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ギャルゲーと僕。  作者: のりたまごはんとみそスープ
13/16

藤宮・フォースター・沙也加の話②

次回更新は10月21日予定です。

前回までの僕とギャルゲー。

はい。どうも皆さんこんにちは!そろそろ存在を忘れられている斎藤です!

いやー前回は気になるところで…気にならない?どうせ晴人は的外れなこと考えてるって?またまたー。その通りです。その辺は本編で確認だゼ!ようやく明らかになる依頼の全貌!いったいその真意は!?今回が完結編!…早。



「え、その、違うの。む、寧ろ、その、桐山君に聞きたいというか…言いたい、です…。」



「「え。」」


ファ———————————————!!!

俺氏大歓喜。


混乱しすぎて寧ろ冷静になるわ。

何か一周回って感情がスンッとなった俺は、冷静に中腰から元の席へ座る。ふぅ。よし。うん。覚悟決めた。手汗びちゃびちゃだけど。


全然冷静では無い俺に代わり、口を開いたのは真顔の轟さんだった。


「…それはどう言う意味かしら?」


藤宮さんは、一つ、深呼吸。

どこか吹っ切れた様な顔になった藤宮さんはちょっとずつ話し始めた。



「…うん。桐山君、というか、桐山君がオタクって聞いて今日はここに来たの。」



………おん?…なんか雲行きが怪しい?

あ、これ上げて落とされるパターンでは?


思考が追いつかない俺を含めた2人へ、藤宮さんは続ける。


「私、好きな人がいるの。あ、好きな人、というか、一応、こ、婚約者なんだけど!」


は。


「でね?もうすぐ私達が初めて出会った記念日の日が近づいてて…何かプレゼントを、って思ってるんだけど…。」


そこでこちらを伺う様に、一旦、藤宮さんは話を区切った。


俺はといえば、情報の奔流に頭が追いつかない。


藤宮さんに好きな人…しかも、こ、こ、婚約者だとぅ…っ!!

な、誰だよソイツ!!藤宮さんと婚約とかっ!うはぁーーーズルぅーーーっっっ!!!藤宮さんに好かれて?付き合って?この歳で婚約?高校生で婚約?うーわ。勝ち組にも程があるだろん?普段何食べたらそんな人生歩めるんですかー?前世でどんな得を積んでいらっしゃるんです??ちょ、そこ、人生の席変わってもらえます?


「…プレゼントのアドバイス、というのなら善処するけれど…どうしてわざわざここへ来たのかしら?私達が力になれるとは思えないわ?」


さらっと俺を戦力外に含めつつ、もっともな疑問を轟さんは投げかける。


秘密を打ち明けて、少し吹っ切れて…嬉しそうな藤宮さんはちょっと微笑んで言った。


「その、『ぱんドル』って聞いたこと、ある?えっと、確か…一般的な女の子がアイドルを目指す話?とかだった…。」


「ぱんドル…?」


不思議そうな轟さん。

まあ普通そうなるだろう。それはアニメ制作会社オリジナルの現在2期放映中深夜アニメなのだから。


財閥令嬢である藤宮さんの口から、出るとは全く思わないその名を、俺は思わず早口で言っていた。


「それって『一般的な女子高校生が笑顔のためにアイドルを目指す件』ってやつ?」


専門分野になると早口になる聞き取りづらい俺の言葉に、すんごい嬉しそうに藤宮さんは答えた。


「それ!それだよ!…でね、彼がその、ぱんドルをすごーく好きみたいで…。プレゼントはそのグッズにしようかなって思ってるんだけど。私、よく分からなくて…。それで聞いてみたら白縫会長が「桐山なら詳しいぞ。」って教えてくれたの。だから、今日はここに来ました!」


最後に藤宮さんは笑顔で締めくくってくれた。のは良かったが、当然俺はそれどころではなかった。


ハァァァァァ???

