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3.寝具を調達しよう


 前回のあらすじ 前より安全な住居と食料を手に入れた。


 ▼


「んー文句を言える立場じゃないんだけどー。……微妙」


 蟻の魔物からドロップしたという先入観をなるべく捨て、ビンに入ったシロップを飲んでみる。 その味は想像以上でも以下でもない。 見た目は透明な液体だけどかき氷でお馴染みのブルーハワイの味がした。 


 普通の人ならシロップ単独なんてコップ一杯分も飲みたくないでしょ。 丸一日以上ぶりの食事だからだけどよく全部飲んだ、私。

 

 シロップを飲み干した私は同じ液体とはいえ水以外のものを口に出来た安心感からか急に眠気が襲ってきたので住居に戻って眠った。


 次の日という言葉が正しいのかどうかわからないけど起きると身体に違和感があった。 最初はシロップの毒性を疑ったけどそうじゃなくて体内の魔力量が寝る前と比べて明らかに増えていた。 この現象には覚えがある。 私以外の5人の内、同性は2人いたけど彼女たちが実戦訓練から帰って眠った次の日、今の私と同じよう状況になっていた。 


「これがレベルアップ」


 まるでゲームの世界のような概念。 皆が実戦訓練でレベルアップを体験している中、私だけはずっと魔力操作訓練をしていたので、まるで物語の外側にいる気分だった。 だけどようやく自分で体感する事が出来た。 感無量という訳じゃないけど命がかかったこの状況で魔力が増えてくれるのは正直とても有難かった。 

 その時ふと、講師の話が頭を過ぎる。


「確か、身体がレベルアップを求めると急激に眠くなっちゃうんだよね」


 道理で昨日はいつもより早く眠くなった訳だ。 てっきり初めての戦闘?をしたから身体が疲れちゃったのかと思っていた。 

 

「うーん。 レベルアップを考えると住居からずっと離れちゃうのは怖いな」


 眠気が我慢出来るかと言われると多分出来る。 だけどそのせいで最適な判断が常に取れるかと言われると正直厳しい。 理想は眠気を感じた直後には住居に戻っておきたい。

 そこまで考えを巡らせた時点で気付く。


「あ、だから冒険者がダンジョンにいないんだ」


 一度足を踏み入れ奥へ奥へと進んで行って、そこでレベルアップなんてしてしまったら帰還までのリスクが上がってしまう。 他の仲間がいればリスク緩和が出来るかもしれないけど、逆に他の仲間のレベルも上がってしまったら最早目も当てられない。 強くなる為の要素が一転して最大級のピンチになってしまうというもどかしさがレベルアップにはあった。 それこそ、私みたいに「ダンジョン内に住居を構えよう」なんて発想がなければ帰還手段が乏しいダンジョンに立ち入る人間が多いはずがなかった。


 全てに納得がいったところでこれまでの「冒険者と魔物を警戒しながらダンジョン内を探索する」というモードから「魔物ときどき冒険者を警戒しながら探索する」というモードに思考を切り替えた。 2つのモードに何か違いがあるのかと聞かれたら答えに迷うけど、こういった思考の切り替えは昼夜もわからないダンジョン内でマンネリ化を防ぐ為の重量な要素だと思う。 まだ3日目だけど。


 レベルアップの危険性に気付けた私はそこから蟻以外の魔物も誘き寄せては落とし穴に落とした上で土壁で押し潰す。 その後ドロップ品の回収をしながら土壁を消す。 という作業を眠たくなるまで繰り返し行っていった。 ほとんどの魔物が単独行動なので1匹ずつ処理していたけど偶然2匹纏めて落とし穴に落とせた時は結構嬉しかった。


 そんな生活を何日も繰り返しているとやはりというべきかレベルアップによる急な眠気が来るサイクルがどんどん長くなっていった。 予想通りレベルごとに必要な経験値が増大していった結果だと私は思っているし、実際それが正しい思う。

