はじめての依頼:猫を探す話①
次回更新は9/16の7時予定です。
前回までの『僕とギャルゲー』
どうも皆さんこんにちは!絶賛不登校な斎藤です!なんとか轟さんとお試し期間とはいえ友達になることができましたよ…。いや、ほんとよくあれで上手くいったな…。まあ、僕は現在お休み中なので後は晴人にお任せ!行ける!もうすでにルートに入っているから余裕だって!これは勝ちましたわ。ここから始まる二人のイチャ恋ルート!では、どうぞ!
『これは夢だ。俺は夢を見てるんだ。』
放課後、夕日の差し込む空き教室。
『あぁ。最悪だ。最悪の記憶だ。』
春。
中学生の俺と斎藤は二人、放課後に残って勉強していた。
しょうもない雑談を交わしながら。
これまでひたすらボッチだった俺。斎藤という存在は記憶にある中で、初めての友達だった。その日々はあまりに幸せで。
…だから、その距離感も分からなくなってしまったのだろう。
それは、俺に致命的な一歩を踏み出させてしまうほどに。
「なぁ、斎藤。」
「ん?どした?」
勉強もひと段落つき、そろそろ帰ろうか、なんて鞄を持って立ち上がった斎藤を呼び止める。
「…。」
「ん?何だよ。そんな、『推しが主人公に選ばれなかった時』みたいな深刻そうな顔して。」
その声が、そのちょっとバカにしたような微笑みが、あまりにいつも通りで。
俺はその先の幸せが欲しくて。
勢いよく立ち上がった俺は、そのまま、斎藤の目をまっすぐ見て、言った。
『辞めろ。その勘違いを口にするな、それは
「好きだ。斎藤。…俺と、付き合ってくれないか。」
『あぁ。やめてくれ…もう、知ってるから。もう、』
そして、目の前の斎藤は。
恥ずかしがるわけでもなく、嬉しがる様子もなく、顔を真っ赤にするわけでもない。
ただ申し訳なさそうな顔で、口を開いた。
「ごめん、僕が好きなのは可愛い女の子なんだ。ってか桐山も知ってるじゃん。今はセラしか勝たん。」
はあああぁぁぁ???
『あ゛あ゛あ゛あ゛や゛め゛でぐれぇーーーーっ!!!』
頭が真っ白になった俺は。
ただ苦笑いしている斎藤に、心から声が漏れた。
「マジかぁ………」
これは青春と呼ぶにはあまりに醜い。
勘違いで俺史上最大の事故を引き起こした。
青瞬の記憶。
ーーーーーーーーー
コンコン
見慣れた教室のドアをノックする。
「…どうぞ。」
不思議な感じだ。
とても馴染みのある何も変わっていない生徒会補佐の部屋から、聞き慣れない澄んだ少女の声が聞こえてきた。
「…えー、こんちは…。」
挨拶を口にしながら、少しドキドキしつつ、出来るだけ無表情でスルッと中へ入る。
「…。」
「…。」
返事をくれた彼女、窓の近くに座って本を読んでいる轟さんは、少し顔をあげ、こちらをチラリと確認し。
途端に興味なさげな感じで、本へと視線を戻した。
その様子を、視線を向けないよう注意しながら視界の端で確認し、定位置となったドアに最も近い椅子に座る。
そして、そのままブックカバーをしたライトノベルを取り出して読み始める。
「…。」
「…。」
そして、ページをめくる音と、風の音、遠くから聞こえて来る吹奏楽部や、何かの運動部の練習による音が教室を満たした。
あの友達カッコ仮(笑)になってから3日。
こんな感じで何も変わらず、雑談も、連絡すらしない、最低限の挨拶だけの関係が続いていた。
まあー。うん。
互いに仲良くなろうと努力しないのだから当然ではある。
そりゃあ俺もこの空気は気まずい。
だから轟さんが雑用部に入部した次の日。
斎藤がいなくなって最初の活動日に、俺は勇気を出して轟さんに話しかけた。
「その、こんにちは、えと、俺、桐山晴人って言います。」
「ええ。知っているわ。」
「…。」
「…。」
んんンンンン。
「あだ名とかは無くて、えと、桐山って呼んで貰えれば…、あ、あだ名を考えてくれても」
「そう。…言うまでもない事だけれど、貴方のあだ名を考えるつもりは無いから。」
「あ、ハイ。」
うううううう。
「そういえば、いつも本読んでるけど、何読んでんの?」
「貴方に教える義理はないと思うのだけれど。」
ふええ…。
男の『ふええ…。』に需要は無いことを知りつつ、思わず供給してしまう程の歩み寄らなさである。
なに?俺なんかした?しましたすいません。反省しております。
んー。これはもう無理では?
