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君の新作が買えない

作者: DEED

 その本は棚に一冊だけ置かれていた。これがきっと最後の一冊なのだろう。

 最初はそれを見つけたことに安堵するかと思っていたのだけれど、実際にそれを見つけたときに思ったのはそれが本当に存在するということだった。

 あいつが嘘を付くことなんてありえないと自分がわかっているのに。それを信じられない自分がいたのだ。


 あいつと出会ったのは高校二年生の頃だった。

 忘れ物を取りに戻った教室であいつが器用にスマホを操作しているのを眺めていて、最初はLINEかメールかなんかだと思ったのだけれど、それにしてはずいぶん長くてうんうん唸りながら弄っているのが面白くて気になってしまった。


「何してんの?」

 私のかけた声にあいつは「うわ!!」と凄い飛び上がるとスマホを隠して「何でも良いだろ?」と返してきた。

 確かにその通りだ。でも気になってしまったのだから仕方ない。


 お互いに気まずく言葉が出なくなったのでさっさと帰ろうと思ったところであいつは私にこう聞いてきた。

「なぁ。ネット小説って読むか?」


 それがあいつと私の長い縁の始まりとなったわけである。当時の私は100円で買える中古のラノベや文芸の文庫本を読むことはあってもネット小説には無縁だったのだ。

 気がつけば出来に差はあれど無料で読めるネット小説は金のない高校生の私としては実にありがたいものになっていた。

 まぁあいつは読むだけでは飽き足らず自分で執筆し投稿までするようになっていたわけだが。


 そんなあいつに釣られて自分も執筆してみたがこれがまた上手く行かない。書いても書いても自分が思うような文章にならないし、話が全然進まない。読んでも面白くない。

 もちろんそんな作品を投稿しても評価されることはなかった。


 あいつの作品は面白かった。

 あいつが書くのは私が当時苦手だった異世界系や悪役令嬢等のネット小説の主流とでも言うような作品だった。

 他の人のは合わないのに、あいつの作品は読むのが苦にならなかった。

 私が率直な感想をあいつに告げると嬉しそうに微笑むのだ。


 そんな関係は高校を卒業し互いに違う大学へ行くことになっても続いた。

 あいつが書く作品を真っ先に読み、感想を返すのが私の役目だった。


 そんな関係を続けていった結果あいつは本物の作家になった。

 あいつが書いて私が絶賛した作品がサイトでヒットして「書籍化しないか?」って話が来たんだって喜んでるあいつは最高にかっこよかった。


 その後も何作品も書籍化していってあいつはどこか自分から遠い人になった気がした。

 でも、そんなあいつでも作家の世界というのは厳しいものだったようだ。

 ここ二年ほどあいつは新作の本を出せていなくて、ネットに投稿する作品もあまり評価されなかった。


 そんな中でもあいつは新しいアイデアを見つけるために、私と一緒に映画館へ行ったり、休みの日に温泉旅行へ連れて行かされたり、散々振り回されたが、決して私には暗いところを見せることなく頑張っていた。その努力が実ってほしいとは思っててはいてもあいつから連絡が来ることがないその現実が辛かった。