藤宮さんの彼ピがぱんドルファン!?ハァ?マジで?それマジで言ってる?え?藤宮さんより少し背が高くて、洋楽を聞いてて、肌がちょっと焼けてる、モデル年上高学歴イケメンではなく???ぱんドルファン???は、ふざけるなよただのクソオタクじゃねえか(偏見)。何?どんなチートを持てばクソオタクが藤宮さんみたいな天使に好かれた上、婚約できるって言うんですか!?俺に、俺に何が足りないっていうんだ!!………顔、背丈、金、IQ、性格、地位ですね知ってました…調子乗ってましたごめんなさい…。


「…?」


「あの、やっぱり難しい…かな…?」


ハッ!と気がつくとめちゃくちゃ視線を集めていた。藤宮さんが俺に質問しているから当然ではある。

すいません。怒りとやるせなさで放心してました…。


俺は気を取り直して、頭を回す。

とりあえず、誰推しか聞かないと何も分からん。というか、藤宮さんと婚約しているらしいそのクソオタクがどういう人間かにもよる。重度のオタクならグッズ何ぞコンプしてるだろうし。


「あー。いや。ごめん。とりあえずその藤宮さんの婚約者の情報が知りたいんだが…。誰を推してるとか、分かる?」


「えっとね…箱?その、みんながいる"ぐれんつてるん"が最高!って言ってたかも。」


ほう。

激しく同意でグッと親近感。


「箱推しか…。他に何かぱんドルについて、彼のエピソードとかある?なんかこのグッズは持ってる、とか。」


「んん…。前に2人でお出かけした時は、ガラポンでキャラを全部揃えるまで回してたかな。ほら、こうカプセルで出てくるやつ!その時の彼、目がキラキラしてて可愛かったの!」


んんん!

その彼の精神には高潔なオタク魂が垣間見えるけれども!その惚気話は別にいらなかった…!

ってかマジで藤宮さんオタクに優しい陽キャ過ぎて惚れる…!そんな必死にカプセルトイ回してる姿なんてどんなイケメンでも残念な絵になるだろうに。これが恋する乙女の補正…。欲に駆られて血走った目をキラキラした目に変えるなんて。恋は盲目なんだね…。

というかやっぱそいつクソオタクじゃん。デート中、彼女ほったらかしでカプセルトイ回しまくるとかマ?人として終わってる…いや寧ろオタクの鏡過ぎて震えるけども。足向けて寝られないよ…。


「そこまで熱意があるなら、大体のグッズはもう持ってそうな気がする…。となると残りは限定グッズとかになるけど…。」


「ん!お金のことは全然気にしないで大丈夫だよ!一応、私、お母様からお小遣い貰ってるから。」


いやぁ…。多分その彼氏、既に全部持ってそうなんだよなぁ…。持ってなかったとしても別に買う必要が無いって判断しただけだろうし…。


「うーん…。正直、話を聞いてると難しいと思う…。その、ぱんドルのグッズで攻めるのは…。」


「…そっかぁ…。」


めちゃくちゃ残念そうな顔をしないで欲しい…。

ただ、2人の記念日にぱんドルグッズは流石に不味いと思うんだ…。ぱんドルがキッカケで付き合いだしたとかならまだしも、彼が好きだからという理由でそれはダメだと思うの。…冷静に考えると藤宮さんってちょっと変わってる…?い、いや!藤宮さんが変わってるわけないから。オカシイのは世界の方だから。藤宮さんは正義。


「…その、差し出がましいとは思うのだけれど…。」


おずおずと声を上げたのは轟さん。

それぞれ目を合わせて、話を続けても良いことを確認して…轟さんは口を開いた。


「2人の記念日、というのなら、2人で同じ時間を共有する日にすれば良いのではないかしら。その、2人でケーキを食べたり、とか…。」


なんと真っ当な意見なんでしょう。

俺は経験がないからよく分からんが、めちゃくちゃそう思う。俺も彼女が出来たら2人の記念日はそうやって過ごしたい…。2人で買い物とか映画とか…。あぁ…すっごい金使うんだろうなぁ…。一日でこんなに!?ってなる未来も一緒に見えた。うぅ…働かなきゃ…。


轟さんの意見を聞いた藤宮さんはちょっと寂しそうな顔をした。


「…うん、私もそうしたいんだけど…。なんか彼、忙しいみたいで。あんまり予定も合わないし…。」


藤宮さんにこんな悲しい顔させるやつに婚約者を名乗る資格はないと思いまーす。もし俺に金と地位と性格と顔面偏差値うんぬん…藤宮さんに好かれる要素全てがあれば…あれば…これ自分に置き換えてみると難しい気がしてきた。待って待って。彼女ってどれ程の頻度で会うもの?しゅ、週一じゃダメ…?月〜金曜日の放課後は課題的にきつい、土曜は溜まってるアニメを消化して、ゲームして、掃除して、日曜日はバイト…。あれ?彼女入る余地ない…?いや、睡眠時間を削って…!あ、夜とかたまにすっごく寂しくなる!


