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ギャルゲーと僕。  作者: のりたまごはんとみそスープ
15/16

閑話③

次回更新は11月4日予定です。今回も血の描写がありますので苦手な方はご注意ください。

前回までの僕と…あーはいはい。例のやつね。

あ、斎藤っす。いやあ…戦ってますぅ。特に言うことないですぅ。あ、言い忘れてましたが、魔術と呼ばれる概念がありまして…説明しておきますね。


魔術: 惑手力を利用して、有り得ない現象を引き起こすこと。

アイリの得意魔術

①爆発: 半径1m以内の好きなところで、任意の大きさの爆発を起こせる。が、起点に込めれる惑手力密度が少なすぎて、渦紋の近くでは爆発させることが出来ない(渦紋が惑手力をまき散らしているため)。基本は自分の勢いを加速させることに使う。

②強化: 己の肉体や武器に惑手力を込めて、存在強度を上げる。力が強くなったり、硬度が上がったり…任意で特性を伸ばすことが出来る。基本といわれる魔術。基本が結局一番大事。



「——————アンタはこの手で、」


アイリの想いのままにエネルギーが収束し、光を放つ一対の巨大な両腕がその背に、翼のように出現する。


その巨大な手で握り締めるのは、煌々と輝く超巨大ハルバード。



「…叩き潰す。」


ほとばしる思いのままに。


大上段に振り上げた超弩級の質量を、敵に向かって振り下ろした。


—————————————————————


時は僅かに遡る。


はい。こちら斎藤です。戦闘スタイルが狙撃、という関係上、死に体な肉体に鞭打って、比較的高い場所を求めてドームの端まで来たわけですが。



…これはヤバいっすね…。



轟音と光、地面を揺らす衝撃に、驚いて振り返った先。中心に突如出来たクレーターを見て、次元の違う戦闘のレベルにちょっと絶望感を味わっていた。


…アイリなんか今日、テンション高くね?


そう思いつつ、ドームの端、高いところに陣取った僕は、腹這いになってスナイパーを構える。


「…惑手力充填率だいたい52%!あと1分くらいはかかるかも。朱ねぇ、状況教えて!」


『戦況は若干、敵が優勢…待って!この反応、嘘!もう羽化まで…!』


「マジっすか!?残り1分弱って!おいぃ…アイリィー…!!」


切り札を出すのが早すぎる。

それだけ敵が強いか、何かの要因でアイリが"かかっている"のか…。


僕がレンズの向こうに見据える先。土埃を突き破って、燦然と輝く5mはあろうかという巨大なハルバードと、それを持つ光るゼリーみたいな巨腕が出現した。


マジで羽化してやがるっ!

間に合うのか…?


保有している惑手力量に対して、出力が小さい己の才能に歯噛みして…



………否。そんな不確定要素を残すわけにはいかない。絶対に二人で生きて帰ると心に誓ったのだ。



僕は静かに、はっきりと覚悟の証明を口にする。



「朱音さん。僕にもトリガーを引く許可を下さい。」



『ダメよ。まだ早い。』


朱ねぇらしくない、強い口調での断言。


その言葉に少しひるみながら、僕は次善の策を提示する。


「ならブースターで。」


『っ!ユウッ!それで貴方がどうなるのかっ!…知っては、いる、わよね…。』


淡々と連ねる僕の言葉に、朱ねぇは激昂して…僕の覚悟に気づいたのか、悲しそうに言葉を閉じ、続けた。


『………許可します。』


その言葉、待ってた!

