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ギャルゲーと僕。  作者: のりたまごはんとみそスープ
9/16

はじめての依頼:猫を探す話②

次回更新は9/23予定です。

前回までの僕とギャルゲー

はいどもー!休学ing斎藤でーす。え?何?言ってることが違う?轟さんが酷い?安心してください。結構チョロ…や、優しい子なので!そんなことより流石は新聞部のエース、我らがゆずピー。もう轟さんと友達になってしまった…。僕も早く友達になりたい!…で?猫探しの依頼?ボランティア活動系部活あるある。超王道依頼ですね。多分、水岡さん家…。おっと誰か来たようだ…。

翌日。朝。


一切合切機能していなかった緑のアプリに、轟さんから連絡が来たかと思えば、猫探しの集合時間と場所が記載されていた。


場所はいいのだ。水岡さんの家がそこそこ近いらしく、俺の家から自転車で行ける距離だったのだから。


問題は時間である。


朝である。早朝である。普段より2時間も早く起きたでござる。


ひいこらひいこら自転車を漕いで、集合場所である小さな公園へ向かう。集合時間の5分前に何とかたどり着くと、そこには既に轟さんがいた。凄いしかめっ面でスマホ画面を凝視している。何?気になっていたラノベがアニメ化決定して嬉しいけど、制作会社が中々評判悪いところで期待していいのか、ネタにする覚悟決めるか悩んでる俺みたいな表情だぞ?


「…あ、」


なんて声をかけようか悩んで、中途半端に声を上げる。ごめん、待った?とか(笑)。一瞬言いかけてやめたわ。言ったところで、『貴方のその目はハリボテか何かなのかしら?貴方より私が早く来ている時点で、私が待っているのは自明でしょう。…あぁ。知能が足りてないのね。気がつかなかったわ?』とか言われるに決まってるんだ…。(被害妄想過多)


そんな声に、パッと顔を上げた轟さんは…少し安心したような、嬉しそうな…ほっとした表情を一瞬浮かべて…


「…行きましょうか。」


さっと顔を背け、そう言い放ち、そのまま歩き始めた。


あ、ちょ…!自転車もったままなんですが…!?

これじゃあ、猫を見つけてもカゴとタオルとニャール持てませんが!


そう思いつつ、慌てて轟さんの後を追いかけた。


空は晴天。猫探し日和である。


…まあ小一時間探して見つからなかったのですけど。残念。


ーーーーーーーーー


「…あの…、流石にそろそろ行かないと、授業に間に合わないかもなのですが…」


朝早くに集合した後、公園のすみっこに自転車を置かせてもらい、猫用のカゴを手に持つ俺は、おそるおそる轟さんに問いかける。まあこれももう3回目の挑戦なんですけど。既に2回ほどガン無視されておりますれば…。


「…え?」


あ、反応があった。


ハッとしたようにこちらを見る轟さん。


あーはい。今の時間っすね。


スマホの画面を表示させる。俺がさっき確認した時間とほぼ同じ。始業12分前。


「ぁ…!」


それを確認した途端、胡乱げな顔が一瞬、驚愕の表情に変わり…一拍置いて、何かを諦めた表情になった。


?どうしたのだろうか。


てっきり、お嬢様だから使用人が運転する車で来ているのかと思っていたけど。


「今日は車で来てないのか?」


俺は疑問をそのまま口に出す。

轟さんは少し暗い顔のまま、自嘲気味に口を開いた。


「…ええ。今日はここまで歩いてきたもの。」


徒歩で来た!?

