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第二十話




「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 最後の言葉がどういう意味なのか問おうとするリーネリアだったが、ダイアはその声に振り返ることなく、さっさと家を出て行ってしまった。


「もう! 気になることだけ言っていなくなるんだから!」

 帰ると決めた彼はもうすでに見えないところにいるらしく、リーネリアは頬を膨らませながら開いた扉を閉じ、扉に向かって不満の声をぶつけていた。


「二人がどういう関係なのかはわからないけど、彼の目を見る限り、あれはリーネリアを心配しての助言だったのがわかるよ」

 優吾は彼――ダイアの最初の態度は良いものとは思っていなかったが、よく見てみれば彼の行動は全てリーネリアのことを思ってのことだと判断していた。


「そう、ですかね? その……具体的には言いづらいんですけど、あの人ダイアさんには小さい頃、色々とお世話になりまして……ユーゴさん?」

 リーネリアが彼とのことを話始めようとするが、優吾の表情が厳しいものへと変わっていたため、彼女は首を傾げる。


「……一つ聞きたいんだけど、普段からこの家に来る人っていうのは結構多い方かい?」

 厳しい表情のまま、優吾はなるべく落ち着いた口調でリーネリアに問いかける。その表情を見た彼女は戸惑う。

「えっと、普段は誰も訪ねてこないです。今日はユーゴさんとダイアさんの二人がいらっしゃったのでとても多いくらいです……」

 それを聞いた優吾の表情は更に厳しいものになっていた。なにか変なことを言っただろうかとリーネリアは不安そうな表情だ。


「――それじゃ、夜になってきたし、こんな時間のお客はお帰り願ったほうがいいみたいだね」

 急に立ち上がった優吾は家の玄関に手をかける。

「えっ? ダイアさん以外にも誰か……っ、この気配……」

 優吾はここに来た時からずっと周囲を風魔法で探知していたため、早い段階で彼らの存在を察知していた。先ほど現れたダイアの部下か何かと思っていたため、最初のうちは放置するつもりだった。


 しかし、彼が帰ってからもその気配がいなくなることはなく、それどころかリーネリアの家への距離を徐々に詰めていたため、優吾は彼らを敵対勢力であると予想していた。


 そして、いよいよ家への距離が近くなってきたため、獣人のリーネリアにも気配を感じられるようになっていた。

 

 ダイアの気配は感じられなかったが今回は感じられる。

 その一番の理由は、そいつらが殺気を放っているという点だった。


「さて、それじゃちょっと行ってくるね」

 ドアノブに手をかけて少し振り返り、へらっと笑った優吾はおつかいに行ってくるくらいの気安さでそう告げると家を出て行った。

 一瞬驚いて固まっていたリーネリアだったが、慌てて引き留めようと閉じたドアを開けようとしたが、中にいる方が安全だろうと判断した優吾が魔術で押えていたため、どう力を入れても開くことはなかった。





 外に出て、登り始めた月に照らされながら数歩歩いたところで優吾は穏やかな口調で周囲に声をかける。

「いるのはわかっているから、でてきたらどうだい?」

 優吾が声をかけるも、森に広がる暗闇に隠れている者たちは姿を現すどころか返事の一つも返さなかった。


「だったら……《大地よ、うごめけ》!」

 優吾が言葉とともにトンと地面を鳴らしたことに反応して周囲の地面が揺れ始めた。

「……う、うおお、なんだ!?」

「うわあぁっ!!」

 そして、急に襲った揺れに驚きよろめいた相手が次から次へと姿を見せる。


「やっと、姿を見せた。反応を見る限り普通の人間のようで安心したよ」

 優吾はよろめく男たちの様子を見て、笑顔になっていた。


「……貴様、何者だ!」

 襲撃者のリーダーらしき男が苛立ちを隠さずに声を荒げて優吾に問いかける。


「いや、何者だってそれはこっちのセリフでしょ。えっと、君たちはさっき来たダイアさんの仲間なのかな?」

 それにしてはずいぶんと荒っぽい態度をとるものだと思いながらも、念のために優吾は確認する。


「はっ、あんなやつと一緒にされては困るな。穏健派の犬とは違って、我々は確固たる信念があって動いているんだ。だから……」

 ダイアのことは知っているようだが、どこか嘲るように鼻で笑うと男が意気揚々と手を挙げる。

「いけ!」

 部下たちに命令するように振り下ろされた男の腕。問答無用で優吾を、そして家の中にいるリーネリアを殺すつもりで襲撃者が動き出した。


「まだ話が終わっていないというところで動き出す。それは虚をつくのにいい戦法かもしれないね。実際俺は話がもっと続くものだと思っていたし」

 襲撃者が飛び出してきても全く動じることなく立ち続ける優吾。

 

 彼に向かってくる男が四人、そしてリーネリアの家に向かった男が三人。

 彼女のいる家からは離れた場所にいるため、優吾を足止めできれば、どれだけ強かったとしてもリーネリアの命を奪うことができる。それが男たちの作戦だった。


「まあ、頭数がいればそういう行動に出るよね――でもさ、それを俺がさせるかどうかっていうのはまた別の話じゃないかな」

 すっと表情をかき消した優吾が指をパチンと鳴らすと、家に向かって行った男たちを風の玉が追いかけていく。


「うお! なんだこれは!?」

 優吾は男たちの行動を何パターンも予想しており、罠をいくつも仕掛けておいた。

 その一つ目がこの風の玉。もし家を先に狙う者がいたら、それを倒すための罠。


 しかし、手練れの男四人は風の玉を避けて家までの距離を詰めていく。そして、家の扉の前までたどり着きけ破ろうとした。


「はい、それはだめでしょ」

 一人で暮らす彼女の家に危害を加えた場合に、その人物を敵とみなして攻撃をするよう、あらかじめリーネリアの家に防御結界を張っていた。それを知らなかったリーネリアは家の窓からそれを見て驚く。


 リーネリアの家をすっぽりと包むように半透明のドーム型の結界が広がっていた。


 そんな時間はなかったはずなのに、優吾は自分を守るためにそれだけのことをやってくれていた。驚きとありがたさの二つの気持ちが心に襲来する。

 彼が強いことは重々わかっていたが、それでも彼の無事を彼女は願った。




「家にはった結界は雷。《守れ、“雷の刃”》」

 彼女を守るように願いを込めて言った優吾の言葉に連動して、家の近くにいる男四人は雷の刃を受けて稲光に襲われ、その場にバタバタと気絶してしまった。


 優吾に向かっていた男たち、そしてリーダーの男はそれを見て口をあけて呆然としてしまう。それが大きな隙だということに気づくのはその数秒後だった。

「遅いよね。《喰らえ、“大地の顎”》」

 男たちが気づいたときには土がまるで何かに噛みつく口のような姿をとり、動きを止めた自分たち目がけて襲いかかってきていた。


 唯一、この攻撃を避けられたのはリーダー格の男だけであり、他の三人は土に身体を拘束されてしまった。


「――貴様、何者だ!」

 先ほどまでは余裕があった男だったが、今度は焦りを含んだ口調で優吾に問いを投げかけた。

 それに対して優吾はにやりと笑うだけだった。



お読みいただきありがとうございます。

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