お腹を空かせたヴァンパイア
ある時、ある村を囲う森に一匹のヴァンパイアが住んでいた。
初めて目撃されてから人々は彼を恐れ続けている。
村長が夜中に外を出歩いてはいけないという掟を作ってから犠牲者は出なかった。
しかし警戒はいつも続いていた。
「いいかね、奴は常に腹を空かせていることだろう。誰も襲われてないからと言って決して夜中は外に出るでないぞ!」
ヴァンパイアは今か今かと誰かが外に出るのを舌を長くして待っているに違いないと村長は村中に言い聞かせた。
__そんな中、少年ユカは森中の池に昼間釣りに出かけていた。
「なかなか釣れない、これじゃあ退屈だよ」
彼は日が落ちるまで昼寝をしてしまった。
目を覚ますころにはあたりは真っ暗になっていて下手に動けば木の根に足を取られ池に落ちてしまうだろう。
「大変だ、早く帰らないとお母さんに怒られるぞ」
大急ぎで手持ちのランプに火をつけ少年ユカは真っ直ぐ家に向かった。
「ひひひ、人間だ。人間だぁ!」
突如目の前に背が高くやせ細った男がどこからか彼を押し倒した。
血の気を感じさせない青白い肌、オオカミのように鋭い牙、ユカはすぐにその男がヴァンパイアだと分かった。
「ヒヒ久々のニ人間、ニニ人間、ヒ久しぶりに、ミ見た、ひひひ」
「うわっ、助けて。誰か助けて!いやだ、食べないで!」
男は腕をガタガタと震わせてユカの胸倉を掴むと叫びだした。
「違う、お前じゃない!チョークが食べたいんだ!氷も欲しい!木炭、紙!寄越せ!持って来い!」
__長いこと人間の生き血を啜ることができなかったヴァンパイアは異食症に陥っていた。
貧血にはどうぞお気を付けて。