…まあ、家が近いのだろう。


内心で驚きつつも、すぐに納得する。


ともかく、それならば確かに状況は絶望的だ。

学校まで自転車でギリ10分、徒歩だと普通に2、30分はかかる。うわぁ…。こんなことなら、1回目でもっと大きな声出しとくべきだったわ…。チキって、ちょっと離れてさりげなく伝えていた過去の俺にデコピンしてやりたい…。いや、でも轟さん凄い真剣だったし…声かけづらかったんだよなぁ…。


ようやく状況を飲み込めた俺に、轟さんは暗いまま、


「…桐山くんなら、まだ間に合うかもしれないわ。私はタクシーでも拾うから先行ってて?」


うわぁ…。その発想ブルジョワ…。


「お、おう…。じゃあ、ごめん、先行ってる…。」


俺のようなバイト戦士では思いつかない発想にちょっと引きながら、自転車を置かせてもらった公園へダッシュする。


運動は得意ではないが、ある程度はできる。多分。


息も切らさず、少し余裕があるまま己のチャリへたどり着く。

ガチャガチャンッとスクバと折り畳んだ猫用ケージをカゴに放り込み、急いで学校へ向かおうと、ペダルを踏み込みながら…俺は気付いた。


(いや、この10分じゃタクシー拾えない…のでは…?)


朝の住宅街。駅までは10分ほど。通勤時間。バッチ持ち。生徒の代表。責任。

…色々な単語が脳裏を駆け巡る。


あぁ。嫌だ嫌だ。


もしかしたら、アプリで呼んだタクシーが数分で来ているのかもしれない。それで俺が必死で学校へ爆走している横を、轟さんは余裕そうな、見下すような微笑みで通り過ぎて行くのかもしれない。


そうだ。そうに決まってるだろ。


轟さんだし。バッチ持ちのお嬢様だし。


「っ!轟さん!」


なんて。


そんな妄想は、"とぼとぼ"と学校へ一人向かう轟さんの姿を見て吹き飛んだ。

その姿はあの日、初めて轟さんを見た始業式と同じで、全く違っていたから。少なくとも、俺なんかよりよっぽど誰かのために猫探しを頑張っていた彼女がこんな暗い雰囲気で、たった一度の遅刻で、少しでも陰口を叩かれることを考えて、俺は我慢出来なかった。


俺はその勢いのまま自転車を降りて、自転車を半分押し付けるように、轟さんへ声をかけた。


「…なに「ほら!自転車!俺の鞄だけ持ってって!俺は走るから!」…。」


そう言って、自転車を渡し、少しの後悔と大きな自己満足に浸りながら走り出そうとする俺に、焦ったような声が届いた。


「その、余計なお世話だわ!」


「いや、この辺でタクシー捕まえるのに10分はかかるし、もう自転車しか選択肢ないだろ!」


「っ!…それは、分かってるけど…」


「バッチ持ちは模範であるべき、だろ?遅刻するなら俺の方がダメージ少ないし。ほら、まだ俺も走れば間に合うかもしれないから!」


もう時間がない。そうこうしているうちに、数分は過ぎているだろう。俺が手を離し、倒れそうな自転車を思わず手で支えた轟さんを見届け、俺は踵を返して走りだそうとして。


そでを掴まれた。


「違うの!わ、私、自転車、乗ったことないから…!」



なんやて…轟さん?



「え゛?」


「…。」


思わず振り向いた俺の目に、瞳を潤ませて恥ずかしそうに俯く轟さんの姿が。あ、これガチのやつやん。


…なら、もうこれしかない…!


「オケ、それは仕方ない!じゃあ、俺が漕ぐから後ろに乗って!」


「なっ!それは二人乗りで校則に違反してるわ!」


「大丈夫!坂の手前までだから!学校からは見えないし、そんな時間にいるやつは、走ってて周り見る余裕もない!いける!」


「でも…!」


尚も渋る轟さんに、俺は最後の選択肢を問う。


「乗って間に合うか、遅刻するか、今、答えて!」


「っ!…そんなの…」


リスクと、リターンと。

瞳を白黒させながら、轟さんが決めた、答えは…


ーーーーーーーーー


だあーーーー!!!


回せ!!足を回せ!!!


