3seconds ago ∼ 運命を覆せ ∼
タイトルは【スリー セカンズ アゴー】と読みます。
【3秒前】という意味です。
ではでは、本編をお楽しみください。
m(_ _)m
タイムリープ。それはすなわち、時間の跳躍をする能力。
それが俺の持つ能力だ。
3秒だ。たった3秒だが俺は時間を遡ることができる。
えっ? たかだか3秒で何ができるんだ、って?
いや、3秒というのは短いようで意外と長い。
人生をやり直すには十分過ぎる時間だ。
例えば他人を不愉快にするような一言を不用意に口にして「これはマズい!」って空気になった経験は誰にでもあるだろ?
その「マズい!」の瞬間、3秒の時間を遡って吐いた言葉を飲み込めば、無用な口論や喧嘩を避けることができる。
怪我した時も同じだ。たった3秒の時間の巻き戻しで怪我につながる原因を回避することができる。
つまりは、タイムリープとは
『躓きそうな人生を修正することのできる能力』だ。
おそらく、この能力にはまだまだ役立つ上手い使い方があるだろう。だが、俺はまだ、その用途の全貌を把握しきれていない。どうしてか? 何故なら、俺がこの能力に目覚めたのがついさっきのことだからだ。
そして今、俺はとんでもなくヤバい状況に陥っている。
俺は今、タイムリープの連続酷使の真っ只中だ。
俺的な時間軸ではもう結構な時間が経過しているのだが、一般世界の時間軸では3秒前の出来事だ。そう、3秒前。その時、事件は起きた。
交通事故だ。不注意なことに俺は大型トラックに跳ねられてしまった。
トラックに吹っ飛ばされた瞬間、脳裏に過ったのは死の予感だった。
跳ねられ、錐揉みしながら宙を舞い、地面に叩きつけられて血ヘドを吐いた。意識が闇に沈んでいくその刹那、タイムリープ能力が開花した。
それは魂の持つ神秘の力なのか。死を覚悟した人間の精神の力なのか。
兎にも角にも、俺にはタイムリープ能力が発動した。しかし、ヤバかったのはこの後だ。
タイムリープした直後、俺は路上に立っていた。目の前には迫り来る大型トラック。この距離ではもう避けることはできない。
俺は再び跳ねられた。
地面に叩きつけられ、血ヘドを吐いた瞬間に思った。
このまま意識が落ちたら絶対に死ぬ。意識の消えないうちに再びタイムリープしなければ……。
そして現在。俺はそのタイムリープの延々の延長線上にいる。
跳ねられる。
タイムリープ。
死の危機からの脱出。
眼前のトラック。
跳ねられる。
このループから抜け出せない。
そしてここで俺は理解した。俺のタイムリープ能力は3秒の巻き戻し限定だったのだ。
この危機からどうしたら脱出できる!?
終わりの見えないタイムリープを繰り返しながら、俺はこの地獄の無限ループを終わらせる方法を試行錯誤した。
巻き戻しは3秒限定、というのが難点だ。せめて5秒。5秒あればギリギリで事故からの回避ができる。
そうか。ならば、タイムリープの能力をレベルアップすればいいって話か。
やってやる! 3秒の刻の壁を乗り越えてやろうじゃないか!
成功するまで何度でもこのタイムリープを繰り返してやるぞ!
根比べだ!!
・
・
・
無理だった。
もう、何百回跳ねられただろう。
タイムリープするタイミングを失敗しそうになって危うく何回か死にかけた。
ダメだ。タイムリープ能力のレベルアップなんて今すぐにできるもんじゃない。
今は一回一回、確実に丁寧に、ミスのない現状維持の3秒リープを心がけることが一番大切だ。
次に考えたこと。
テレポーテーション。空間を瞬間移動する能力だ。
どういう理屈かは知らんがタイムリープができたんだ。なら、テレポーテーションだってきっと不可能ではないはずだ。
トラックが俺に接触できない安全な空間まで瞬間移動してやろう。
次のタイムリープの直後にチャレンジだ!
俺は迫り来るトラックを睨みつけ、意識を最大限に集中させた。
そして今一度、跳ね飛ばされた。
血ヘドを吐きながら沈み込んでいく意識。
今だ! この瞬間だ! タイムリープとテレポーテーションを瞬時に連続で使うんだ!
