんにあしらった可愛らしい服に袖を通し、鏡に向かって笑いかける。アイドルの『小林 詩羽(こばやし うたは)』はこうして出来上がる。この姿になるのは今日が最後だ。今日はアイドル『小林 詩羽』のラストステージ。ファンの皆には既に引退は告知しており、様々な反応をもらった。引退後の生活を応援する人や、引退しないでと悲しむ人。一つ一つ丁寧に読んでいくと目頭が熱くなった。そして、皮肉にも今日のライブの売り上げは今までで一番だった。アイドルとしての私の最期を見届けようとしてくれているのだろう。私は頬を両手でぱちん、と挟み、気合を入れる。


「よし、『小林 詩羽』!頑張るぞ!」






 最後の曲が終わり、私はステージの中央でマイクを握った。スポットライトが私を照らす。ついにこの時が来てしまった。私はごくりと唾を飲み込んで、口を開けた。


「20〇×年4月1日からアイドル活動を始めて、今日で丁度十年が経ちました。皆さんにはもうお伝えしていましたが、本日でアイドルを卒業します。こんなにたくさんの方が会場に集まってくれて、本当に嬉しいです。ありがとうございます!」


 ファンの真剣な視線を一身に受け止める。これまでの思い出が走馬灯のように蘇り、私はグッと涙を堪えて言葉を続ける。


「卒業を決めた時、『頑張ってね』、『応援してるよ』と声かけてくださったファンの皆さん、どうもありがとう。『うたたん、卒業しないで』と言ってくれた皆さんも、ありがとうございます。私はこんなにも皆さんに愛されていたんだなって実感しました」


 目から涙が零れる。泣かないと決めていたのに。するとたくさんの歓声が私を包んだ。私は泣きながら笑っていた。


「今日、たくさんの方に見守られて卒業ができることを本当に嬉しく思います。最後になりますが、私に出会ってくれてありがとうございます!この十年、たくさんの声援、そして愛を本当にありがとうございました!」


 たくさんの拍手、そして歓声が上がる。私は深々と頭を下げ、ステージを去った。このステージに上がることはもう、二度とないだろう。眩しかったスポットライトが消える。ファンの皆が家路を目指して歩き出した。私は舞台裏でこっそりとその様子を見つめた。泣いているファンや、満足そうに笑みを浮かべるファン。反応はファンによってそれぞれだった。

 片づけ作業が始まったステージ。これで、アイドルの私は終わったんだ。さよなら、『小林 詩羽』。アイドルの自分に別れを告げ、片づけ作業を手伝い始めた。


 つづく

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