「…やっぱりお母様とお父様が決めてただけだもの…。もうダメなのかなぁ…。」


悩む俺を置いて、ぽつりと藤宮さんは呟いた。


………え?


ふと気がついた。

そう言えば藤宮さん、一回も彼ピとかデートとか付き合ってるとか言ってないことに。

ま、まさか好き→付き合う→婚約…ではなく、親が決めた婚約→好き…ってこと!?


あぁーーー!

だから2人の記念日に婚約者が欲しいものをあげるのか!!少しでも彼に振り向いて欲しくて!うわ、ちょっと待って…。心がキュン通り越してギャンしてる…。つらたん…。この事実、その婚約者は知ってるのかな…俺なら540°くらい振り向くのに…。


シーンと沈黙が降りる教室内。

重い空気に暗い雰囲気で、視界が少し黒くなる。


そんな時、控えめな声をあげたのは轟さんだった。


「…その、率直に質問があるのだけれど…」


どうぞどうぞ。

俺には経験が少なすぎて何も言うことが出来ないっす…。


かなり元気がない、瞳のハイライト減少気味の藤宮さんとも視線を合わせた後、轟さんは口を開いた。



「婚約した方は、藤宮さん以外に好きな人がいるのかしら?」



で、出たー!豪速直球轟節!!

素直は美徳だが、もう少し優しく聞いた方が良いと感じつつ、この劇薬がどう作用するか、俺はかたずを飲んで見守る。


藤宮さんは少し怒ったように、顔を赤らめながら言った。


「そ、そんなの、聞けるわけないじゃない…!」


ですよね…。

そんなん聞けないからって赤の他人に自分の好きな人の好きな人を聞いて欲しいなんて言うやつも居ないですよね…。(白目)


その藤宮さんの解答に、轟さんは安堵したような少し柔らかい表情を浮かべた。


「なら心配のしすぎだと思うわ?藤宮さんの婚約者がどんな方なのか、私は知らないけれど。話を聞いている限り、今は多分、誰かを好きになることが分からないだけだと思うの。」


その真摯な目を少し下に向けて少し言葉を選ぶ様に…轟さんは続ける。


「…きっと今はまだ、他にやりたい事があるから向き合えていないだけだと思う。でも、この先、私達の様な立場の人間は必ず向き合わないといけない問題だから。…今は焦らず、近くに居れば良いと…その、思うのだけれど…。」


「…。」


「…。」


無言の俺たちに、轟さんは少し焦った様に目を泳がせた。


「あの、その、な、何か間違っていたのかしら…?」


「あ、いや、その…。」


「…。」


は?なんだコイツ。天才か?(褒め言葉)

多分、本当に思ってることを言ってるだけではあるが、めちゃくちゃ説得力のある最適解みたいな台詞だった…。はぁーなるほどねぇ。誰かを好きになることが分からない…。うんうん。…それに、何かにめちゃくちゃ沼った時って3Dの人類どうでも良くなることあるしな…。轟さんオタク説、あると思います。


似た様なことを藤宮さんも感じていたようだ。


「…他にやりたい事がある…うん。確かにそうかも。彼、色々と問題抱え込みがちだし…。轟さん、ありがとう!私、諦めずに頑張ってみる!」


「ええ。少しでも力になれたのなら嬉しいわ。」


そう言って微笑み合う2人の美少女。俺拝礼。


教室内の空気が明るくなり、俺は特に何も役立っていないが達成感を得ていた。んー!今日はゆっくり寝れそう!!


「…それで、」


コホンッと軽く咳払いをして、真面目な顔になった轟さんは続けた。


「2人の記念日はどうするつもりなのかしら?」


そうだった。そういえばそんな依頼だった。

まだ全然解決してなかったわ。

俺も改めて居住まいを正した。


藤宮さんが、何かを悩むように俯きながら答える。


「うん…。でも、やっぱり彼にプレゼントをあげたいなって思う…」


そこで一回言葉を詰むぎ、藤宮さんは膝の上に載せた手をキュッと握って、顔を上げた。

その瞳に、光を湛えて。


「…ううん、違う。私、記念日に彼に会いたい。プレゼントは手段で…ちょっとでも彼と一緒にいたくて…その勇気が欲しいの。だから…そのっ、そのための方法を一緒に考えて貰えませんか…?」


身を乗り出して、頭を下げてお願いする藤宮さんへ、轟さんは迷うそぶりもなく即答した。


「…ええ。もちろん、力になるわ。それが私達の活動目的だし、私個人としても是非、協力したいと思っているもの。…だから、顔をあげて欲しいのだけれど…。」


轟さんはめちゃくちゃ優しく微笑んで、力強く言い切った。顔をあげた藤宮さんは嬉しそうな…あれ?すっごい既視感。猫探しの時にも感じたやつ!…俺って空気になる才能ある?必要じゃないっていう点で空気以下です?


