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ギャルゲーと僕。  作者: のりたまごはんとみそスープ
2/16

ここは雑用部。説明は終わったので帰ってもいいですか。

次回は8/5の7:00更新です。


コンコン


ノックの音だ。

机の上に広げて読んでいたラノベから顔をあげ、扉を見る。

すりガラスの向こうにぼんやりと見える姿から男子生徒だと目星をつけ、そっとため息を付きながら、努めてだるさが伝わらないよう取り繕った声で返事をした。


「どうぞ。」


「失礼するよ。」


入ってきたのは男子生徒。襟元にバッチ…それを認めた瞬間、広げたままの本を閉じ、背筋をそっと伸ばす。そこでようやく引き戸を開けた男子学生が知り合いであることに気づいた。まあそれでも居住まいは正すけど。一般常識には従う。これ常識。


「こんにち…や、桐山じゃないか。」


「…あ、己龍君。久しぶり。」


「ホントに…。てか、そんな固くなくてもいいよ。別にこれで来たわけじゃないから。」


そう言って左手でブレザーの襟元に付いたバッチを軽く揺らす己龍。ぱたぱたと揺らすそのしぐさに(そんな軽いもんじゃないだろ…)と若干あきれつつ少し力を抜いた。


とりあえず目の前にあった椅子を薦める。

御礼を言いながら座る己龍を見つつふと視界に入った電子時計を見た。


3月31日14:20。春休み最後の日である。


高校生になって初めての春休み。その最後の日を消費して生徒会補佐の仕事をしている自分に心の中で涙が出てきた。何をやっているんだ…。てか何をしに来たんだ己龍君。本来なら誰も来ないまま、だらだらとラノベを読んで過ごすはずだったのに…。俺のっ俺の休日を返せよっ!


「それでその、ここは生徒会補佐であってるよね?お悩み相談ならここって先生に聞いたんだけど」


先生とは誰なのだろうか。具体名が欲しい。後で文句を言いに行くから。先生、ここは断じてお悩み相談室ではないです。そういうのはまず生徒会へ持ち込んで貰えれば…。


「お悩み相談はしてないかな。雑用なら何でもするけど。」


俺のどや顔に若干ひきつった笑顔を返す己龍君。あれここ爆笑ポイントだよ。

二人しかいない教室の空気が微妙な感じになったのを気遣ったのだろうか。うららかな陽が差し込む開けっ放しの窓から、春特有の突風が桜の花びらを運んできた。


まあそれがどうしたって感じなのだが。


「…それでその、話を聞いてくれないかな。」


「おけ。まあとりあえず言ってみよう。」


内心イヤイヤながら話を促す。こんな時期に仕事を増やさないでほしい…。増えるのは美少女の後輩だけで十分なのだが。ただし二次元に限る。仕事ってラノベでよくある『最後には振られちゃう系ヒロイン』なみにグイグイ来るの何なの?もしや仕事は美少女だった?


「…。」


「…?どうした?何か言いづらいことだったり?」


何かもじもじして口を開かない己龍君にちょっと期待をこめて声をかける。そのまま帰ってくれない?


「うん、まあ、ちょっと恥ずかしくて。」


「…そうなん?なら別に無理して言わなくても良いんだけど…。」


そしてそのまま帰って?


しかし現実は、特に面倒ごとはツンデレである。

俺の言葉によって逆に覚悟を決めたのか、己龍は口を開いた。


「…最近、ちょっと気になる女の子がいてさ。その、轟さんっていうんだけど。」


「…はあ。」


誰。誰だよ轟さん。


自慢ではないが、俺は高校一年の時に同じクラスだったヤツらの内、三分の二程度しか名前を覚えていない。いやホントに自慢じゃないな。

…ちなみに、全校生徒を含めても記憶にある女の子の名前は10人もいない。あまりに寂しい高校生活に愕然とした。全然満足してるけど。毎日楽しいし。うん。


てか気になるって何?好きなの?恋なの?そうゆう人間関係的なのややこしいから辞めてほしいんだけど。


そんな、どうでもいいことに考えを巡らせる俺を無視して、己龍君は続ける。


「轟さんはさ、ほら、綺麗だし、賢いし、なんかいいじゃん。前からちょっと可愛いなって思っててさ。」


「…はあ。」


轟さんは綺麗で賢くてなんかいい上に可愛いらしい。知らんけど。

己龍君に言わせると轟さんは誰でも知っているスーパースターみたいな存在なのだろう。同意を求めるように轟さんの良いところを言う彼に、うんうんと頷いておく。そんな完璧な美少女、絶対性格悪いだろ(偏見)。そんな完璧な子、二次元くらいにしかいないから。幼馴染属性とかもってたら嬉しい。黒髪ロングならなお良し。異論は認める。


そんな風に轟さんの属性を考えながら適当に頷いていると、不意に己龍君は爆弾を落とした。



「それでさ、轟さんに今好きな人がいるのかどうか知りたいんだ。できれば、その、誰が好きなのかも知りたいなー、なんて…。」



「…はあ。」




んなもん知るかっっ!!




心の叫びである。

作っていた人当たりの良い笑顔(当社比)も盛大にひきつっていることだろう。

好きって何ですかー?likeの方ですか?なんて皮肉すら出てこない。この恥ずかしがる感じは男と女の好きで間違いないだろう。英語ではloveという。泣いた。


もう自分で告白して来いよ!!何ヘタレてるんだよ!てかその話、友達でも何でもない俺に言えるなら、告白した方が速くない?


