同盟結んでても仲悪いものなんです?
大和があれだってと言う話をこれ以上聞かされても仕方ないので本来の話題に戻そうとした時だった。
いろはが真顔で。
「いや、大和自体は皆が過大評価しすぎだと思うだけであれではないよ?」
と言い出した。
いや、まだ続くのか……
「散々コケおろした後でそう言っても説得力ないぞ?」
呆れた調子で言ったが、いろははしれっとした顔で。
「何を言うか?別に大和があれとは一言も言ってないぞ?」
と宣いだした。
いや、どう考えてもダメなところばっか挙げてなかったか?
「え?そうだっけ?」
「そう感じたのは睦月ちゃんでしょ?大和と武蔵はあれだよ、運用方法と指揮官の采配に問題があっただけで、ちゃんとした運用方法と戦略、戦術による指揮があれば違った形になったと思うよ?戦争の結果は変わらないだろうけど」
そう言っていろはが力説しだした。
大和はなんだかんだで当時の日本の技術の粋を集めて造られた戦艦だから搭載したレーダーも当時の最新のもので、実際燃料があれでほとんど動かせなかったけど、最前線で最新のレーダーを生かせば戦略もそこそこ変わってたはずだと言う。
とはいえ大艦巨砲主義のもと艦隊決戦構想のために温存されていたわけだが、それ以前に少し動かすだけでも大量の燃料を使う大和型は練度維持の最低限の出撃に限定されてたあたり、最前線にバンバン突撃ができないからずっと待機してたんだろうから結局あれだって結論に至るんだが……
これは擁護になってるのだろうか?
ちなみに当時の技術の粋を結集した大和だが、現代の技術で再現建造するのはほぼ不可能らしい。
これは建造費の問題もそうだが、費用を抜きにしてもどうやって造ったのかわからない箇所が多数あるらしく、80年前の艦船を今の技術で造れないとか意味がわからないが失われた技術が多く存在するのだとか……
とはいえ、当時の日本の工業技術の限界を感じる箇所も多数あって、強固な分厚い装甲は溶接でつなぎ合わせる技術がなかったためリベット止めという荒技で船体や竜骨と呼ばれる船体の骨格と装甲がつなぎ止められているのだとか。
結局、これが防御力が高く浮沈戦艦と言われた大和の最大の弱点となって、理論上は敵艦の砲撃に耐えられる装甲厚であっても横からの魚雷攻撃には無防備であり、リベット止め故に攻撃をくらい続け、板が歪めばいくら分厚くてもリベットで止めただけの装甲だからリベットが外れて意味をなさなくなるのだとか……
そこから進水したらどうなるか?っていうのは素人であっても容易く想像できるわけで。
一様は注水システムで平行を保てる設計になってはいたらしいのだが、その修復力を上回る波状攻撃を受けたらどうなるか?という話で……
これが戦艦大和の最期、1億玉砕の先駆けとして沖縄への特攻作戦へと向かう途上の鹿児島沖。
坊ノ岬沖海戦で沈んだ理由の1つであるらしい。
「……というわけで、大和は運用次第では活躍したかもしれないのです!」
いろはは鼻息荒くまくし立てるが、微妙な反応しかできない。
「最後のはどうあがいても擁護できる内容ではない気がするんだけど?」
「まぁ、この手の弱点は大戦期の軍艦には付きものだから!」
いろははそう言うと、この話題を打ち切った。
まぁこれ以上続けると結局大和はあれだって結論になるから止めたんだろうな……日和ったな?
