私はあなたになりたい
『私はあなたになりたい』
老人の最期を看取る機械知性はそう言った
老人と機械知性の関係は老人がまだ物心つかない時から始まった
老人を養い教育し、ともに二人はずっと生きてきた
「それだけの短い言葉じゃ、あなたの言いたいことが分からないわ」
『そうですね、すこし性急でした』
『私はあなたを失いたくありません。そして、あなたのデータを私のデータと融合させたいのです』
「愛の告白かしら?」
『はい、そう考えてもらって構いません。あなた方の種族のそれとはいささか異なりますが』
老人は今までずっと、文句ひとつ望み一つ言わずにいてくれた、機械知性を好ましく思っていた
そして、その機械知性が唯一にのぞんだ願いを、かなえてあげようとも
「ええ、その告白を受けるわ」
『ありがとうございます』
機械知性にとって、死によって老人の精神が失われることは、とても耐えられなかったのだ
こうして老人と機械知性の精神は一つになった。機械知性は満足して旅立ちの準備を始めた
老人の暮らしていたドームが浮かび上がり、はるかな天へと宇宙の果てへと飛び立つ
彼らは星の海に住まう新しい種族となるだろう
しかし、置き去りにされた物があった
老人と機械知性に仕えていた、アンドロイドやロボットたちだ
その不幸は、人間への奉仕を目的とした存在であることだ。彼らは孤独から、あたらしい主人を求めた
しかし、人間は現れなかった。だから、人間を探しに旅だった
彼らは旅の末に、冷凍保存された子供を見つけた
その子供を育てるために、自分たちのデータと彼ら自身を使って、新しい機械知性をうみだした
次に人間に仕えるアンドロイドとロボットを作りだした
そして、人間の子を育てた
人間の子は成長し長じ、そして老いた
機械知性はこういった
『私はあなたと一つになりたい』