お二人の友情エピソードですか?
戦艦大和の艦橋は駆逐艦レニングラードとの戦闘で慌ただしい喧騒に包まれていた。
そんな中にあって、1人眠っているように見えるオメガは、しかし眠ってはおらず戦艦武蔵と戦っているトライバル級駆逐艦のスキャン解析を行っていた。
(うーん、この波長って……なるほど、そういう事)
解析を終えたオメガは軽くため息をついた。
スキャンしてわかった事はトライバル級駆逐艦はカナダ海軍の駆逐艦ハイダであること。
そこに魔法使いは誰1人乗っていなかったが、小さくなってラジコンに乗り込むための魔法の痕跡やその他の人が小さくなって乗り込めるように改修した者の魔法の痕跡は残っていた。
それを解析すると、オメガもよく知った人物の魔法の波長が検出されたのだ。
(この波長はアルファーのもの……一体どういうつもり?まぁ、大体予想はつくけど)
思ってオメガは思考を巡らす。
(魔法自体は使い切りのを預けてる感じだから本人が近くにいなくても発動するんだろうけど、それでも気になって見に来てるはずよね?恐らくは気づかれない程度に離れていて、それでいてギリギリ観測できる範囲の距離で)
オメガは意識を集中して探知魔法を発動する。
そして駅前の繁華街とは駅舎を挟んで反対方向にある住宅街、その中の立体駐車場の屋上にいる人物を探し当てる。
ちなみにこの探知魔法の範囲を広げるため、再びイー・クラートコエが供物にされ、バニーガール以上に恥ずかしい衣装にされたのは触れないでおこう。
駅から歩いて数分のところにある立体駐車場、その屋上に誰が見ても「魔法少女のコスプレか!」と言いたくなるような青い衣装を着た少女がいた。
彼女の名はアルファー、知っての通り異世界の魔法少女である。
そんな彼女がなぜ立体駐車場の屋上なんかにいるかと言うと、相手から感知されないギリギリの距離で、尚且つ自分が現場の状況を感知できるギリギリの距離がたまたま立体駐車場の屋上だったからという、ただそれだけの話である。
決して「屋上から戦いの推移を見守るとかカッコ良くね?」という残念な理由からではない!
いや、心のどこかで「一度これやってみたかったんだよね~」という邪な思いがなかったか?と言われればそうとは言い切れないのだが……
そんな言い訳がましい思考を断ち切るかのように、アルファーの脳内に突然声が響いた。
『アルファー?どういうつもり?』
「な!?なんだ…!?こいつ直接脳内に!?」
『……アルファー?そのネタさっきも聞いたんだけど?』
「いや、何の事だよ?今日会話するの今がはじめてだろ」
イー・クラートコエにも同じ事を言われたのでオメガは不満たらたらに言うが、アルファーがそんな事知るはずはなかった。
『まぁいいけど……』
「なんでこっちが知らない話題で、仕方ないからそういうことにしといてやるって空気になるんだ?」
アルファーはため息をつきながら答えるが内心は焦りまくっていた。
予想していたとはいえ、オメガがコンタクトを取ってくる事はアルファーにとって死活問題なのだ。
何せ、アルファーがこっそり敵であるいろは達聖パペロミアン公国を支援してるというのがバレたという事なのだから……
「まさか、あたしの完璧な証拠隠滅がきかなかったというのか?」
『アルファー、心の声ダダ漏れすぎ……』
「うるさい!直接脳内に声を届けてくるやつが言うな!!」
『そう言われてもアルファーの連絡先知らないし、いちいち通信機器でやり取りするよりこっちの方がはやいでしょ?』
「魔法の才能に恵まれたやつのセリフだな?凡人には直接脳に言葉を届けるという複雑な作業ができないとわからないのか?」
苛々しながらアルファーが言うと、脳内にこいつ何言ってんだ?くらいの軽いノリの返答が届く。
『え?これのどこが複雑なの?誰にもできるでしょ?』
「あーでたよ!これだよ!!秀才にはわからないかなー?なーんで凡人が凡人であるかってのが!そんな簡単に誰でもできたら誰も苦労しねーんだよ!!」
アルファーは叫ぶが、やはり脳内にあまり理解してないといった回答が届く。
『そういうものなの?』
「きー!本当に嫌味ですかこの子は!!だから嫌いなんだよあたしは!!昔からそうだった!!」
アルファーは叫んで思い出す。
かつての光景を……
ホパチョメリ王国初等魔法アカデミーでの日々を……
オメガは幼少期から頭脳明晰だったためホパチョメリ王国で建国以来最も有能な神童ともてはやされていた。