疎外感を感じていると、轟さんが俺へ目配せしてきた。あっはい。


「…うっす。」


俺も頷き、了承を伝え、今度こそ教室が一体感に包まれた。うわぁい。


ただ、正直、俺はというと…周囲からの圧にその、はい…。

べ、別に引いてるとかではないんです。ただ、その…そういう大事で専門的な話はその道のプロに聞いて欲しいなって。ここまで重くて、そこそこ大事な話になるだなんて思わなくて…俺に頼られても困るんですが…。


…まあ、そんなこと言えるわけないんですけどね。はい。


こうして轟さんと恋愛クソ雑魚桐山による、藤宮さん恋愛力UP相談会が始まったのである。始まる前から地獄なの、笑うしかないね。


———————————————————————————


敵を知り、己を知れば百戦危うからず。


そんな言技に乗っかり、まずは敵を知る事にした俺たち。藤宮さんの婚約者についての情報を次に纏める。


1. 同い年。

2. バッチ持ちで実家が金持ち。

3. あんまりファッションとかに興味がない。

4. ぱんドルファン。


以上。敵の情報である。一瞬、俺の話をしてるのかと錯覚するわ。金の欄だけ塗りつぶしてやろうか。くそぅ…やはり出自はかなりデカいステータスか…。


「趣味とかって分かる?」


「んー、映画鑑賞、読書、あとは…ゲーム?スマートフォンでよくタプタプしてるかも。」


藤宮さんの婚約者≒俺では?

もう限りなく一緒だから俺でいい?ダメ?


という冗談はさて置き。


…。うーん…。

何か、こう…違和感というか…。何だろう。顔は覚えてるのに名前出てこないみたいな感じの…。ぬぬぬ…。


まあ、とりあえず今は現状把握である。

そんな悩む俺の横で話は進んでいたらしい。轟さんが突然、話を振ってきた。


「彼は桐山君と同じ年齢で、趣味嗜好もかなり似ている…となれば…。」


藤宮さんも含め、俺に2人の視線が集まる。


「桐山君、今、何か欲しいものは無いかしら?」



金!!内申点、そして金!!



思わず口に出しそうになって押し留めた。

あ、危ねえ…。生活にはあまり困ってはいないが、趣味に使える金は己で稼がないといけないという点で貧困なんだよな…。お小遣いではね?足りないのですね。日々のお布施(ソシャゲ)とかほら…。ちなみにソシャゲのキャラは欲しいけど貰うものでは無いので…運命の出会い(ピックアップ時でも確率1%未満)を果たすものですから…。


ただ、聞かれたからには答えるべきである。

ちょっと悩んで、俺は口を開いた。


「あー。特には無いな…。強いて言えば、モバイルバッテリーとか…あ!リンゴのカードとか!」


「…。」


「…。」


ハァー。つっかえ。(意訳)

って心の声が聞こえた気がする!2人の目から一瞬優しさっていう概念無くなったの見たから!


…恐らく2人はオタクしか知らない、オタクだけが欲しがるもの…みたいなやつを期待してたのかも知れないが。それは凄く難しいっす。


「…やっぱりプレゼントで気を引くのは難しいのかな…。」


むむむ、と悩みながら藤宮さんが呟く。


一番良いのは本人に何が欲しいか聞くことだと思うが、さっき提案したら「前の誕生日に一回、聞いた事があるけど…。欲しいものは自分で買うから大丈夫だよ。って言われて…。」らしい。金がない俺も聞かれたら多分そう言う気がする。いや、まあ、この場合は欲しいもの言っとく方が正義か…。もし聞かれたら、食べ物と日用品、あとギフトカードって言おうかな…。


黙り込む藤宮さんと俺。

完全に袋小路。このまま依頼は迷宮入りになるかと思われたその時。


「っ!」


スマホで何かを調べていた轟さんが、天啓を得たような、閃いた顔をした。


「…その、コスプレ、はどうかしら。」


は?