僕はホゥ、と息をつき、口元を緩ませる。


「朱ねぇ、ありがと。ICUちゃんと押さえといて!」


『…始めから予約してる。だから、大丈夫。………安心してぶちかまして。』



おうよ。



返事は無言。

そのまま流れるように、首元のスイッチに左の人差し指を載せた。



アイリと同じように、僕の首に巻かれたチョーカー。

朱ねぇの許可と僕の指紋認証で、ブースターが打ち込まれ…


変化はすぐに訪れた。



まず全身が熱くなる。



「ぐぅぅっっ!」


歯を食いしばり、酩酊しそうになる意識を叱咤する。



次に来るのは、全身からの出血。



目、鼻、耳、口、指先、そして全身から…。

毛細血管が次々に破裂し、全身に出血斑ができ、肌を突き破って溢れ出す血液。各器官からの流血も止まらない。


唯一の良い点は、感覚が麻痺することで痛みが遠いことだろうか。体の震えも止まらないが。



そして、爆発的に増加する惑手力の出力。



僕の持つ元の出力がミジンコであるが故に、可視化するほどではないけど。



充填率がみるみる上昇していく。



それでもまだ、100%には遠く。



ブラックアウトしそうな意識の中、キマイラがこちらへ走ってくるのが見えた。


その脅威に、僕は動じない。

ただ、惑手力の充填のみに集中する。


制限時間、残り50秒。


————————————————————————


思わず、キマイラは半歩後ろに下がっていた。

視線の先には、振り上げられたハルバード。


爆発的に増加した惑手力、大気が鳴動するほどのエネルギー。

その威光に、キマイラは怖気付いて下がった、わけではない。


そのような、強者に不要な感情を怪物は持たない。ただ、今回はそれが功を奏した。


「——————ッ!!」


声なき裂帛の気合いとともに、叩き付けられたハルバードに対し、キマイラが反射的に繰り出した8匹のヘビ。


その全てを紙クズのごとくちぎり飛ばし、ヤギによるバリアすら一瞬の時間をも稼がせない威力で迫るギロチンのごとき刃(ハルバード)を。


半歩分の距離と、僅かにずらした体勢で、キマイラは左前足を犠牲にすることで辛くも逃れた。


そのまま、アイリから逃げるように走り出す。

向かうはドームの端、その先に斎藤。


——————上等ッ!!


その狙いに気づいたアイリは、キマイラに向かって地面から引き抜いたハルバードを投げつけると、強靭な足で地面を踏み締め、飛んだ。


空中で一回転、背中の左手(光左腕)で空中のハルバードを引っ掴み、伸ばした背中の右手(光右腕)で地面を掴んでうまく調整、着地は走るキマイラの眼前。


ハルバードを振り回し、キマイラが繰り出す修復した蛇とバリアを吹っ飛ばす。

その勢いのまま、左脚で地面が激震、陥没するほどの一歩を踏み込み、



「チェストォッッッ!!!」



キマイラの横っ面をブン蹴った。



キマイラはバウンドすることなく、一直線に壁に叩きつけられる。

その衝撃をものともせず、キマイラは瓦礫を吹き飛ばし、眼光鋭く飛び出した瞬間。


目の前に豪速で飛んできたハルバード(超質量)


これをギリギリで避けたキマイラは、走り出そうとして、


——————ちょこまかと鬱陶しいわね。


上から巨大な光の右手で押さえつけるように、その身を地面へ圧迫させられる。


そして、



「これで!リベンジッ!」



キマイラの上。空中で体勢を整えたアイリは、その背に太陽(バクハツ)を背負い爆裂な加速。


右手で握りしめ、腰だめに構えるは、背中の腕一本分の惑手力を込めた灼熱に燃える烈火の大刀刃!



「——————シィッッッ!!」



奥歯を砕けんと噛み締め、運動エネルギーとともに全身を回して振り切った一閃は、獅子とヤギの頭を捉え、その身をまっすぐ分断した。


——————————————————


「うおっしゃこらっ!!」


銃のレンズ越しに戦況を見ていた血塗れの僕は思わずガッツポーズをしていた。


そりゃ勝ち確だもーん。ユルシテ…ユルシテ…。


敵のキマイラ———渦紋の急所は脳か心臓であり、どちらかを損傷させることでのみ、倒すことができる。

それ以外の損傷は、奴らにとってあってないようなもの。特に今回のようなS級ともなると、瞬きほどの時間で修復する。


と、なると狙うは当然、脳か心臓になる。…が、キマイラの心臓がどこにあるかを知ることは非常に困難である。そもそもいくつあるのかも定かではないのだ。それを狙うのは現実的ではない。そこで、脳だ。


一般的な常識として、脳は生き物の頭にあるものである。周囲共通認識による強化を受けた顕現体は、必ず常識に即したものになる。つまり、今回の場合も頭をぶっ飛ばせば勝てるのだ。


「さっすがアイリ先生!ライオンとヤギの頭を同時にぶった斬るなんて…マジで痺れる…!」


『キマイラの惑手力反応消失。アイリちゃんの惑手力量もまだ許容範囲内よ。…よかった…。』


耳元から朱ねぇの安心した声が聞こえる。


手元を確認すると、惑手力充填率95%…もうちょいだったかぁ…。ちなみに、羽化してから多分だいたい18秒程度で倒した感じである。フーッ↑アイリちゃんおこらせないようにしーよぉっと。



