天才とバカは紙一重らしい。
次回は8/12の7:00更新予定です。
前回までの『僕とギャルゲー』
どうも皆さんこんにちは!名前だけ知られた斎藤でっす!
生徒会補佐に『好きな人の好きな人が知りたい』って己龍の依頼が舞い込んだみたい。
…まあんなもん知るかって感じだよね!仕事だから考えるけど…。
んー、どうやってこの依頼を解決するつもりなのか…ど、どうなっちゃうの~?
コンコンコン
ノックの音だ。
読んでいたラノベはちょうど三人目のヒロインである金髪ロング清楚系美少女の妹が、血の繋がっていないお兄ちゃんを押し倒したシーンである。いいシーンだなあ。
また厄介ごとかと内心ウンザリしながら扉を見る。
と同時に扉が開いた。
「おいっすー。ごめんごめん。遅れちゃいましたー。」
「…ん、斎藤か。いや、お疲れさん。」
片手にビニール袋を持ち、片手で手刀を切りつつ謝っている美少女。彼女こそ我らが生徒会補佐の誇る一輪の花、斎藤優である。
初めて会った中学生の時は今のようにメガネ、ショートヘアといった、よく喋る情報通系ヒロインスタイルではなく、裸眼、ロングヘアの正統派ヒロインな見た目をしていた。
何なら制服もスカートにリボンではなく、長ズボンにネクタイである。今も軽くネクタイを緩めて颯爽と歩くその姿に、もはやイケメン味を感じている。顔が美形ならなんでも着こなせますよね。はい。
ちなみに、俺の好みである正統派スタイルを斎藤へそれとなく推しているのだが、彼女は全く意にも返さない。今日も元気に情報通系ヒロインスタイルを貫いている。元気が一番。
「そうだ聞いてくれよハルト!」
「どうした?」
斎藤が目の前のイスに座りながら口を開く。
俺はラノベから顔をあげずに聞き流すことにした。聞くだけで良いらしいし。
「…ガチャで爆死したんだけど。」
元気な前フリが嘘みたいな暗い声を出す。
まあ、うん。
「うん、知ってる。」
それさっきSNSで見たやつ。
無言で画像だけあげた投稿に爆速でいいねをしたのでよく覚えている。
淡白な俺の返事を別に気にすることなく、机を挟んだ俺の前の椅子に座りながら、斎藤が口を開く。
「ハルトはもう回した?」
「いや、今回はパスだなぁ…。ピックアップの子は可愛いけど、俺の琴線からちょいずれてるというか…。」
「はぁ?マジで?あんな下着みたいなけしからん衣装着て、輝くばかりの笑顔を見せてるイラストなのに?男なら思わず回しちゃうくね?」
斎藤が男を語るのか…。いや、いいけど。
俺は苦笑いで返答する。
「言いたいことは、まあ…。ただ、性格が明るすぎるというか元気すぎるというか。」
「オタクに優しい陽キャこそ至高じゃん!」
「あれはもうオタクに優しいんじゃなくて全人類に優しいタイプだから…。…まあ、次のピックアップも控えてるし。」
聞き流すだけのはずが既にラノベから目が離れている。まあ、斎藤との話で盛り上がらないことが少ないだろう。趣味がほぼ同じだから…。
とにかく、このままだと解釈違いで面倒なことになりそう、なので別の話題を振る。
斎藤が教室に入ってくるときから気になっていたビニール袋へ視線を向けた。
「そういえばそのビニール袋は?」
「ああ、うん。今日一日、生徒会補佐をさぼった償いにね。パンダメンタルからパンを貰ってきたんだ。」
中にはたくさんの惣菜パンが入っていた。焼きたてでは無いので少しさみしいが十分おいしそうである。
ちなみにパンダメンタルとは斎藤のバイト先のパン屋の名前である。なんなら俺もバイトをしている。地元では結構有名なパン屋さんで平日でもそこそこ忙しい。裏で大きな組織の人たちと繋がっている…なんていう怪しいうわさもあったが、おいしさの前では無力。客足はやまなかった。ありがたいことである。
「あれ?いつもの紙袋は?あのパンダが葉巻咥えてるやつ」
「いっぱいパンもらったから。大きいサイズの紙袋だと自転車に載せられないし。」
「なるほど。」