「…頼める、かな?」


そう言って笑顔で俺の目をのぞき込むように問いかけてくる。


正直、名前しか知らない、それも異性の、しかも好きな人などというプライバシーど真ん中侵害の情報を知る方法がさっぱり思いつかない。それこそ神のみぞ知るというやつでは無いだろうか。いや轟さんがすごくオープンな人で好きな人を言いふらしていたなら別だが。それこそこんなとこに来るなよ…。轟さんとやらの友達を探せよ…。


内心呆れながら断ろうと口を開く。


「いや、流石に…」


「…。」


断られると気づいた己龍君は笑顔のまま。しかし、既にその瞳が笑ってはいなかった。


と、彼はおもむろに左手で自分のブレザーの襟をつかみ、自身のバッチを強調するように軽く掲げる。



「この僕がお願いしているんだけど。ダメとは言わないよね?」



そして、さも当然のように冷たく言い放った。


あー、クソッ。やられた。

俺は完全に渋面になっている顔を手で覆う。


これだからお貴族様は…。仕方ないが…。


眉間によったしわを軽くほぐし、顔をあげる。少し息を吐いて苦笑いをした。


「…おけ。できる限りやってみる…。」


「良かった!わざわざ足を運んだかいがあったよ。」


さっきとは別人のように笑顔でのたまう己龍君にやるせない気持ちになった。


そう仕方ないのだ。俺たち平民はバッチを持つ者たちの『お願い』に逆らえないような風潮があるのだから。上下関係なんて無いはずなのに…。

とにかく、己龍君が本気であった以上、これは覆しようがない決定事項であった訳だ。


…すねていても仕方がない。決まったことなら前向きに検討すべきだ。

俺は気持ちを切り替え条件をつめることにした。


「それで、轟さんの好きな人を知りたいってことでいい?期限は?」


「うん!それと今付き合う気があるのかどうかもね。期限は…夏休みまででいいかな。ほら、僕、花火が好きだからさ。夏祭りとか二人で行ってみたいんだよね。二人っきりでゆっくりと花火を見れるスポットもこの前見つけたんだ。祭りの喧騒からゆっくり離れて二人で花火を見て、愛をささやく…ほら最高だろ?」


うわ…。こいつもう付き合う前提で話進めてるし。轟さんとやらに彼氏がいたらどうするんだ…。…いや、己龍君なら金でどうとでもするか。轟さんがフリーであることを祈るばかりだ…。


「ちなみにこの学校の轟さんで合ってる?」


「そうだね。坂上高校在籍で僕らの同級生の轟さんで合ってるよ。」


己龍君は苦笑気味にそう教えてくれた。

轟さんはどうやら同級生らしい。言われてみればそんな珍しい名前の女子がいた気がしないでもない、こともない。間違いなく他クラスだということはわかった。流石にその名前が同じクラスに居たら覚えているだろうし。


「ん、了解。…他には?」


「うーん、もう大丈夫…あ、それと、この話を他の人に話したらどうなるか分かるよね?」


そう言って、笑顔でひらひらと襟元のバッチを揺らす。


背筋がヒュッとなった。


どこの時代のやくざだよ。とか、恐喝は犯罪だぞ。とツッコむこともできない。恐怖によって固まった体から力をゆっくり抜きながら口を開く。


「はい…。あ、でも同じ生徒会補佐の斎藤には流石に伝えるけど…。」


「ああ、斎藤も生徒会補佐やってるんだ。うん。いいよ。他に生徒会補佐がいるならその人たちにも言って大丈夫だから。不特定多数に知られるのが嫌なだけだし。」


「了解。」


あー。これ以上厄介ごとを増やす前に早く帰ってくんないかなぁ。

そんな祈りが通じたのだろう。ふと腕時計(高そう…)を確認した己龍は席を立った。


「時間だから、ゴメン、帰るね?」


「おけ、大丈夫。」


さっさと帰って?

入口まで戻った己龍君はドアを引きながら口を開いた。


「にしても、桐山が生徒会補佐で良かったよ。流石に知らない人には頼みづらいからね。」


「ははは。」


俺は初めて彼と知り合いだったことを後悔した。

知り合ったことを後悔する経験なんて二度としたくねえな…。やはり人とあまりかかわらないことが正義…。


「じゃあ頼んだよー。また明日、始業式でねー」


そう言って手を振りながら教室を出て行った。


あー。


俺は己龍君の気配がしなくなった瞬間、振り返していた手を投げ出し、イスに脱力した。


あーーー。


何つーもんをおいて行ったのか。


あーーーーーー。


頭を抱えながら内心で悲鳴をあげる。


とりあえず何も考えたくない。


「…校内放送で全校生徒に言ってやろうかなぁ。」


その言葉は春の風に流されて花びらとともにひらりと舞った。


桐山 晴人

主人公。夢にときめく男子高校生。


己龍 何とか

顔、金、将来的には職と三拍子そろったカースト上位リア充。

欲しいものは大体与えられて育ってきた。

ちなみに、この春休みに初めてファーストフード店へ訪れた。ハンバーガーとかいうものにえらく感動したらしい。轟さんと付き合えた暁には、あのモックとかいうファーストフード店へ寄った後に、花火を見に行こうと思っている。


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