…ただ、何かを忘れている気がするのだ。



何か引っ掛かりを感じた、その時。



「ッ!」


今まで感じたことのない、猛烈な惑手力の波動。


励起した惑手力の余波で発生した衝撃波が、全ての土煙を吹き飛ばす。

その衝撃波を踏ん張って耐えてから、僕はアイリの姿を確認する。


暴走…はしてなさそう。ってことは…



キマイラか。



その思考と同時にインカムから朱ねえの叫ぶような声が聞こえた。


『嘘っ!新しい反応が、そんな…この惑手力量は…。新生体…!』


「言葉の響き的に覚醒体の上ってことですかねぇ…?」


思わずふざけたような語感で聞き返してしまう。

僕の予想は最悪な事に、どうやら当たってしまったらしい。


僕の視線の先、倒した筈のキマイラは消滅し、黒い水晶のような鱗で覆われた人型の…女のような怪物が出現していた。

頭に山羊のツノとライオンの耳、首にたてがみのようなマフラー。背中には翼竜の様な一対の翼に、蛇の尻尾…コスプレっぽくてちょっと可愛い…うそです。ちょっとじゃない。髪は真っ直ぐで綺麗だし、胸はデカいし、女神の如く顔立ちが良い。うん、惚れてまうやん。


…まあ、その猫科特有の縦長な瞳でこちらを睨んでいなければ、だが。


そんな、くだらない思考の隅で気づいた。

キマイラを倒しきれていなかった理由に。



そう、キマイラ——————彼女は常に、蛇を1匹残していたことを。



僕は歯を食いしばって笑う。

多分ここが、最終局面だ。




脅威度S級認定、後に始まりの禁忌種と呼ばれる渦紋。通称、キマイラ。




—————————討伐開始。




制限時間、残り25秒。

————————————————————————


…これはちょっとキツイかも。


半分に切ったはずのキマイラは消滅し、女の形をした怪物が静かに佇んでいる。


その正面で膝をつき、肩で息をするアイリは冷静に思考を巡らせる。


…手応えはあった。

まあキマイラを切り飛ばした時、目の端に映った蛇を見て嫌な予感はしたけど。


それでも、大きな損傷を与えたことに変わりはない。これで少しでも弱くなるなら、後はとどめを刺すだけだ。


アイリは、まだ勝てる。と考えていた。

切り札を切ってからは終始、戦闘においてキマイラを圧倒していたが故に。


だから完全に予想外だった。


膨大な惑手力。

量、密度共に規格外。

そんな怪物がこの土壇場で出現するなんて。


発生した衝撃波は気合で耐えた。が、それがなんだというのか。目の前の怪物は出現しただけでコレなのだ。勝ち目など、とうに潰れている。


彼我の力の差が大きすぎた。


…ったく。ピンチに強くなるなんて、どこの主人公よ。


アイリは内心で笑いつつ、それでも震える膝に力を入れる。


今回はユウに頼らず勝つつもりだったけど。

ま、私だけでもこんなの余裕よ。よゆー。…なんて。


少し苦笑いで覚悟を決め直し、深呼吸。

軽く膝を曲げ、目の前の怪物を臨戦態勢で睨む。


そんな彼女を気にも止めず。

怪物は出現してからずっと、ある一点を見つめていた。


当然アイリも気づいている。

ある一線を超えてから、異常な存在感を放ち、今もなお増幅し続けている惑手力に。


…本当、隠すのが下手くそというか…ってかユウ、隠す気ある?


それはアイリを呆れさせ、少しムカつかせる。


…でも、まあ…。私が守るから。別にいいか。


でも、あったかくて、頼もしくて、何より信じているから。


自然と微笑んでいる自分に気づいた。

ユウを想うだけで…負ける気が、しない。


…余所見してんじゃないわよ!


