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ギャルゲーと僕。  作者: のりたまごはんとみそスープ
10/16

閑話①

次回更新は9/30です。今回は血の描写がありますので苦手な方は飛ばしてください。

前回までの僕と…

はいこんにちは!休学中の斎藤…。あれ?今回、僕の話じゃん。えーっと、本編にはそれほど関係ないフレーバー的な話なのでどうぞ読み飛ばしてもらって…。あ、それでも読む人のための簡単な説明を少し…。


異界: 不思議な空間。要となる敵が強ければ広くなる。ダンジョンフィールド的な。

渦紋(カモン): 敵の名前。モンスター的な感じ。

惑手力(惑い手のチカラ): エネルギーの名前。魔力みたいなやつ。


斎藤視点


異界深度800m地点。


『---前へ!(GO!Let’sGO!)Ohーーーよっしゃ!いくぞー!!♪』


耳につけたイヤホン型のインカムから、音楽が流れている。


『---明るく照らす光、玄関を飛び出した♪』


「…。」


「…。」


それを聞きながら、僕たちは洞窟の様な場所を歩いている。いや、洞窟というよりはむしろ、神聖な要塞、教会の遺跡というべきか。地面は舗装されているかのごとく平面で、周囲には古代文明っぽい絵や、柱の残骸が所々存在している。天井も非常に高く、目を凝らすとかろうじてその存在が確認できる。


そんな荘厳な空間。そこに通るめちゃくちゃ神聖っぽい雰囲気のある一本道。

僕たちはここをひたすらに歩いてきた。


特に注目すべきは僕たちが歩く通路、その地面だろう。地面、というより道路か床に近いか。その表面はリノリウムの様な質感なのに、水晶のような透明度を魅せている。僕らが一歩進むごとに、着地点を基点として表面が揺らぎ、波紋のような紋様を描く。そう、それはまるで水面の上を歩いているかのような。


この不思議空間を僕らは”異界(いかい)”と呼んでいる。


異界と呼称するに相応しいこの場所は、ヒトだったモノである渦紋の惑手力によって出来た星の孔。心象を投影した侵食世界。存在するべきではないヒトの業だ。


あーー、重いー。疲れたぁー。


歩き始めて既に15分は経過しただろうか。

多くの荷物を背負い、さらにてんこ盛りの荷物を積んだ紐付きの台車を引っ張りながら、僕は内心で悪態をつく。


2人分を1人に任せるなよ…。まあ、いいけどね?


特に恨みがましくも思っていない目で、隣を歩くパートナーの少女を見る。


星々が埋め込まれたような天井から届く、薄ぼんやりとした光は、天使のような美貌をもつ少女を浮かび上がらせている。


最近、伸ばし始めたらしい綺麗な白髪をおさげにしている、新中学3年生の美少女は、眉根を思いっきり歪ませてひどく不機嫌な表情をしていた。


「…ユウ、あのさぁ」


「ん?どうしたの、」


その不機嫌なまま、翡翠色の目をこちらに向け、責めるような口調で少女は言葉を続ける。


「今から命を賭けた戦いだっていうのに、なんで“ひとつ進んで!"を流してるわけ?バカなの?」


『---足が弾む、リズム刻む、キラキラ全部抱きしめよう♪』


「いや、ほら、モチベーションあがるかなと思ってさ」


確かに場違いなほど明るい曲調だが、僕はめちゃくちゃモチベあがる。


僕の言葉に、コイツ分かってないなぁ。ハッ(嘲笑)という馬鹿にした表情で見下してくる。ちょっとムカつくが…否。否、いないな否!!ムカつくわけないやろ!こんな美少女が僕に声をかけてくれるなんて…!どんな罵倒でもご褒美やろがいぃ!僕より少し背の低い美少女が隣を同じ速度で歩いてくれる…。何てレンタル彼女?おいくら万円キャッシュ出せば良い?1時間あたり諭吉1人で足りる?

