ダンジョン
異世界に召喚されて1週間後。おれたち召喚された勇者は洞窟の前に来ていた。
「ここは初心者向けのダンジョンだ。諸君らには今ここに入ってもらう」
前にいる兵士長は高らかに宣言した。
「ダンジョンでモンスターとの戦いに慣れておけば邪悪破滅教団との戦いの時必ず有利になる。訓練の成果を実戦で発揮出来るようにするのが今回の目的だ」
兵士長は淡々と説明した。
「いや、アタシらろくに訓練受けてなくね?」
夢ちゃんがボソッと呟いた。
「私もダンスとボーカルレッスンしてた記憶しかないです…」
「私は図書館に籠っていた」
「我はひたすら創造しておったぞ」
「おれも道化師のスキルを1人で練習してたよ。このグループほぼ放置されてたよね」
グループの半数以上からそんな声が上がっている。
「私は剣術と魔法やってたわ。戦闘職だしね」
「あたしは主に回復してました」
杏ちゃんと真琴ちゃんは訓練に参加していたようだ。やっぱり非戦闘職と差があるみたいだね。
「ではグループに別れて入ってもらう。最初にダンジョンボスを倒したグループには特別報酬を与えよう」
兵士長はみんなに宣言した。
「はっ。だったらおれたち上位グループが一番に決まってるぜ。なあ、勇」
ヤンキー少年が神野くんに言った。
「そうだね、剛。特に道化師がいる下位グループには負ける気がしないよ」
神野くんはぼくを見て挑発してきた。
「それはどうかな。彼女たちはちゃんと強いよ」
おれは神野くんに返した。
「ふん。その強がりがいつまで続くか楽しみだよ」
神野くんはそう言ってニヤリと笑った。
「何かすごい目の敵にされてるね。今更だけど年上への敬意なさすぎじゃないかな」
おれはグループの子たちに愚痴った。
「いい職業もらって調子乗ってるんでしょ。…私も少し天狗になってたから気持ちはわかるわ」
杏ちゃんはバツが悪そうに言った。
「調子に乗ったままで勝てる程敵が弱…いならそれでもいいけどね。壁にぶつかった時にどうなるかわからないよ」
「そんな先のこと考えるだけ無駄。未来がどうなるかなんて私たちにはわからないから」
文ちゃんは冷静に言った。
「なるようにしかならないか…。そういうものかもしれないね」
そんなことをしている間におれたちがダンジョンに入る順番が来た。
ーー
「兵士いないからとりま着替えるね。ドレスアップ!」
夢ちゃんがギャルピースをすると、夢ちゃんは光に包まれた。
「伝説の女騎士、クッコロ・セルヴァン!ただいま見参!」
鎧を身に纏った夢ちゃんは剣を正面に構えた。
「すごい。なんか変身ヒロインみたいだったね。すごく日朝って感じがするよ!」
真琴ちゃんはすごくテンションが上がっている。
「それレプリカのはずなのにすごく立派だね。すごく硬くて強そうだよ」
きららちゃんは夢ちゃんの鎧を触りながら言った。
「アタシも何かめっちゃパワーアップした感ある!これがレイヤーの力なのかも」
夢ちゃんがそう言って剣を振るとダンジョンの壁に傷がついた。真空波でも飛ばしたようだ。
「模倣した者と同様の力を得る能力か…。我が予知が当たったようね!」
ルナちゃんはうれしそうに言った。
「それにしても伝説の剣士と同じカッコでもコスプレってことになるんだねー。緩すぎてマジやばたにえん…」
夢ちゃんはそう言いながら掌を見つめた。
「念のため他の英雄の衣装のレプリカも買っておいてよかった。これで前衛と後衛切り替えられる」
文ちゃんはうれしそうに言った。
「とりあえずこれで戦えそうだね。…上位グループが最初にスタートしたから1位は無理かもだけど」
真琴ちゃんはそう言って苦笑いした。
「ほぼ出来レースだよね。まあ今は職業スキルの把握をして行こうか。この先ジェスターなしで戦う場面も多いだろうしね」
おれは現状の方針をみんなに伝えた。
「…まあ初心者向けダンジョンならあいつらが勝つわね。無理せず行きましょうか」
杏ちゃんはふてくされたように言った。本当は悔しいのかもしれない。
「今は狙えるなら1位狙う形で行くしかなさそうですね。わかりました」
そういうきららちゃんの目は怪しい輝きを放っている。割と血の気多いなこの子。
「そうだね。それじゃ行こうか」
ま、まあ補助担当だから大丈夫だよね。おれは少し不安を感じながらダンジョンの中を進むことにした。
この作品でもダンジョン探索が始まってしまいました。こっちではそこまで探索はないはずですから多分混乱することはないと思います。