「少しぱんドルについて調べて見たのだけれど、画像の方にセナって子の格好をした人の写真が出てきたの。これならぱんドルを好きな彼に喜んで貰えるのではないかしら。」


天才かよ。(2度目)


ちなみにセナ。セナ・インフィニットは青い目と長い黒髪が特徴的なお嬢様キャラである。

勝手な感想だが、藤宮さんの金持ち特有のオーラとかなり近い雰囲気を持っている気がする。作中でのセナは典型的な高飛車ツンデレ属性なので、言いそうな台詞回しを習得出来ればかなり通用するだろう。…だが。


俺は心に沸き起こる強い気持ちとともに叫んだ。



「ダメだ!…あ。」



俺に頭ごなしに否定され、怪訝な顔を向けてくる轟さん。何ならちょっと傷き、寂しそうな顔をしている。

思わず強めに言ってしまった。でも、そうじゃないんだよ…!


とにかく、頭を下げながら俺は言葉を続けた。


「その、ごめんなさい。強く言い過ぎました…。で、でも、安易なコスプレは逆効果になるかも知れない!」


急に熱くなる俺にちょっと引き気味の2人。

それでも、案を否定された轟さんは訝しげに会話を繋げてくれた。


「…逆効果ってどういう意味かしら?」


「あくまで俺個人の意見だけど、原作へのリスペクトが無いコスプレは誰かの琴線に触れる可能性があって…。」


「でもコスプレってその、ファッションなのでしょう?服をしっかりと作り込めば良いのではないのかしら?」


「それはそうだけど、それだけじゃダメで…。そういうリスペクトは滲み出ちゃうものだから、バレる可能性があるんだ。」


「「滲み出ちゃう。」」


「そう!だから、コスプレをするならまずは原作を履修して…あ。」


その時、俺は天啓を得た。


そうだ!それだ!

俺が一番今欲しいもの!


唐突な俺の「あ。」にハテナマークを浮かべている2人に俺は拳を握りながら言葉を紡いだ。


「藤宮さん!ぱんドルを全部見て、どう思ったかを彼に伝えてみればいいんだ!」


「?どういうこと?」


俺は腕を振って熱弁する。


「オタクが一番楽しい時!それは推しについて語っている時、そして、語り合っている時なんだ…!つまり、同じものを見て理解することが大切で…少なくとも話が分かる人になればかなり近づける…と思う多分。」


今、俺が欲しいもの。

それは、一緒にいて楽しい友達である。

興味がある話題で盛り上がれる仲間である。

そして、同じものを信仰する同志である。


趣味を共有し、語り合える…そんな友達が、仲間が、同志が…もっと欲しい…。いやまじで。ほんとに。ほじいょぅ…。どこにいるの?サイゼにいる?


ちなみに話が分かる人になれば仲良くなれるとは、俺個人の意見である。異論は認める。藤宮さんの婚約者が同担拒否してたら終了っす。箱推しで同担拒否…地雷の塊では?世の中生きづらそう…。


俺の勢いにちょっと引いていた藤宮さんだったが、示された解決策に恐る恐る質問する。


「それは本当なの?そう言った大切な…好きなものって、あんまり人に踏み込んで欲しくないかなって思ってたんだけど…。」


その言葉に俺の中でモヤモヤが晴れる。

…そう、"藤宮さんの婚約者が好きなこと"への解像度が低いことにずっと違和感を感じていた。


なるほど。藤宮さんは自分の好きなものへ踏み込んで欲しくないタイプなのだろう。ニワカに対してムカつく人みたいな感じ…?


俺は気持ち、明るく答えた。


「確かにそういう場合もある…。でも、まずは最低限、知ってないと話にならないというか、好きも嫌いもないというか…。とりあえず、履修…あー、ぱんドルを見て、話すきっかけを作れば良いと思う。ぱんドルが好きなら他のアニメも好きかもしれないし。そこから仲良くなれる…と思う多分。」


途中で尻窄みになりはしたが、何とか言いたいことを言えた。

よく考えたらバッチ持ち2人の前で何ご高説垂れてるんだって感じですよね…。


ちょっと後悔しつつ、藤宮さんの顔色を伺う。


「…そっか…!まずは好きなものを知るところからなんだ!」


藤宮さんは小さくガッツポーズしながら、瞳をキラキラさせていた。

まさに目から鱗!希望の光!みたいな。


おお…!後光が見える…!