「タイムリープ!」
よし、事故直前まで戻ったぞ。ここだ! ここでトラックと接触する前にテレポーテーションを使う! 瞬間移動だ!
「テレポ……」
トガシャッ!
また跳ねられた。
無理だ。なんで3秒なんだ。たった3秒じゃテレポーテーションなんてできやしねぇ。
いや、そんなに簡単にあきらめてたまるか! もう一度だ!
血ヘドを吐きながら叫ぶ。
「タイムリープッ!」
3秒前に戻ったぞ! よし、今だ!
「テレ……」
ドガシャッ!
こんちくしょうめ!
「タイムリープ!」
「テ」
ドガシャッ!
「タイムリープ……
・
・
・
無理だった。
だいいち、どうしてタイムリープが発動したのか、その理屈すら理解できてないんだ。
なのにいきなりテレポーテーションなんて不可能だ。
なにより、タイムリープだけにしっかり集中しないと真剣に死んでしまうような気がする。
どうしたらいい。このまま永久にタイムリープを繰り返すのか? いや、そんなことは絶対に不可能だ。
死? 俺は死ぬのか? 気力の果てたその瞬間が俺の人生の終焉の時なのか?
この星咲陽一郎、23歳。思えば冴えない人生だったなぁ。女性にモテたわけでもなく、いや、女性と一緒に食事したこともなく、いや、女性と手を繋いだこともなく、いや、女性とまともに話せたこともない人生……。
せめて最期くらいは……
……というか、最初から気にはなってたんだが、俺からちょっと離れたところに、ずっと、すんげぇ可愛い女の子がスマホを見ながら歩いてるじゃねえか。
いや、「ずっと」ってのはループを繰り返してる俺だけの価値観か。
高校生くらいだろうか。ショートの茶髪にチェック柄グリーンのブレザー。キュートで端整な顔立ち。短めのスカートに、綺麗な生脚。パンティが見えちゃいそうだ。
そうだ。どうせ死ぬなら人生の最期は彼女のパンティを見て死にたい。そしたらきっと、最悪の死に様だった、なんて後悔はしないような気がする。
いや、絶対に後悔はしない。
それはきっと大満足な死に様だ!
それ以上に最高な人生の最期は俺には考えられない!
うおぉぉっ! 俺様は完全無欠に大満足だぁ!
ウワッハッハッハァッ~!
よし。最期くらいは命を賭けて頑張ってみよう。死ぬ前に何がなんでも彼女のパンティを拝んでやるんだ。
ではさて、どうしたらいい。
そうだ。トラックに跳ね飛ばされる方向をコントロールすればいい。
絶妙な角度で彼女のスカートの下に転がり込むように跳ねられればいいんだ。
俄然、燃えてきたぞ! 気力MAXだ!
よし! 挑戦だ! 今から俺はチャレンジャーだ!
トラックに接触する瞬間、彼女に向かってステップを踏むんだ!
「ステッ……」
ドガシャッ!
ダメだ、トラックのパワーが圧倒的過ぎて吹っ飛ばされる方向が全然、変わらねえ!
いや、今の俺はチャレンジャー!
もう一度やり直しだ!
「タイムリープッ!」
ここでイマイチ、アレンジが必要だ。
接触の瞬間、ステップを踏みながらトラック正面のボディーを両手で思いっきし横向きに叩く!
ドガシャッ!
よし! 成功だ。ちょっとだけ跳ね飛ばされる角度が変わったぞ。この調子だ。極めてやる! 俺は極めてやるぞ!
「タイムリープッ!」
ドガシャッ!
俺の挑戦は続いた。試行錯誤を繰り返した。こんなに熱く情熱的になったのは初めてだ。イケる。イケるぞ!
「タイムリープッ!」
ドガシャッ!
・
・
・
情熱的チャレンジはすでに数千回を越えたが……。
だいぶ、吹っ飛ばされる角度は彼女に近づいたが……。
ダメだ。それからの進展が全く無ぇ。今一つ、今一つ何かが足りないんだ!
そうだ! 閃いたぞ!
たしかヘッドスリップといったか。ボクシングには殴られる瞬間に頭を回転させてパンチの衝撃を逃がす技がある。
それを応用するんだ!
あのトラックは大巨人の巨大なパンチだ!