#異界レンタル彼女


SNSで調べようかと思案する僕を横目に、少女は、無い胸を強調するように腕を組み、得意げな表情で語り始めた。


「ここで流すべきは"足元に咲いてる"に決まってるじゃない。ほんと、そんなんだからバカ、ナス、ユウ!っていわれるのよ。」


「それ言ってるのアイリだけじゃん!」


バカ、ナス、ユウ!という罵倒をアイリが使い始めたのはいつだったか。当初は「ユウを悪口にするなよ。」と思っていたが、最近は特に悪くもないのにバカと並ばされているナスに同情し始めた。


ちなみにアイリが言っている”足元に咲いてる”も、今聞いている”ひとつ進んで!”も、『一般的な女子高校生が笑顔のためにアイドル目指す件』通称、ぱんドル!というアニメの曲である。アイリもあんなにバカにしていたのに…沼って恐ろしいですね。


内心で沼に引きずり込んだもの特有のニチャつく笑顔を浮かべる。


『なら、流す曲を変えた方がいいかしら。』


アイリの話を聞いていたのだろう。

インカムから少し落ち着いた女性の声がする。


『---雨の香りもへっちゃら!大きな水たまりだって跳べるから♪』


「…すいません、せめてサビまで聞かせて…。」


「仕方ないわね。」


『---キミが顔をあげて踏み出せば♪』

『---いつだってどこだってそれが前なんだ!So. へーぐいまーほふぬんぐ♪』


…僕のお願いでサビまで流した後、インカムから聞こえる曲が切り替わった。はぁー、やっぱぱんドルはよきよき〜。


ちなみにインカムの向こう側、我らが上司、"朱ねぇ"こと朱音さんも"ぱんドル"を見てくれたらしい。怖くて感想は聞けなかったけれども。


『---(イントロ)♪』


望みの曲に切り替わり、気分も良くなったのだろう。羽が生えたような軽やかさで、ローファーを履いた足を跳ねさせて。アイリは僕の前をぴょんぴょんっと進んでいく。サイズが大きいダボダボの黒いパーカー、そのフードもつられて跳ねるのが微笑ましい。


楽しそうで何より…


重い荷物を背負い、でかい荷物を引きずる僕は、彼女との距離を簡単に離されてしまった。


「ん!ちょっとユウー!あるくのおっそーい!」


後ろで指を絡め、指定戦闘服である『セーラー型戦闘服甲種』のスカートを翻しながら、振り向いた彼女はイタズラっぽい笑顔。


「…。」


後ろで台車を引っ張るための紐を指に絡め、無言で返事をする僕は勿論、キレた。



セーラー服にダボダボの黒パーカーを羽織ってその仕草をするなよ…!尊いは過剰摂取すると人死にが出るんだぞう!…で?今の料金いくら?オプションでしよ?



戦闘力が高すぎる。アイリ…恐ろしい子…。


---


異界深度1200m地点。


荘厳な雰囲気を放つ神殿の中を、僕らはまだ歩いている。一本道とは言え、曲がりくねったり、坂道があったり、階段が見えた時はマジでキレたり…。何とかここまで来れた。


今はかなり広い空間の中、千本鳥居よろしく、道の両側に大小様々な像が延々と置かれた所を歩いている。形容し難い像があれば、何か猫っぽいものがあったり…ただそのほとんどは半壊、もしくは全壊しており、全容は不明なものが多い。


そんな道の途中。横を歩いていたアイリが、ふと、つぶやいた。


「…ようやく、ここまで来たわね…。」


「…いや、ほんとに…あのクソ長い階段が目の前に聳え立った時はどうしようかと思ったよ…。」


僕の言葉に、アイリは呆れたような半眼を向け、軽くため息をつく。


「そうじゃなくて…。その、ユウと初めて会ってからってこと。」


「あー。そういうことね。そうだな、あの時は僕が小学6年生だったから…アイリは小3か!」


うわぁ懐かしー!

あの頃言われた『あんたの全部が気に入らないのよっ!消えろ!』って言葉めちゃくちゃ根に持ってるからな?全部が気に入らないって何よ?僕の存在全否定じゃん泣いた。


「…そうね。」


僕の言葉に、アイリはどこか遠くを見て、そう呟いた。


唐突にしんみりした空気。


…いや、自分から話を振っといてそんな感じになる!?ちょっとテンション高めに返事をした僕の気遣いを返しなさいよ!


内心で文句が出るも、仕方ないと思う自分もいる。

…そう。今回ばかりは生きて帰れるか分からないから。


というのも今回想定される敵…渦紋(コメ)のランクはS級相当。ちなみに僕らは現在A級。つまり…聡明な読者諸君なら分かるね?


