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第8話 ふたり

 

 残された時間は、あと10分。

 急いで対策を考える必要があった。


(焦った時ほど、基本に忠実に……)


 誠治はかつて機械メーカーの営業として働いていた時に、ベテラン技術者からかけられた言葉を思い出していた。


 新卒で入社して二年目。

 初めての大型案件の納品の日。


 設置した機械は低い出力では順調に動いていたが、出力を上げて負荷をかけたところで電源が落ち復帰しなくなってしまった。


 誠治が焦って納品先の社長さんに説明(言い訳)に行こうとした矢先、同行していた年配の技術者からかけられたのが、その言葉だった。


 最終的に技術者が現場で原因を突き止めて事なきを得たのだが、以来その言葉は誠治の座右の銘となっている。




(この場合の基本というと、まずは彼我の戦力の把握かなーー)


「敵はひとりで間違いないよね?」


 誠治の質問に詩乃が頷いた。


「はい。他に人の気配は感じませんでした。……ただ、あのメイドの人みたいに道具で気配を隠されたら分からないかもしれないです」


 詩乃は指輪の事を説明した。


「あのメイド、そんな小細工してたのか……」


 そこから読み取れる情報は二つ。


 敵が詩乃の気配察知能力を知っているということ。

 そしてその対策として魔法の道具を使って来たということ。


「ーーーーいや、まだあるか」


 毒殺失敗の時、王も毒皿もその対策をしていなかったことは、それ自体が重要な情報だ。

 あの時点では敵側が気配察知の力を知らなかったか、対策を取れなかった、ということを意味している。



「大体、確実に始末するなら、同時に何人か送りこんで来るよな……」


「…………?」


 首を傾げた詩乃に、誠治は説明する。

 こちらが二人なので、それをなんとかしようとするなら、普通は二人以上で襲ってくるはずだ、と。


 一人で二人を相手にしないといけない場合、どちらかを取り逃がす可能性が高まる。

 万一暗殺に失敗して、他の転移組にチクられでもしたら、彼らの企みはご破算になるだろう。


「それでも尚、メイド一人を寄越したということは、指輪が一つしかなかった、ってことだろうな。隠密性を優先して、単独行動にした訳だ」


 さらさらと分析する誠治を、詩乃はポカンとした顔で見ていた。


「……すごいですね」


「なにが?」


 今度は誠治が間の抜けた顔で訊き返す。


「おじさまの手にかかると、一つのことから次から次に色んなことが分かるんですね」


「あー、まぁ、ね。昔とった杵柄というか、職業病というか……。話が分かり辛かったら言ってね」


「はいっ」




 今回の敵は一人だと仮定して考えを進める。


 敵の目的は、詩乃と誠治の暗殺。

 武器は片刃の短剣。

 ひょっとすると他に暗器を隠し持っているかもしれないが、メインウェポンは短剣だろう。


「刃物に素手で立ち向かうのはヤバいよなぁ」


 誠治は警察官の従兄弟の口癖を思い出した。

 曰く、「刃物振り回す奴見たら、迷わず逃げろ。どんな格闘技の達人でも、刃物持った相手は分が悪い」と。



 今度は自分たちの武器について考える。


「こっちは昔柔道をやってたくらいか」


(ーーヤバいな。勝てる気がしない)


 誠治は青ざめた。

 短剣を持った殺し屋と、柔道をかじった素手の一般人。いくらなんでも戦力差があり過ぎる。


「おじさま、柔道できるんですか?」


 詩乃が少し驚いたように尋ねてくる。


「学生時代にちょこっとね。強くはなかったけど」


 誠治は力なく笑った。


 個人では県大会で三回戦敗退。

 団体では辛うじてだが三位になった。

 強い仲間に引っ張ってもらい、なんとかもぎ取った三位入賞だった。



 ふと気付くと、詩乃の顔が前にあった。


「おおっ!?」


「おじさま。ひょっとして、一人で何とかしようって思ってないですか?」


 詩乃は怒ったような、悲しそうな、微妙な表情で誠治を見つめていた。


「あー、えーと……その……」


 誠治の目が泳ぐ。


「おじさまが死んだら私も死ぬんですよ? だったら私の力も使って下さい。私にはどうすればいいか分からないけど、おじさまなら私の力の使い方が分かるはずです。あの夢でおじさまが後悔したように、私も後悔しました。だから……」


 必死で訴える詩乃の姿は、いつもどもりながら小声で喋る彼女とは別人のようだった。


 彼女の言葉に、誠治の心が動く。

 そう、何も一人で全部抱えこむことはない。仲間の力を借りればいいのだ。


「…………ごめん。悪かったよ」


 誠治は詩乃の肩に手を置いた。


「君の力を、貸してくれ」



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