石畳の光景
夢だったのか、本当だったのか。さっぱり分からない。
あの世界をもう一度見てみたいと、不意に思うのだ。
長くつづく、一本の道があった。石で敷かれ、古代ローマ人が
通る姿を想像した。あたりには、誰も居ないどころか、見回せば
水平線ばかりが見える。空は青く、白い雲が昼寝をしているように
ちらほらと横たわっている。
自分は、死んで天国に来たと確信したのだが、風は気持ちよく
道の周囲には活き活きとした草がなびいていた。身をかがめ触って
みると、指に雫が転がってくる。生きていた時より、健やかに
生きている気がして余計に意味が分からなかった。
どこまでも石の絨毯を歩いていく。終点は見えない。
そこでは、生きることと、歩き進めることは同じだった。
ずっとこのまま、歩くだけの人生が続いていけばいいと思った。
疲れることもなく、気がつけば石畳の光景は消え、あれが
いつ、どこの場所かは見当もつかない。
テレビを見ていると、古代ローマの遺跡をめぐる謎を
特集していた。少し似た光景が映り、地面にどのように
石が埋められているかを解説している。そこに映りこんだ
足跡は、自分の靴のものではないかと思った。しかし、生えている
草はしなびて風に揺られているだけで、あの世界のものとは
まったく違うと分かる。
もうちょっと先の未来に、また同じ光景を見れる予感がしている。
時間も場所もわからないのだ。どこからでも行けるチャンスが
あるのだと思い、なんでもない日常に、訳もなく期待を持ち続けている。