プロローグ
夜の街に男がいた。男の名は透間幽莉高校生だ。
髪を金色に染め鋭い眼光で目の前を睨んでいた。右手の拳は血で薄汚れていたがそれ以外の場所はとても綺麗だった。
ペッと唾を吐き捨てる。それは足元に転がっている別の男にかかったが、その男は何も言い返さなかった。いや、言い返せなかったのだ。
その気絶した男の服の中から財布を抜くと幽莉はその場を後にした。
「待て」
夜の街を駆ける者がいた。先ほどのセリフからして何かを追いかけているのだろうか
その前方には異形の者が見えていた。
「怪鬼の方はどうだ」
耳元の通信機から男の声が入ってくる。
「今目の前にいます。もうすぐ追いつきます」
通信機の向こう側にいる誰かにそう答え、加速する
刹那。怪鬼と呼ばれたそれの上空に辿りつくと、脚が光りだした。
ピキピキと音を立てて右脚に氷を纏う。
「氷槍」
鋭く尖った氷の塊が出来上がり
「氷柱落とし(フリーフォール)」
重力に任せて落ちていく。
暫く歩くと幽莉はアパートの前にいた。しかしそれは幽莉の家ではなく、友達の家でもなかった。
アパートの中から誰か出てくる。体のラインを強調した薄着の女だ。その女は幽莉に気が付くと手を振った。
「幽莉―こっち、早く来てー」
「悪りー悪りー、ダチの財布取り返してたら遅くなった。今行くから部屋で待ってろ」
歩きながら返事をした。
その瞬間だった。
空から何かが降ってきた。
血のような何か、
生温かくどこか気持ちの悪いもの、
そして、それに混じってそれとは別の冷たいものが幽莉の身体にかかった。
「マスター」
通信機に向かって話しかける
「どうしたコオリ。怪鬼は倒せたのか」
「怪鬼は倒せたのですが」
コオリと呼ばれたその少女は慌てた様子で答えた
「この世界の人間に影響が出てしまいました」