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捨てられ中年といじめられ少女 - 異端者たちの異世界戦記  作者: 二八乃端月


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第35話 弾と値切りとデートのお誘い

 

 村の西の入口から広場までのメインストリートの真ん中あたりに、鍛冶屋はあった。


 店に入ると、中はいかにもファンタジー的な「鍛冶屋」のイメージとは大分違っている。


(鍛冶屋というより「金物屋」だな。こりゃあ……)


 鍋やらお玉といった調理器具、ナイフや包丁などの刃物がならんでいるのを前にして、誠治はそんな印象を持つ。


「よう、アルドのおっさんはいるかい?」


 トーリが鍛冶屋のカウンターに座っていた年配の恰幅のいいおばさんに声をかけると、おばさんは大げさに驚いてみせた。


「おや、トーリじゃないか。何年ぶりかね?」


「三日前に、蹄鉄を直してもらったばかりだろうが。もうボケちまったのか?」


「あら、こんなに頭のはっきりしたレデイに向かってなんて言い草だろうねぇ。まぁいいや。今日は他にもお客さんを連れてるようだし、お説教は次の機会にしといてやるさ。うちのは工房にいるから、裏にまわってごらん」


 おばさんは、そう言ってカラカラとわらった。





 工房は、お店の裏にあった。

 ちなみに自宅と思しき建物が、お店と工房に隣接していて、簡単に行き来できるようになっている。


 カン、カン、カン、と、槌を打つ音が響いてくる。

 一同が工房に入ると、ガタイのいい白髪の男性が、槌をふるっていた。


「アルド、客が来たぞ!」


 トーリが声をかけると、老鍛治師は手を止めて振り返り、目を細めて誠治たちを見た。


「なんだ、トーリじゃねえか。それに後ろのにいちゃん達は、噂の旅商人か?」


 クロフトが前に出る。


「お騒がせして恐縮です。噂の旅商人のクロフトといいます。どうぞよろしくお願いします」


 続いて、トーリが紹介を始める。


「噂を聞いてるなら話が早い。彼らは南の森に巣くってやがる化け物を二十匹から倒した猛者だ。近く、森の探索と化け物の駆除を依頼することになった。だが、矢か何かが切れてるらしくてな。あんたに作ってもらえないかと思って、こうして訪ねて来たんだ」


 鍛治師のアルドは、のっそりと立ち上がり、腕を組んだ。


「ほう、矢だと? やじりなら作ってやるが、矢自体は弓師のダナのところに行くべきだな。なんでわざわざうちに来た?」


「なんでも、鉛でできた変わった鏃が欲しいんだそうだ。相談に乗ってやってくれないか?」


「鉛だって?」


 この世界の鏃は鋼を使うことが殆どで、鉛のように、重く、柔らかい金属を使うことはない。アルドが首を傾げるのももっともだった。


「実は、魔道具に使う特殊な鏃でして……」


 クロフトは誠治の銃を取り出し、事前に紙に描いてきた絵と一緒に、詳しく説明してゆく。


 今回依頼する弾丸は、径が十ミリ弱、長さが二十ミリ程度、弾頭は丸みを帯びた紡錘形状で、反対側の底にわずかに窪みをもうけたものだ。

 鉛のみで金属被覆はせず、火薬を使わないので当然薬莢もない。実にシンプルな鉛の塊である。


 まず鋳型を作り、そこに溶けた鉛を流しこむ。冷えて固まった後で弾を取り出し、底を少しだけ削って出来上がり。

 お手軽簡単に量産することができるはずだ。


「それで、何個欲しいんだ?」


「とりあえず、三百ほど」


 クロフトが示した数に、アルドは目を細めた。


「そんなにたくさん作るのか?」


「鏃と考えれば多いでしょうが、特注せざるを得ないものなので、旅が一区切りつくまでもたせたいんですよ。あ、あと、射撃練習でも使いますから、その分も含めてます」


 クロフトの説明を聞いた老鍛治師は、納得したのか、しなかったのか、ふん、と鼻をならした。


「さすがに一度に三百は無理だ。一日五十個で六日。五十個あたり銀貨四枚 (二万円)だ」


「一発あたり小銅貨四枚 (四百円)ですか。数を五百に増やしますから、五十個あたり銀貨三枚 (一万五千円)でお願いします」


「五百個か。十日かかるぞ?」


「構いません。森の探索で使うのは、せいぜい百発。練習含め百五十発もあれば足りるでしょう。それだけ先に頂ければ、他の準備もありますから十日くらいは待てますよ」


「……よし。受けよう。とりあえず、明日の夕方までに最初の五十発を渡せるようにしておこう」


 マシンガンのような駆け引きの後、交渉が成立した。





 工房から出ると、クロフトが誠治と詩乃を振り返った。


「それでは僕は、トーリに弓師さんを紹介してもらいに行きますが、お二人はどうします?」


「あー、僕は……どうしようかな。弓は、関係ないしなぁ」


 ぼんやりと迷う誠治。

 彼の今日の仕事は、今しがた終わってしまった。

 これから矢を買いについて行っても手持ちぶさただし、かと言って村長の家に戻っても、やることがない。


「おじさまっ」


「うおっ?!」


 傍らの詩乃が、再び腕にしがみついて来た。

 工房の中ではさすがに離れていてくれたのだが、どうやらもう、ガマンタイムは終了のようだ。


「よかったら、私と一緒にちょっと歩きませんか?」


 詩乃はにこにこしながら、誠治を見上げて来る。

 誠治は気恥ずかしさに、視線を宙に彷徨わせた。


「あー、そうだなぁ……。じゃあ、ちょっとだけなら……」


「やった! おじさま大好き!!」


 詩乃はぎゅっ、と誠治の腕を抱きしめた。




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