今回はなんか真面目な講義になってますよ?
いろはが突撃を慣行しようとした時、SUH-1の砲身が微妙に動いた。
そして飾りのように見えた砲身から何かが発射される。
「わ?な、何じゃい!?」
慌てていろはが回避する。
「あれ飾りじゃなくて砲撃できるんかい!というか何撃ったんだよ?」
いろはが双眼鏡を取りだして砲撃が直撃した広場の看板を見る。
何かが直撃した広場の看板は完全にへこんでいたが、あれどう見たって器物破損で訴えられるよな?
そんな看板の近くには野球の硬式球が転がっていた。
「野球のボールって……まさか!」
みなが一斉に劣化高飛車お嬢様のほうを向く。
注目を浴びた劣化高飛車お嬢様の安藤は不敵な笑みを浮かべると静かに語りだした。
「我が校の野球部は弱小ながら設備だけは充実してますの……ピッチャーの育成に余念がない一方でなぜかバッティングピッチャーは使わない方針なのですわ、だからピッチングマシーンが大量にあるってわけですの。で、当然老朽化して廃棄されたマシーンもいっぱいありましてよ?」
「まさか……」
「えぇ、廃材として捨てられたそれを回収して修理し、改造して搭載したわけでしてよ」
劣化高飛車お嬢様の安藤が悪人面丸出しの笑顔で語った。
というかそれ色々と大丈夫なの?よくわからないけど……なんか違法改造で捕まりそうな臭いしかしませんけど?
まぁ元の車体からしてほぼ窃盗品だけど……
「そしてピッチングマシーンの投球の速さのリミッターも解除して色々魔改造しましたので計測不能な速さも出せるんですのよ!!おーっほっほ!!」
えっと、それもうアウトなんじゃないかな?
特にサバゲーで使うとかもう、なんか逮捕されそう……
というか通報しといたほうがいいかな?
「それじゃSUH-1の説明も終わったところで再開しましょうかしら?」
言って劣化高飛車お嬢様の安藤がハッチを閉じて車内へと引っ込んでしまった。
直後SUH-1の砲身が上下に動いた。
「げ!あれ仰角つけられるのかよ!」
「油圧ショベルカーを改造したって言ってたからクレーン部分の基礎はそのままにしてるんじゃないかな?そこにピッチングマシーンを搭載したんじゃ?」
「何にしてもヤバそうだ!全員散開!!」
いろはが叫びミリ研部員が一斉に散らばって逃げ出す。
直後SUH-1が砲撃を開始した。ピッチングマシーンだからこの表現があってるのか不明だが……
SUH-1の砲撃はピッチングマシーンってだけ連投機能があるようで砲撃と砲撃の感覚が短い。
そのことに逃げ惑うミリ研部員たちが文句を垂れた。
「戦車がそんな短い間隔で砲撃できるか!!これじゃ戦闘装甲車だろ!!戦闘装甲車ならもっと口径小さい機関銃にしろ!!」
えっとそういう問題なの?
この人らの考えてることよくわからないわ~
一方で劣化高飛車お嬢様の安藤も気分がよくなったようで車内から笑い声が漏れてくる。
逃げ惑う愚民を見て優越感に火が付いたのだろうか?見てる分には楽しい人種だけど絶対に関わり合いになったり交友関係を持ちたくないタイプだね、あれは……
「おーっほっほ!機関銃なら当然戦車の嗜みとして搭載していましてよ?」
再びハッチを開けて顔を出した劣化高飛車お嬢様が何かを車内から取り出してハッチの横に設置した。
「げ!?あれってM2機関銃!?」
「ん?何それ有名なの?」
いつの間にか最前線から私の隣まで逃げてきたいろはに聞くと、いろはが信じられないといった顔でこちらを見てきた。
「睦月ちゃん……M2を知らないってそれ本気?」
「ミリオタの常識が一般人にも通じると思ったら大間違いだぞ?」
「睦月ちゃんはもうこちら側の人間なんだから常識を拾得すべき。そんなんじゃ情弱な日本のマスゴミに間違った知識を植え込まれるよ?」
「いつからそっち側の人間になった!あとその偏った思想思考をなんとかしろ!」
ほんとこの異世界魔法少女が日本に来て一体どれだけの時間、どんな書物と思想に触れて知識を得たかが想像できる発言だな?