確かにいつもより多い。お、パンダメンタルタルもある。これ人気パンなのに良く貰ってこれたな…。これはメロンパン、焼きそばパンな。この辺は順当に来てる…何だこれ。コッペパンに黒い粒粒が入ったクリームがはさんである…。『タピオカクリームパン』なるほど直球で来たか…バットにかすりもしないだろうなこれ。たまに頭のおかしい…冒険心にあふれたパンを錬金…創造するのは何でだろうな。発作かな。
俺がパンを物色していると、斎藤が口を開いた。
「そういえば、今日は誰か来た?」
「…。」
沈黙。
ちょっと呆れたように苦笑する斎藤。
「って、分かってるよ。春休み最終日だからね。誰も来るわけないよねー。」
「…。」
のんきに笑顔な斎藤に、俺は沈黙で返事をする。
その間に何かを察したらしい、斎藤は真顔になった。
「え、うそ。来たのか…。」
「しかも厄介な依頼と一緒にな…。」
俺は事の次第を斎藤に説明した。
…
「なるほどなぁ…。己龍が依頼をねぇ…。」
「しかも『好きな人の好きな人を知りたい。』だぞ?そんな依頼生徒会補佐に頼むなよ。」
夕日が差し込む教室でパンを片手に話し合う。
やはりパンダメンタルタルは美味いなぁ。このタルタルポテトサラダとソース濃いめな焼きそばのコンビが強すぎる。
「それを知りたいと思うのは人間として良くわかるけどね。実際に頼むとなるとヘタレすぎというか、ズルいというか、寧ろ勇気の塊というか…。まあ、己龍はナチュラルに頭おかしいとこあるから。バッチ持ちにしては良識ある方だけど。」
「あんまりそれ口にしない方がいいぞ。自分の部屋ならまだしも学校だしな。」
「…そうだね。軽率だったかも。ありがと。…それで、己龍がそう決めていたなら依頼を受けるしか無いのは分かるから…考えないといけないのは解決策だよね。」
「…そうなんだよなぁ。」
腕を組み背もたれに体重を預ける。
「それで何か策はあるの?」
その質問にしぶしぶながらも正直に答えた。
「全然思いついてない…それこそ斎藤に頼もうかと思ってたところだけど…。」
ちょっと期待を込めた目を向けると斎藤は思いっきり渋面をしていた。
「いや、おま、僕の交友関係知ってるじゃん。晴人とほぼ一緒だぞ?それこそ轟さんなんて高嶺の花に話しかけたこともない…。」
「ん?やっぱり斎藤も轟さんのこと知ってるのか。どんな感じなんだ?」
「えっ⁉」
俺の言葉にこいつマジかっ!と言う顔をして驚く斎藤。え、そんなに有名人なのか?
思わずそう聞いてしまった。
「いや、有名人も何も、轟姫花じゃん?トドロケソニック社長の一人娘、高貴な血を引くバッチ持ちの社長令嬢!僕らの学校で轟の名前知らないやつがいるなんて…。」
「マジか。トドロケソニックってあのトドロケソニック?」
「そう、この辺じゃ有名な会社の。メッチャ綺麗な子だよ?なんていうの?深窓の令嬢的な?水晶のような儚さ的な?正直、己龍が彼女にしたいって言うのも共感できるけど…。」
マジか、轟さんバッチ持ちか…。今思うと当然だよな。己龍君が一般の女の子と付き合うのに誰かの手を借りるわけないし。相手がバッチ持ちだからこそ、告白したことで波風を立てないように確実な情報が欲しかったのか…。
バッチ持ちに関して我々のような平民ができることは少ない。
まずは交友関係から…と、轟さんの周りを探るのも結構苦労することになる。
…正直、斎藤に頼むくらいしか解決策を思いついていないが、斎藤を危険にさらすのは俺の良心が咎める。うーん、と頭を抱える俺にあっけらかんと斎藤が声をかけた。
「一つ、いいかな?」
そのいたずらっぽい笑顔での質問に、俺はひきつった顔で頷いた。
コイツがこの顔をするときは絶対、ろくなことを言わない時だ。
「…とりあえず聞くだけなら…。」
「よろしい。」
少し勿体ぶって、間を溜めて…斎藤は口を開いた。
「僕のアイデアは…『告白すること』だ。」
「ん?」
その案に俺は少し首を傾げる。