 そんな思いを募らせていた昨日の晩飯を食べている所だった。

 急にスマホが鳴って私は慌てて取った。着信音があいつに設定している音だったからだ。


『起きてるー?』

 すごく陽気な声だった。

「ああ、起きてるよ。ってかお前酒飲んでる?」

『飲んでるー』

 あいつは自棄酒なんてするやつじゃない。酒を飲むときはなにかいい時を記念するときだけだ。

 だからあいつに良いことがあったんだと思って私はホッとした。


「どうしたの?」

『実はさー。明日私の新作でるの』

「明日ぅ!?」

 衝撃の報告に、口に含んでたものが吹き出そうになる。


『ちょ、ちょっと大丈夫?』

「大丈夫、驚いただけだ」

 一度深呼吸して、私はあいつに祝福の言葉を送る。

「おめでとう。よかったじゃん」

『うん』

 どこか素っ気ないあいつの反応が少し気になった。

「明日か。前もって言ってくれてたら予約したのに」

『あー。まぁ色々忙しくてね』

 確かに書籍化が決まった後のあいつはいつも忙しいのを知っているのでそこに文句をつけるつもりはない。

 でも何かが自分の心の中に燻っているのが自分でもよくわかった。


「まぁ、明日買いに行くよ。でタイトルは?」

『……』

 小声で何かが聞こえた。でも何を言ってるのかはわからない。

「なんて?」

『いやね……。恥ずかしいんだよ。これ』

 厨二タイトルだって平気で言えるあいつが戸惑うタイトルって何なんだ。


『ゼンラユウシャ』

 聞き間違えだろうか。向こうから聞こえてきたものを理解できなかった。

「なんて?」

『だから、ゼンラユウシャ!! 全部の全に。はだかの裸! で勇者だよ!』

 全裸勇者。どうしてそうなった。

『だから色々言えなかったんだよ! わかるだろ!』

 うん。わかる。もし親に「お前本出したんだろ? なんてタイトルなんだ?」って聞かれたときに『全裸勇者』ですと答える勇気は私にはない。



 そして私は、翌日『全裸勇者』を買うために本屋へ来ていたわけだ。

 『全裸勇者』――正式名称は『全裸勇者 その剣は光り輝く』。

 しかし、この本が見つからない。最寄りでお気に入りの本屋で探してみたのだが最新コーナーにはない。

 となれば店員に聞くというのが最適解なわけだが、この店の店員は女性がメインだ。女性店員さんに「すみません、『全裸勇者』置いてませんか?」と聞けるほど私は勇者ではない。

 馴染みの店を諦め、次の店へ行く。


 次の店では検索システムがあったので、調べたのだが売り切れていた。

 どうやら『全裸勇者』は人気作のようだった。


 三店舗目へと移動する間にネットで『全裸勇者』の評判を調べてみるとかなり好評のようだった。

  『全裸勇者』は、チート転生系の作品だ。

 まず異世界へ転生するときに女神に交渉し最強の力を得るのだが、それには一つだけ制約が設けられた。それは【勇者の装備以外を装備することが出来ない】ということだ。

 主人公は制約を受けいれ異世界へと行くわけだがこの制約がとんでもないことだった。

  【勇者の装備以外を装備することが出来ない】という制約は武器や防具だけではなく、服や下着も身につけられないという制約というよりはもはや呪いとでも言うものだった。そしてパンツすら着れぬ全裸の転生者は変態として全てを失う前に勇者の装備を求める旅をすることになるというものだ。


 『全裸勇者』のネット評価を見に行って思わずスマホを操作する指が止まった。

「R17.99」「アウトのラインで反復横とびしてる」「世界よ。これが日本だ」「フェミニストを表現の光で焼いてる」

 言葉を失う濃い評価が多い。一方でやはり全裸というのは表現としてどうなのかという意見もある。

 だが私が一番興味深かったのは、「作者の作品で過去一番面白い」「全裸でネタになってるけれど内容も素晴らしい」というものだった。


 あいつの過去最高傑作が自分より先に誰かに読まれている。その思いが私の中でなにか黒いものを残していく。


 そんな中でたどり着いた三店舗目の書店でついに私は『全裸勇者』を見つけた。表紙は全裸の少年が剣を地面に突き刺しながら仁王立ちし、剣そのものが股間を隠しつつ、その剣から放たれる光が少年の乳首などのセンシティブなところを上手く隠しているものだった。

 これを書いた絵師はどういう気持ちだったんだろうななどと考えていた。


 さて、あとはこの一冊だけ残された『全裸勇者』を手に取り、レジへ向かい、購入して家に帰り読めば終わりだ。

 手に取ろうとして私の動きが止まる。私の体ではなく目線がレジへと向かっている。


 ――ここにセルフレジはあったか? ない。

 ――レジの店員の性別は? 女性だ。


 私はここに来てこの表紙の本を買うことに恥ずかしさとでも言うべきものが生まれてしまったのだ。

  『全裸勇者』というタイトルの本を買うだけならまだしも良い年した大人の男性が全裸の少年が表紙の小説本を女性の店員が待っているレジに持っていってそれを見せることに抵抗を感じてしまったのだ。