パンチが当たる瞬間、今まで駆使した技術に身体のひねり回転を加えて衝撃を逃がす!
天才とは努力をあきらめない凡人のこと。
そう、俺は天才だ! あきらめてたまるか!
「タイムリープッ!」
その瞬間に俺は全神経を集中させて感覚を研ぎ澄ました。タイミングは刹那の一瞬だ。今ここで接触した瞬間に身体のひねり回転を追加する!
ドガシャッ!
!!!
跳ねられたのに意識が落ちていかないぞ。
致命傷を逃れられたのか? 成功したのか!?
いや、まだだ。まだ全然、彼女の足元に近づけてない!
もう一度やり直しだ!
「タイムリープッ!」
ドガシャッ!
・
・
・
「タイムリープッ!」
ドガシャッ!
・
・
・
「タイムリープッ!」
ドガシャッ!
・
・
・
男のエロパワーというのは超凄いものだということを俺はあらためて深く実感した。
こんなに燃え上がるような充実感は初めてだ。
もう何千回もタイムリープを酷使しているというのに気力に衰えを全く感じない。
俺はやってやる! やってやるぞ! やればできる男なんだ! 成し遂げてやるぞ!
最初の目的とはだいぶ方向性がズレている気もするがそこを考えたら負けだ。
「タイムリープッ!」
・
・
・
!!!
今、ノーダメージだったぞ。
たしかにトラックには接触した。だが、スルリと身を躱すようにすり抜けたぞ。跳ねられた感触はない。
事故を回避できたのか!? 俺は助かったのか!?
いや、まだだ!
まだ目的を達成できていない!
俺はやり遂げていない!
今すぐ事故のループに戻らなくては……!
「タイムリープ………
・
・
・
ちくしょう。もう何万回目だ。何万回タイムリープした。
たった3秒の繰り返しだが、俺にはもう三日三晩が過ぎている気がする。
時間が進んでいないから腹は空かないが、さすがに精神的に疲れた……。
眠い……。眠くて意識が落ちそうだ……。
「タイムリープ……」
もう無意識だった。限界だった。真っ白だ。今までの全ての技を駆使してトラックを躱した直後、意識の薄らいだ俺はその場に倒れ込んだ。
ちくしょう。ダメだ。もう無理だ。結局、俺は何も無し遂げることのできない男だったのか。
涙が溢れ出した。
「ちくしょう……ばかやろう……」
地面に仰向けに倒れたまま涙を拭ったその時……
!!!
頭上に、というか、俺の視線の真っ直ぐ先に彼女のパンティがあった。
彼女の足元、両足の間に俺は頭を挟み込むように倒れていた。彼女は俺の頭を跨いでいた。
「ピンクか……。うおぉぉっ! やった! やったぞ! 俺はついに成し遂げたんだ!」
思わず歓喜の叫び声を上げてしまった。
彼女は冷めた目で冷静だった。俺のことを見下ろしていた。無表情だ。
「あのぉ、突然私の足の間に飛び込んできて頭を挟み込んで「ちくしょう、ばかやろう」って、どういうことですか?」
彼女は言葉を続けた。
「「ピンクか、俺は成し遂げた」って、どういう意味ですか?」
そう、俺は成し遂げた。もう死んでもいい。いや、今こそ最高の死に際だ。
運命よ、今ここでこの瞬間、俺の命を奪ってくれ。
……って、ん? あれれ? もしかして……。事故を回避できたってことは俺は死なないということじゃないのか?
これじゃ、ただの痴漢の変質者だ。
男のエロパワー、恐るべしだ。
「女性の下着を覗き込んで涙を流しながら喜んで「ばかやろう」って、あなた、超変態ですよ」
この女、俺の涙の意味を勘違いしている。
あれは本当に正真正銘の悔しさと悲しみの本物の涙だったんだ。
だが、やはり俺は変態だったのか。
彼女はスマホで何かをググり始めた。
「あっ、痴漢の罪って6か月以下の懲役か50万円以下の罰金らしいですよ」
うっ、それはマズい。今すぐこの場の流れを回避しなければ……。今こそタイムリープだ。
「タイムリープッ!」
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「……50万円以下の罰金らしいですよ」
「タイムリープッ!」
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「……50万円以下の罰金らしいですよ」
「タイムリープッ!」
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「……50万円以下の罰金らしいですよ」
「タイムリープッ!」
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・
「……50万円以下の罰金らしいですよ」
「タイムリープッ!」
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ダメだ。回避できない。
「3秒あれば人生がやり直せる」だと!?
