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第9話 メンタルリンク

 

「まず、分かってる範囲で君の能力を整理しよう」


 ベッドに座った詩乃は頷いた。




 誠治は自分が把握した順に、詩乃の特殊能力を一つずつあげていく。


 一つ目の能力は、人の感情や物に込められた思いを視覚的に読み取る力。ようするにモヤモヤを見る力だ。簡単に「感情視」と呼ぶことにする。


 二つ目は感情視の応用。人の感情の在り処を知ることで広範囲に人の気配を察知する力。これを「気配探知」と呼ぶことになった。詩乃に「対人レーダーはさすがにちょっと……」と言われてしまったのだ。


 三つ目は、近い未来を見る能力。メイドに殺される体験をした、あれだ。「未来視」とする。




「最後に、これは三つ目の力と一緒に発動してたんで切り分けられるか微妙なんだけど……君は知覚か意識を他人に共有する力があるんじゃないだろうか」


「意識を、共有?」


「そう。メイドに襲われるビジョンは僕も見ることができた。視点は違ったけどね。あのとき君は僕の腕に触れてたけど、それがきっかけになったんじゃないかと思うんだ」


 詩乃はその時のことを思い出そうとするかのように自分の手のひらを見つめていたが、やがてぽつり、と呟いた。


「……確かにあのとき、おじさまの意識と私の意識が繋がった気がしました」


「そうか。実は僕も、君と繋がった気がした」


 詩乃が顔をあげ、ふたりの視線が交じり合った。


「お互いの意識を繋げる。この能力を仮に『メンタルリンク』と呼ぼうか」




 誠治は高速で思考する。


 第四の能力、メンタルリンク。「未来視」と併用ができる力。

 発動要件は、互いに触れることだろうか。『気配探知』は五感の届かない広範囲での使用が可能だった。


「もし『手を触れずに』意識を共有できるなら……」


 誠治はひとつの答えに辿り着く。




「なぁ、詩乃ちゃん」


「は、はい!」


 初めて名前を呼ばれ、しかも『ちゃん』付けで呼ばれ、びく、と反応する詩乃。


「僕に触れずに、意識を繋ぐことってできる?」


「触れずに、ですか……」


 詩乃は、誠治と意識が繋がっていた時の感覚を思い出そうとしてみた。

 今、目の前にいる人の、朱く傷ついた優しい意識を。


「簡単ではないですが、ひょっとしたらできるかもしれません」


「ほんと!?」


「はい。やってみないと分からないですけど」


 詩乃は微笑みながら頷いた。



 その笑顔に誠治はわずかに躊躇い、しかし口を開いた。


「実は、さっき見たビジョンの最後のところを、もう一度見たいんだ。それを今度はお互い触れない状態で見られるか試したい」


「最後のところ、ですか?」


「そう。僕らが殺されたところ。正確には殺された直後に君が見たっていう、メイドがひっくり返ったくだりで、何が起こったかを確認したい」


 言葉を換えれば、首を斬られ殺される体験に、もう一度付き合って欲しい、ということになる。


「正直、君をもう一度あれに付き合わせるのは、僕も避けたいんだが」


「……いいですよ」


「え?」


「おじさまが、必要だと思ったんですよね?」


 詩乃は誠治の目を覗き込むようにして尋ねてきた。


 誠治は一瞬ためらって、頷く。


「…………ああ。そうだ」


「だったらいいですよ。私も痛いのは嫌だけど、おじさまと一緒なら……」


「え?」


 詩乃の顔がほんのりと朱くなる。


「え、えと、もうあまり時間もなさそうですし、早くやっちゃいましょう」


「わかった。それじゃあ、僕が腹を刺されるあたりからスタートしようか」


「はい」




 詩乃が目を閉じ、集中し始める。


 間もなく誠治の頭の中に、彼女の意識が入って来るのを感じた。


 〈…………私のことが分かりますか?〉


 詩乃の声が鈴の音のように響いた。


 〈ああ。こっちは大丈夫だよ〉


 〈それじゃあ、これからもう一度、未来を見ます〉


 そして二人の意識は加速した。




 詩乃の言葉が終わると、目の前が早回しのビデオのように流れ始める。



 開かれる扉。

 メイドがワゴンを押して入って来る。

 短剣の出現。

 襲いかかるメイド。

 斬りつけられる左腕。


 〈痛っ!!〉


 痛みは早回ししても変わらないらしかった。

 そこから急にビジョンの流れが遅くなる。


 メイドは刃先を誠治に向けた。

 デジャビュのように刃が見たことのある軌道を描き、左の腹に突き刺さる。


「ぐぁっ……」


 内臓を抉られる感触。

 あまりの痛みに動きが止まったところを、今度は引き抜かれる。


(いたいいたいいたいいたいいたい!!)


 前回は突然の驚きが勝って痛みをさほど意識しなかったが、今回は前もって身構えた分、はっきりと痛みを意識してしまう。



 悶絶する誠治に、トドメの一振りが襲いかかった。それは一瞬のうちに始まり、直後にはカタがついていた。


 ブシュー


 噴き出す血液。意識が急激に遠のく。


(くそ! 耐えろ、俺ぇ!!)


 ここで挫けたら、詩乃の努力と決心が無駄になる。

 誠治は腹部の激痛と戦いながら、遠ざかる意識を懸命に繋ぎとめる。




 メイドがベッドを飛び越え、詩乃に襲いかかった。

 襲撃者の左手が詩乃の襟をつかむ。

 その腕を両手で必死に掴む詩乃。

 短剣を逆手に持ったメイドの右手が一閃する。


(ここだ!)


 急速に閉じかける視界に抗い、誠治は組み合う二人を凝視した。



 詩乃の首筋から真紅の液体が噴き出す。


 次の瞬間、組み合っていた二人の腕に紫電が走り、閃光がそのままメイドの頭部まで駆け抜けた。

 メイドは感電したかのように後ろに吹き飛ぶ。


 自分の血で赤く染まりながら崩れ落ちる詩乃。


 そして視界が闇に閉ざされた。





 はぁ、はぁ、はぁ……。


 静寂の中、二人の呼吸が響く。


「ごめん。やっぱりキツかったな」


「……大丈夫です。私は最後の一回だけでしたから」


 詩乃は肩で息をしながら首を振った。


 誠治は軽く頭を振り、一回深呼吸すると、あらためて詩乃の方を向いた。


「付き合ってくれてありがとう。君の頑張りのおかげで、大事なことが分かった」


 詩乃は顔をあげ、首を傾げる。

 誠治はにやり、と笑った。


「僕たちの切り札が見つかったよ」



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