僕らが所属する対渦紋(カモン)機関Anti-Bの教官である朱音さん、もとい朱ねぇが言うに「今回の渦紋(カモン)を倒せたら貴方たちも晴れてS級よ!頑張って!」らしい。


朱ねぇのあほ!そも国内に3人しか居ないS級に上がったらその分お仕事増えちゃう!というか今いるS級の人外3人と比べて、僕らの実力低すぎ!まだ僕ら人の範疇だから…人間卒業してない…在学中だから許して…。


緊張とか怒りとかで何も言えない僕を見て、アイリは口を開いた。


「…あの頃はここまで生きていられるなんて思ってもなかったから。特にユウなんてすぐいなくなりそうだったし。」


からかい気味にそう言って、彼女はちょっと笑った。

どうやら中学二年生の少女に無理をさせてしまったらしい。年上の僕(精神年齢で言ったらダブルスコアは余裕)が暗かったらそうなるのも仕方ない…か。美少女の顔を曇らせるやつに存在価値なし。猛省。ここはとにもかくにも明るい斎藤を繰り出して空気を変えるしかない。僕は腹を括った。


「そうだなぁ。ま、僕はこう見えてめちゃくちゃ弱いからねっ!どーんと頼ってくれてもいいのだよ?アイリくん。」


胸を張って自慢げに言い切る。

そんな僕にいつも通り呆れて、アイリは口を開いた。


「そんなことを自慢げに言うんじゃないわよっ!ホント、バカ、ナス、ユウなんだから!」


いつものように、罵倒で切り返してくる。

その様子はどこか嬉しそうで。

少し元気が出たみたいでよかった…。今のでドン引きされてたらこの辺の地域が滅びることを覚悟して、全力で逃げてるとこだった…。


「じゃあ全部上手くいったら、祝勝会でもあげようか!こう、ばーんと豪華な感じでさ!」


昇級もすることだし。

めちゃくちゃ豪華なやつをやっても誰も怒らないだろう。エクレアでタワーとか作りたい。


まだ見ぬ甘味の大洪水を脳裏で思い描く。


「ユウにしてはいい提案ね。…まあ?仕方がないから?私も参加してあげてもいいけど?」


めっちゃ目をキラキラさせながらしぶしぶ言うなよ。器用か。萌えるぞ?


「ははは…。僕としてはアイリが来てくれると嬉しいなぁ。」


「!ま、まあ?ユウがそう言うなら行ってあげる。感謝しなさい!」


アイリはそう言ってそっぽを向く。

はいはい。テンプレテンプレ。テンプレ神。


「じゃあ明日の夜とか、大丈夫?」


「(コクリ。)」


アイリはそっぽを向いたまま、無言でちょっと頷いた。んんん、もう少し素直になった方が生きやすいって、斎藤さんは思うゾ☆


『みんな、その、申し訳ないんだけど…。もう既に会議室は予約されているから…。』


インカムから朱ねぇが教えてくれる。

…まあ、街が一つ無くなるか否かの次の日だしな。戦闘しかしない僕らはともかく、みんな大変か…。


悩む僕らに朱ねぇの明るい声が響く。


『というわけで、上司命令!祝勝会はユウ君の家でやること!』


「「えーっ!」」


あ、アイリとハモった。

あの、それはパワハラなのですが。コンプラどうなってんすか。


「なんで僕の家なんだよ!ここは朱ねぇが『私の家広いから一部屋貸すけど』って言うところだろ!」


「…。」


文句を言う僕に、真っ赤な顔で無言のアイリ。めっちゃキレてるやん。


『あー聞こえなーい。…そうだ!ここは民主主義的に多数決で決めましょう。ユウ君家で祝勝会あげたい人ー!はいはーい!』


「うわ、なんだこの人マジか。」


朱ねぇの賛成1が入るものの、俺とアイリの反対で勝てる。僕は反対。当然アイリも…。


「…え、ええ!べ、べつに、わ、私はだだ、大丈夫よ?」


すっごい動揺しながら、こいつ賛成しやがった。

アイリは尋常じゃないくらい髪をいじっている…。サラッサラで手触り良さそう…。僕もちょっと触って良いかな。先っちょだけ!先っちょだけでいいから!


アホなことを考える間にも、インカムから朱ねえの声が響く。


『はい。じゃあ決定!ユウ君は準備よろしくー!まあみんな反対しても、その辺の人巻き込んで賛成に持ってくつもりだったけど。』


「やり口が汚い!」


僕のツッコミにクスクスと朱ねぇの笑い声が聞こえた。アイリは何か赤い顔で上の空だし。どうしたの?カルシウム足りてる?


