表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャルゲーと僕。  作者: のりたまごはんとみそスープ
11/16

閑話②

次回は10月7日更新です。今回は戦闘描写があるので苦手な方は飛ばしてください。

前回までの僕と…あ、今回も僕の話ですね。

前の話ではアイリっていう可愛い女の子が出てきましたね。黙ってたらですけど…。朱ねぇ…朱音さんは家事も手伝ってくれるすごく良い子っていつも言ってますが。朱ねぇ家事出来るイメージがゼロ…。コホンっ。とりあえず、今回から本格的に戦っていくので。頑張ります!アイリが!



アイリは己を鼓舞するように、熱く、強く、叫んだ。



「いくわよ…っ!ッ!トリガーッッ!!!」



その声に反応して、首に巻かれたチョーカー…トリガーが起動する。


心に狂気を垂らして神を降ろす禁忌。

彼女の首、頚椎に着けられた機械、そこから体内へ、精神に干渉する薬品を注射する引き金、その名は、トリガー。


その薬品が作用を始める瞬きほどの時間。


無防備なその時間を待つ道理など、キマイラにはカケラもない。


現状の最大火力を叩き込まんと、獅子の口腔から再び火花が燃え漏れる。


うわやっば。


それを横目にそそくさと斎藤は逃げ出す。

未だ感覚が朧げな体を叱咤して、最適な狙撃ポイントへ。



そして、キマイラが膨大な熱量を溜め込み、周囲の気温も上昇する中。



彼女の変化は如実に現れた。



「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!!」



意識が砕かれ、心が腐り落ちるような、壮絶な叫び声。

小刻みに震える体をのけぞらせ、空を仰ぎ、振盪する目から血の混じった涙を流しながら、両手で自らの二の腕を血が滲むほど、強く握り込む。


「ア゛ウ゛、グゥ゛ゥ゛ッッ!」


痛みで理性を無理矢理繋ぎ止め、軋む奥歯を噛み、全身に力を入れて震える体を力尽くで押さえ込む。うずくまるような体勢。魂が犯される不快感の中、彼女は根性で戦意を激らせた。



彼女の纏う雰囲気が徐々に変転していく。



それは人のままヒトをやめる蠢動。



全てが終わった時。

血の混じった涎を手の甲で拭い、アイリは掠れた声で呟いた。



「…叩き潰す。」



倒れ込むように、それでも膝はつかぬまま。両脇に刺して置いた得物を無造作に引っ掴み、激情迸る笑みで、地面を抉る獣のようなクラウチングスタートを切る。


眼前には視界いっぱいの炎。


そのキマイラが放った火球を、逆袈裟斬り、右手に掴んだ太刀で軽々と両断。舞い踊る火の粉を、触れれば焼け落ちる熱量を気にもかけず。炎の隙間を無造作に跳ねるような一歩、二歩、三歩。


---切る。


太刀を振り放った遠心力をそのままに、左手のハルバードを獅子の面に叩き込もうとして、


突如視界に蛇の群れ。


キマイラに備わった、都合9本の尻尾。八岐大蛇を彷彿とさせる分厚い胴、頑強な鱗にハルバードは阻まれる。


「チィッ!!」


惑手力で強化した身の丈を超えるハルバードは、その単純な質量で蛇を3本吹き飛ばす。が、それだけ。遠心力でキマイラに背を向ける彼女に残りの蛇が襲いかかる。


「なめ、るなぁっ!!」


アイリは左の足先から惑手力を爆発させ、回転を加速し体勢を変えた。頭を狙っていた蛇を蹴り、下側からきていた蛇の上に着地、そのまま踏み締め加速する。


蛇の胴を猛然と駆け、狙うは獅子の目。

炎を断ち切ったせいで、刃が融解した太刀の刀身のみを蛇の銅に刺し、再度、獅子の顔目掛けて跳躍した。空中で瞬時に替え刃を柄に差し入れ、昏く輝く切先で獅子の目を抉り刺そうと、腕を引き絞ったその瞬間。


獅子の手が容赦なく、彼女を横殴りする。


「ッ!」


アイリは一度バウンドし、壁に叩きつけられた。が、それをものともせず瓦礫を吹き飛ばし、僅かに黄色がかった瞳を爛々と光らせ、一歩を踏み出す。その目の前に、追撃の火球。


瞬間、アイリは思いっきり横に飛び出し、壁伝いに走る。

火球を避けた先、突っ込んでくる蛇。アイリは壁を走りながらハルバードで打ち返し、太刀で裂き、避けて、跳び、さらに駆ける。狙うは獅子の首から生える山羊の鼻面!