…あれ、いやマジで眩しくね?ん?太陽光反射してる?どちらかと言えば、藤宮さんが少し光っているような…。


疲れ気味の俺に、希望の光MAXのまま藤宮さんがたたみかける。


「あの、それで、ぱんドルってどうやって見ればいいの?」


「あー。一期を見るなら、密林primeかドコムンのアニメエンドレスか…。あとはDVDをレンタルという手もあるけど…。どれも金がかかるから、良ければ」


DVD持ってるし貸そうか?って言おうとする俺の前で、スマホを操作し始める藤宮さん。


「えっと…これ…?」


そう言いつつ、画面を見せてきた。


「まあ密林でも大丈夫だけど…彼がアニメ好きならエンドレスの方が数多いしそっちのがオススメ…。いや、でもサブスクは月額でお金がかかるから、よく考えた方が…」


藤宮さんは俺が「エンドレスの方が…」と言っているあたりで、既にスマホを操作し始めていた。


…話してる途中でスマホ操作し始めるんすね…。

ナチュラルボーンご令嬢…。


それから「DVD貸しましょうか?」と言えぬまま。特に問題も無く藤宮さんの登録は完了した。


…本当に何の躊躇いもなく、サクッと登録したところに藤宮さんがマジでリアルに金持ちであることを痛感した。俺なんて月額500円って見てめちゃ悩んだし。まあ今は何の後悔も無いっす。月1000円でも価値ある。エンドレスは神。自明だよね。


とりあえず、これで藤宮さんの依頼は完了である。


やった!と喜んでいる藤宮さんを見て、俺は再び達成感に包まれていた。隣を見ると轟さんも俺と同じ、何処か安堵したような表情をしていた。


よしよし。これで今日も安眠で「あの、一つお願いがあるんだけど…」まだ何かあるんですか??


藤宮さんは登録の終わったスマホを抱きしめるように、胸に当て、恥ずかしそうにその可憐な唇を開いた。


「その、ぱんドル、一緒に見てくれませんか?」


断る選択肢など、無かった。


——————————————————


そのまま視聴覚室へ直行し、現在、我々はぱんドルの1話を見ている。


ぱんドル一期は既に3周しているが故、特に真新しさも無い…そんなことはなかった。プロジェクターから出力される大画面で見るぱんドル…神。


そして、俺の指示通り、3話まで無言で一気に見て…。


「…すごい…えっ、えっ…これ、その、続きみよう?」


そこには沼に嵌った哀れな天使…否、堕天使の姿があった。


手をキュッと握りしめて、興奮ゆえか少し頬が上気しておられる。んー。これは大切に育てていかねば。先達として沼の案内は任せなさい…。


こうして、俺たちは下校時間ギリギリまでぱんドルを視聴し…「もうちょっと!今いいところだもん!ほら…ね?」あ…、え、でも…。


もう下校時間なのだが、少し小首を傾け、藤宮さんにこうも可愛くお願いされては答えなど一択になってしまう…俺は轟さんへ助けを求めて…。


「…?どうかしたの?早く続きが見たいのだけれど。」


あっ、はい…。


こうして、俺たちは藤宮さんの権力で先生達を黙らせ、下校時間ぶっちぎって、ぱんドル一期を見続け…そして、藤宮さんと、最後まで付き合ってくれた轟さんも無事、単位を取ることとなった。


皆、こんなにも夢中になってくれて、俺もめちゃくちゃ嬉しくて…合間合間にニッチな小噺を挟みまくったので、間違いなくその辺にいる有象無象ぱんドルファンなんぞ蹴散らせる程度には、ぱんドルに対する造詣が深まったことであろう…。


…今思えば、それは彼ピッピの役割だったのでは?…まあ、それも含めて彼ピッピが彼ピになるチャンスだと信じて送り出すしかない…。申し訳ない…。


「すっごく面白かった!特にセナちゃん!歌もいいし、可愛いし…!物語も凄くって…あんな目にあっても諦めないとことか…。あ、その、轟さんも、面白かった…?」


「…ええ。そうね。とても面白かったわ。私は特に…」


すっかり暗くなった廊下。


藤宮さんと轟さん。2人で会話しながら楽しそうにしているのを、後ろからついて行く。流石に少し寂しい気持ちもあるが、女の子の間に挟まるのはちょっとあれなのでそっと見守る。


…とりあえず、今回の依頼はこれで今度こそ完了である。藤宮さんが彼と仲良くなれたらいいなぁ、と思いつつ、同志が増えて俺もハッピーな気持ちになった。なんだかんだwin-winな依頼でしたね。


藤宮・フォースター・沙也加の依頼 完


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