…朱ねぇのおかげで少し空気が軽くなった気がする。

あぁ。頑張るさ。勝って、みんな生きて、祝勝会を挙げられるように。


精神年齢35歳は覚悟を決めた。


終着地点まで、あと僅か。


---


異界深度1500m地点


「…アレね。」


「…うわぁ…。」


怒りがおさまり通常運転に戻ったアイリが示した先、僕はそこにあるものを見てちょっと引いた。


僕らが歩いてきた終着地点。そこは非常に大きな円形の広間で、中心には巨大な石造の門が聳え立っていた。ただ、門といっても扉はなく、見事な意匠が施された枠が鎮座しているだけではあるが。

また、地面には門を中心として魔法陣のような、緻密で不可思議な紋様が描かれているようだ。門も、魔法陣も、それだけなら見惚れてしまう出来なのかもしれない。それが出来ない理由は、


血だ。


魔法陣のほとんどを覆い隠し、門の半分に到るまで、目を背けたくなるような鮮烈で重香な赤い液体が塗りたくられていた。


これまでも"深層に至る門"を見たことはあったが、ここまでの規模のものは初めて見た。ちょっと目を逸らしつつ、僕はインカムのマイクに言葉を投げた。


「朱ねぇ、公式には何人巻き込まれたんだっけ。」


『一応、5人とはなってるけど、ね。』


「冗談。この量だとそんな数じゃすまないわよ?ざっと数十、もしかしたら3桁に届いてるかも。」


門へ向けて歩む足は止めぬまま。朱ねぇの言葉を一蹴し、アイリは厳しい目つきで言葉を放った。


ここにぶちまけられた血は、匂いも感触もない、視覚にのみ訴える概念的なものだ。贄とされた人の数だけ、その量は増え、渦紋の力も強大になる。だからコレは誇示に近い。世界に己の威を示すための、そして、世界を惑わすための。


『…やっぱり最大深度予測値3000m級の同時発生は明らかに不自然よねー。』


「僕もそう思う。統計的にもほぼあり得ないし。…ここ数年に渡って、行方不明者の増加もあるって朱ねぇ言ってたじゃん。…うーん、これは。人為的な匂いがすっごいするやつ。」


うわぁ。マジでやめてほしいです。

てか3000m級人工作製って、人工的に隕石降らせて大量虐殺するのと大差ない大事業だからね?それを秘密裏にとか。闇が深え…。笑えねえ…。


「二人とも、考えるのは後にして!ユウ、ほら、武装展開急いで!この間にも敵は成長を続けてるんだから。」


そうこう言っている間に、門の前にたどり着いていた。アイリにせかされ、急いで戦闘のための準備を始める。


「はいこれ。いつものやつ。」


「ん。ありがと。」


僕が背負っていた荷物…2m越えのハルバードと太刀の柄、そして太刀の替え刃が大量に入った箱をアイリに渡す。


そして、自分の装備…台車で引っ張ってきた巨大スナイパーライフルの準備を終え、背負い…ついでにハンドガンを、腰にまき直したホルスターに納める。


準備をしつつ、忘れていたことを朱ねえに確認。


「そういえば朱ねぇの使い魔って着いて来てる?」


『ん、ええ。ばっちりよ?今もよく見えてる。優が太ももに巻いていたホルスターを外すとき、スカートをちょっとたくし上げるものだから、アイリの目が釘付けに…「そこ!無駄話しない!…ユウ!ほらさっさとする!」


