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第七話


「……いらっしゃい、何にする?」

 髭を生やし、筋肉隆々の肉体でグラスを拭いているマスターが注文を聞いてくる。

「エールを一杯、それと軽くつまめるものをお願いします」

「あいよ」

 マスターは注文を受けると、手際よく用意を始める。カウンターの内側にコンロのような魔道具が用意してあり、そこで豆を炒り始める。


 しばらくそれを見ていると、エールと炒った豆が皿にのって出てくる。

「はい、お待ち」

「ありがとうございます。それと、このあたりの地理について少し教えてもらえませんか?」

 優吾はエールと豆の料金としては少し多い金をテーブルにのせる。


「ふむ、わかってるようだな。……いいだろう、俺もここに店を構えて長い、なんでも聞いてくれ」

 目を細めてマスターは少し機嫌よくそう言った。

「この街の東に川が、更にその上流には谷があるのは知っているんですが、この街に来たのは初めてなので街の周囲の立地や他の街がどこにあるかを聞かせて下さい」


 初めて来たのに街の情報ではなく、周囲の立地ということにマスターは少々訝しむが、それでも優吾が望むものを答えていく。

「この街の東はあんたが言う通りだ。他にも獣人の娘が住んでいるなんて噂も聞いたことがある。ここから南にずっと行けば港町に辿りつく。あの街の魚料理は絶品だぞ」

 絶品という言葉を聞いて優吾はいつか行ってみようと心の中で思う。


「北に行くと、ここよりデカイ街があるはずだ。城下町でな、店も多い、職人も多い、人も多い、立ち寄る旅人や冒険者も多い。ただ、王が人族なだけあってこの街とは違って他種族には差別も多いはずだ」

 マスターに言われて気づく。確かにこの街は人族に限らず多岐にわたる人種がおり、差別はないように思えた。


「西に向かうとあれだ、森がある。ただ、あんまり有用なものが見つからないから冒険者も立ち入らない場所だな。それほど強くはないが魔物がでることもあってか、街のもんも近寄るやつはほとんどいないな」

「なるほど、それは都合がいい……」

 優吾の呟きはたまたま酒を飲んでいた客の突然沸いた喧騒に紛れ、マスターの耳には届かなかった。


 優吾はそれからしばらく街のことを聞きながらエールと炒り豆を楽しんでいた。

「それじゃあ、そろそろ行きます。色々と教えてくれてありがとうございました」

「そうか、また来てくれよ。夜にはもっとちゃんとした料理も出してるからよ」

 昼間から酒を飲むような者は荒くれ者や、朝の依頼を終えた冒険者くらいであり、優吾のように礼儀のあるものは少なかった。


「はい、それじゃ失礼します」

 酒が入っても口調の変わらない優吾の言葉にムズ痒くなったマスターは身体を掻きながら見送った。






「さてと、まずは西の森に行ってみるかな」

 人が近寄らない森というのは、隠遁生活を送る上ではちょうどよかった。自分の力を恒久的に隠し続けるつもりはなかったが、どれほどの差があるか把握しきれていない内は探り探り対応をしたほういい。そう考えた上での判断だった。


 街の西門から優吾は出て行く。身分証明書として、商人ギルドカードを作成したため、今度はすんなりと門から出ることができた。

 教えられたとおりに西門を出て真っすぐ道なりに進んで行くと、話にあった森に辿りつく。


「ここか、確かに魔物がいるみたいだね」

 優吾は探知魔術で魔物の気配をサーチしていく。


 しかし、魔物といっても優吾から見れば動物と区別する必要がない程度のものしかいないため、悠々と森の中を歩いていくことになる。冒険者だけでなく、魔物も弱くなったように感じられた。


 念には念を入れてその道中の道のわきに一定間隔で魔物よけの魔術を設置していた。この魔術は使用した術者の力量に応じて魔物を一定範囲内から遠ざけるものになっている。


 優吾の力量であれば、それこそこの森にいる魔物の上位個体であってもおいそれとは近づけないほどの力を持っていた。

 それを続けていき、しばらく進んだところで道が途絶える。この道は昔、森の奥に何かがあると言われていた頃に当時の冒険者たちが苦労して切り開いた名残であり、それも道半ばにして断念されていた。


「それじゃ、このあたりでいいかな……資材を用意していこう」

 優吾は手に魔力を込めて目の前にそびえたつ木を手刀で切り倒していく。魔術によって元々高い身体能力も更に強化されているため、あっという間にスペースが出来上がっていた。


「あとは、これを掘り起こしてっと」

 土の魔術を使い、根を掘り起こすと、はじに移動させていく。ここまで一時間と経過していない。

 それが終わると今度は風の魔術で大木をスパッと切って素材の切り出しを行っていく。

「さすがに家なんて作ったことないから、雨風がしのげればいいかな……」


 そんなことを呟きながらも優吾は土台から作っていく。

 まずは四本の木枠をつくり、そこに長い板を乗せていく。接着には土魔術の応用で粘着性の高い土を生成しそれでくっつけていく。

 次に壁、屋根と取り付けていき、一応の形は小屋になっている。

 さすがにこのあたりは専門外の作業であるため、なんとか小屋に見えるだけで十分だった。


「ふう、だいぶ時間がかかったかな」

 昼間から始めた作業だったが、既に日は落ち夜中になっていた。

 うっすらとにじんだ汗を拭った優吾は扉をあけて小屋の中に入って行く。


「うむ、我ながら悪くないね」

 自画自賛する優吾だったが、他者から見ても一日で建てたとは思えないほどしっかりとした作りだった。


「しまった、小屋を建てることだけ考えてベッドがなかったなあ……仕方ない、用意するか」

 ちょっと抜けていた自分に苦笑しつつ、それから簡易型のベッドを作成して寝る優吾だったが、急ごしらえで布団がなかったため、翌朝起きた時には身体がギシギシと音をたてていた。






 翌朝


「あいててて、やっぱり布団を買う必要があるなあ……毛布もあったほうがいいかな」

 きしむ身体をさすりながら街で購入しなくてはいけないものをピックアップしていく。

「その前に、街で売れるものを用意しておかないと」

 今のままではダンテ時代の金を食いつぶすだけの生活になってしまうため、何か金策手段を考える必要があった。


「俺が作れるものとなると、ポーションあたりが妥当なんだろうけど……買い取りをしてくれる店があるといいなあ」

 優吾は賢者時代に魔術やそのほかにも色々な研究をしており、その時に錬金術も学んでいた。

「鍋と材料と、あとは細かい道具にポーションをいれる瓶が必要っと」

 こちらも必要なものとしてピックアップされる。


 優吾は自分が呟いた言葉を魔術でメモに転写している。これは彼オリジナルのもので、口に出した言葉に魔力を乗せてそのまま紙に写していくものだった。

「それ以外には……食料が必要だね。料理はおいおい考えるとして、最低限の食料と水を確保していこう。その他のものは金が稼げるようになってからかな」

 考えていくと一人暮らしとはいえ必要な物が多く、一度に全て用意するのは難しかった。


「まずは街に向かうか」

 起きて頭を動かしている間に身体のきしみも収まってきており、優吾をでかける気持ちにさせていた。

 さっそく彼は扉を開けて小屋から外へ出て行く。


お読みいただきありがとうございます。

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