イレギュラー
あれからおれたちは順調にモンスターを倒しながら進んで行った。
「出てくる敵弱いわね。本当に初心者向けって感じだわ」
杏ちゃんはつまらなさそうに言った。
「元々おれたちに自信持たせるために初級ダンジョンに潜らせたんだろうから当然かな。…本来杏ちゃんがいなかったはずのおれたちのことは考えてなかったんだろうけど」
おれの言葉に何とも言えない空気が広がった。
「た、多分あたしたちはダンジョンに潜らせる気なかったんじゃないかな?ほら、戦闘職いないし」
真琴ちゃんは苦しいフォローをした。
「ようはなめられてるってことじゃん。マジムカつくんだけど」
夢ちゃんは不満げに言った。
「あの場で行われた鑑定では職業の名前しかわからないから仕方ない。むしろ目をつけられなくてラッキーとも言える」
「そうかもしれないけど…。何だかなめられてるとすぐ見返したくなっちゃうんだよね」
きららちゃんは据わった目で言った。本当に負けず嫌い過ぎるなこの子。
「力を隠すのはいつまでだ。元の世界に戻るまでか?」
ルナちゃんは神妙な顔をして言った。
「…そもそも帰れるかどうかが一番の問題だよね。正直この国に対する信頼は最低レベルだ。呼び出しといて帰る手段がない魔法を平気で使っていてもおかしくないよ」
おれの言葉にみんな表情を曇らせた。
「実際の所はわからないけど、元の世界に帰れる保証がないのは確かですよね。遊季さんが本当に帰れたかどうかあたしたちに判断しようがないのもいやらしいです」
「おれたちがいたのは別々の世界説が濃厚だからね。互いに確かめる方法もなさそうだし」
最終的にはどうやってもスッキリしない結果になるんだよね。何か後味悪くなりそうな気しかしないよ。
暗い話を忘れるように進んでいると、巨大な扉が見えてきた。
「ボス戦だね。こういうのって倒す度に復活するものなのかな」
おれはみんなに話を振った。
「た、多分そうじゃないかな。ほら、ボスいないとダンジョンって消えるイメージあるし。初心者向けダンジョンが現存してるならきっと復活するタイプなんだよ」
真琴ちゃんは有り得そうな推論を口にした。
「ここまで誰ともすれ違わなかったから私たちが最後みたいね。もう他のグループはクリアしたでしょうね」
杏ちゃんは少し悔しそうに言った。予想はしてても割り切れないものなんだろう。
「うむ。悔しいがよほどのイレギュラーがない限りは「ギャアアア!」
ルナちゃんが話している途中に扉の向こうから断末魔の叫びが聞こえてきた。
「…何かよほどのイレギュラーがあったんじゃね?ヤバいよ!」
「ど、どうしよう!扉開くのかな?!」
夢ちゃんときららちゃんは慌てながら言った。やっぱりクラスメイトは心配になんだろう。
「落ち着いて。今開く。オープンセサミ!」
文ちゃんが魔法を唱えると、ボス部屋の扉がゆっくりと開いた。
「どうする?今なら引き返せるけど」
おれは念のためみんなに聞いた。
「不安だけどほっとけないですよ!それにもしもの時のために回復役は必要です」
真琴ちゃんは拳を握りしめながら言った。
「助けを呼びに行く時間もなさそうだしね。扉開けた時点で誰か来たことはバレてるから腹くくるしかないでしょ!」
杏ちゃんの言葉にみんなうなずいた。どうやら覚悟は決まってるみたいだね。
「わかった。一緒に行こう」
おれたちは一旦深呼吸して、ボス部屋へと足を踏み入れた。
悲鳴だけでイレギュラー云々言わせるのは無理があったかもしれませんね。ま、まあ初心者向けダンジョンでチートもあるならやられることはないと判断したことにしておいて下さい。