いったい誰がそんなこと言ったんだ?
いや、俺が言ったのか……。
無表情だった彼女が微笑んだ。
「そうだ! 私、いいこと思いついちゃった。その罰金、私にくださいよ。そしたら何もなかったことにしてあげます。50万円、私にちょ~だい!」
50万円ちょ~だい、って言った時の彼女の顔、なんって可愛らしくて素敵なんだ。最高の笑顔だ。
いや、今はそれどころじゃない。そんな高額な金は俺には無い。回避だ。今すぐ回避だ。
「タイムリープッ!」
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「……50万円、私にちょ~だい!」
「タイムリープッ!」
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「……50万円、私にちょ~だい!」
「タイムリープッ!」
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「……50万円、私にちょ~だい!」
「タイムリープッ!」
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「……50万円、私にちょ~だい!」
「タイムリープッ!」
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・
「……50万円、私にちょ~だい!」
「タイムリープッ!」
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ダメだ。3秒戻ったくらいじゃ何も変わらねぇ!
「3秒というのは短いようで意外と長い」だと!?
誰がそんなこと言ったんだ?
いや、それも俺が言ったのか。
3秒なんて短いぞ。極短だ! 何もできねぇじゃねぇか!
何で3秒なんだよ! 嫌がらせか? 嫌がらせなのか?
「躓きそうな人生を修正できる能力」だと?
それはたしかに俺が言った言葉だ。だが、タイムリープのおかげで大きく躓いたぞ! 人生、すっ転んだぞ!
いや、今は思考を前進させよう。それが肝心だ。
警察に逮捕されたら何と弁明すればいい。元々は交通事故を回避したいだけだったんだ。
タイムリープで交通事故を回避した?
誰がそんな話を信じるんだ。だいいち、事故回避には成功してしまったんだから交通事故なんてものは最初から存在しないんだ。タイムリープ前の出来事なんて誰にも把握できないんだ。
現実世界の時間軸の人間から見たら、トラックの横をすり抜けてきた男が唐突に若くて可愛い女性の足元に頭から飛び込んでパンツを見上げた、と、そんなところだろう。
まさしく変質者の痴漢行為だ。いや、痴漢男の変態行為だ。
仮に初犯として執行猶予で懲役刑を免れたとしても罰金刑を免れることは不可能だろう。
もしかしたらテレビのニュースのネタになってしまう可能性もある。
経歴に前科が付こうものなら、俺の人生はお先真っ暗だ。
明るい未来を思うなら彼女の要求を受け入れたほうがきっと利口だろう。
「すみませんでした!」
俺はすかさず土下座をした。
頭を地面に擦り付けながら彼女に謝罪した。
「ですが、今の私には一括で50万円支払えるほどのお金は無いんです。分割払いでもよろしいでしょうか?」
俺はひたすらにひれ伏した。お願いする立場だ。もう頭を上げることはできない。いや、別の意味でも頭は上げられない。この体勢で頭を上げれば、俺はきっとまた彼女のパンティを見上げてしまう。それは男の性なのだ。
絶対に頭を上げてはダメだ。また罪を重ねてしまう。謝罪金の増額だけは勘弁願いたい。
「うふふ。じゃあ月々5万円の10回払いね。滞納したら警察に通報するからね」
可愛らしい笑みを浮かべながら彼女は俺を立ち上がらせた。そしてその場でお互いの連絡先の交換をした。
初めての異性との連絡先交換。なのにトキメキなんて何もありゃしない。異性とのトキメキ体験が俺の夢だったのに……。
俺は彼女から謝罪金を振り込むための口座番号と彼女の電話番号を受け取り、彼女へは俺の電話番号と、さらには俺の実家の電話番号を渡した。もちろん、実家の電話番号というのも彼女の要求だった。
一通りの必要なやり取りを終えると、彼女はとっても嬉しそうに、ルンルルルンルン……♪ と鼻歌まじりでスキップしながら俺のもとから去っていった。
俺が実家の電話番号を彼女に渡した時、それが本物か確かめるために彼女はその番号に電話をかけたのだが、その時の会話には俺は少し驚いた。
「もしもし、私、陽一郎さんの彼女の池谷栞と申しますけど……」
なんか、俺の母親と凄く会話が盛り上がっていた。
母親は嬉しそうにはしゃぎ、彼女は俺の恋人そのものだった。
しかし……。
俺の彼女? とうとう俺に彼女ができたのかい?