俺は通学路を自転車で爆走していた。


…後ろに轟さんを乗せて。


鞄の上に座る形で自転車の後ろに乗っているとはいえ、快適とは言い難いだろうが、轟さんには我慢して欲しい。


とにもかくにも、間に合わないと意味がないのだから。


今は学校まで残り半分を過ぎたくらいだろうか。

少しの坂道でも、肺と心臓と太ももの筋肉が辛い。あと、手と腕と背中と尻と足!!!


つらーーーーーーい!!!


自転車に乗れないという轟さんには、一番安定するということで、後ろから俺の腰に手を回して、しがみつく形で乗ってもらっている、のだが。


じゃま!!!超☆邪魔!!!


立ち漕ぎをさせて欲しい!轟さんがしがみついてるせいでどうあがいても中腰!!それも尻を数センチ上げるだけの!!つらい!しんどい!腰がしぬぅ!


あ゛ーーーっ!!


頑張れ!!頑張れ!!きりやまーー!!


俺ならできる!なんでも出来る!

諦めない!!諦めちゃだめだ!!

ここで諦めたら、誰が俺たちを学校まで連れて行ってくれるっていうの?ここで間に合えば白星!生活態度にマイナス評価はつかないんだから!次回「桐山遅刻」絶対、見てくれよな!!


うわぁーーーー!!!

なんか混じったぁ!!


ーーーーーーーーー


「はぁ、はぁ、んくっ。ヒュウ、ヒュウ…」


着いた。

目の前に聳え立つは、門までの坂道。

時間は分からないが、まだチャイムは聞こえてない。まだ、間に合うっ!


おそるおそる降りたであろう轟さんへ、顔を上げられないので、下を向いたまま言葉だけ伝える。


「ハァ、先に、ハァ、行って、ヒュウ、すぐに、、んくっ、追いつく、から…ヒュウ、、ヒュウ」


「でも、」


「いいっから!はぁ、走って!ハァハァ…」


下を見ている俺の視界の端で、逡巡していたローファーが、駆け出していくのが見えた。


フ…俺の、分まで…頼んだ…


とか悦に浸っている場合でなく。

俺も学校へ向かって歩き…おっも、自転車なに?鉄の塊ですか?


ふと顔を上げると、門の前で心配そうにこちらを見ている轟さんが見えた。


俺が軽く会釈すると、彼女はそのまま校内へ走っていった。


ふふん。なんか謎の満足感。

さぁーて、俺も走り…


〜♪


あ。チャイム鳴った。


ーーー次回「桐山遅刻」


ーーーーーーー


遅刻をしたが、一般人である俺は普通に注意されるだけにすんだ、放課後。


猫探しの続きを行うため、例の公園へ向かいつつ、今朝のドタバタを思い出す。


遅刻に関しては、一限の後、先生にそれとなく言われただけなので、メンタルは別に痛くも痒くもない。

それより、みんな真面目に授業を受けている中、扉を開けて入る方が辛い。何人かが俺の方へ目を向けてくる光景は、まさにアイドル気分。こう言うとなんかプラス?違う?違うかー。


それに、自転車を漕いでいると凄くむず痒い。

よくよく思い出すと、美少女に抱きつかれていた気がする。なんか凄く柔らかかったような…すいません、微塵も覚えてないです。そんなことより全身筋肉痛でつらい。美少女に抱きつかれていたのにその感触を覚えてないのもつらい。…次はちゃんと時間見ながら探そぅ…。


そんなこんなで公園に着いた。

轟さんの姿は見えない。


…イベントでも走る…いや、猫探そう…


とりあえず連絡だけ入れておき、できる範囲で猫を探し始めることにした。


ーーーーーーー


今更だが。

みゃーちゃんは茶トラ猫である。

いわゆる雑種というやつ。

それで完全室内猫というのは、親戚から産まれたばかりの子猫を譲ってもらったから、らしい。

猫を飼っていたという両親とともに、色々と苦労しながら数年。みゃーちゃんは人懐っこく、甘えたがりな性格で、早く動く様子もあまり見られなかったと。そういうのもあり、気が緩んでいたのだろう。不用意に窓を開けた瞬間、みゃーちゃんは外に飛び出していった。と、水岡さんはみゃーちゃんの写真を見せながら寂しそうに言っていた。


