誤答
次回更新は9/2予定です。
前回までの『僕とギャルゲー』
どうも皆さんこんにちは!めちゃ怒られた斎藤でっす!無許可で女の子の私生活を調べてバレて、プライバシー侵害で怒られました。すいません…。被害者の女の子に謝るべく、なんと会長が人肌脱いでくれるって!いや、ほんと申し訳ない…。
※会長視点です。
「改善活動の参考に。と、白縫さんが言うのなら…。」
「ありがとうございます。」
生徒会補佐の2人に、被害者の女の子に会わせると約束して数日。これまでの実績や生活態度が効いたのか、やけにあっさり女子生徒の名前を手に入れることができた。
苦情を言っていた女子生徒は、2年生の轟姫花。
その名を見た瞬間、一瞬の驚きの後、納得と安堵、そしてちょっとの呆れを覚えた。
やっぱりアイツか。
良くも悪くも正義感があって不器用だし。
内心でそう思いつつ、スマホを開く。
緑のアプリをタップし、友達を探し始めた。
生徒会長となり、相談されることも多くなったからだろう。登録されている友達は多いものの、殆ど連絡を取っていない名前の列を、虚しさと共にスワイプする。
そして、ようやく目的の名前を見つけた。
さて、何と送ろうか。
そう悩む自分の口角が少し上がっていることに気づきつつ、久しぶりに会う"かつて相談しに来た生徒"の顔を思い浮かべる。
第一関門であった女子生徒の名は知れた。
第二関門である、女子生徒を例の2人に会わせるための計略が今、白縫のスマホから静かに始まった。
ーーーーーーーーー
放課後。
生徒会室にて。
「久しぶり、だな。轟。」
生徒会長用の大きい椅子を離れ、訪問してきた女子生徒へ向けて、笑顔で軽く手をあげる。
「はい。お久しぶりです、白縫会長。その節はどうもお世話になりました。」
入室してきた轟は、膝を隠すようにスクールバックを両手で持ち、頭を下げた。
「む。そう言われても、あの件に関しては、まだ何も応えられてないしな。」
「…その、ですが…」
「あー。大丈夫。分かってるから。すまない。これは私の失言だったな。」
「いえ…。」
困ったように眉尻を少し下げる轟に、やってしまった。と内心で舌を出す。そういえば、彼女の中ではもう諦めた話だったな、と。
「立っているのもなんだし、座ろうか。」
失礼します。と、礼を述べ、席につく轟を横目で見ながら、生徒会長用のゴツい机の前に用意された来客用の椅子に向かい合うように座る。
互いに無言で目を合わせた。
ルビーのように赤く透き通った瞳を見ながら、どちらが話を切り出すか様子を伺う。
部屋を少しの間、沈黙が支配する。
静寂を破ったのは轟だった。
その顔は先ほどとは異なり、少し不信感が滲み出ている。
「それで、ですね。白縫会長、『例の2人と話してみてくれないか?』とはどういうことか、詳しく説明して欲しいのですが。」
言葉が足りなかったかと反省しつつ、臆さずに悠然と答える。
「説明も何も、そのまんまだ。君が苦情を言った2人に、どうしても女子生徒に謝りたいと嘆願されてな。一応、生徒会の関係者だから無碍にもできん。それに、アンケートの続行も希望していてな…。兎にも角にも二人に会ってほしい、というわけだ。」
「なぜ白縫会長は、私が苦情を言ったと知っているのか。という話は…。」
ニッコリ笑顔で返事をする。
轟は手で軽く額を抑え、少し呆れ気味にため息をついた。
「まあ良い、でしょう。それで二人に会う件なのですが、申し訳ありません。お断りします。」
そして、流れるように断った。
何の躊躇もなく。もはや清々しささえ感じさせた。
まあ予想通りではあるが。
…仕方がない。ここで切り札を切らせてもらう!