---いく、わよ!


ハルバードを思いっきりキマイラの上めがけて投げ、視線を誘導。己は斜め下に向けて壁を蹴り、地面を蹴り抜いてさらに加速。


それを吹き飛ばさんと、獅子が腕を振るい…彼女の体を捉えたはずのそこに軽い衝撃、そして痛み。

その獅子の手には突き刺さった太刀の刃のみ。



彼女の姿は、山羊の上。



口に噛んでいるのは太刀の柄。限界まで振り上げたその両手に、膨大な惑手力を込めた灼熱に耀くハルバード!




「---------ぶっとべぇぇぇっっっ!!!」




彼女の背後で膨大な惑手力が炸裂、空間を光が押しつぶす。そのエネルギーで彼女は一筋の流星となった!



着弾まで、まばたく間もないその一瞬。



山羊の目が光り、惑手力の壁を生み出した。


「ッ!」


当然、その程度では膨大な質量が隕ちる、彼女の一撃を防げる道理もない。



しかし



まばたき半分も無い時間が一瞬に引き延ばされる。



そして、それだけで充分だった。



嗤う山羊の顔が、蛇で覆い尽くされる。


彼女の一撃が吹き飛ばしたのは蛇。開けた視界には地面。



---チク、ショウ



激突の衝撃と、惑手力の無茶な運用のフィードバックで肉体も精神も吹き飛ばされ、彼女の意識は闇に堕ちた。


………


気がつくと、漆黒の中にいた。

微睡む意識を自覚して、アイリは夢の中にいることを悟った。



ふっ、と光が見えた。



それは過去の記憶。いつかの残像だ。


…叫ぶように叱る、幼い声が聞こえる。

懐かしい。出会ってまだ間もない頃の、ユウの声。


「強さはただの手段でしかないだろ!あいつを倒すことが目的なら、んなもんにこだわってんじゃねえよ!」


ユウが言ったその言葉は、強さだけが存在証明だった、ツクリモノである私の全部を否定する言葉に聞こえた。


でも、あの時のユウは雑魚のくせに無理をして。決して強くないのに目的を果たした、その姿に




心底、いつか絶対殺してやる、と思った。




多分たくさん酷いことも言った気がする。

この頃はユウのことを知らなかったし、興味もなかった。



…そう。でも、後から知った。



ユウも自分と似た境遇だということ。


一人で戦っているということを。



だから始めは同情だったのだろう。

この世界で絶対的な価値を持つ、"強さ"すら持っていない、存在を示すことすら出来ないユウへの。



最初に手を差し伸べたのは私の方。



一方的に、私の強さで彼女を助けることで、善行を成したつもりだった。


でも、それはユウためじゃない。私のため。


そして、ユウと日常的に、少しずつ話すようになってから、すぐのこと。



私たち二人が強敵に殺されそうになった、あの時。


指の一本も動かせないほどに消耗した私は、うつ伏せのまま。顔だけを横に向け、ただぼんやりとユウを見ていた。


何故この時ユウを見ていたのか。

普段の私なら最後の最後まで、敵から目を逸らさないはずなのに。


…恐らく私は自分勝手に、ユウを信頼していたのだろう。かつて助けられた時、あれだけ酷いことを言っておきながら。どこかで彼女に期待したのだ。


そんな、私の目の前で。

ユウは動いた。


しかし、彼女も満身創痍でうつ伏せになったまま。

それでも、顔だけを上げ、焦点が合っているのかも分からない様な目を、敵に向け…


おもむろに銃型の神器を持ち上げた。

力を限界まで振り絞っているのだろう。手は震え、ろくに狙いもつけられていない。

そんな、どうしようも無い状態で。



一発。



…そう。


この時、ユウは、たった一撃の元に、その渦紋を倒してのけた。



朦朧とした意識の中、私が見た"強さ"の体現。



でも、ユウはそれを"弱さ"と呼んでいた。



「こんなものに縋るしかない時点で、僕は弱いんだよ。だからこの力は強いけど、弱いんだ。」



衝撃だった。

あまりに儚げに笑う彼女も、その言葉も。



『弱さから目を背けないこと。きっと、それもまた強さだと思うけど。』



そんな彼女を見た時、いつかの言葉が心のパズルにパチっとはまった。多分、私が知らなかった、その強さの意味が解ったのだろう。



その日から、別に何が変わったわけでもない。