さて。

そんなみゃーちゃんを探している俺こと、桐山である。色々とダメなことは承知で、猫を探しながら軽くイベントを回す。


やはりオート機能は神…オートこそは世界を救う…!


カゴを持っていない方の手で、スマホの画面をポチって歩き出し、リザルト画面になれば、立ち止まり、ポチってまた歩く。と言ったゲーム7割歩行2割猫1割のダメダメ散策をしていた。


リザルトを見て、流れ作業的に次の任務へ送り出した俺の視界の端。道端に、猫。


…まあ、色は黒いのでみゃーちゃんでは無いが。


そんな黒猫は、スマホを持っている俺をジィーッと見て…踵を返して去っていく。


…なーんかこうやって探していると猫が結構いる気がする。知らんけど。


猫と目が合って嬉しい半分、イベント周回しながら猫を探していることを責められている気がする半分で複雑な感情になった。


…やっぱ真剣に猫探さなきゃ…。


心を改め、真剣に猫を探し始める。

そんな矢先、その時が訪れた。


ん?


再び、視界の端に、猫。


あ。


俺が歩く道の先。

T字路の角から、ひょっこり茶トラ猫登場。

そして、猫はそこで立ち止まり、じっとこちらを凝視してくる。その猫には、みゃーちゃんであろうことを示す青い首輪が見えた。


めちゃ尻尾ふっとる。


カゴを握りしめた俺は、一瞬固まって…


っしゃ!みーちゃんコラ!捕まえとらぁ!


それとなく一歩踏み出し、そこから走ろうと足に力を込めて。全身を俺は!躍動させる!


「動かないで。」


突然、後ろからガッツリ手を掴まれ、つんのめる俺の耳に、少女の澄んだ怖い声。


轟さんである。

少し息が荒れていることを見るに、後ろから忍び寄るように走ってきたのだろうか。全然気がつかなかった…。


その後ろから浴びせられる圧のような何かに、俺は指一本動かせなくなる。


轟さんは続ける。


「こちらから近づいたら逃げられるわ。今、私たちは見知らぬ人間が己の匂いがする道具を持っている状態なの。警戒されてる。まずはカゴを置いて、ニャールで様子を見ましょう。…当然、目は合わせていないわよね?」


とう、ぜん…?


今は確かに尻尾を見ていますが…?

そんなん言われたら目を見たくなっちゃうだろ。


俺は、あたかも『女子と話してる時、目を合わせるのが恥ずかしくて、ちょっと下向いて話してたら、斎藤に「胸ガン見してるのめっちゃ分かりやすいな」って言われ、衝撃を受けて以来、相手の目を見て話すようになったが、それはそれとして思わず胸を目で追ってしまう男の衝動を必死で堪えて、相手の顔を見る男子』のように、頑張って尻尾を目で追いつつ、カゴをそっと置き、ニャールを開けた。


ほれほれ、ニャールじゃぞ?


細長いフォルムの包装紙の端をちぎり、半固形の合成食品が少し見えるように…否、見せつけるようにみゃーちゃんらしき茶トラ猫の方へ差し出す。


猫はじっとこちらを見て…なんの抵抗もなく走り寄ってきた。ニャールへ一直線だ。


うはははっ!ちょろい、なんてちょろいのだ!

まるでラノベのヒロインのようだ!