「偏ってないわい!日本人が見て見ぬフリをしている真実だよ!まぁいいや、あれはブローニングM2重機関銃。登場は第1次世界大戦末期という超古臭い代物なのにいまだに米軍はじめ西側諸国の戦車や攻撃ヘリに搭載されてる重機関銃なの。80年以上たってるのにいまだに現役兵器って正直どうなのよ?とも思うけどまぁ優秀な兵器には違いないわね!でなきゃ現代でもいまだに重宝するわけないし」
「はぁ……まぁ、でも銃なんて基本構造変わらないから80年前だろうが現代だろうか変わらないんじゃないの?」
「はぁ?んなわけないでしょ!兵器は日々進化してるのよ?ハンドガン一つ取ったって昔と現代のじゃ射程も精度も扱いも格段に違うわい!」
いろはがムキになって騒ぎだした。
あーもうめんどくさいからこの話題やめよ……
でも外国の映画とかでよく見かけるマフィアの使ってる拳銃って古いのじゃなかったっけ?
M1911とかなんとか。あれって1911年製って意味じゃなかったっけ?
「ん~まぁいいや……で、あれどうするの?」
「まぁいいやとはなんだよ!!睦月ちゃん」
いろはがまだ噛みついてくるが広場のほうを見るとそっちもなんだか無茶苦茶な状況だった。
「おーっほっほ!!最高ですわ!虫けら共を狩るって最高ですわ!おーっほっほ!」
ハッチ横に設置したM2重機関銃をぶっ放しながら劣化高飛車お嬢様の安藤が高笑いしていた。
すごくハッスルして楽しそうだな。
あー、あれは関わっちゃダメなタイプですね……
搭載したピッチングマシーンから硬球をぶっ放し、車上からM2重機関銃を撃ちまくってハイになる劣化お嬢様安藤の乗るブサイク装甲車の追撃を避けながらミリ研部員が徐々に一か所に集まり始める。
ちなみに、時々カーブやらフォークっぽい砲撃を仕掛けてくるのはピッチングマシーンの性能も試したいのか、ただの故障なのかどっちだろう?
「で、どうします部長?」
スペイン陸軍の装備を着こなしたストーカー山崎が変態メガネに尋ねた。
ちなみにストーカー山崎はやたらデカイ、バズーカー砲のような武器を持っていたがよく見るとバズーカー砲ではなく一眼レフの無駄にデカイ光学レンズだった。
銃持たずカメラ構えてこいつは何してるんだろう?
盗撮だろうか?これは通報しなきゃ!
「うーん、ちょっとまずいかもね。装甲車を舐めてたわ……」
「こっちのBB弾が装甲に弾かれちゃうもんね。貫通させるとか無理!」
「電動ガンでもガスガンでも無理だったし~マジヤバ?」
「ていうか魔改造でスピード上がってる硬球とかくらったらヒットとか悠長に言う前に病院に運ばれそうなんだけど?」
ミリ研部員たちもお手上げといった感じだ。
そんな中変態メガネが神妙な面持ちで突然妙なことを言いだした。
「関東軍満州独立守備隊……」
変態メガネがそれだけ言うとミリ研部員たちが一斉にザワつきだす。
「部長、それマジっすか?」
「では他に何か妙案はある?」
「パンツァーファウストかジャベリンを持って来れば……」
「ゴリアテで攻撃は?」
「それ今ある?」
「それは……ないっすね。ア●ゾン先生で注文しても届くのは明日以降」
「じゃ決まりね」
なんか急に空気が重くなったんですが、どうしたんですか皆さん?