 手に取るのをやめて私は一度別の棚へと移動する。

 そうだ、Amazonで購入すればいいだけの話だ。それならば中身を知られることもない。今すぐに手に入るわけではないが明日の休みの間に届く。それならあいつへの感想だってそうは遅くならない。そう思いスマホを操作し購入するためのアプリを開く。


  『全裸勇者 その剣は光り輝く (限定版)』

 画面に表示される商品名にはそのような文字が表示されている。

 限定版だと!? スクロールさせるがそちらは売り切れていた。

 先程のアレはどうだったと思い私は再びあの本の元へ戻る。


 これだ。限定版の『全裸勇者』だ。通常版との違いはまず少年の剣から出る光の部分に光沢が出る印刷加工がされている点が一つ。

 そして後ろにつけられた限定版のみに存在する書き下ろしのショートストーリー。


 目の前にネットサイトではすでに売り切れている限定版が存在する。

 今ここで私が手に取らなければもう二度と手に入るチャンスがないかもしれないものが。ここでとらなければあいつの作品が読めない可能性がある。

 それでも私の脳は羞恥心と葛藤を演じている。


 そんな時私の横に別の男性がすっと現れ、棚を見つめる。

 新刊の棚なのだから人が来ること自体はおかしいことはなにもない。

 彼が『全裸勇者』を見た気がした。彼の手が動くのが一瞬見えた。


「す、すみません」

「ああ、いえ」

 私の手が彼より早く本を手にとっていた。まるで彼の手から本を奪うかのように。これはお前のものじゃない、私が買うべきものだ。私はお前に買うことを許さないとでもいうかのように。そんな不審な動きに思わず謝罪してしまった。



 私の手の中には限定版の『全裸勇者』がある。

 これを棚に戻すなどと言うのは彼に失礼にもほどがある。

 とはいえ、この本一冊をレジへ持っていくことには抵抗がまだあった。

 そんな中で私は名案を思いつく。隣の棚には最近候補作が決まった芥川賞と直木賞の本が置かれてた。何冊かはすでに読んでいたが、両方の候補作から読んでいないものを一冊ずつ選び間に『全裸勇者』を挟み込む。


 これならば完璧だ。あとはバーコード入力しやすいように裏面にでもしておけば大丈夫だろう。

 そう思い私はレジへと進む。レジが男性になっていれば理想だったが女性の店員のままだ。

 だが平然とした表情をしながら私は三冊の本を彼女の前に置く。

 彼女は手慣れた様子でバーコードを通していく。

「ポイントカードはお持ちですか?」

「いえ、ありません。袋はかばんに入れるので大丈夫です」

「4950円になります」

 結構な出費だ。とはいえ、どうせいつかは買う本なのだから問題はない。

 財布からお金を出そうとする私に彼女は口を続けた。


「カバーはおつけになられますか?」

「ええ。お願いいたします」

 そう答えて、私の失策に気がついた。

 カバーを付けるということは一冊ずつばらしていかないといけない。そして表紙も露呈することになる。


 やっぱり良いですといえばよかったのに、彼女がすでに紙のカバーを出していたのを見て諦めた。

 もうすでに大失敗(ファンブル)の目を出してしまっているのだ。これを無理にフォローすればよりドツボにはまる気がしてしまったのだ。


 彼女は芥川賞の本にカバーを手早く済ませ、あの本を手に取る。

 表にひっくり返すと全裸の少年の姿が彼女の目に入る。

 ああ、やってしまった。などと心の中で後悔していたのだが、彼女はそれに躊躇することもなくカバーを済ませていった。



 私の気にしすぎだったのだろう。

 彼女から見えれば、私はただの客の一人だし、この本だってその中の一つに過ぎない。

 この本屋にはアダルトな作品だって存在する。私より下劣な考えをする客だっていてもおかしくはないのだ。

 冷静に考えれば取るに足らないような些細なことだったはずなのに。どうして私はここまでおかしくなってしまったのだろう。それがわからなかったが目的の本は手に入ったのだから良しとするべきだと考え私は家路を急ぐことにした。