 私が住居を構えるフロアには蟻型の魔物の他に動作は遅いけど攻撃範囲が広い芋虫型の魔物と敵を見つけると身体を丸め転がってくるダンゴムシ型の魔物がいる。 その中で食料品のドロップがあるのは蟻とダンゴムシの魔物だけ。 これも講義の情報通り。 とはいえ念の為芋虫型の魔物も何十匹と倒している。 情報を疑う訳じゃなかったけど、ダンゴムシ魔物がドロップする紫色の団子の匂いが余りに酷いのでそれに代わる食料品を求める為に万が一の可能性をかけて倒し続けた。 勿論食料品のドロップはなかった。 ちなみに今でこそ団子の匂いは慣れたけど、最初は匂いを嗅いだ瞬間全身から拒絶反応が出て、それでも無理矢理口に近づけた瞬間胃の中のものを全てぶちまけた。 それほどの匂いだった。

 

「んぐ……んんんん……んーん……ん!」


 涙目になりながらも団子を食べきった。 


 頑張った私! ここ数日団子を避けるようにシロップばかりの生活だったけど、久しぶりに食べてみると匂いはともかく味は悪くない、と思う。 もしくは私の味覚レベルが極端に下がったか。 後者のような気がする。


 さて寝ようと思い、ふと改めて部屋を見渡す。 狭めに作った部屋にどんどん積み重なっていく魔物のドロップ品。 段々と部屋の中を侵食していく。 食料品は除いているのでほとんどは体の部位。 一度はどこかに捨ててしまおうかと検討したけどこういった素材はどこかのお店で売れると聞いていたので「いつか地上に出た時に」という貧乏性が働き踏み切れずにいた。


「これが蟻の足で、これがダンゴムシの目で」


 特に意味もなく種別ごとに並び替えを始める。 最近は、寝て起きて誘って落として潰して拾って食べて寝るというどこら辺にJDどころか女性要素があるんだろうという生活を繰り返してたので、整理整頓はとても楽しい。 その中に用途不明のドロップ品が紛れ込んでいた。


「なんだっけこれ」


 私が手にしたのは真っ白で大き目のナスのようなジェリービーンズのようなもの。 蟻やダンゴムシのドロップじゃないのは確実なので恐らく芋虫型魔物から食材が取れるか実験していた時のものだろう。 かなり強い弾力性があり触感で思い切り噛んでみても割れない。 何の目的で使うものなのか皆目見当もつかない。


「もしかして!!」


 天からの祝言が突如降りてきた。 栗もウニもクルミもヤシの実も、硬い殻に阻まれている中身は凄く美味しいもの! ならばこれも外側の膜さえ突破出来れば中身はとても美味しいのではないか。 瞬間的に私はナスのような素材を地面に置き思い切りお尻で押し潰してみる。 だがヤツの中身は全く弾ける素振りを見せない。 むしろ久しぶりの弾力性のある物に座れて身体が喜んでいる。 しかし私はヤツの誘惑に負けない。 美味しいものを食べるんだ! 私は土魔法で土壁を作り出し素材を押し潰そうとした。 もし本当に押し潰された場合、その時点で食べれる物じゃなくなっている事に土壁を倒してから気付いた。 美味しいいものの魔力、恐るべし。 


「嘘でしょ」


 私の予想を裏切り、その素材は土壁の力をもってしてもその原型を保ち続けていた。 この時点で私の敗北が決定した。 サヨナラ美味しいもの。

 全てに絶望しながら土壁を片付け、白い素材を手に取る。 これの上に座った感触を思い出し一つ溜息をつく。


「せめてもっとたくさんあればソファの代わりにもベッドの代わりにも……。……っ!!」


 天からの祝言が3分ぶりに降りてきた。


「そうだよもっとたくさんあれば! そうすればソファもベッドも思いのまま!」


 一気に眠気が吹き飛んだ私は芋虫型魔物を求め、ダンジョンに飛び出した。 その白い素材はどうやらレアドロップ品らしく10匹に1個の割合でしか入手出来なかったけど、アドレナリンが出まくっている私の前にはほんの誤差でしかなく、3日程で必要数を集めきった。


 寝ている間に素材がバラバラにならないよう、ほんの15センチほどの土壁を私の身体のサイズに合わせて四方に作りその中になるべく隙間ができないように白い素材を敷き詰めてゆく。


「できた! できた! できたぁ!!」


 この世界に来て以来、最もハイテンションになっていた私は、ダンジョン生活で初となる自家製家具を手に入れ早速横になってみる。 その弾力というか反発力は想像していたものよりも強く「寝心地最高!」とまではいかないまでも、今までの地面に直寝よりは余程心地良いものだった。 ベッドが完成したその安堵感からか、その弾力を満喫しきる前に私の意識は急速に遠のいていった。

   

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