第72話 継戦能力とクロフトの秘策
クロフトは迫撃砲部隊の隊長に砲撃の継続を頼むと、テレーゼに向き直った。
「参考に訊かせてもらいたいんですが、魔術師団はあとどれくらい戦えそうです?」
訊かれたテレーゼは即答する。
「今の火力を保てるのはせいぜい三十分。二時間経たずにほぼゼロになるわ。私も含めてね」
「えらく具体的な数字ですね?」
驚くクロフトから、テレーゼが顔を背ける。
「……あなたの真似をしてみただけよ。私の魔力量は師団の中で上位に入るわ。下位の子は私の半分くらい。私の魔力があと半分と少し残ってるから、もう少ししたら下位の子は魔力切れを起こして戦線離脱していくはず。そう考えれば、妥当な見通しじゃない?」
「確かに。精度が高い見通しだと思います」
「褒めても何もあげないわよ」
視線を外したまま、ぶっきらぼうに呟くテレーゼ。
「それは残念。でも、そうですか。あと一時間で全軍の中・遠距離火力が尽きてしまう…………」
クロフトは考えこんだ。
現状を見るに、少なくともあと二時間は継続して火力が必要だった。
逆に言えば、あと二時間保たせることができれば、勝機があるかもしれない。
敵にゴブリンが現れ始めた。
今回の大侵攻は過去のものと随分違う展開を見せている。
が、共通する部分もある。
例えば先鋒がワイバーンだったこと。
それにハーピーが続いたこと。
もし魔物の襲撃順が過去と同じであれば、ゴブリンにはオークや上位種が続くはずだ。
強力な上位種ほど数が少なく、少数精鋭での討伐に戦い方がシフトする。
そうなれば広範囲砲撃の効果が薄れ、不要となる。
「手持ちのカードで、あと二時間、遠距離攻撃を続ける方法……」
クロフトの頭の中で、仕舞われていた幾つもの情報が引き出され、検討されてゆく。
そしてたどり着く、一つの可能性。
「……アレを使うか」
そう呟くと、早足で西に向けて歩き出した。
「セージ!」
首やら肩やら腕やら足が痛いのを堪えながら小銃を撃ち続ける中年男の名前を呼んだのは、クロフトだった。
「ああ、クロフトか。お互い無事で何より」
誠治は射撃を中断すると、クロフトを振り返った。
「何よりです。ところでセージ、魔力の残量に余裕はありますか?」
クロフトの問いに、しばし考える誠治。
「……多分、大丈夫、かな? 戦闘始める前とほとんど変わってる気がしないけど」
一瞬ポカンとするクロフト。
「どんだけ底なしですか。……て、それはさておき、あなたとシノにお願いがあります」
クロフトは本題を切り出した。
五十分後。
絶え間なく続く銃砲撃の爆音の中、誠治の前には、荷台にそれぞれ魔石と小粒の爆火石を満載した二台の荷馬車が停まっていた。
「なにこれ?」
指差しながら尋ねる誠治。
「見ての通り、民生用と軍民共用の魔石と爆火石です。マキシムに無理言って手当たり次第集めてもらいました」
クロフトが答える。
「いや、それは見れば分かるんだが……」
「では話が早い。セージ、よろしく頼みます!」
クロフトは前のめりになる。
「いやいやいや、確かにチャージするのは構わないって言ったけど、この量を一つ一つチャージしてたら、日が暮れるぞ?」
「ええ。ですから、適当に手を突っ込んで魔力を注げば、なんとかなりませんかね?」
ここまで来て、いい加減なことをほざくクロフト。
「いやいや、そんな雑なことしてうまくいく訳が……」
「いいからやってみて下さい! 時間がないんです!!」
クロフトの剣幕に顔をしかめながら、誠治はしぶしぶ魔石の山に手を置き、魔力を注ぐ。
「…………おお!?」
なんということか。たちまち魔石の山全体が光り始めた。
「よしっ!!」
ガッツポーズをするクロフト。
「魔力回路が直結していないはずのセージの銃の銃身が光るのを見てもしやと思いましたが、やはり高圧の魔力をかけると、多少距離が離れていても魔力が流れるんですね。……すみませんが、爆火石の方もお願いします!」
「お、おう……」
もう一つの山にも、同じ要領で魔力を注ぐ誠治。
爆火石の山は魔石同様、たちまち白く光り始めた。
「よかった。これでなんとかプラス一時間を稼げそうです!」
クロフトは猛烈な勢いで二台の荷馬車を引き連れ、魔石は魔術師たちに、爆火石は迫撃砲部隊に配りに向かうのだった。
クロフトが遠距離火力の確保に奔走している頃、砲兵隊長の元に測距担当から不穏な報告が届いていた。
「それは間違いないか?」
「は! 先ほどの斉射の際、着弾点付近で生き残った大柄なゴブリンがおりました!!」
隊長は敵の侵攻が続く荒野を睨んだ。
それは上位種、ゴブリンキング、またはゴブリンロードかもしれなかった。
「……それで、その個体はどうなった?」
「魔術師団の爆裂火球、さらに多数の銃撃により沈黙致しました!」
「遠距離砲撃を耐えきったのか…………」
眉間にしわを寄せた隊長に、測距担当が続ける。
「もう一つご報告があります。敵の中にオークの姿を散見するようになりました。今のところ接近される前に倒せているようですが、一回の砲撃を耐え、行動できる個体が多いようです」
隊長は西の方角に顔を向けた。
その視線の先には、高射機関砲に混ざって青白く光る銃弾で対空攻撃を続ける中年男の姿がある。
「そろそろ、勇者殿にお手伝い頂く必要があるかもしれんな」
オークとゴブリン上位種の出現。
今後、さらなる上位種の出現を予想し、隊長は切り札を切ることを決めたのだった。
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