俺もこんなちょろい幼なじみが欲しかったでござる。


そんな思考が猫にバレていたのだろうか。

ひゅるっと近づいてきたみゃーちゃんらしき猫が繰り出したパンチに、俺は全く反応できなかった。


えあっ、


吹き飛ぶニャール。追いかける猫。見てる俺。


ぽてっと落ちたニャールへがっつき始める猫。


え、え、どどどどうすれば…。


突然のことに動揺する。

そんな俺に、やはり落ち着いた少女の声が届いた。


「落ち着いて。大丈夫よ。」


そう言って懐からもう一袋ニャールを取り出した彼女は、カゴの中へ袋を開けたニャールを置いた。


「みゃーちゃんがニャールに夢中なことがわかって良かったわね。こうすれば抵抗なくカゴへ入ってくれるはずよ。」


さすとど…!!


もしかして人生二週目…もとい、猫に逃げられた経験があるのですか…?猫苦手って嘘やん。


策士轟の罠に気づかぬまま、俺からパクったニャールをあらかた食べ終わったみゃーちゃんはのそのそとこちらへ…カゴの方へ歩いてくる。


さっきまでのちょろさが嘘のようだ。

何故かは分からないが、何かに警戒しながら、それでもゆっくり近づいてくる。そう、そのまま、真っ直ぐ歩いて…。


するりとカゴの横を通り抜け、やってきました俺の前。


「…?」「あ、」


疑問符が俺。轟さんの声が漏れる。


すわ逃げるか!?と思えば、何故か猫は俺に甘えるように擦り寄ってくる。というか、俺の手を狙って何度もジャンプしてくる。なんぞ?


手を差し出すと、めちゃくちゃ俺の指を舐めてくる。なんかザラザラして、ペロペロする。


「…何が起こっているの…?人懐っこいと言うにも程があると思うのだけれど…。」


轟さんの疑問ももっともである。

俺もそう思うし。…ちなみに俺の手を舐めているのは、手からニャールの匂いがするからだろう。袋開けるときにちょっと付いたし。


…にしても、こんな賢明に舐めてくれてるの見るとちょっと、こう、湧き上がる感情があるよな…これが愛…。


勝手にほっこりしていると、猫は満足したのか俺の指を舐めるのを辞め、そのまま俺に頬擦りし始めた。…ニャール関係なく俺好かれてね?


「うそ…。」


轟さんの羨ましそうな声が聞こえた。

あれ?俺、何かやっちゃいましたか?


内心で無自覚無双転生系テンプレをなぞりつつ、我慢ならなくなった俺は、猫に詳しい轟さんに質問する。


「あの、…猫、撫でていいかな?」


轟さんはめちゃくちゃ甘えているように見える猫を一目見て答えた。


「本来なら見知らぬ人に撫でられるのは嫌がるはずなのだけれど…。ここまであからさまに甘えているなら、構わないと思うわ。…ただ、ニャールより桐山君を優先する意味が分からないのだけれど。」


それは俺も知らん。

そんなことより重要なことが山ほど有る。


「ってか、猫って撫でるのに注意点とかある?」


「…もしかして、桐山君は猫を撫でたことがないのかしら?」


「あ、おう…。」


「へぇ。そうなのね。…可哀想。」


うっせえ。何故猫を撫でたことがないだけで可哀想呼ばわりされなあかんのだ。

というか、やっぱ猫苦手は嘘だろ。その台詞は猫を撫でたことがある人間しか言えないのだよ…。

とは思うが、今の俺は教えてもらう立場。グッと堪えて色々とレクチャーしてもらう。


カクカクシカジカ…


「…とりあえず、尻尾と顔と手とか触らなければ良いのか?」


「あとは毛並みに沿って、指の腹で掻くようにやさしく流れるように撫でてあげればいいのよ…と、言われているわ?」


もう突っ込まないぞ(硬い決意)