めちゃくちゃ嫌われているのでは?
心苦しい沈黙の中、部活中にこっそり会長へLINEを送り、このことを相談したところ、
「大丈夫。ちゃんと桐山という概念を認識して会話をしてくれているじゃないか。轟も歩み寄ろうとしてくれてる。自信持って!」
とのありがたい回答をいただいた。
会長のばかやろう!
本人とこの空気の中話してないから、そういうことが言えるんだ!もうダメ…。
いやほんと、外面でいいんで。俺のこと嫌いなら嫌いで構わないんで。その、この静寂を埋めるための当たり障りのない会話をちょっとしてくれればいいんです。全然、嘘でもいいんで。適当なことを言ってくれて大丈夫だから、マジでお願いしますぅ…。
なんて思ってた時期もありました。
こういうものだと割り切れば、斎藤がいない部室となんら変わらない。
確かに一人の時よりはくつろげないが、どうせ本を読むか、スマホをいじるかだし。中身のない会話で繋ぐより心労も少ないまである。
非日常が一瞬で日常になる。
斎藤はいつ学校に来るのか。早く元気になってほしいなぁ。
と、思いつつ、2人っきりの教室を一人で過ごす心地よい時間が吹き飛ばされるまで秒読みだった。
そう。ここは雑用部なのだから。
コンコン
ノックの音だ。
「ど、「どうぞ。」…。」
反射的に応える俺の声より、はっきりとした声音で轟さんは訪問者へ入室を促す。やだ、轟さんリーダーシップ発揮しすぎ!
「失礼しまーす!」
「こ、こんにちは…」
扉を乱暴に開けて、綺麗に染めた茶髪を揺らし、勝手知ったる顔で入ってきたのは、新聞部のエース。小鳥遊ユズ。あのアンケートの依頼を持ち込んできた憎きオシャレ番長的な元気系女子である。
その後ろから、恐る恐る入ってきた女子は…知らん。みたことある気がする多分。
入ってきて早々に口を開いたのは小鳥遊だった。
「え!?轟ちゃんいる!!」
ズビシッと、轟へ人差し指を立てながら、小鳥遊は驚いた顔をした。
なんかちょっとコミカル可愛い仕草だが、それはそれとして人を指さしちゃダメだろ。
そんな小鳥遊に結構不愉快そうな顔で轟さんは応えた。
「…小鳥遊さん。人を指差す行為は失礼に当たるから、控えた方が良いわ。」
「あぁー!ごめーんっ!…ってか轟ちゃん、なんで私の名前知ってるの!?」
これまたギョッ!としたような顔で驚く小鳥遊に、呆れたように轟は口を開いた。
「同じ学年の生徒なら、全員の名前を覚えているもの。」
さすとど。
「うへぇ!?すごい!!さすが轟ちゃんだ!さすとどだねっ!」
ぐはっ!
小鳥遊と語彙力が同レベルなことに、人知れずダメージを受ける。
騒がしい小鳥遊の様子を見るに、どうも彼女らは初対面らしい。見ただけで顔と名前を一致させ、小鳥遊の名前を呼んだ轟さんもさることながら、初見で轟ちゃん呼ばわり出来る小鳥遊もすごい。
「さす…?とりあえず、その轟ちゃん、というのも少し控えて貰えるかしら。…その、びっくりするから。」
「えー。とどろきちゃんって響き可愛くて好きなんだけどなぁー。んー、じゃあ、ろーちゃんにしよ!」
「ろ、…まあ、別に好きに呼んでくれて構わないわ…」
とどろきちゃんって響きが可愛いかどうかは別として、あの轟さんを振り回す小鳥遊ぱねえ。まあ、我々はこれの30倍は振り回されているわけなのですけれども。ははは。
わーい!ろーちゃんよろしくねー!私のことはゆずピーって呼んで!そ、そうね…ゆ、ゆ、とかなんとか即興で漫才を続けようとする二人を止めるため、俺は声を上げる。
「あー、それで小鳥遊。今日は何のようだ?」
あ!
