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第八話


 小屋の周囲には鳥がいるようで、心地よい朝のさえずりが聞こえてくる。森の中にあるおかげか空気も澄み渡っていた。


「結界は問題なく作動していたようだね」

 目を閉じて探知魔術で小屋から森の入り口までの魔物の気配を調べるが、反応はゼロだった。

「さて、いこうか」

 満足げに頷いてから目を開け、清々しい空気は街へ向かう優吾の足取りを軽くさせていた。





 街へたどり着き、昨日と同じく商人ギルドカードを提示して街の中へと入る。

 入り口の衛兵に錬金術師の店の場所を聞いていた優吾は、真っすぐその店へ向かって行く。


 教えられたとおりの道順で進んで行くと、一軒の店に辿りつく。その店にはポーションの瓶のようなイラストが描かれた看板があった。

「ここか……とりあえず入ってみよう」

 カランカランとここでもドアについたベルが音を鳴らして客の来訪を店の中へと伝える。


「はい、いらっしゃい」

 カウンターの奥にいたのは、妙齢の女性だった。


「すいません。こちらでは、ポーションの買取などはしてもらえるでしょうか?」

 武器商人としてやっていた頃のことを思い出して穏やかさを心掛けつつ優吾が女性店員に質問すると、彼女は笑顔で答える。

「もちろん! 品物の鑑定はこちらでやるけど、それが良質のものだとわかれば問題なく買取するわ。ポーションだけじゃなく、錬金術に使うような素材もね」


 気をよくしたような彼女のそれを聞いた優吾は次の質問に移る。

「それじゃあ、鍋とポーション用の小瓶はこちらで買えますか?」


 今度の質問にも笑顔で女性店員は大きく頷いた。

「他の細々したものもここで買えるよ。必要なものがあったら言ってちょうだい」

 その返事を受けて優吾は彼女に必要なものを伝えて道具をそろえていく。


 最初に伝えたポーション用の瓶と鍋、それ以外にも一通りのものを用意してもらい、金を払ったところで、色々かい揃えることが気になったのか店員が優吾に確認する。

「それで、あんたは腕に自信はあるのかい?」


「うーん、しばらく作ってないから徐々に感を取り戻す感じですかね。そうだ、ここのポーションを参考に一本買っていきますね」

 困ったように笑いながら優吾はそう言うと、何気なく近くにあった棚に置かれたポーションを一本手にする。


「どうだい? うちのポーションもなかなかのものだろ? なにせあたしが作ってるんだからね!」

 じっとポーションの入った瓶を見つめる優吾に女性店員は胸をはってどうだ! と言わんばかりの表情で聞いてくる。


「……えぇ、いい品です。こちらを参考に作らせてもらいますね」

 見つめている間に優吾はポーションを鑑定魔術で確認していたが、その結果を表情に出さないようにして顔を上げると笑顔で応えた。


「それでは、こちら代金です。また寄らせてもらいますね」

「あぁ、さっきも言ったかもしれないけど質のいいものは高く買い取らせてもらうからどんどん持ってきてくれていいわ。まあ、そんなに良質だったら自分で売ったほうが儲かるかもしれないけどね」

 一気に買い物をしてくれた上客の優吾に女性店員は二カッと笑顔で言った。


「あー、そうだ。私は錬金術師ギルドに加入していないのですが、それでも大丈夫ですかね……?」

 商人ギルドは売買の許可をとる際に入らなければいけない。

 もしかしたらポーションなどの作成をするのに錬金術師ギルドへの加入が必要なのでは? そう思って、今更ながら不安そうに優吾が尋ねる。


「はっはっは、大丈夫だよ。錬金術師ギルドは情報の共有や、素材を安価に買うためにあるようなもんさ。大体いくつも並べられたら誰が作ったのかなんてわかりゃしないんだから、大丈夫よ!」

