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未来裂帛 序  作者: こころも りょうち
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7.サクセスプラン 2オブ3

『ロンドンタウン』という喫茶店は黄土色の街並みが広がる風景に紛れて壁の上に看板を出していた。自分の行動範囲が狭いのか、東京というシティが意外と広いということか、どちらかはわからないが西の方の街に来るのは初めてだった。雲一つない秋の空の下にはイチョウの黄色が映え、街並みに色を加えている。こんな街並みがあるのを俺は知らずにこの歳になっていた。

『ロンドンタウン』もそんなイチョウの木の下に、連なる店舗に隠れ目立たないように営業していた。指定されて来なければ確実に通り過ぎてしまいそうな店だ。入口は狭いが、扉を潜れば数十センチの段下に十分な広さを感じされてくれる店内が現れる。個々の座席は高い木製の仕切りに区切られているからゆっくりと話をするには適した場所だ。マサキもその狙いがあってのチョイスだろう。

 若い女の店員は俺を奥まったところにある席まで案内した。既に座席にマサキは座っていて、俺の顔を見るなり「やあ」と挨拶をして、「ブレンドでいいだろう?」と尋ねた。「ああ」と俺が答えると、店員は「かしこまりました」と言って下がった。彼の対面に腰を下ろし、正面の優男(やさおとこ)の顔を見る。

「ずいぶんいろんな場所を知っているんですね」

「想像力だよ。想像して、こんな店がないかと期待する。それから探せば意外と見つかるものさ」

 さらりと口にして微笑んだ。

「で、計画の件だけど」

「まあ、そう焦らず。今日は時間あるだろう?ここのブレンドは絶妙だ。少しはコーヒータイムを楽しもう」

「ロンドンならティータイムかと思ってましたけどね」

「確かにミスマッチなネーミングの店だね。でもこの店は前からコーヒーが売りなんだ」

 さっきの店員がコーヒーを運んできて、カップをセットし淹れ立てのコーヒーを丁寧に注ぐ。昔ながらのサイフォン式で淹れられたコーヒーは湯気の香りがまったりとしていて、心を落ち着かせてくれた。


 そんなふうに気の和らいだところでマサキは語り始めた。

「遠くまで足を運んでもらったのには、もう一つ訳がある。前に研修で光の壁を観に行く話をしただろう。その場所はここからそれほど遠くない。もう中に入るわけにはいかないけれど、イメージだけは掴んでおいてほしい」

 そして彼は自分で作ったという内部構造の図面を見せてくれた。

「年明けは警備が手薄になる。ついたちは年越しによるコンピュータエラーがないか確認を行うようだがふつかはほぼ無人状態だ。彼らはセキュリティシステムが万全だと信じているからエラーさえなければ人は必要ないと考えている」

「内部に入り込めたとしても見つかれば元も子もないってわけか。どれだけセキュリティを(くぐ)り抜けても、人の目をごまかすにはいい役者にでもなるしかないな」

「これは映画でも小説でない。物事を成功させるにはシンプルかつ大胆であること」

「それで、まずはどこからどうすれば?」

「まず経路。施設内は無人状態だけど正面ゲートには警備員がいる。手薄とはいえ、二人はいる。うまく見つからずに(もぐ)り込めるかもしれない。だが確実性には欠ける」

「警備員のいない経路」

「施設への入口は正面と裏、材料の搬入口、それから避難用通路の4箇所がある。正面は警備員がいる。搬入口は傍が駐車場になっていて、大型車の出入りもある。ふつかでも人がいる可能性がある。裏口は従業員がよく使う。こちらも同様、人がいないとは限らない」

「避難用通路か」

 俺が言うと、マサキはニヤリと笑みを浮かべる。

「ここは普段開かずの扉になっている。年に数回の点検時にしか使われない。少し距離はあるが、この通路に人がいる可能性はゼロに近い。確実に内部まで入り込める」

「了解。セキュリティは?」

「避難用通路の出口は住宅街になっている。人に会わないとは限らないが人通りは少ない。後で自分の足で見ておいてほしい」

「いいですよ」

「出口の鉄扉にセキュリティが一つ。山をくり抜いた一直線の通路があって、施設の入口にもう一つのセキュリティがある」

「二度のダンストライ。それから?機能をシャットダウンさせるんでしょ?」

「全てのシステムをシャットダウンするにはコントロールルームに入る必要がある。でも全てをシャットダウンさせるとすぐに警備も気づく。それにシャットダウンさせてもすぐ予備電源が働く可能性が高い」

「じゃあ?」

「AMPは、どうやって硬化している?」

「光エネルギーの供給」

「そう。君は、このシステムに入り込み、供給システムを破壊する。供給システムは半日止まっていたとしてもAMPの硬化性は保たれる。システムを破壊し、回復までに一日を要すれば北西一帯の壁は脆弱化する。その時、情報を流出させる。僕たちがこれ以上何かをやる必要などない。壁に不満を持つ人間は今も多くいる。誰かが穴を開けるだろう」

 俺はマサキの真っ直ぐとした目を見て、ニヤリと笑み返した。

 それからしばらくの間、施設内部の通路と供給システムの位置、破壊方法について互いの意見をぶつけ合いながら方向性を決め込んだ。実におもしろく、可能性の秘めた論議は長々と続いた。

『この人とならやれる』

 そんな予感がした。カフェインの取りすぎで脳を高揚していた。話はやけに盛り上がり、何杯かのコーヒーもお代わりした。

「これ以上、遅くなるのもなんだ。日も暮れてしまう。避難経路付近の住宅街を見ておくといい」

 ブレス時計を見てマサキが言って、話はそこで終了した。

「後は君に任せるよ。下手にこれ以上、この話をしているのは危険だ。計画は」

「シンプルかつ大胆に、ね」

 そう言い返した俺にマサキは笑った。この人もこんな風に笑うのかと俺は少し不思議な気持ちにさせられた。

 この先どうなるかはわからない。大きな変革。それは今の幸せな日々を失う事に繋がる。家族との生活、友人との時間。でも俺は未来に残したい。先人の知恵を得て、未来を切り開かなくては生きる価値を持てない。俺には与えられた能力と得た智恵がある。俺だけにしかできないことを俺はやる。(せい)をもって(まこと)を叶えよう。

 今こうして未来が切り開かれようとしている。

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