栞さん、君はすでに俺の可愛い彼女なのかい?
いや、そんなわけがない。あるはずがない。あれは俺が逃げた時に実家から俺の情報を聞き出すための策略だ。きっとそうに間違いない。
俺の連絡先だけでなく俺の実家の連絡先までもを入手するとは実に頭の切れる女だ。俺はもう絶対に彼女から逃げられない気がする。
そうか。俺は返済の道から逃がれることはできないのか。
なら、明日からしっかりバイトを探そう。できるだけ時給のいい稼げるバイトを!
しっかりと明るい未来を考えて、人生コツコツと真面目に誠実に生きよう。
そしてこれからは、交通事故と頭の切れる女にだけは出会わないように気をつけるんだ。
最後に俺の、独断と偏見に満ちた勝手な結論。
「タイムリープでは運命は覆せない!」
完…?
……って、あれ? 誰か向こうから走ってきたぞ。
あっ! 栞さんだ。凄い勢いで戻ってきた。満面の笑顔だ。なんだ? どうしたんだ?
「陽一郎さぁん。私、いいもの見つけちゃったぁ」
目が輝いてキラキラだ。いったい何を見つけたんだ?
「ほら、写真撮ってきたよぉ。見て見て!」
はしゃぐ栞さんって可愛いなぁ。本当に俺の彼女だったらいい……いや、ダメだ! 可愛いのは顔だけだ。俺は騙されないぞ。
で、写真ってのはどんなんだ?
彼女のスマホには、あるお店が写されていた。
「うふふ。御覧あれ。ニッコリ安心極楽ロ~ン。私やっぱり10回払いなんて待てないよぉ」
うっ! 消費者金融だと?
ニッコリ安心極楽ローンだと? なんて怪しい店の名前だ。
俺にこの店でお金を借りろってか?
看板の隅っこに小さく書かれている文字はなんだ。
【今ならもれなく生命保険付き!】……だと?
どういう意味だ?
返済できなかったらニッコリ笑って極楽行きということか? 死亡保険金で返済しろってか?
いや、待て待て! これって絶対ヤバい店だぞ!
「ねぇねぇ陽一郎さぁん、今日のデートはどこ行くぅ? 私、この写真のお店がいいんだけどぉ、それともさぁ、やっぱり警察にするぅ?」
あれ? 真っ暗だ。まだ真っ昼間のはずなのに真っ暗だ。俺の人生、お先真っ暗だ。
「………。」
「ねぇ、黙っちゃってどぉしたのぉ?」
今、俺が何をしたのか彼女は何も分かっちゃいない。人生お先真っ暗な俺はたった今、この瞬間に100回のタイムリープを繰り返したんだ。
ひたすら頑張ったが時の流れを変えることは何もできなかった。無口にもなるだろう。
「……。ちくしょう……」
「えっ……? 何がちくしょうなの?」
俺は膝から崩れ落ちるように地面にうずくまった。
その時だった。無意識だった。本当に無意識だった。
うずくまった俺はふいに頭を上げ、上を見上げてしまった。
「ピンク……」
いや、ポジション的にちょうどベストだったんだ。
俺が悪いんじゃない。悪いのは男の性だ。
「うふふ。また見たわね。謝罪金上乗せで100万円決定~! やったぁ! もぉ私ったら大金持ちぃ~♪」
ちくしょう! どうして俺はこんなにもアホなんだ。
タイムリープに頼っても、過去に戻っても、人生はやっぱり覆せない。
躓いた人生を覆すことができるのは、これから先の未来の自分だけなんだ。
そんなことは分かっている。十分に理解している。
でも……。でもやっぱり……。でもやっぱり何度でも……。
俺は叫ばずにいられない。
「タ~イム リ~プッ!」
俺の時間は繰り返す。
何度でも何度でも。
俺自身がしっかり納得できるために。
明るい未来を取り戻すために。
運命を覆すために。
【3seconds ago】 −完−