ずっとユウを見ている目の前の女に。

力を振り絞って、一歩を踏み出す。その瞬間、



怪物が消えた。



「なっ!!」



驚きはなく、ただしてやられたという思いが駆け巡る。

どこに消えたかなど、考えるまでもない。


怪物は既に、ユウの目の前。


焦るアイリは、すぐさま踵を返してユウの元へ跳んだ。

本気の跳躍は音速に迫る。着弾まで1秒もないその刹那に。


アイリの目の前で。

たった一撃で。



怪物によって壁ごとユウが薙ぎ払われた。



あ。



時が止まる。

目を見開く。




あああ…




吹き飛ぶ瓦礫。

そして、その中に、鮮烈な赤。



あああああああああああああああ…



心の中で誓いが響く。




ユウ。貴方を必ず、守るから。




瓦礫の下、見えたのは血まみれの、ナニカ。




ぁ゛ぁ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!




脳が沸騰する。





…。





…もうそこに。

人間の姿はなく。





キマイラが脅威を排除して目を向けた先。


ユウがいた場所で、アイリが着地したはずの、抉られた壁の中心に。






それはいた。






それは、少女の姿をしている。

それは、背中から翼のように、8本の揺らめく白い帯を生やしている。

それは、髪からつま先まで、全身が白く染まっている。



そして、白ばかりの中で、唯一。



それは、鮮やかに迸る雷の如きイカズチ色の目で、ただ睥睨する。



透徹したその瞳は何よりも雄弁に、その意思を語っていた。




一線を超え、完成した怪物は本能で悟った。


こいつは敵である、と。




人を捨てた者(白い怪物)人を辞めた者(黒い怪物)の視線が交差する。




…そうして、終わりが始まった。




————————————————————————


先に動いたのは白い怪物。

背中から左右にそれぞれ4本伸びる白い布の内、一対の布を一本ずつ左右の腕、手の先まで巻き付ける。

巻き付けた布をそのまま伸ばし、先端から伸長分を硬化。その根本を握りしめることで、刃渡り1m程の即席の刃とした。


その動作と同時に深く膝を曲げ、黒い怪物へ向かって跳んだ。


その目の前に、数え切れぬほどの火球。


もはや口腔から発射する必要もない。黒い怪物の全身から発せられた惑手力によって、同時に複数の火球が生成され、狙い放たれる。


行く手を阻む火球に対し、白い怪物は背中の帯を4本前方へと伸ばし、振り回すことで全てを防ぐ。と同時に、残りの2本を浮いている岩へと伸ばし、突き刺す。布の先端を変形、硬化させアンカーとすると、それを勢いよく引っ張ることで、火球に弱められた己の勢いを相殺、さらに加速した。


「っ!!」


得物(白い刃)を大きく振りかぶる。

狙いは正面、黒い怪物の頭。




激突。




白い双剣を繰り出した白い怪物に対し、青黒く燃え盛る炎刀で迎え撃つ黒い怪物。


刹那にして激烈な鍔迫り合いの後、両者ともに吹き飛ばされる。


瞬時に互いの距離がひらく。

遠距離は黒い怪物の間合いだ。

何の容赦もなく、極高温かつ特大の火球を連射する。


対する白い怪物は、再び背中の帯をアンカーのようにして、周囲の浮いている岩に刺し、引き寄せ、火球の雨をやり過ごす。


そのまま、アンカーを使いつつ、岩から岩へと走り、跳び、手繰り寄せ、また駆ける。飛んでくる火球を打ち落としつつ、弾幕を張りながら逃げる黒い怪物を追いかける。



ただ、翼を持つ黒い怪物は空中での自由度が圧倒的に高い。



変幻自在な飛行、膨大な数を放ち続ける火球を前に、白い怪物は近づくこともままならない。



だが。白い怪物にも遠距離攻撃の手段はある。



息つく暇もなく押し寄せる火球を、2本の帯で撃ち落としつつ避けながら、両の手に持つ帯も解いて合わせた6本。

周囲に浮く1番大きな岩へ巻き付け、根性で黒い怪物の方へ放り投げた。


直径10mはくだらない巨岩。

ハルバードを凌ぐ超巨大質量を前に、黒い怪物は両手の炎刀を束ね、掲げた。



大上段に構える手の中。

そこに現れるは、極烈に輝く純黒の大太刀!!




