62の舟券その2
その後も広瀬は順調に舟券を的中させたので
「今日の俺はツイてる」
と思った。
広瀬のすすめた舟券をすなおに買う榊原も勝ちつづけて、7レースを
むかえていた。
7レースの舟券を買い、出走までにはまだ時間があったので椅子に座って
何気なくオッズを眺めていると6ー2のところで目がとまり、その瞬間
「また6ー2がくる」
ふっとそんな予感がした。
買い足そうと窓口まで行った広瀬だったが直前で迷いが出て
思い直して引き返してしまった。
だがその予感が的中して7レースは6ー2で100倍ちょうどの配当金をつけた。
「買っておけばよかった」
榊原には黙っていたので広瀬は一人でくやしがった。
次の8レースの検討をしていると目の前で一人の初老の男が床に
座り込むようにして何かを探していた。
ギャンブル場にはたくさんのハズレ券がおちているがごくまれに間違って
的中券を捨ててしまう人がいる。
それを狙って舟券を拾い集める拾い屋と呼ばれる人達がいる。
広瀬はその拾い屋だと思い、かかわりたくないので立ち去ろうとした。
ところが榊原は
「どないしました、なにかなくしましたんか」
と声をかけていた。
大学で福祉を学び養護教員をめざしている榊原には、
ほおっておけなかったのだろう。
よく見るとその男は坊さんの作業着である作務衣を着ていて、種々雑多な職業の
人間が集まる競艇場であったがどこかちがう雰囲気をかもしだしている。
「当り券を落としたんや、ここでレース見とったからそこいら当りに
落ちとるはずや」
「もしかしたらさっきの7レースの万舟かいな」
「そうや」
「そらえらいこっちゃ」
あわてて広瀬もいっしょになって探しはじめた。
現在の競艇場では定期的に片付けられてしまうが当時はたくさんの
ハズレ券が場内にところかまわず散らばったままになっており、
さらに客のはきすてたツバやタンがからまって不衛生きわまりなかった。
その地面に這いつくばるようにしている男達の姿はいようであった。
「あった」
広瀬は少し興奮気味に声をふるわせ7R6-2の舟券をひろいあげた。