俺の言葉にそもそも自分が何をしにきたのか思い出したらしい小鳥遊は、一瞬何かに迷うように動きを止め…何かを決めたのか、今度は俺に、ズビシッと指を向けた。
「そうそう!キリやん!大変なんだよぅ!その…」
そう言って、小鳥遊のテンションに置いてけぼりにされ扉の前でおろおろしていた女子生徒の方へ目を向けた。
用があるのはその子か。
その子の方へ目をやると、肩のあたりまで伸ばしたボブヘアで大人しそうな女の子がいた。
教室中の目線を集めたその子は、目をぐるぐるさせながら、少しあたふたと声を上げた。
「えと、あの!うちのみゃーちゃんを探すのを手伝って貰えませんか?」
また大変そうな依頼が転がり込んできたらしい。やめてくれない?
ーーーーーーーーー
一昨日、家猫のみゃーちゃんが居なくなった。
完全室内飼いのネコだからそんなに遠くには行ってないはずなのに、見つからない。
とにかく人手が欲しいから、ユズピーにも頼んで、ここも紹介してもらった。
以上。今回の依頼の全貌である。
「私も新聞部のSNSで呼びかけてるけど、まだ全然情報は集まってなくて…」
心なし心配そうな小鳥遊が言う。
この辺一帯のインフルエンサーもどきにまで進化している新聞部のSNSでも、昨日今日で居なくなったヌコ様の情報は手に入っていないらしい。
「…確かに、それは心配ね…。」
静かに沈痛な声で轟さんが呟く。
え!?
この場の誰よりも心配してる感ひしひしと伝わる声出すじゃん!?轟さん、もしかして猫好きなんですか!?ボクも好きです!!
教室の真ん中、長机を挟んで相談を受ける俺たち。
俺は思わず隣に座る轟さんの顔を盗み見る。
彼女は顎に片手を当て、眉根を寄せて…ものごっつ心配していた。その感情、もう少し人に向けた方がいいんじゃない?…いえ。向けて頂ければ幸甚に存じます…!
困惑している俺を他所に話は進む。
「その、近所の人とかには伝えて、張り紙も作って貼ろうとしてるんだけど…」
依頼者の女の子…水岡さんがスカートを握りしめて話す。
「…みゃーちゃんさんにGPSは?」
「…。(フルフル)」
轟さんの質問に、水岡さんは首を振る。
「…家の半径50m以内は探したの?」
「…はい。でも、見つからなくて…」
「警察には連絡した?」
「…はい。愛護センターにも連絡はしました…。」
次から次へと家出猫を捕まえるための質問が轟さんから放たれる。やけに具体的で詳しい…轟さん、もしかして猫飼ってるのかね?
「出来ることはしている、ということは分かったわ。ならあとは…人海戦術、ね。」
その言葉に、少し俯き気味だった水岡さんの顔が上がる。そっと、隣に座る小鳥遊と目を合わせ、恐る恐る口を開く。
「じゃ、じゃあ、猫探し手伝って貰えますか…?」
「ええ。もちろん。」
わぁ!
と、めちゃ笑顔になる小鳥遊と少し嬉しそうな水岡さん。良かったね!俺の意思はガン無視してるけどね!全然お手伝いさせていただきます!猫好きなんで!犬も好き!
「あ、じゃあその、」
そう言いながら、水岡さんは持っていたでかい鞄から折り畳み式のカゴと使い込まれたタオル、そして天上天下天地最強猫用完全栄養食、通称『ニャール』を取り出し、口を開いた。
「これ、みゃーちゃんが気に入っていたタオルと、みゃーちゃんも見たことあるカゴです!みゃーちゃん、カゴに慣らした経験もあるから、多分大丈夫だと思います!」
そう言って道具一式を渡そうとする水岡さん。
あ、僕の分もある?そうですか、ありがとうございます。
みんなでよっしゃ!ヌコ探しますか!
な空気の中、轟さんは何故か道具を受け取らない。
?