「っ!」




縦一線。




空間が灼熱し、空気が焼爆する。

正面の岩のみならず、視界の全てが焼け絶たれた。




岩を溶断した先、開けた空間には。





何もなく、誰もいない。





「っ!」




後ろ、だ。




黒い怪物は咄嗟に振り向き、直感で頭を庇った。



「——————シィッッッ!!」



振り切った白い刃。


しかし、黒い怪物の頭蓋を狙った一閃は、バリアと腕に阻まれ、頭皮に一筋の血線を刻むに留まった。


再び離れる怪物達。


腕と頭を瞬時に修復した怪物と、大きく息を吸って力を溜めた怪物は、岩の上で数瞬、視線を交わし。



再度、激突した。



————————————————————————


『…ウ、起き…!…やく…ないと!ユウ!!』


意識が浮上する。


「っぁ………やっば!」


こんなところで寝るなんて、もう、ユウったらねぼすけさんなんだから!


とか、心の中で言ってる場合では無い。

慌てて銃を握り直す。意識が無くても手を離さなかったのは僥倖だった。


「どんくらい寝てた!?」


『強いて言えば5秒!それより体は大丈夫!?』


己の血でぬるぬるする銃に、薬で全身が痺れるように感覚がない体…。そんな状態で狙撃体勢を整えるのに苦労しながら返答する。


「分かんないっす!あと、何かにめっちゃ挟まってるっぽい!」


『…今、貴方の上に大きな岩塊が載ってるのよ。だから…』


なるほど…。瓦礫で半身が埋まっていると。道理で動けないわけだ。それはなんとも…。


「射撃が安定しそうで、ちょっとラッキーかも!まあ逃げられなくて死ぬかもですけど。」


『…。』


インカムの向こうで何故か黙る朱ねぇ。呆れているのか、怒っているのか、安心したのか、大穴で僕の成長に感極まっているのか。まあ、残念ながら答え合わせをする時間はないけど。


運良くドームの中心を向くように、うつ伏せで埋まる僕の目の前。



白い光と青黒い光が入り混じり、拡散し、縦横無尽に宙を舞っている。



暗い昏いこの場所で、その鮮やかな色彩はとても綺麗で。




でも、それは。


人が可能な挙動を逸脱していた。




すでに、アイリの制限時間は残されていないのではないか。


頭によぎる最悪の予感を抱えて、口を開く。


「…アイリは今どういう状態ですか?」


『おそらく半覚醒よ。ユウがまだ生きているのがその証拠。貴方を守るために避けれる攻撃を敢えて受けているし、アイリ自身は大技を一度も使ってない。…まだ理性が残っていて…大切なものを覚えているのよ。』


理性があると言うのなら。

それはきっと。


「…ならまだ間に合うんですね。」


『ええ。…だから、お願い。』


その朱ねぇの懇願に、僕は奥歯を噛み締めて笑う。

アイリを助けてとか、敵を倒してとか、生きて帰って来てとか。そのお願いには色んな意味が込められていて。


でも、1番の理由は僕が失敗した時、僕がその責任から逃げられるようにするためだろう。と、朦朧とする思考の端で思う。


朱ねぇに言われたから。そう言えば良いように。


だから、そんな責任を誰も背負わなくて良いように、僕は覚悟を決め直す。


何より、僕の精神年齢と同い年の彼女に、これ以上余計なものを背負わせるつもりはないから。


「はい。…代わりに祝勝会には絶対参加で。」


『…あー。それは…まあ、うん。善処するわね。』


歯切れ悪ぅ。


思わず、僕は笑っていた。


これでいい。

引きずるくらいがちょうどいい。

こんな話で笑える日々がこれからも続くように。



一つ、深呼吸。



視界の中で、白と(くろ)が乱舞する。

どうあがいても人の領域を出ない僕の動体視力ではとても追い切れる速度ではなかった。



だから、僕は見切ることを諦める。

レンズを通さず、ドーム全体を俯瞰するように目を開く。





そして、ついに。



充填率は




——————100%を示す。




敵は捨てたはずの"人の形"を取り戻した。


であれば。


この僕の"弱さ"の敵ではない。



引き金に指をかける。



——————僕はただ、信じよう。



銃の限界(キャパシティ)を超えてなお、放出し続けている惑手力で、周囲と視界は紫苑の色に染まった。






——————この一撃を。






脳髄の奥で火花が散った。







——————撃て。






それは、人智を極めた一撃。

連綿と紡がれ、磨かれてきた科学技術。

その最果てにある到達点。






放たれるは、極光。






轟音、激震。






秒速3万kmで放たれた極大な惑手力は、背を向けた黒い怪物の心臓を穿ち、





泡沫のごとく、その全てを抹消した。






次回、決着。

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