「いや、日和ってねーし!」
「あーはいはい、そういう事にしとこう。で、話戻すけどなんで金剛や長門じゃなくてカナダの船なんだろう?」
「そういう事とか言うな!!」
いろはがムキーっと騒ぎ出したので変態メガネがどーどーとなだめだした。
「はいはい、まぁなんでカナダ海軍の艦船かはさておき、長門と金剛を使わないのは自分が絡んでるって知られたくないんじゃない?」
「知られたくないって、相手のウルスラだっけ?そこに?」
「そう、多分だけどアルファーちゃんの国とウルスラって仲があまり良くないんじゃないの?」
変態メガネがそう言うといろはがうんうんと頷く。
「そ、正解!さすが晃代だね!」
「え?どういう事?だって同盟国なんでしょ?だから参戦してきたんじゃないの?」
疑問を口にするといろはがやれやれと肩を竦めた。
「睦月ちゃん、同盟国だからって仲がいいとは限らないでしょ?」
「え?だって同盟結んでるんでしょ?仲が悪かったら同盟も結ばないし助けたりしないんじゃないの?」
当然の疑問を口にした。
だって同盟結ぶって互いに助け合うって事でしょ?仲悪い相手と同盟結んで、仲悪い相手が始めた自分と関係ない戦争に巻き込まれるってありえなくない?
日米同盟とか日米安保で懸念されたりしてる確かそこじゃなかったっけ?
日本がアメリカが始めた知らない戦争に巻き込まれる~ってやつ。
しかし、いろははそんな疑問を鼻で笑う。
「普通に考えたらそうだよね……でも国と国の関係なんてそんな簡単なものじゃないでしょ?」
「そうかな?だって仲がいいから同盟結ぶんじゃないの?」
「睦月ちゃん、同盟は仲良しこよしの証明じゃないからね?例えばNATO、北大西洋条約機構を見ればわかるけど。あれも複数国家の軍事同盟だけど全部仲いいと思う?」
いろはに言われて考えるがわからん。一般人にわかるか!
NATOって何カ国加盟してたっけ?
「そう言われてもNATOの加盟国がどれだけあるのか一般人にはさっぱりなのだが?」
「睦月ちゃん……ちゃんと勉強しようぜ?」
「一般人はそんな知識なくても生きていけるよ」
「睦月ちゃん、何度も言うけどもうこちら側なんだから、こちら側の常識を覚えような?」
「誰がこっち側か!」
「それにNATOレベルだったら十分一般常識の範囲だと思うけど?」
「NATOの名は知ってても構成国すべてまでは一般人知らんだろ」
「まぁ、NATO加盟国をすべて答えるのは次回までの宿題として」
「ちょっと待て、宿題って何だよ?」
「わかりやすいところだと……」
「聞けよ?」
「まぁ、同盟じゃないけど準同盟って意味で日本と韓国だとどう?」
聞いちゃいねー!勝手に話進めやがる!
というか日本と韓国って同盟なんか結んでないだろ!何言ってるんだ?
「いや、だから準同盟的な意味って言ってるじゃん?」
「あっそっすか……」
「で?日韓だとどう?」
「どうも何も……あまり仲はよろしくないんじゃないの?」
かの国に対する個人の感情はさて置き、客観的に見て両国ともに真に友好的とは思えない。
個人レベルでは友好的なのにどうしても国レベルになるとそうはいかない一例だろう。
「まぁ、そうだよね。でも日韓は北朝鮮という共通の敵とアメリカという共通の同盟国という間柄、日米韓の連携を行ってたりするよね?軍事面では日韓秘密軍事情報保護協定、通称GSOMIAを結んでたりするし」
ジーソミア?あぁ、あの請求権からはじまった一連の応酬で仲が悪くなった時に破棄する、しないで揉めたやつか。
「でもなんかレーダー照射事件とかなかったっけ?」
たしかニュースで自衛隊の哨戒機が韓国海軍の軍艦の上空を通過した際に火器管制レーダーでロックオンされてかなり緊迫したってやってたような……
その後も韓国の観艦式に旭日旗を掲げて入港禁止にしたから自衛隊が参加しなかったとか何とか……
「そう、あの一件で世界的に日韓って仲悪いんだって広まったんだよね。もちろん知ってる人は知ってるけど、世界の大多数の人は東アジアの隣国2国の仲がどうかなんて気にしないよね?だからほとんどの世界の人達は日韓が仲が悪いこと知らないし興味ないんだよね、これ」
「え?そういうものなの?」
「そりゃそうでしょ?自分と関係のない国同士の仲なんて気にする?」
「うん、しないね」
言われてみれば、そりゃそーだ。
普段生活してて、知りもしない、関わりもない遠い国と国の間柄なんてまず考えないもんね。
「例えばアメリカとカナダって実はあまり仲がよくないって知ってる?」
「え?そうなの?」
「ほらね……そういうものだよ」
アメリカとカナダが仲が悪いとは意外だ、だってメジャーリーグの球団とかカナダにもあるよね?
