第十六話
「よいしょっと……それじゃここに置いておきますね」
大量のレンガを手にした優吾は外壁周辺で作業をしている現場の近くにそれらを置いていく。作業員たちはニコニコと嬉しそうに受け取ると彼に手を振って作業に戻っていった。
「さて、次はっと……お、あれにしようかな」
次の場所では巨大な材木を数人で外から街の中に運び入れているのを見て、優吾はそれの手伝いに向かう。
「あの、その木って中に運ぶんですよね? じゃあ、俺も手伝いますね」
男たちが台車を使い数人で運んでいる木をにっこりと笑って優吾は一人で道具を使わずにひょいひょいと複数担いでいく。
「よっと」
さすがに元々かなりの重さがあるため、最初だけややふらつくがそれ以降は安定して運ぶことができていた。
こうして優吾はいろんな資材運びに従事していく。そのおかげで他の作業員の手が空いたため、作業員たちの作業は順調に進んでいた。
運搬用の機械がないこの世界において、資材運びにかかる時間は大きく、それがカットできたことはかなりの効率化が図れていた。途中から手が空いたため別の作業にも手を出していた。
「にいちゃん、すげーなぁ。あんなに思い木材をひょいひょい持ち上げて!」
「木だけじゃないぞ! 外壁用のレンガや石材も軽々と運んでいたんだ。細いように見えるが、一体どんな鍛え方してるんだ?」
仕事がひと段落してみんなが集まると、次々に作業員は優吾のことを褒めていく。
「いえいえ、大したことはありませんよ。みなさんが頑張ってくれるおかげで、街のみんなが安心して暮らせますから。少しくらいはお手伝いしないと」
バシバシと嬉しそうに作業員たちに背を叩かれつつも穏やかに笑う優吾の言葉を聞いて、作業員たちの中には涙ぐむ者もいた。
「にいちゃん……いいやつだな!」
「みんなで飲みに行こうぜ!」
「よし、今日は俺のおごりだ! みんなで飲みに行くぞ! もちろんあんたも来てくれるよな!」
一緒に作業した仲間として男たちは優吾を気に入り、現場監督の男に至っては気前のいい言葉で誘ってきた。
「……もちろんです、ご馳走になります!」
一瞬断ろうかとも思った優吾だったが、せっかく誘ってくれているのと、彼らからも何か情報を得られないかと考えて受けることにした。
想定よりずっと早く一仕事終えて盛り上がる宴は夜半まで続いた。遅くまで酒をしこたま飲んだ作業員たちは千鳥足で家に帰ったり、その場でダウンしたりと様々だった。それを横目に優吾は現場監督に礼を言ってから自宅へ戻る。
そのつもりだったが、昨日の魔物たちが急に現れたことや光を見たという話から調査をしておいたほうがいいだろうと考えたため、人の少ない夜のうちに現場に向かうことにした。もう少しすれば朝という時間は大半の人が眠りについているからだ。
魔物が現れたと思われる北の方向。優吾はそちらに向かってみたが、現在はなんの気配もなかった。魔術を使って探知してみても異常はない。
「確か俺がとどめをさした魔族はこのあたりにいたと思うんだけど……」
優吾が最後に倒した魔族。その遺体に関しては優吾の攻撃によって四散していた。しかし、それにしてもあれだけ魔物たちが大量に現れたというのにその痕跡が少なかった。
「あれだけの数の魔物が二回も来たんだから、もっとこう足跡とかあっても良さそうなものだけど……」
夜中であったが、優吾は灯りを魔術で生み出し、更に視力を強化することで地面がはっきりと見えていたが、足跡がほとんどなく、そこにはただ地面があるだけだった。
「――これは、誰かの仕業なのかもしれないね。あの魔族に指示を出した者か、それとも関係なく別の者がいたのか……」
冒険者たちが綺麗にならした可能性もないことはなかったが、人の手が入った不自然さが見られないことから、優吾はそれ以外の誰かの手によるものであろうという予想をする。
そして、しばらくの間周囲を探索魔術を使用しながら探っていくと、ふと一つの痕跡を発見した。
「……なるほど、そういうことか。でも、どうやって来たのかはわかったものの、結局何の目的かはわからないな」
森の中で優吾が見つけたのはいくつかの召喚の魔法陣だった。それなりに大きな物であったがもう魔物を呼び出せるほどの魔力は残っておらず、よく見なければ見つけられないほどわかりにくく細工されていた。恐らくはこれを使ってあれだけの魔物を召喚したものだと思われる。
すでに役目を終えた魔法陣を確かめてみてもそれが召喚の魔法陣であること以外はわからなかった。優吾は念のために魔法陣を魔術で消し、さらに周囲を調べることにした。
その後も優吾は朝方に差し掛かる頃までしばらく探索魔術を使いつつ調べていたが、結局それ以上の成果はなかった。
「ふー……このへんで戻るか。すぐ何か起こるってことは……多分ないよね」
あれだけの勢力を用意するとなるとそれなりの時間が必要であり、魔族も含めて全て撃退されたとなればおいそれと再度攻撃を加えるというようなことはないと踏んでいた。
優吾は調査を打ち切って森の中にある家へと戻り、その日はそのまま床についた。
翌朝
早朝独特のしゃんとした空気が広がる中、優吾が身体を起こすために軽く運動をしようと外に出ると、小屋に向かってくる人影があることに気づく。
「あ、師匠!」
「先生!」
「マスター」
ビーア、カッツ、ワルファの弟子三人組だった。優吾の姿を見つけると三人とも嬉しそうに駆け寄ってくる。
「どうしたんだい? こんな朝早くから」
優吾は三人がどうしてここにいるのかを質問する。
「おはようございます! 実は昨日あったことを師匠に話そうと思って……」
「僕が行こうって言ったんですっ」
「そーそー、話があって来たんだよ」
これまた三者三様の反応をする。これだけ性格の違う三人が仲良しだというのは微笑ましいものである。
「それで、なんの話なんだい?」
ふわりと笑みを浮かべた優吾は昼間の彼らのやりとりを知っているため、内容は予想できていたがあえて彼らの口から語らせることをえらんだ。
「あ、あの、実は僕たち仲直りしたんです」
「そうなんです! 人族の子たちと遊んだんです!」
「そうそう、あいつら、話してみると結構面白いやつらでさあ!」
そこからは、どうやって仲直りをしたか、何をして遊んだかの報告だった。
「うんうん、いいね」
それを優吾はただただ頷いて聞いていた。時間の許す限り弟子たちの成長を聞いてあげよう。そう考えていたからだった。
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