なにゆえ?
「…ろーちゃん?」
小鳥遊の心配するような、催促するような呟きに、轟さんは悔しそうな、悲しそうな、申し訳なさそうな顔を、小鳥遊達から少し背けて口を開いた。
「…ごめんなさい。私、猫はあまり好きじゃな…に、苦手、だから…」
は???
時が止まる。
俺はクエスチョンマークが止まらない。
あそこまで心配そうな上、熱心に話を聞いて、相談に乗り、俺を完全に置いてけぼりにして話を決めたのに???てか、猫が『好きじゃない』と言おうとして『苦手』と言い直すあたり、よく分からない轟さんのプライドを感じる…。なに?他人に弱みは見せない的な?
「実はアレルギーとか?」
小鳥遊がふと思いついたように聞く。
その言葉に、轟さんはフルフルと申し訳なさそうに首を振った。
「…いいえ。その、猫に触るのが苦手で…。でも、猫に関して多少の知識はあるから、何か役に立てると思うわ。」
その姿に、小鳥遊はちょっと複雑そうな顔をしつつ…ただ、轟さんの協力しようとする気持ちが嬉しかったのか笑顔で口を開いた。
「まあ、そう…だよね。それに一人で探すより、二人で行動した方が安全だし…。」
そう言って小鳥遊はこっちを見る。
つられてその場の全員の視線が、俺に集まる。や、やめろ!
特に仲良くもない女の子と二人っきりで歩くとかかなり恥ずかし…まあ?どうしてもと言うなら?やってあげなくもな…
「ありえないわ。こんな男と二人っきりで行動する方がよっぽど危ないもの。冗談もほどほどにしてくれないかしら。」
胸を抱えるように腕を組み、ピシャッと轟さんが言い放った。
カハッ(吐血)
そ、そんな感じで日々を過ごしていらっしゃったのん?そ、そんなに嫌われているとは、この桐山のふし穴な眼をもってしても見抜けなかったでござる。
轟さんの冷たい目と、その言葉に、でもぉ、と小鳥遊が苦笑いで反論する。
「公共の場で、キリやんにそんな勇気あるわけないよ!ヘタレだし!」
その通りだが!!
なんて言葉言ってんだよ小鳥遊ぃ!図星すぎて何にも言えませんが!急すぎて見栄を張る隙すら与えないとか…やるやん。
その小鳥遊の言葉に、轟さんは軽く頷いて口を開いた。
「…まあ確かにこの男にそんな甲斐性はないと思うけれど。…その、ゆ、ゆ、ユズ、ピーと、コホン。水岡さんは、一緒に探すというのは難しいのかしら?」
しけったガムより噛んでたな…今のユズピー。
ちょっと心にダメージを負いつつ、思わずツッコミを入れる。これはサガ。
小鳥遊と水岡さんは互いに困ったように目を合わせ、それぞれ口を開いた。
「私はちょっと個人的な用事がありまして…手伝えないのもあって、誰かを紹介しよー、となったのでありまして…」
「…私も、もう少し色んな人に頼んでみようと思ってて…それに、やっぱり分かれて探した方がいいだろうし、詳しい人が付いててくれると安心だから…ごめんなさい。私、頼んでる立場なのに…。」
そう言って水岡さんはちらりと俺を見た。
俺は軽く頷く。
あ、はい。桐山は猫初心者でござる。触ったこともない。動画で猫見るのは大好きなんですがね。
申し訳なさそうな、何なら水岡さんに至っては、ちょっと落ち込んでるようにも見える、言葉に轟さんは少し慌てて、
「…いえ、その、大丈夫よ。二人の事情は分かったから。…何とかみゃーちゃんを探してみるわ。」
嫌々感、全然隠す気ねえなコイツ。
苦々しそうに渋々、そう言った轟さんに二人はそれぞれ感謝の言葉を述べる。何なら小鳥遊は抱きつくまであった。
「ありがとー!ろーちゃん!」
「な、ちょ…その、離して…」
轟さんを思いっきり抱きしめて、頬ずりまで堪能しだす小鳥遊。そんな過剰ともいえるスキンシップに対して、言葉では否定しながらも真っ赤な顔でちょっと満更でもない轟さん。
フゥー、ッスー…(昇天)
正直に言わせていただきましょう。
元気発剌今どきオシャレ系美少女とクール深窓の令嬢系美少女が抱き合うこのシーン。
眼福です。ありがとうございます。
はあー。思考が解ける…。ほどけるんじゃあ…。
…ただ、ガン見はできない。
正直、なんか恥ずかしくて見てられないです。タスケテ…。
それとなく目線は外しつつ、後方友人面で同じ空間に存在できることを噛みしめる。
はぁ…。こんなに皆を元気にさせるなんて…。生まれ変わったら美少女になりてえ…。
そんな空気の中、水岡さんは唐突に、あっ。とした顔をした。
ん?この様子を見て何か育成のヒントでも得たのだろうか。俺は得た。
そのまま彼女は俺の方を見て、ちょっと躊躇いがちに問いかける。
「その、全然、話してなかったですけど、桐山さんは大丈夫ですか?」
「あー、はい。大丈夫っす。多分。」
みゃーちゃん探しも、轟さんとの共同作業も、ぜんっぜんオッケー!!!