 結論から言えば『全裸勇者』は間違いなくあいつの最高傑作だった。

 帰った後、飯を食べることすら忘れ読みふけった。

 最近は仕事の休憩中などの合間に読むということが多かったが、久々に本を読むことに没頭してしまった。

 SNSに読了報告をする。これは私の読後のルーチンワークであり、これを見てくれた人が少しでも本を買う切欠になればいいなと思い続けていることだ。

 そして、あいつへの報告も兼ねている。


 数分後。スマホが鳴った。

 私はすぐに対応する。


『嬉しいなぁ、そこまで絶賛してくれるとかさ。君が褒めてくれた作品は間違いなくヒットするんだよね』

 その言葉がどこか辛かった。すでにこの作品はヒットしているじゃないかと。

「めっちゃ面白かったよ。特に全裸で王城忍び込んだり、見つけたのがよりにもよって勇者の剣だったり、その剣が別のやつに盗まれたり。その怪盗が実は男装してた女の子だったりな」

『だろー。流石君は分かってるわ』

 あいつは嬉しそうだった。言葉の調子でよく分かる。でも何かが引っかかる。

 しばらく話していたのだが、その違和感が消えなかった。


 そんな中であいつが沈黙する。そして呟いた。

『ねぇ。気づかなかった?』

「何に?」

『あれは……君の作品だよ』

 そんなはずはない。私はそんな設定の異世界転生の作品なんて書いた記憶が……。


『ごめん。言わなきゃと思ってたんだ。最近何書いても駄目で……。そこで君が昔書いた作品を参考して書いたんだ。私の作品を面白いっていってくれる君が書いたあの作品を』

 そうだ、思い出した。私は確かに昔そんな展開に近い作品を書いたことがある。でもそれはたった数千文字程度で諦めた作品だ。主人公が全裸の呪いを受けて異世界へ放り出される展開は確かにその通りと言っても良い。


 でもこんなに主人公が熱くはなかった。王城に全裸でスニーキングミッションする展開なんてなかった。ヒロインが先に勇者の剣を盗もうとした怪盗だったりなんかしない。


『ごめん。怒るよね。紛いなりにもプロの作家が許可もなく人の作品をパクって自分の作品って名乗るなんて最低だよね』

 あいつの声はもう泣きそうだった。きっとそれは今までずっと隠し続けてきたものだったのだろう。


 確かに私は怒っていた。

 でも、それは私の作品をパクったことではない。

 私の作品はこんなに面白い作品じゃなかった。

 あいつが、あいつが。私の作品をこんなに面白いものにしてくれたのだ。


 むしろ感謝している。

 私が怒っているのは、そこまで追い詰められているあいつに気づいてやれなかったこと。そしてそんな思いで作った作品に誰よりも早く真っ先に「この作品は面白いよ!」と伝えられなかったこの自分への情けなさだ。


 ようやく私は気がついた。

 私はあいつの作品が好きだ。

 そして私はあいつのことが好きなんだと。


 うんうん唸りながら指に髪を絡ませて悩んでいるあいつの姿が好きだ。

 どこか男っぽい感じがあるのに、どこまでも甘い恋愛物を好むくせに、苦手なホラー小説を買って勉強したり、脂マシマシのラーメンを食べたかと思えばフルーツたっぷりのパフェを食べに行くあいつが好きだ。