そっと言われたように撫でてみる。

ふおお…滑らかな毛並み…3日も外にいたとは思えぬ…。こうやって撫でると思ったより暖かさを感じないのな…。よくできたぬいぐるみをブラッシングしているかのようだ…。


俺が感動していると、轟さんは、撫でている俺を見て羨ましそうにしつつ、リラックスしているヌコをみてなんか微笑んでいた。気まずくもほっこりする時間が流れた後、轟さんが唐突に目を見開き、「あ、」と呟いた。


「ん、どうかしたのか?」


一定のリズムで猫を撫でつつ、問いかける。

轟さんは少し動揺している様子を隠さぬまま答えた。


「この子、みゃーちゃんじゃない、と思うわ。」


「え。」


「その、写真より少し色が薄いもの。それに顔も少し違うわ。」


…誤差では?

ただ、確かに言われてみればそんな気もする…


轟さんは言葉を続ける。


「首輪の色は青よね?」


「青いぞ。ほら」


「…青…かしら?その、私には碧色か紺碧に見えるのだけれど…。」


それを青というのでは?

というツッコミが言葉になることは無かった。


ゴロゴロと鳴き始めた猫。その青い…碧色の首輪についたタグを轟さんが見つけたのだ。


「…この子、」


その時、女性の声が少し離れたところから俺たちの耳に入った。


「ナツーっ!どこにいるのー!」


その声を聞いた轟さんは、ふっ、とどこか優しい顔をして、呟いた。


「…名前。ナツっていうみたい。」


「ナツ…か。」


あー。そう、か。

思わず撫でる手を止めた俺が気に入らなかったのか。

茶トラ猫、もといナツは俺の足にビシビシと猫パンチを繰り出し始めていた。


ーーーーーーーーー


そうして。

俺が撫でて猫…ナツを引き止めている間に、轟さんがナツを探していた女性を呼んでくれた。

どうも女性の子供が間違ってドアを開けた時、逃げ出したらしい。それもつい先ほど。道理で撫で心地がいいわけである。

女性は、ぜひお礼がしたい。と言って下さったが丁重にお断りした。まだ本命のみゃーちゃんが見つかっていないからだ。それにお礼ならナツから充分に受け取っている。何ならお金払うわ。フワフワでござった…。

ならお礼の代わりにということで、女性に猫を探している、と事情を話すと、出来るだけ手伝って貰えることになった。ありがとうございます。


そうして女性はひょいっと猫を抱き上げて、家へ戻っていった。いや、なんか猫、伸びてる…?ちょっと驚く俺を横目に、去り際、女性は口を開いた。


「初対面でナツに懐かれるなんてスゴいわね。この子、人見知りが強くて最初は全然撫でさせてくれないから。」


「そ、そうなんすか?」


あれ?俺、もしかしてホントにスゴいです?

猫好きの皆さんすいません。俺、どうやらチート持って生まれたかも知れん…。


隣を見ると轟さんがめちゃくちゃ睨んできていた。えええ…。猫好きじゃないのでは…?