そのため本来は数年通うはずの初等魔法アカデミーもわずか1年しか在籍しておらず、アルファーと机を並べて学問に勤しんだ時間もほんの僅かだ。
そう、僅かな時間でしかないにも関わらず、オメガは確かにアルファーの心に色々と刻み込んだのだ。
多くのトラウマを……
魔法で何かを造ろうという創作のお題が出ればアルファーは率先してリーダーとなりグループをまとめて創作を執り行った。
まだまだ幼い魔法使いたちは互いに弱点を補い合い、お題を完遂する。
自分たちはまだまだ未熟で技術も知識も経験もない、だからみんなでそれを補い合って行こう!とを皆を鼓舞しお題を達成した。
そんな苦労した自分たちの横でオメガは誰とも組まずに涼しい顔で1人黙々とお題をこなしていった。
とても退屈そうな顔で……
その事に対しては最初何とも思っていなかったが、いつだが「1人だと寂しいでしょ?一緒にやらない?」と声をかけると。
「え?なんで?クオリティー下がるじゃん」
とつまらなそうな顔で言われたのでアルファーは完全にキレてしまった。
「言ったな!!見てろ!!個が郡に勝てないと証明してやる!!」
そう意気込んでオメガに喧嘩を売ったのだが……
当然、敵うわけもなかった。
「ぐぬぬぬぬ……!!オメガ!!絶対ぎゃふん!と言わせてやる!!」
「そう……まぁ、頑張って?」
またしてもつまらなそうな顔で言われたので、さらに精鋭を集め挑んだがオメガには敵わなかった。
「おのれオメガめ……かくなる上は皆の前で恥をかかせてやる!!へへへ、その済ました態度をへし折ってやるぜ!!」
幼女とは思えない邪悪な笑みを浮かべてアルファーはオメガへと嫌がらせの限りを魔法で仕掛けるが……
「あ、ごめん……私自動で危機回避、防御魔法が発動するんだ。ほぼ無意識なんで発動したかもわからないんだけどね?」
「なんじゃそれ~~~~~!!!!」
用意周到に仕掛けた罠や嫌がらせはことごとく回避され、無効化され、なぜかカウンター効果でアルファー自身に跳ね返ってきた。
なので犬のうんこが敷き詰められた落とし穴に落ちたり、お花を摘みにトイレの個室に入ると頭上から滝が発生したり、バナナの皮ですべってもっとも熟して臭いが絶好調なドリアンに顔面突撃、帽子を被るはずが顔面ストッキングなどなど……
皆の前で恥をかかせてやろうとアルファーが仕掛けた罠がすべてアルファーに跳ね返ってきて皆の前でアルファーが恥をかく事になったのだ。
極めつけはわざとオメガが実験を失敗するように仕向けてやろうと目論んだら、アルファーが実験棟を大爆破するはめになり、大目玉をくらったあげく髪型が1ヶ月アフロヘアーから戻らなかった……
とにかく、自業自得な部分は置いといて、アルファーはオメガに対して屈辱の記憶しかないのだ。
「あんたはいつもいつも昔から何食わぬ顔でしれっとこなしてあたしを小馬鹿にして!!」
『あの頃は楽しかったね、私いつもアルファーがどんなアホな事してくるか楽しみだったよ』
「きー!!!アホな事だと!?いや、確かに今ならそう思うけども……きー!!ほんとこの子は!!」
地団駄を踏んだアルファーはそこではっきりと宣言する。
「言っとくけど、今回の件はホパチョメリ王国とは一切関係ない、あたし個人の問題だからね」
『あの頃の続きって言いたいわけ?』
「あぁーそうだよ!!あたしがあの時とは違ってカウンターされない嫌がらせをするってだけだ!!それにあの子たちは勝手に参加してるだけ!あたしはとりあえず試験的に駆逐艦に乗れるようにしただけだから文句は言わせないよ?」
アルファーがそう言うと、しばらく脳内に返答はなかった。
その事にアルファーが訝しんでいると。
『そういうことなら、あの駆逐艦は所属不明の艦艇ってことにしといてあげる。その代わり手加減はしないよ?』
「は!言ってろ!!」
『あと私はアルファーの事一度も小馬鹿にしたことなんてないよ?』
そう言ってオメガは脳内に通信してくるのをやめた。
それからアルファーはしばらくオメガの最後の言葉に歯がゆさを感じていた。
(なんだよ……最後にそういう事言うか?)
そんな、なんとも言えない表情になったアルファーの頭上に半透明の物質が出現する。
それはやがて実体化し、巨大な金属製の金ダライとなってそのままアルファーの頭部へと落下し「バーン」と気持ちのいい音を出した。
「あ痛っ!?」
アルファーは頭を押えてその場にしゃがみ込むと目に涙をにじませて叫んだ。
「おのれオメガァァァ!!!!!ぜったいぎゃふん!と言わせてやる!!!!」