11話 食事
恐怖だった。死ぬかと思った。命が助かった今でも震えが止まらない。
「どったのコオリっちー、そんな怖い顔しちゃダメだぞー。プンプン」
キララ姫ちゃんが話しかける。
「すまない。心配をかけたな」
「ちょっと外で涼んで来ちゃいなよー」
キララ姫ちゃんに言われ部屋を出る。
食堂に着くと
「コオリちゃんおかえりー」
「おかえり、おかえりー」
双子のゴブリンが出迎えてくれた。
「ああ、ただいま」
「随分と早かったな」
カウンターの中からマスターが話しかけてくる。
「申し訳ありません。マスター」
コオリが失態を詫びていると
「気にすんな、まだ終わったわけじゃないだろ」
マスターがそれを制した。
「これでも飲んで少し落ち着け」
そう言って差し出されたのはグラスに入った緑色の液体で、その上にはピンクの泡が浮いていた。
グラスを受け取ると、コオリはそれを一気に飲み干した。
「少しは落ち着いたか」
「はい」
「そりゃ良かった。まあ気楽にな、ぼちぼち頑張れよー」
そう言ってマスターは新聞に目を向けながらコオリを送り出した。
再びビルが立ち並ぶ世界にきていた。アレからそれ程時間は経過していなかったが怪鬼の姿は何処にも見あたらなかった。
耳元の通信機に向かって話しかける。
「姫。応答願う」
しかし通信機から聴こえて来たのは
「姫ちゃんならいないよー」
というリリィの声だった。
姫が席を外すのは珍しいな。そう思いながら通信機の向こうにいるリリィに話しかける。
「怪鬼の位置情報はわかるか?」
「んーと、ちょっとわかんないー」
「ちょっと待っててー」
そう言い残してリリィは何処かへと行ってしまった。遠くの方でバタンと扉の閉まる音が聞こえた。言われるがままに暫く待っていると
「このクソ忙しい時に一体どうしたー、新聞ならもうとらねえぞー」
通信機の向こうからマスターの声が聴こえてきた。
「マスター。私です。コオリです」
「なんだコオリか、俺に何の用だ」
「姫はどうしたのですか?」
「あー、アイツなら緊急の用事が出来たとかで今いないぞ」
仕事を終えたサラリーマンがほろ酔い気分で街を歩いていると悲鳴が聞こえてきた。こんな街だ。喧嘩かそれとも痴漢か分からないが何かあったのだろう。関わらない方が身の為だとサラリーマンは無視する事に決めた。暫くすると女性の悲鳴は聞こえなくなった。
そして、突然サラリーマンの視界が何かで遮られた。
思わず息をのんだ。
脳がそれを理解するのを拒んでいるのが自分でもわかる。
だが、視界はそれを捉えている。捉えて目を離せなかった。
長い髪の女の生首が、長い髪を逆さまにして宙に浮いているのだ。いや、浮いているというよりかは逆さまになった髪の先端を何かに留めながら宙吊りになっているような感じだった。そして髪の先端から何かに飲み込まれるかのように消えていった。その度に揺れながら生首が上昇していく。やがてその生首も何処かへと消えていった。
ポトリと足元に何かが落ちた。ふと下を見ると、そこに落ちた女性の眼球と目があった。