戦況を把握する朱ねぇの目…使い魔はその辺りにいるらしい。黒いから全然分からんが、いるなら大丈夫だろう。

またしても顔を真っ赤にしてキレるアイリに謝りつつ、準備を進める。



そして、遂にその時が来た。



二人で、門の前に立つ。


「…行きましょ、ユウ。」


「…うん。」


門の中へゆっくりと歩き出す。


重いし、嵩張るからだろう。

隣のアイリは手に持ったハルバードと刃を付けた太刀をズルズル引きずりながら歩いていた。


横を歩く、その華奢な姿を見て、僕は思わず声をかけた。


「その、アイリ。無理は…、」


「…なーに言ってるのよ。無理するに決まってんじゃない。ユウこそ、無理すんじゃないわよ?」


アイリはこっちを見て、かっこよく笑った。


その姿に、その強さに。

僕は憧れて。同時に自分の弱さも教えられたみたいで、情けなくなった。


戦闘は初めてじゃないのに。未だに漠然とした不安の前で、カッコつけることもままならない。

年上としての意地で、泣くことは堪えているが。笑顔を作ることがこんなにも難しい。


震える心を叱咤しながらアイリと一緒に門の真下、魔法陣の中央に立つ。


転移までのわずかな時間。


僕は一つ、深呼吸をする。


アイリを見ると両脇に己の武器を突き立てて、腕を組み仁王立ちしていた。


「ユウ、頼りにしてるからね?」


やっぱり微笑んでいるアイリは、優しい声でいつもの台詞を言った。


「そっちこそ。任せたよ、アイリ。」


無意識に握る拳に力が入る。


その瞬間、そこら中に撒き散らされていた血が、地面に描かれた陣に吸い込まれるようにして消え…視界が地面からの赤黒い光で満たされる。


そして、眩い視界とは相反するように、陣の外側が徐々に黒く闇に塗りつぶされていく。


あぁ。来る…。


床以外が闇に包まれた、その時。


一瞬の浮遊感、轟音、振動。


あまりの揺れに、思わずしゃがんでいた僕が瞬きをすると…目を開けた時、そこは既に別世界だった。


瞬時に周囲を見渡す。

そこはドーム状の洞窟の中。その中心。

野球ドームか、サーカスの会場か、闘技場か。僕らがいる舞台を中心として、ぐるりと周囲を囲むように段状の壁がある。

頭上、天井までの間には大小様々な岩が謎の力で浮かんでいる不思議空間。



そして、ソイツは、浮遊する岩塊群の中で一際大きな塊の上にいた。



顔は獅子。その首に上を向く様に山羊の顔。

そして、獅子の胴体を持ち、いくつも伸びている尻尾の先には蛇の頭。



共通認識による概念強度上昇…

つまり知名度が強さに直結する世界で



キマイラ、とは。



獅子の体だけでも5〜6m程はあるだろう。蛇も入れて15mくらいになるだろうか。とにかくデカい。



その威容に。

その重圧に。



震えているまでも無く。


大きく開いた獅子の口腔が、赤く紅く輝く。


なにを、


理性の疑問とは別に、僕の本能は訓練を忠実になぞって行動していた。


瞬時にハンドガンを構える。射撃態勢(High-pos.)よし、照準は間に合わない。狙うこともできず、引き金を…


僕の行動と同時に、


獅子の口から特大の火球が放たれた。


ハンドガンを撃った僕の目の前で爆発。強烈な衝撃波が襲う。


「っ!」


言葉も出ない。全身を打つ衝撃に痛みさえ遠い。

ただ分かるのは己がまだ生きていることだけ。


吹き飛ばされ、転がって、地面に倒れ伏して…その体勢、うつ伏せのまま顔を上げる。

目の前には、岩から降りてきたのであろうキマイラ、そして、仁王立ちするアイリの背中。


どうやらハルバードと太刀を地面にぶっ刺して、衝撃に耐えたらしい。そのタフネスにもはや苦笑いだ。


『防いでくれてありがと、ユウ。ちょっとゆっくりしてて?ここからは…私の、出番だからっ!』


惑手力(ワクテカ)による刹那の思念。

一方的に言い切るだけ言い切って、アイリは己を鼓舞するように、熱く、強く、叫んだ。



「いくわよ…っ!ッ!トリガーッッ!!!」


用語説明

渦紋(カモン): 敵の名前。元々は人であり、何らかの拍子に魂が許容可能な容量を超えて惑手力を持ち、かつ、その身に余る欲を宿している時に成る。最初は起点となる一人であるが、周囲の人間を己の異界に取り込み、その力を拡大させていく。斎藤「渦紋(コメ)


惑手力(まどいてのチカラ): 単純に惑手力(ちから)惑手力(エネルギー)などと省略されて呼ばれることが多い。世界を惑わせ、己の意を上書きする力のこと。古来より存在し、彼らないし彼女らは惑い手と呼ばれる。魂の力だの、人の輝きだのと言われているが、実際には神のような存在によりもたらされたもの。---選ばれしものだけが、それを操ることが出来る。斎藤「惑手力(ワクテカ)


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