ーーーーーーーーー


その後は特に何があるわけでもない。


…嘘です。


その後、轟さんと二人で猫探しを再開して、数分後に水岡さんから電話があった。

どうやらみゃーちゃんが見つかった、とのこと。


「っ!ほんとっ!良かった…。」


水岡さんと電話している最中、目に見えて喜んだ轟さんが小さくガッツポーズしている姿が目に焼き付いている。何それカワイイ、ズルい。


ちなみに、その姿が俺に見られていることに気づいた後、「あっ…!」と、声を漏らして、めちゃくちゃ顔を赤くするのも…何それカワイイ、ズルい。


「…コホンっ。聞こえていたかも知れないけれど、みゃーちゃんが見つかったらしいわ。実は家の敷地内…物置下の小さい隙間に隠れていたみたい。」


咳払いしてもその可愛さは誤魔化せないから…。あかん。なんか惚れてまうやん。つよつよやん。


なんか恥ずかしい気持ちになった俺は、気持ち轟さんの目を見ないで答える。


「そ、そうか。まあ、うん。ナツを見つけることは出来たし、大成功ってところだな。」


「ええ。そうね。…でも、正直、少し釈然としないところはあるけれど。」


「まあ、轟さんにとって初めての依頼だったけど…。今回はみゃーちゃんが見つかったんだから完全勝利だろ。そんなん気にしたらキリないし。」


「…ええ。分かってる。ありがとう。」


最後に、轟さんはクスッと笑ってお礼を言ってくれた。そんな彼女に、俺は目が泳いでまともに顔を見ることができない。少し上がった体温を自覚しつつ、俺は軽く頷き返した。


ーーーーーーーーー


二人が分かれるまでの、同じ方向へ歩く帰り道。


「…。」


「…。」


轟さんの隣を無言で歩く中、俺は悩んでいた。

これは、『轟さんの好きな人って誰なん?』を聞くチャンスなのではないか。と。

一つ依頼を達成し、良い感じに空気が緩むこのタイミングでなら、うっかり口を滑らせてくれるかも…という淡い期待が浮かんでは消えるを繰り返す。


「…。」


「…。」


チラッチラッ…っと、轟さんの方をそれとなく伺ってみるが、轟さんは意にも介さず歩き続けている…かと思えば、急にこっちを見た。


「その、さっきからどうかしたの?言いたいことがあるなら言ってほしいのだけれど。」


「うおっ…!じゃなくて、あー、えっと、あー。」


素直にびっくりした。急にこっちを見るものだから、思いっきり顔をそらしてしまう。だが、これはチャンスだろう。

言うのだ。ここで己龍からの依頼を達成して、斎藤をぎゃふんと言わせてやるぅ!ぎゃふんとか言ってる人見たことないけど!


俺は覚悟を決めた。


「あの、その、と、轟さんのす、す、好きな………




食べ物ってなに………?」


「?えっと、そうね。トマトは好きよ?」


ああああああ…


己龍さん、轟さんはトマトがお好きらしいっすよ?最近はやりの改名はどうっすか?己龍トマト、とか。『トマトは好きよ?』って言質はとってるんで。違う?違うかぁ…。

覚悟を決めた、とか言いつつこれである。情けない自分は嫌いだが、そんな自分を愛しているのだ。うーん、この過保護。

…まあ、まだそこまで仲良くないし?ここからだから。うん。


そう思いつつ、空を仰ぎ見る。あゝ青い…「そういう貴方の好きな食べ物は何かしら?」


轟さんからの質問に感傷は中断された。好きな食べ物か…。


「俺はチャーハンとかかなぁ…」


「…それは料理…あ、そ、そういうことなのね…。」


隣からちょっと呟いたのが聞こえた。あ…。聞き方が悪かったですね…。すいません。

ちなみに轟さんの好きな料理はカレーだとか。意外と庶民的でちょっと意外…!コォレガトキメキッ!!