 一緒に映画に行って誰よりも早く涙を流し続けて感想でその映画の時間以上に語ろうとするあいつが好きだ。

 私が仕事でボロボロのときに自分がスランプなのを隠して、休みのタイミングを見計らって温泉旅行の予定を放り込んでくるあいつが好きだ。

 忘れていた、消えようとしていたはずの私の作品をこんなに素晴らしい作品へと作り変えてくれたあいつが好きだ。


 あいつはそんな私のこの思いを好まないかもしれない。

 私との関係は軽く済むからこそ付き合ってくれていたのかもしれない。

 もし前に進めれば関係が壊れてしまうかもしれない。それでも、私はこの思いを伝えたかった。


「なぁ……。明日開いてるか?」

『ぐすっ……。開いてるよ』

「私の家でお祝いしないか?」

『でも』

「いつも本出たときは家で祝ってただろ。今回もやろう」

『怒ってないの……?』

「怒ってない。むしろ感謝しているよ。ありがとう。私の作品を前に進めてくれて」

 そうだ、私の作品は誰にも読まれない駄作なんかじゃなかった。書いたのは無駄じゃなかった。

 私が書いたのをあいつが読んで、そして読んだあいつの心の中にはずっとそれが残っていてくれたのだ。


 さっきの言葉とともに私の目から涙が溢れてくる。

 スマホで見えないけれど、きっとお互いに泣きあっているんだろう。

 涙で次の言葉が出ない間ずっと私とあいつは泣いてる声で思いをつなぎ合い続けていた。


 ようやく、落ち着いたあいつが返事をしてくれた。

『う……うん』

「お前の好きなガーリックたっぷりのピザ用意しないとな。あとビールとカルーアミルク」

『今さ、あそこトッピング四倍キャンペーンやってるんだよ』

 それは知らなかった。


「四倍ってにんにくたっぷり過ぎるだろ。次の日外でれないレベルになるな」

『いいじゃん。今更でしょ』

 ああ、今更だ。そうだ、今更だった。

 でも明日あいつ――君が家に来たら私は伝えようと思う。私の思いを。








 スマホから通知が来る。

「そうか、来週でるんだよな」

 スマホを見て私は独り言をつぶやく。


  『全裸勇者』はその評判で増版があの日の翌週に決定し。その勢いのままコミカライズも決定したらしい。そして日が経ってついに待ちに待った続編が来週出る。

 今度は剣を持って切りかかっている全裸の少年が表紙だ。肌を隠す光の面積が少し狭くなっているのが出版社も絵師も分かっているとしか思えない。



 そうだ、今日帰りに予約しよう。『全裸勇者』を書店めぐりしながら探すのもよいが一番いいのは予約することだという。

 もはや恥ずかしさなどない。あいつの作品の前ではそんな感情は微塵も湧いてこない。

 うん、流石に言い過ぎた。


「何の話ー?」

 君が私の独り言を聞いたのだろう。こっちによってくる。

「君の新刊の話さ」

「あーー」

 といって、君が部屋に戻っていく。そして慌てた様子で本を私に差し出す。


「ごめん、渡すの忘れてたよ」

「これは?」

 そこには今日予約しにいこうと思っていた『全裸勇者』の新刊がある。

 剣の光の光沢加工を見るに限定版だ。


「出版社からもらったやつ」

 そういえば、本になるやつって何冊か作家にも本が配られるんだったなと私は思い出す。


「じゃあ、早速読まないとな」

「なんで? 私の散々読んだでしょ?」

 確かにネットに出す前から読んでたし、本にするときの原稿を最初に読んだのは私だ。

 だからこそ、本になった君の作品を最初に読むのは私でいたい。そして最初に君に「面白い」と伝えてあげたい。


 そして気がついてしまった。そこに少し寂しさを感じてしまった。

 私は君の新作が買えないことに。


 いや、別に買っても良いんだと考え直す。

 でも買ってきたら、きっと君は笑うのだろう。

「渡してあげたのになんで買ってくるの?」って。


 君からもらえる新刊は嬉しい。それは間違いなくオンリーワンの宝物だ。

 でもその一方で君の本はそれでも私が買ってくるぐらいに好きで面白い本なんだって伝えたいのだ。


 ――私は君の作品が大好きだ。


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