「あのー何する気なんですか?」
「睦月ちゃん満州独立守備隊知らないの?」
「知らないよ?」
質問した隣でいろはが驚いた顔で言ってきた。
だからミリオタと一般人を一緒くたにするなとあれほど……
「睦月ちゃん……ミリオタ云々以前にこれを知らないって日本人としてほんとにどうなの?」
「異世界軍事オタク魔法少女に日本人としてどうなのって言われたくないんですが……」
いろははため息をつくとどこからともなく日本史の教科書を取りだしてページを開いた。
「睦月ちゃん、シベリア抑留って言葉知ってる?教科書にも載ってるワードだけど?」
「それくらい知ってるわよ、中学でも習うレベルなんだし」
とは言ったものの高校受験の日本史知識はほぼ丸暗記で今は完全に忘れちゃってる。
まぁこれは黙っておこう……
うん、だって授業で習う日本史って結局近代以降は受験にはあまり出ないか比率が低いからって学期末で時間ないからやらないじゃん?
近代日本史も戦中戦後史までいかないし……仕方ないよね?
日本の教育が悪いのだ!
「じゃあ最も抑留された人たちが多かったのってどこでしょう?」
「どこが多かったって……無条件降伏したんだから連合国が日本兵捕虜分配したんじゃないの?」
「……それ本気で言ってる?」
「へ?違うの?」
そんなこと受験勉強のための日本史で習うわけないでしょ?
いや、資料集には載ってたのかもしれないけど……
基本単語表丸暗記だったしな~
「多かったのは満州だよ。そもそも最初はソ連への宣戦とシベリア侵攻も案としてはあったけど南方作戦が決定してソ連と不可侵条約を締結してからは満州に配置されてた関東軍の精鋭部隊は軒並み南方戦線に送られたからね。ドイツ降伏後にソ連軍が徐々に極東方面に軍備を集結させつつあることを情報としては掴んでいながらも大本営はソ連が中立を保って連合国との停戦仲介をしてくれると信じて満州の軍備を増強はしなかったの。国内で燃料の備蓄がヤバくなってきたらソ連が欲しがってるらしいって情報だけで残存戦艦、空母と交換でソ連から燃料もらおうってお花畑満載な案まであったしね……で大戦終結直前の45年8月9日に一方的に不可侵条約を破って参戦してきたソ連軍。まぁこれには諸説あるけど、先に大演習でソ連に喧嘩売ってたの日本って説とか…まぁそれは置いといて、とにかくソ連軍に対抗できる力は満州守備隊にはなかったわけ。だからたった2日でほぼ満州全域にまで侵攻されて千島列島、南樺太、朝鮮半島もあっという間に攻め込まれたのよね。で、そんなソ連軍に対抗する術がなかった満州守備隊がとった行動が特攻なのよね」
「特攻って……」
特攻と聞いても誰しもが最初に思い浮かぶのは神風特攻隊で、ゼロ戦なんかの飛行機でアメリカの戦艦や空母に自爆突撃する映像だろう。
夏に近づけば絶対どこかのTV局は終戦何周年という特集番組組むから特に見る番組がなくても無意識にTVをつけてれば目に入ってくる。
「でも特攻って海上目標にするものじゃないの?」
「いや、地上特攻もあるよ?ん~まぁ日本人はなぜかゼロ戦好きだから特攻映像見たら何でも「ゼロ戦特攻シーン」って言っちゃう病気患ってるけど特攻に使われた航空機はゼロ戦以外にも旧式のものから新型機、輸送機、偵察機、爆撃機、練習機なんでも使ったからね~桜花や剣なんて特攻するためだけに専用に開発された航空機もあったくらいだし。あと人間魚雷の回天に木造の水上特攻艇の震洋も相まって特攻は海軍ってイメージがどうしてもあるけど、陸軍の特攻も相当なものだし四式肉薄攻撃艇とか」
「でも満州って大陸でしょ?ソ連軍は湖にボート浮かべててそこに特攻したの?」
「何そのオーストリア海軍とスイス海軍の演習風景……まぁ航空機でのソ連軍戦車に対する特攻もあったけどね」
あーそう言えば夫婦で航空機に乗り込んでソ連戦車に特攻したって話をドラマで見た気がする。
「航空機も戦車もない満州守備隊がソ連軍戦車に行った特攻は人間爆弾ね」
「人間爆弾って……テロリストがよくやってる服にダイナマイト巻きつけてるあれ?」
「睦月ちゃん、それは3流アクション映画の見過ぎじゃない?」
いろはが呆れた顔で言ってきた。
ものすっごく腹が立った。
うん、それ、いろはにだけは言われたくないセリフだな?