…そうして、そんなこんなで、別れの時である。


「…じゃあ、ここで。」


「おう。」


夕方。

帰り道の途中、ある交差点の分かれ道。


轟さんは小さく手を振って、俺は軽く手を上げて。


「また、明日。」


そんな言葉が、少し柔らかな彼女の微笑みが、俺に向けられることになるとは。


…俺の動揺は伝わってしまったのだろうか。何か余計な不信感を与えてはいないだろうか。

夕日が表情も、体温も、俺の全部を塗りつぶしてくれることを祈って。少し足早に俺は帰路に着いた。


ーーーーーーーーー


その日の夜。


布団に潜り込みながら、俺は斎藤と電話をしていた。内容は近況報告。俺が話したのは猫探しについてだ。


『…にしても猫探しかぁ…。あれ?中学の時、なんか鳥探さなかったっけ?』


「うわ、懐かしいな。探した探した。あん時は確か、授業中に窓の外見たら木に止まってるの偶然見つけて…大変だったよな…。」


『そうそう!虫網で捕まえて色んな人に怒られたやつ!もっと優しく捕まえろ!とか、いや、じゃあ、お前が捕まえろっての。』


「てか、斎藤。ちょっと猫探しの話に戻るけど…、斎藤なら猫を探すのに、何かいい案思いついたりする?」


『いやぁ…。何もないかなぁ。あの、猫が大大大好きな轟さんが言った以上のことはどうあがいても出ないよね…。』


「え?轟さん、やっぱ猫好きなのか。なんかずっと「猫は好きじゃないの。」って言ってたけど。」


『うん?…あー。悪い、勝手なイメージで語ってる…。でも、えー?何か猫好きそうだった気がするけどなぁ。』


「まあ確かに、轟さん、猫は好きそうだったぞ。撫でたり触ったりすることは無かったけどな。」


『まあーうん。へー。そんな感じかぁ。』


「…それで、体調の方は大丈夫か?その、最近全然既読付かねえから。」


『あー、うん。元気元気。んーどうだろ、来週?再来週くらいには熱も下がって学校行けるようになる…『ユウー!ちょっと、何してるのよー?』やば、ちょ、ちょっと待って』


「あー、了解。」


『『え?なに?電話?誰と?ま、まさか普通の学校の人?』ちょ、待って落ち着いて、ご、ごめん晴人!また連絡するから!『いや、なんで隠そうとするのよ!私も来年受験する…』』ピロンッ…。


…なんぞ?

今、年若い…いうなれば少し幼い少女の声が乱入したような気が…?斎藤の妹さん?誰なんです?


まあうん。仕方ないか…。


斎藤には、雑談終わりにアニメの同時視聴でも、と、提案する予定だったので少しガッカリする。

時計を見るとすでに23時過ぎだ。


…今日は歩き疲れたし、早めに寝るか…。


そう思った瞬間、スマホからメッセージ通知。

斎藤から連絡が入っていた。


『ごめん、今の親戚の子!』


「今、実家にいるって言ってたからか。」


今度はトーク画面で会話をはじめる。

少し心が弾んだ。


『そうそう。今、中3で受験生だから。たまに勉強を教えたりしてる。』


「おお…。志望校が我らの坂上高校って聞こえてたから、頑張ってほしいな。」


『うん。まあ賢いから大丈夫そうだけど。笑』

『じゃあ、ごめん、疲れたからそろそろ寝るー。』


「おけ。ご自愛ください。笑」

「おやすみー。」


『ありがとう笑』

『おやすみ!』


一通りやり取りを済ませ、ポイっとベッドの傍にスマホを投げる。

流石に病人に無理はさせられない。


ベッドに寝転びながら、ぼんやりと天井を見る。

思えば、斎藤は中学の頃から病気がちだった。めちゃくちゃ元気そうに見えて、結構呆気なく学校を休むし。休んだら休んだで長引きがちだし…。


普段は一人暮らしだが、熱が出るとすぐに実家の方へ療養しに帰るのも良くあるのだ。斎藤の実家は少し離れているため、お見舞いに少々行きづらいのもなんだかなぁ、である。


…今度お見舞いにでも行ってみるかな。

でも、あいつの実家クソデカいからなぁ…。


斎藤の家は謎にデカい。

会ったことはないが、斎藤父がメディア系企業の上の方の役職らしい。比較的金持ちである。

金、顔、学力と全て揃った超人が斎藤なのだ。唯一、バッチは持ってないのが…もはやそれも長所?それに病弱属性すら、斎藤なら長所であろう。俺が病弱でも、ただの病弱な人なのに、顔がいいと薄幸感とか影とかプラスされて魅力に変換されるからズルい。


…あー。俺も寝るか…。やっぱ疲れてるし…。


ウトウトし始めたのを自覚して、慌てて部屋の電気を落とす。

今日は慣れないことをして疲れた。明日も朝から学校である。


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