「えっと…。己龍君はそれを確実にするために依頼してきたんじゃ?まあ、己龍君が轟さんに告白すれば白黒ハッキリするけど…。」
「いや、告白するのは己龍じゃない。…晴人さ。」
「は?」
「晴人が告白することで、轟さんに好きな人が誰か聞きやすい状況を作る。つまりは『嘘告白』だね。」
斎藤は滔々とその案を語りだす。
『告白』
それは特に仲良くもない異性と一番簡単かつ最速で関係を作れる手段だ。
『好き』という感情は実にあいまいで、どうすればその感情が生まれるか、未だ誰も知らない。例えば「怒り」は比較的分かりやすい。相手にとってマイナスなことをすればいい。誹謗中傷するのか、一発殴るのか、モノを盗むのか…。人によっては違うだろうが、少なくとも自分が何をされれば怒るのかを思いつくことはあるだろう。しかし『好き』はそうではない。何をすれば相手に好きになってもらえるのか、逆に自分は何をされれば相手を『好き』になるのか明確に答えられる人間はいないだろう。最悪な出会いをした二人が最後には結ばれるとかいう話がその辺に良く転がっているし、一目惚れなんて意味が分からない。『好き』っていうのはあいまいで何でもありってことが良くわかる。
だから、そのあいまいさを逆手に取る。轟さんを"好き"か"好きじゃない"かなんて誰にも分からないから。
大切なのは雰囲気とそれっぽい真摯さ、それっぽいエピソードである。と。
例えばこんな感じで…。
放課後、夕日の差し込む空き教室。
轟さん「君が私を呼び出した桐山晴人くん?」
そう言って既に教室で待っていた俺…晴人に手紙を見せてくる。
晴人「うん。そうなんだ。…あーゴメン。正直来ないと思ってたから、今びっくりしてる。」
轟さん「あはは。留美子ちゃんに突然、手紙渡されたから私もびっくりしたよ。その…多分初めましてだよね?」
晴人「うん。直接話したのはこれが初めてかも。…それで今日は話したいことがあってさ。」
そういって、彼は彼女と向かい合う。
そして、深呼吸。
手紙を握りしめ胸を抑えるように手を組んでいる彼女の目をまっすぐに見つめる。
暴れるように鼓動を刻む心臓、思わず拳に力が入る。緊張かそれ以外の感情か、もしくは全部か。顔を赤らめた彼は覚悟を決めた。
晴人「初めて轟さんを見かけた時から、あなたのことが好きでした。俺と、付き合ってください。」
轟さん「っ!…。」
轟さんも薄々予想はしていたのだろう。一瞬驚いたように目を見開き、そのまま気まずそうに目をそらした。
あぁ…。これは…。
轟さん「…ごめんなさい。桐山くんの気持ちはうれしいけど、その、ごめんなさい。」
晴人「そっか…。」
その答えに虚しさで胸が詰まる。彼は努めて残念そうにそういった。
そのまま少しさみしそうに口を開く。
晴人「その、付き合えない理由を聞いてもいいかな。」
轟さん「それは…。」
動揺しているのか、轟さんの目が泳ぐ。
これは…。
晴人「もしかして…好きな人が、いるとか?」
轟さん「っ!!」
夕日にも負けないくらい顔が赤くなる。
間違いない。これは別に好きな人がいるパターンだ。
晴人は悔しそうに歯を食いしばり、震えるほど拳を握りしめる。
歯の隙間からこぼれるように言葉が出た。
晴人「参考までに、その、教えてもらえないかな…?」
轟さん「え?」
晴人「その、轟さんの好きな人。」
轟さん「えっ…。でも」
晴人「無理にとは言わないけど、俺としては誰に負けたのかちょっと気になってさ。…その、ダメかな?」
まだ少し悔しさをにじませつつ無理に笑顔を作る。
その顔を見た轟さんはーーー
…
QED. 証明終了。
「こんな感じで雰囲気さえあれば答えてくれるって。轟さんに好きな人がいるなら、告白してきた晴人に共感して言ってくれるだろうし、好きな人がいないならそう言うだろう?付き合う気の有無もついでに分かる。どう思う?いい作戦じゃない?」
正直完璧…とは倫理の関係上言えないがベターな作戦だろう?