「アー。コマッタナァー。もう2人には約束してしまったんだぁー。誰か私に恩を感じていて、なおかつ助けてくれる心の優しい人はいないかなぁー。ここで助けてもらえたら、その人ともっと仲良くなれそうなのになぁー。」
ちらっちらっと、轟をチラ見しながら大袈裟に振る舞う。
名付けて『良心の呵責に訴える作戦』高3にしてこれはどうかとは思うが、優しい轟には効くだろう。いや、効くに決まっている!………効いて、ください…。
呆れるあまり半眼になりつつも、轟は律儀に返事をした。
「それは反則だと思うのですが。」
どうやら効いているらしい。安心した。
「説得に規則も反則もないさ。それに、君だけが許可しないまま、アンケートが進んだとして…。コンテスト本番に紹介欄も何もなく、轟の名前だけが前に出るより、ここで辞めさせた方が後腐れなく都合がいいと思うが、どうだろう?」
ちなみに、どうしても本人がコンテストに出たくない場合、名前だけが出ることになる。
事前の投票結果紹介の時だけではあるが…やはり皆から選ばれたのに前に出ない、というのはあまり良い話ではない。
「…。」
黙り込む轟。
さて、今の説得で何が効いたのか正直自信はないが。とにかく、一つはっきりさせておきたいことがある。
「あー。話は変わるが、轟はなぜ直接彼らに苦情を言わなかったんだ?こんなに回りくどいことをする必要はないんじゃないか?」
本気で2人に会うのが嫌なのであれば、その気持ちを優先するつもりで質問を投げかける。
先程の"会長からのお願い"から、口もとに手を当て、考え込んでいる轟は、その姿勢のまま、あっさりと質問に答えた。
「よく知らない2人に裂く時間は持ち合わせていなかったので。まさか白縫会長が丸め込まれるとは予想外でしたが。」
「…つまり、苦情を直接言う時間が勿体無いと。」
「はい。正義はこちらにありますから。」
そういうとこだぞ轟。
私は内心で頭を抱えた。
恐らく彼女の中ではプライバシー侵害にあたるのだろう。事実そうであるし。つまり、どう見ても犯罪だから、先生に一言いえばそれで解決すると思ったのだ。多分。
確かにそうだ。そう考えているなら、轟は正しい。
ただ、そう言ってコンテストへの参加を切り捨てるのは早計だと私は思う。
今回のプライバシー侵害については確実に奴らに非があるのだが。
彼らにも悪気があったわけではないと思う。次はないけど。
話がそれた。
とにかく、そう言った不特定多数に公開できる情報に関しては、轟が許せる範囲をすり合わせれば、色々と上手くいくのでは。と思う。
正直、これは轟にとってチャンスだと私は思うのだ。
色々と殻に閉じこもりがちなこの少女の、そんな自分を変えたいと相談してくれた彼女の。
自分を変えることができるターニングポイントなのではないか。
もし、生理的に無理とかそういうのではなく、時間が勿体ないとか面倒とかそういうのであるならば。参加してみるのも良いのではないか。何かあれば私もフォローできるから。
そう、こう見えて自分は結構なお節介焼きなのだ。
この一人ぼっちな少女に周りを見るきっかけをあげたかった。
その前段階として、まずはあいつらと話して、仲良くなってほしい。
癪だが、桐山と斎藤はいい奴らだから。
「確かに、轟の言っていることは正しい。その上で、だ。2人と話してあげてほしい。謝罪を受け入れるにせよ、断るにせよだ。それに、アンケートを続けないよう説得もしてほしい。相手の事情を知った上で説得することは、とてもいい経験だと私は思う。」
轟の目を見て真剣に言う。
何か感じるものがあったのか。
轟の赤い瞳に迷いが見えた。しかし…
「白縫会長が言うことも理解できます。ですが…」
あー、これは断る流れだなぁ。
ここまでやってもダメだと言うのなら。
仕方がない…
…煽るか。
「なるほどなぁ。いや、分かった。そうだな、無理を言ってすまなかったな。怖いなら仕方ないしなぁ。」
「別に怖がっているわけではありませんが?」
轟が何かを言っているが、無視して続ける。
その様子に、ピクッと轟の眉間が反応する。
「こんなこと轟にしか頼めないと分かっててやらないってことは、もうビビってるって証明してるようなもんだしなぁ。」
畳み掛けるように煽る。
「正義はこちらにあるとか言いつつも、論破されるかも知れないからな。怖いのはよーく分かる。2人に会うのも、怖いなら諦めるしかないかー。」
「怖いのではなく、意味がないと言っているのですが?」
轟が静かにキレた。
彼女が今、冷静ではないと何となくわかる。
「そうは言っても、二人に会わないということは結局逃げるのと大差ないだろう?」
「…。」
「ちなみに私の中では、轟が逃げたことに」
「分かりました。その周囲のことを見ない、相手の気持ちも考えないお子ちゃま自己中な2人を捻り潰せばいいんですよね?」
うわーお。
これは焚きつけすぎたかな?
