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未来裂帛 序  作者: こころも りょうち
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3.セカンドステージ 2オブ3

 静寂で、弱い日差しが包み込むキャンパスに、じわじわと学生の声が増してゆく。長い夏期休暇も終わり、秋の音がこだましている。ここにある毎日は変わらないのに、世界は少しずつ変化を遂げている。景気は一喜一憂し、芸能界のタレントは入れ替わる。広告に知らないモデルが使われていて、三次元映像の彼女が新しい清涼飲料水を宣伝している。

 最近のニュースは電力会社の新エネルギーの使用とその安全性についてばかりが話題になっている。省エネ化の進んだ生活ではたいていは太陽エネルギー発電で済んでいるが、工業製品の開発・製造の世界ではそうは行かずに大きなエネルギーが必要だ。現時点ではバイオマスエネルギーによる発電が中心だが、生産時間が掛かり、発電が制限されている。より大きな力を得るには光粒子を発生させるエネルギー利用が不可欠と云われ、原子力のゴミの再利用や現世を設計してきて新物質から生じる、副産物を利用したエネルギー開発が話題になっている。いずれのエネルギーも科学的安全性に欠けていて、マスコミはその部分を強く追及し、国家は新しいエネルギー開発に到っていない。

 世の中はじわじわと動いている。我ら帝都大の学生も先へ進まなくてはならない。


 秋期の講義は始まっている。大講義室に響く教授の声を聞いている。情報は講義よりも資料の方が詳しくわかりやすい。それなのにこうして教授の声を聞くのは心に触れる響きを受ける為だろう。

 夏期休暇旅行の一件以来、俺は都心と森を隔てる物に興味を持つようになった。光の壁、ずばり、それが中心となる。

 最初に完成した光の壁は東京帝都約791平方キロを囲む。南は多摩川、東から江戸川、中川を通じて、北の荒川を沿いに高さ30メートルの壁がそびえ立つ。荒川の西は多摩湖までをいくつかの支流と高速道路を沿う壁を伝い、多摩湖周辺の山々から流れる川を南に下り、多摩川に流れ込むまでの支流沿いを光の壁は覆っている。海辺はディズニーランドと羽田空港を結んでいて、湾岸からは海上の壁が一直線に輝くのが見られる。

 ではこの壁とは何でできているのか。講義で、薄く柔らかい素材を触らせてもらった。光の壁の正体は厚さ50ミリ程度の有機生体物質の新素材(AMP)でできている。そのままだと強い力を入れれば穴も開くし、光りもしない。これでは光の壁とは呼べないが、このAMPに有機の基となる物質と光エネルギーを与えてやると、AMPは硬化性を持つようになる。エネルギーを与えられた状態でAMPに触れると、触れられた部分は強固な状態に変化する。筋肉のような感じだ。光エネルギーは多ければ多いほど、AMPの板は大きければ大きいほど、触れる箇所は硬く変化する。光の壁は巨大なAMPとエネルギーを供給する菅、AMPを支える柱や柵で出来ている。ちなみにその柱や柵もAMPの一種で、さらに光の壁となるAMPに覆われているので、どんな衝撃を受けても弾き返せる。簡単に説明すると、壁の正体は心を持たない筋肉だけの生命体のようなやつだ。

 光の壁の管理だが、これは旧電力会社によってなされている。所々にエネルギー供給点があって、さらに所々に保安庁の防衛施設がある。高さ30メートルの壁がそびえ立っているが、空は通過可能で、地下にトンネルを掘れば通過は可能だ。所々にある防衛施設が不法入都者を見張っているが、壁を越えての進入は不可能ではない。

 俺らもそうだったが都の入出自体は難しいことではない。腕に付けられたIDが都心に入っていい人間か、ダメな人間かを感知していて一部の通過地点からのみ出入りできる。高速道路や駅にはIDを感知するシステムが付いていて瞬時に判別し入出(にゅうしゅつ)させてくれる。だから不法入都の一番簡単な方法は不法IDを作り出し、都の中の人物に成り済ますことだ。うまく壁を越えられたとしても壁の内側で都民IDを持たなければ生活してゆくことはできない。都を別とすればこの方法のみによって分けている都市も多い。壁は無くてもID付きのブレスレットが無くては何もできない。不法移民が暮らしてゆくには不法IDを作る必要がある。こうして住んでいる者もいることだろう。

 光の壁が分けているものは、地と地である以上に人と人だ。ただ不法入都者が多ければ多いほど排除は困難になる。その為に光の壁は重要な役割を果たしている。壁は都の外の人間が中に入るのを諦めさせる手っ取り早い手段なのだ。

 俺は講義で光の壁について学ぶ。

「諸君、我々は選ばれた帝都内の人間である。この有益を守ることは世界の脅威から日本国を守る強固な国家を造るために必要なことだ。森に住む低能な人間がのうのうと生きていられるのも、我々帝都内の人間が光の壁内で安全に守られ、思う存分の能力を発揮して仕事をしているからだ。我々は森人とは違う。その意識をよく頭に刻んでおくようにしておきなさい」

 帝都防衛論の講義で、だて眼鏡の剛内教授は声を張った。

 眩暈がしそうな不快な感情。何だろう、この苛立ちは。今までは剛内が言うような世界を信じていた。だが今は、剛内の言う台詞の一つ一つが俺の考えと一致していない。何かが少しずれている。真実は異なり教育に騙されている。その支配に俺は怒りを感じているのかもしれない。

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