完全にドヤ顔で言い切った斎藤に俺は今度こそ頭を抱えた。
とりあえず言葉を返す。
「…日本語で頼むわ。」
「何でさ⁉最速で轟さんの口から男女の交友関係を聞き出せる方法じゃん!これ以上無いほど完璧!百点…いや、五億点の解答といっても過言じゃないでしょ!」
明らかに無茶な案を振りかざしておいて、なおも胸を張る斎藤に、俺は呆れて…なんてことはなく、全然違うことを考えていた。
…お手軽に五億点とか言っちゃうとこ…ちょっと可愛い。
俺は一人、萌えていた。
ってか、一人二役でコロコロと語ってるとことかめちゃ可愛いのヤバい。
正直、その赤くて太い縁の眼鏡クッソダサいと思ってたけど、それも可愛い…。
かわいいとヤバいしか言えん…語彙力が昇天してゆく…。
俺は心で鼻血を抑えながら、まあいいやそれで。と流されそうになる心を叱咤し反対する。
「とりあえず、一つ質問なんだが…留美子ちゃんって誰?轟さんの友達?斎藤の知り合い?」
「あ、そこなんだ。あー、僕の考えた架空の人物かな。とりあえず轟さんの友達っていう設定。流石に友達が一人はいるかなあって。いないかもしれないけど。」
設定かあ…。
どうでもいい質問で少し頭を冷やす。
時間をかけて冷静に考えると…まあ、とんでもない案である。
俺は思わず呟く。
「…正直、考えれば考えるほどリスクが高すぎるんだよな…。」
まず、表立っては言えないが、一般人がバッチ持ちに告白することは超タブーである。
普通の人は友達としてバッチ持ちと交友することはあれど、カレピッピ、カノピッピの関係には発展しづらい。文字通り身分が違う。どうしても好きなら付き合うこともあるだろうが、生活習慣のギャップに苦しむだろうし、他のバッチ持ちに目をつけられたらそのあとどうなるか分からない。彼女がバッチ持ちで付き合った時、彼女の家族から目の敵にされて人生オワタなんてこともある…らしい。何ならつるし上げられてSNS特定、からの炎上。風評被害、不登校、家庭崩壊…まで見えた。それくらい覚悟と気持ちが必要なのだ。
真剣に悩む俺を見て、斎藤はあっけらかんとネタ晴らしをする。
「…まあ半分冗談だけど。晴人にだけリスクを背負わせるわけ無いから。それにこの案だと晴人が告ってオッケー貰った場合、己龍に殺されるし。流石に難しいよね。」
斎藤は何を言っているのか。
俺には、俺が初対面の女子に告白してオッケーを貰う未来が微塵も見えない…。
斎藤は俺に少しでも可能性を見出しているということなのだろうか。…少し期待してしまうだろ…。
ちょっとドキッとして、そもそも提案が半分冗談と分かってちょっと安心して…気づいた。
「…半分?」
斎藤は気づいたか、とニヤリと笑って言った。
「…最終手段、ということだよ!」
「…アッ、ハイ。」
笑顔がまぶしーい!!