 大きく笑った女性店員が親指を立てて答えた。


「そうですか、それなら安心しました。もしできたらこちらに持ち込ませてもらいますね。申し遅れましたが、自分の名前はユーゴといいます。よろしくお願いします」

「おや、礼儀正しいねえ。私の名前はキセラだよ、よろしくね」

 笑顔で二人が名乗りあうと優吾は一礼して店をあとにした。






 たくさん増えた荷物を抱えて店を出ると、優吾は自然な足取りで人混みを抜け、路地裏へと入って行く。

「まずは荷物をっと」

 空間魔術で荷物格納用のエリアを作り、そこへ買ってきた荷物を収納していく。

「――しかし、これにはまいったなあ」

 そう言いながら最後にしまったのは店で購入したポーションだった。


「まさかあれくらいでいい品と判断されるとは思わなかったね……」

 優吾が確認した限りでは、前世で彼が使っていたものと比べると数段ランクの下がる品質であったため驚きを隠せずにいる。


 あれだけ清々しい雰囲気を持つキセラが優吾をからかったり、冗談を言っていたりするようには見えず、他に並んでいる道具類や素材の品質は良いものであったため、彼女の目が曇っているとも思えなかった。


「少し調整してつくったほうがいいね。あまりに強力すぎると問題がでそうだから……」

 優吾はそのことを肝に銘じながら街をあとにする。

 三百年前と今のずれはもしかしたら冒険者の質だけではないのかもしれないと思うと、うかつに全力は出せないなと思案にふけっていた。






 森までの道を歩いていると、前方に何かが見えてくる。何か嫌な予感がした。

「あれは……?」

 まだ距離があるため、遠くを見ようと注視しながら優吾は視力を魔術で強化する。

「――っ! まずい、急がないと!」

 優吾がそう口にした時は既に脚力を強化して走り出していた。


 彼の視線の先に見えたのは獣人の子ども――その数は三人。

 更に三人の前にいたのはゴブリンが同数の三体だった。


「くそっ! こいつら、なんでこんな場所に!」

「だ、だから早く帰ろうって言ったんだよ……」

「お、俺がなんとかするからお前たちは逃げろっ!」

 三人は口々にそれぞれの思いを口にしているが、逃げるのか戦うのかハッキリとせず動けない様子だった。最後の子が前に出て二人を守るようにしているが、武器などは持っていないようだ。


「ゴブゴブ!」

 待ちきれなくなった様にゴブリンが飛び上がって片手剣を振り上げる。それを見た子どもたちは、怯えた表情で身を竦めて目を瞑り、しゃがみこんでしまう。


「そのまま伏せていなさい!」

 優吾は子どもたちに声をかけると攻撃態勢に入っているゴブリンを走ってきた勢いそのままに蹴り飛ばした。


「グギャアア!」

 その一体は叫び声をあげて後方に吹き飛び、そのままビクンと一度大きく動くとその生命を終える。脚力を強化している優吾の一撃はゴブリン程度では耐えられるものではなかった。


「残り二体――《飛べ氷の矢》!」

 魔術で氷の矢を二本生み出すと、残ったゴブリンそれぞれに放っていく。

 まるで風のように現れた男が、仲間をあっという間に倒し、更に魔法を放ってきた。それはゴブリンになんの対応する暇も与えないものだった。


「ギャアアッ!」

「グエエエエッ!」

 成すすべなく二体は身体に氷の矢が突き刺さり、そのまま氷漬けになっていく。


「ふぅ、こんなものかな。これならグロくないからいいよね。邪魔なこいつらは……よいしょっと!」

 一息つくと筋力を強化して氷漬けのゴブリンを道から外れた草原にぽいっと投げていく。ついでに先に倒れたゴブリンも一緒に草原に投げておいた。


 あまりに一瞬の出来事に、その様子を子どもたちは終始口をあけてポカンとした表情で見ていた。


「君たち怪我はないかな?」

 振り返った優吾が子どもたちに目線を合わせるようにひざを折って穏やかな声音で質問すると、三人は勢いよく首を縦に振っていた。

「そいつはよかった」

 二コッと優しく笑った優吾に子どもたちの緊張は解け、その場にへなへなと崩れていた。




お読みいただきありがとうございます。

よろしくお願いします。

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