その他のスポーツでも……
でも、アメリカとカナダの関係は北米大陸圏にいない限り、遠目に見ててはわからないらしい。
それこそ、日韓の関係を遠目に見てる東アジア圏外の人が受ける印象と同じだろう。
なんでもアメリカは昔からカナダを下に見る気質があるらしく、昔の地図でもカナダの事を蛮族の地と書いてたりするとか……
一方のカナダはカナダ映画を観ればよくわかるらしいが、カナダ映画のテンプレが大体悪役はアメリカ人でアジトはアメリカ国内にあって、アメリカに乗り込んでアジトを爆破、よくやった!と拍手で凱旋ってのが王道パターンらしい……
外国映画=ハリウッド映画な印象が強い日本ではあまりなじみがない展開だ。
というより反米国家の映画が大体そんな展開な気がするが、カナダもなのか……
これも当事国に住んでて事情をわかってないと外からでは知らない事だろう。
「ようするにアルファーの国とウルスラもそうだって事?」
「そ、表面上はホパチョメリとウルスラは友好国で軍事同盟も結んでるけど、実際過去には色々あったし、お互いあまり良く思ってないんじゃない?」
そう言っていろはは鼻で笑った。
どうせなら内輪揉めでつぶし合ってくれれば良かったのにとも小声でつぶやく。
うわー、他力本願だな……
「だからアルファーはこっそりこっちを支援してるの?でも、そもそもいろはの国とアルファーの国は戦争してるんだよね?おかしくない?」
そう、いくらアルファーの国とウルスラが仲が悪いと言っても、今はアルファーの国はいろはの国と戦争中だ。
なのに、いくら仲が悪いからって戦争中の相手の支援をするか?
「だから表だってウルスラに反発できないんでしょ?日本にいるから本国がどういう政治決定をしたかわからないし……情報が何もない状態で同盟を結んでるとはいえ仲が悪い相手が突然しゃしゃり出てきたら、いい気はしないんじゃない?」
そういろはが言って変態メガネもうんうんと頷く。
そういうものなのか?
「そう言うものだよ睦月ちゃん、それにここが日本ってのも大きいだろうね」
「いろは達の本来の世界じゃないからって事?」
「そ、さすがに元の世界で参戦してきた経緯を知ってたら、不満はあれど戦争中だし今は手を取り合って戦うしかないって割り切れるだろうけど、ここには本国の目はそこまで届かないし、参戦するいきさつを正確に把握してるわけじゃない。なら、表だった反発はできないにしてもこっそりならしてもいいんじゃね?って気持ちになるよね」
いろはがそう言ってうんうんと頷く。
いや、そういうものだろうか?とも思うが、まぁ日本にいる分には戦争してるというより遊んでる感じだからそれでいいんだろう……
「いや、遊んでねーし!これは由緒正しき海戦なんだよ!そこんとこそろそろ理解しような?」
「はいはい、で?結局アルファーが送ってきたあのカナダの船を味方として計算するの?」
「スルーすんな!まぁ、一様はそう考えるけど連絡取れないんじゃ連携取れないしどうしようもないんだよな~」
いろははそう言って考える仕草をした後に伝達管に支持を飛ばす。
「おいゴリラ!伊勢航空隊発艦準備だ!とりあえず武蔵とトライバル級がやり合ってる付近まで飛ばせ!」
伝達管からゴリラ先輩の了解との返事が返ってくる。
「さて、アルファーの寄越した駒がどこまで使い物になるか見物させてもらおうか」
そう言っていろはが意地汚い笑顔を浮かべた。
うん、どう見ても悪人面だわこれ。