めちゃくちゃ笑顔で半分本気宣言された。怖すぎる。
言いたいことを言い終えたのか、なんか楽しそうな顔でイスに座り、次のパンを選び始める斎藤へ俺は質問を投げかける。
「…それでどうする?他に案はあるのか?」
未だに案がでない弱者である俺はおずおずと口に出す。
そんな俺を見て、少し苦笑いした斎藤は口を開いた。
「うん。…まあ、もう一つの案は…いわば常識的な解決策かな。」
「…どういう?」
一番常識が抜け落ちている斎藤が言うセリフではないのでは。と思わず言いそうになったがぐっとこらえる。そんな俺を横目に斎藤は続けた。
「仮に告白するとして、一番の問題は轟さんが誘いにのってくれるか、好きな人を教えてくれるかってとこじゃん?」
「…ん?まあ。うん。」
前の言葉と繋がってない台詞にはてなマークを浮かべつつ続きを促す。
「ならどうするか。答えは僕らが留美子って子の立場になれば良いんだ。」
それはまあわかる。
で?何を言いたいのだろうか。
「…つまり?」
「そう。轟さんと仲良くなれば全部解決なんだ!」
斎藤はパンを片手にバッチバチのキメ顔でそう言った。
何を言っているのだろうか。
俺は内心で首を傾げた。
「…そりゃそうだろうな。」
あまりに当然な答えに普通に頷く。ちなみにそれ、俺が真っ先に考えた案だし。
斎藤が轟さんの友達になれば、めちゃくちゃ自然に聞けるはずである。
ただ、斎藤が続けて放った言葉に、俺はやっぱり頭を抱えることになる。
「そう!…晴人が仲良くなればね!」
「何でやねん。」
思わずツッコんでしまう。
こいつもしかして最終手段とか言っといて嘘告白を全然諦めてねえな⁉
俺は普通にびっくりした。
「斎藤が仲良くなれよ!同性なんだから!」
思わず口走った俺に、斎藤は半眼で答えた。
「…いやぁ、晴人。それは男女差別だから言わない方がいいよ?」
「いやそうかなぁ⁉普通だと思うけどなあ⁉」
というかどう考えても、俺が轟さんと仲良くなるのは不可能だと思うのですが。
それが簡単にできるなら、俺にはもっと友達がいてもいいはずである。
中学で斎藤に出会うまで、完全無欠な孤高の存在だったのである。そんな俺が、斎藤以外の美少女と仲良くなれるイメージなんぞ微塵も出てこない。…まあ、斎藤は別だから。めちゃくちゃ趣味が合うし、なんか同類のオーラを感じるんだよなぁ。こんな美少女なのにね。不思議だね。
とにかく、人間と仲良くなるのが苦手な奴が、異性の高嶺の花と仲良くなろうとするその発想。そんなの普通に考えておこがましいだろう。炎上、陰湿ないじめ不可避。
無理だろ…。と真っ向から全否定する俺に、まあまあ。と斎藤が口を開く。
「確かになんの繋がりもなく、仲良くなるのは難しいと思う。しかも、相手は学年でもトップクラスの美少女。晴人だろうが、僕だろうが、なんの策もないままに近づいても自殺と変わらない…。だから、まあ何をするにしても、轟さんについて知ることから始めてみよう。って感じ。」
「それは分かるけど…。どうやって情報を集めるんだよ…。」
結局は轟さんがバッチ持ちという壁があるのだ。
正当な理由がなければ探りを入れるのも難しい…。
渋そうな顔をする俺に、懐からスマホを取り出した斎藤は得意げな顔で画面を見せて言った。
「これを利用すればいいのさ!」
その画面はSNSのトーク画面。相手は新聞部の小鳥遊という元気女子である。
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…
『新聞部から依頼なんだけど大丈夫?』
『だいじょばない。』
『”坂上高校美少女コンテスト開催のためのアンケート収集”を手伝ってほしいんだけど。』
『去年無かったから今年も中止でしょ?』
『よーぼーが多いから今年はあるっぽい感じらしいよ?』
…
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「…なんで最初に言わなかったんだよ…。」
「いやあ…。ごめん…。厄介な依頼でいつ言い出そうかと…。あと調子乗りましたすいません…。」
「まあ、うん。…パンに免じて許すわ…。」
「あざす…。申し訳ない…。」
とにかく、経緯はどうあれ轟さんについて調べる大義名分は手に入れた。
“轟さんと仲良くなって好きな人を聞き出そう作戦”が今、この場所から始動する。
…ってか、小鳥遊って文字打つ時もあんな感じなのか…。あざといというか何というか…。何やねん『よーぼー』って…。偏差値が高いの皆知ってるんだから、狙ってるのがバレバレなんだが…。一周まわって尊敬の念すら湧いた。俺も使っていこうか、よーぼー。
…あ、だめだな。俺が使って『キモッ』ってなる未来が見えた。泣いた。
桐山 晴人
主人公。好きなパンはパンダメンタルタル。
斎藤 優
TS転生オリ主の友人。原作では主人公の親友かつ情報屋ポジ。