ただユウの強さを学びたくて、毎日の生活で彼女の姿をちょっと気にするようになった。それだけ。



でも、そんな毎日の中で。

いつのまにか。

自然すぎて気がつかないほど当たり前に。



私はユウに恋をした。



きっかけと言えるほどのものは何もない。

あったとしても覚えてないのだから、それはおそらく違うのだろう。


だからこれは毎日の積み重ね。


戦闘で力を出し切って寝転んでいる時、差し出されたユウの手が、私よりちょっと柔らかくて温かいと思ったり。

凄く華奢で消えてしまいそうなのに、そばにいると優しい柔軟剤みたいな香りがして安心したり。

困ったときは結構大袈裟にリアクションしがちだったり。

言いたいことを、後先考えずに言うところとかは少し自分と似ていて嬉しかったり。


知って、分かって、理解して。


この気持ちが恋だと知ったのはついさっき。

出発前に朱ねぇに教えてもらった。想いの名前。


多分ずっと前から、好きだった。


今までの私なら、この気持ちを弱さと断じて、きっと切り捨てようとする。

でも、今はただありのままに受け入れることができる。この弱さも。たぶん強さだってそう。


ごめんね。あの日の私。

弱さから目を背けることは辞めたけど。何よりも大切にしていた強さにも、こだわらなくなっちゃった。


だから、

ありのままをありのままに。



大切なのは、大切なものを大切にすること。



忘れないで。



暗闇の中、目を閉じる。

残考は消え、あるのは想いだけ。



…だから、今は、



リスクとか、理屈とか、合理性とか、正解とか、間違いとか、過去とか、未来とか…どうでもいい。




本当に大切なもの。私はもう、知ってるから。





必ず守ると誓ったのなら---





この想い全部賭けて、約束を果たす。




目を閉じているはずなのに、胸から…私の心から溢れ出る光を見た。



意識が克明していく。


………


「サァ、覚悟はいいかしら。」


己が作ったクレーター、瓦礫で埋まった暗闇の中、アイリはその美しい瞳を爛々と黄色に煌らせる。そして、口元をつりあげ、歯を食いしばりながら凄惨に微笑んだ。




恋する女の子は、負けないんだから!




想いをカタチに。




それは人のまま、世界へ翼を刻む羽化。




可視化するほどの密度で励起した惑手力の余波だけで、周囲の瓦礫を吹き飛ばす。

起きあがったその先、目の前にキマイラ(てき)


内から湧き上がる莫大な惑手力。


「---アンタはこの手で、」


アイリの想いのままにエネルギーが収束し、光を放つ一対の巨大な両腕がその背に、翼のように出現する。


その巨大な手で握り締めるのは、煌々と輝く超巨大ハルバード。



「…叩き潰す。」


ほとばしる思いのままに。


大上段に振り上げた超弩級の質量(ハルバード)を、敵に向かって振り下ろした。


解説

トリガー: 心に狂気を垂らして神を降ろす禁忌、を為すための薬。血中に打ち込む…のはあくまで形式上の話、なんか即効性がある気がするという共通認識が即効性をもたらす。魂を侵されるような不快感の後に惑手力の出力が大幅に上昇する…というのが一般的。例外も存在する。魂に干渉してしまっているため、トリガーには常に暴走の危険が伴う。暴走とは、理性を失い…人でなくなることを意味する。そして、これには例外が存在しない。

神器: 惑手力で力を発揮する武器の総称。神と入っているが作っているのは人間。歴史を経るごとに強さが増し、由緒が力となる。

ハルバード: アイリが愛用する武器の一つ。やたらと斧刃の部分が大きく、重量で叩き潰し切る使い方しかしないため、もうバルディッシュでええやん状態。籠められた惑手力の量で大きさと重さが変わる。実は歴史あるものだとかなんとか。

太刀: アイリが愛用する武器の一つ。柄と刃が簡単に分離する作りになっている。武器を雑に扱いがちですぐ刃こぼれするアイリ専用。刃の部分は歴史ある刀鍛冶製作。製法に歴史の重みがあるため、一応、刃も神器として認められている。結構貴重なもの。アイリは気にせずポンポン使う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