「ん、まあそうだな。でも、その、捻り潰すはやりすぎ」
「では、日時の候補が決まり次第連絡をください。これから徹底的に案を練ってくるので。」
「あ、いや、もちょっとおだやかに」
「失礼します。」
そう言い残して、轟は生徒会室から姿を消した。
「…。」
行ってしまった…。
バタンッと少々乱暴に閉じられた扉を見つつ、短慮だったかと後悔する。
2人と仲良くなれる場を。と思って…というか2人にはそう約束した気がするのだが。
…まあ、あれだ。喧嘩するほど仲がいいとも言うし。初対面で喧嘩すれば、もうそれは相性バツグン超仲良しということだろう。うん。
すまない。
私は生徒会室の豪華な椅子へ倒れ込むように座りながら、心の中で謝った。
ーーーーーーーーー
そして運命の日。
それは桜が散り、新緑が芽吹き始めた何でもない放課後の教室。
軽く腕を組み、壁に背を預ける私の目の前で、2人の男女が相対していた。
1人は轟姫花。私が連れてきた。
彼女は肘を掴むように腕を組み、相手を睨みつけている。ここには喧嘩でもしにきたのだろうか?(すっとぼけ)
もう1人は桐山晴人。feat. 斎藤だ。
桐山は緊張しているのか、ブレザーの裾を思いっきり握りしめ、むりやり口角を上げたようなぎこちない表情をしていた。
ちなみに斎藤は黒板の前で、なんかそわそわしていた。どこか少し嬉しそうである。いいことでもあったのだろうか?まあロクでも無いことに違いないが。
轟を連れて教室に入り、軽く自己紹介と、挨拶しただけのはず…。しかし、既に教室の中はラスボス戦の様な緊張感で満ち溢れていた。一部を除いて。
口火を開いたのは轟だった。
「それで?要件は何かしら。」
だからどうしてそんなに喧嘩ごしなのか。(すっとぼけ)
挨拶もそうだが、責めるような口調で来るとは予想していなかったのだろう。ぎこちない笑顔の桐山。
そのまま不思議そうな、不安そうな…いや、これは呆れている?…そんな複雑な表情で私を見てきた。『何があったんですか?』とでも言いたそうだな。そうです、私が煽りました。本当に申し訳ない…。
轟が放った言葉の右ストレートにたじろぎつつ、心の体勢を何とか立て直した桐山は、震えながら口を開く。
「あ、その、えっと、その、い、いいい天気ですよね。」
全然立て直していなかった。
灰になりそうなほど頭の中は真っ白だったようだ。
轟は呆れて…というより、桐山のふざけた回答に冷めた目でため息をついた。
「何度も言わせないで。早く本題に入って貰えないかしら?」
相手を慮らない、そう言うとこだぞ轟!
轟のつっけんどん、な態度に、今度こそ冷静になったのか。やはり震えながらも、桐山は頭を下げた。
「その、、、申し訳ありませんでした!依頼とか何とか言ってましたけど、見知らぬ2人にプライベートを詮索される気持ちを全然考えてませんでした。嫌な思いをさせて本当にすいませんでしたっ!」
桐山の誠心誠意の謝罪に、私は少し呆気に取られる。
「僕も、です。謝って済むことじゃないかもしれませんが、すいませんでした。」
いつのまにか、桐山の隣に出現した斎藤が同様に頭を下げていた。
…ちゃんと謝ることができる。仲直りの第一歩だな。
「え、ええ。そうね。その、分かったから、下げるのを辞めて、欲しいのだけれど」
2人の謝罪に、たじたじして、轟はそっぽを向いた。
自分の大人げない態度に気づいたのだろう。恥ずかしがる轟を久しぶり見た。こうやってみると年相応なのだがなぁ。
…許すのが速くはないだろうか。花も恥じらう乙女の情報を(大した情報は皆無とはいえ)暴こうとした罪人なのだが?一発くらい殴ってもいいと思うぞ?グーで。
謝罪が受け入れられ、少しほっとした空気が流れる。斎藤も少し気にするそぶりを見せながら、黒板の前に戻り、最初よりは柔らかな沈黙が流れた。
「それで、話は終わりかしら?」
軽い咳払いで、弛緩した空気を戻し、轟が口を開いた。
ようやく本題に入るのだろう。
私も少し身構える。
轟の目的は、コンテストを中止するため、2人にアンケート調査を辞めさせることだ。
ここから轟の舌鋒鋭い説得が始まる。
あの2人に限って言い返すことはないだろうが、いつでも仲介できるよう構えておく。
「あー、その、実はもう一個ありまして…。」
桐山は頭の後ろに右手をやりつつ、恐る恐る伝える。
轟は、手にギュッと力を入れ、そのハッキリしない態度への怒りを抑え込んだ。
「何かしら?」
「えっ、と。あー、。」
一瞬、斎藤を見る桐山。
斎藤を見るとめちゃくちゃガッツポーズしている。
ん?何か始まるのか?
そう疑問がよぎる私の前で、悲壮に満ちた覚悟を決めた顔をした桐山が声を上げる。
「あの、もし、よければ何ですけど!」
少し大きな声にビックリする私と轟を置き去りに、桐山は何故か右手を握手するかのように突き出し、大きくお辞儀をして叫んだ。
「俺と、俺たちと、友達に、なって!下さい!」
時が止まる。
突然の出来事に疑問符だらけの轟は、まさに呆気に取られた顔をしていた。
…ダメだ…笑っては、いけない…!
よく分からない静寂の中、笑いを堪えていた私だったが。
昨晩もしっかりと2人を叩き潰すための言葉を考えてきたであろう轟のぽかーんな顔と。
後ろにいただけなのに、何故か達成感溢れる顔をした斎藤を見て。
腹筋が崩壊した。
人物紹介
桐山晴人
主人公。はよ家に帰りたい。
轟姫花
今作のヒロイン。満を持して登場。優しさをどこかに忘れてきたらしい。