かぁーー!そこの抱き合ってた二人今すぐ正座しろ!こんな男、とか、ヘタレとか言いやがって!やっぱおどおど癒し系女の子しか勝たんっ!くぅー!優勝!!
内心で祭りつつ、出来るだけ平静を装って返答した。俺の言葉に、
「…ありがとうございます。」
水岡さんはちょっと微笑んでお礼を言ってくれた。もうその笑顔だけで、桐山、頑張りますっ!
そして。
「ろーちゃん、実は私、今日謝りに来たの。」
帰り際、ドアの前で振り返った小鳥遊がそう言った。
「…?…それはコンテストの件かしら?」
咄嗟のことに一瞬、自分の唇を軽く触れるように撫でながら思考を巡らせた轟さんは当然のように答えを当てた。
その言葉に、バツが悪そうに「えへへ…」と、頬を掻き、小鳥遊は頭を下げた。
「本当にごめんなさい!知らない二人組に私生活詮索されるの迷惑だったよね…。本来なら私が事前に聞かないといけないのに…。」
そんな小鳥遊に、轟さんはふと、優しい顔をした。
「…ええ。本当に迷惑だったわ?ただ、ゆ、ユズピーに免じて今回は水に流してあげる。だから、その…またこうして話してくれると、その、嬉しいわ?」
デレた。
かーなり恥ずかしそうに、顔を赤くしながらそう言った轟さんを見て、真っ先にそう思った。
え、ちょ、かわ…。
小鳥遊を見ると、突然のデレにフリーズしていた。こちらもめちゃくちゃ顔が赤い。いや、分かる。聞いてるだけで恥ずかしいし。水岡さんも『はわわ…』って言う顔してるし。
時が止まった部屋の中で、真っ先に回復したのは小鳥遊だった。
「もち!もちもちだよ!ろーちゃん!!何ならもう、しんゆーだよーっ!」
キャーッ!と実際に声を上げて、再び轟さんに飛びかかる小鳥遊。これは仕方がない。かわいい轟さんが悪い。
もうね。この空気。過多なんすよ。今日だけで3年分は摂取してるんで。いいぞ、もっとやれ。
…先に出て待ってましょうか。
…そうですね。
二人の様子を見て、俺と水岡さんはアイコンタクトを交わし、そっと教室を出た。
廊下で水岡さんと二人、暫く雑談をした。みゃーちゃんの話で少し盛り上がった。色々な写真を見せてもらって、どれが一番可愛いか、とか。みゃーちゃん用の青い首輪は3本スペアがあることとか…。こうやって並べると恐ろしくどうでも良いね。これが不思議と楽しいんだなぁ…。暫くして、部室から親友二人組が出てきた。やけにやつれた轟さんと、肌ツヤがピッカピカの小鳥遊が印象的だった。仲良くなったんだね。良かったね。
友達が少ない会長に言ってあげたい。デレたら速攻で親友出来ますよって。…うーん、キャラが違うか…?解釈違いある…?
色々と思考を巡らせながら、流石にこの時間からは難しいということで迷いみゃーちゃん探しは翌日からと言うことに決まった。
さて。明日から頑張りますか!