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第19話 束の間の安息


 パルミラの料理は絶品だった。


 レタスとルッコラ(?)のサラダに、ほうれん草(?)のソテー。ビーフ(?)シチューに鶏(?)の香草焼き。


 やや素朴だが、味は日本のアッパークラスのレストランに引けを取らないんじゃ? と誠治は舌を巻いた。

 ちなみに一緒に出てきたバゲットは買って来たものだろうが、そちらも悪くなかった。


「「「おいしい(です)!」」」


 腹ペコ三人組は、欠食児童のように猛烈な勢いで目の前の皿に挑み、そして玉砕した。


 パルミラの料理は凄かった。質も。量も。

 あまりに美味しく、ついついおかわりが進んでしまう。


 そして四十分後。


「「「ゔぁ〜〜〜」」」


 文字通りお腹を膨らませた三人は、リビングのソファで呻いていた。ちなみに旅商人の青年クロフトは、彼らに気を遣い一足先に自室に戻っている。


「……お腹苦しい…………」


 ラーナが呻くと、


「私もです…………」


 詩乃が同調した。誠治も、


「く、食い過ぎた……」


 まさに完敗であった。




 さらに十分後。


 パルミラが食事の後片付けを終えてリビングに顔を出すと、緊張からの解放、疲労、それに満腹と、クリティカルに条件が揃った彼らは、盛大にイビキをかいてソファで寝落ちしていた。


「あらあら。よほど疲れてたんだね……」


 パルミラはそう呟くと腕を組み、さて、どうしたものかと思案する。


「……よし」


 しばらく考え、方針が決まった彼女は誠治に近寄ると、肩を揺さぶった。


「旦那、旦那!」


 しばらく揺さぶっても起きないため、今度はペシペシと頰を叩く。


「ちょいと旦那、起きとくれ!」


「…………ぁ〜〜?」


 しばらくやっていると、中年男はやっと寝惚けた顔で瞼を開けた。


「すまないけど、この子たちを寝室まで運んでやってくれないかね。こんなところで寝たら体が休まらないからね」


 誠治はぼんやりした顔で聞いていたが、やがて眠気を払うように頭を振ると、頷いた。




 詩乃とラーナの女性陣は、一階のパルミラの寝室の両隣の部屋を使うことになった。

 ちなみに誠治は二階の部屋をあてがわれた。


 パルミラが台所から鍵束を持って来る。


「それじゃ、よろしく頼むよ」


 誠治は頷き、詩乃の背中と膝裏に腕を入れ、起こさないようゆっくりソファから抱き上げる。

 お姫様抱っこだった。


 詩乃が起きていたら顔を真っ赤にしていただろうな、と誠治は苦笑した。

 その詩乃は誠治の腕の中で、呼吸に合わせ静かに胸を上下させている。


 誠治は、両腕にずしりとした重みを感じていた。宮殿で膝に乗せた時はむしろ軽さに驚いたが、こうして抱きかかえてみると、痩身の少女の身体には確かな重みがあった。


「こっちだよ」


 パルミラについて廊下に出て、少女を抱きかかえたまま歩く。

 パルミラが準備してくれた部屋には、それぞれ一組だけベッドと机が置いてあり、最初に詩乃を、次にラーナを運んで来てベッドに寝かせた。


 ちなみに小柄なメイド少女は、痩身の詩乃よりさらに軽く感じられた。


「ご苦労さん。あとは私が着替えさせておくよ。あんたの着替えは机の上に置いといたから、ちゃんと着替えて寝るんだよ。はい。これ、あんたの部屋の鍵ね」


 鍵を受け取った誠治はパルミラに礼を言うと、詩乃の部屋の左隣にある階段を上り、二階に上がった。

 誠治の部屋は階段を上がってすぐ、つまり詩乃の部屋の真上にあった。中の様子もほぼ同じである。


 机の上に置かれていた寝間着に着替えてベッドに横になると、何を考える間もなく意識が遠のいていった。




 誠治はまどろみの中にあった。

 体の左半身に柔らかく温かいものが当たっていて、心地よい時間が続く。

 しばらくして、温かいものがなくなる。


(…………?)


 微かに不思議に思ったが、そのまま睡眠を続行する。それが運の尽きであった。


 たったったっ


「ふんっ」


 ドスン!


「ぐへっ!!」


 誠治は左脇腹に重い一撃をくらい、強制的に意識を引き戻された。


「な、なんなんだ……」


 眠気を払いながら目を開けると、見覚えのあるダークブラウンのポニーテールが視界に入ってきた。


「ラーナ?」


 ポニーテールの主が、くるりと顔を向ける。


「おそよう」


「……え?」


 聞き返す誠治に、ラーナは相変わらずの無表情で言った。


「もうお昼。だから、おそよう」


「ああ、そうか。俺、寝過ごしたんか……」


 誠治はあらためて周りを見回した。


 自分が寝ているのは、割り振られた二階の部屋のベッドの上だ。部屋が明るい以外、昨夜最後に見た風景と大きくは変わらない。


 腹の上にはラーナが仰向けに転がっている。

 どうやらなかなか起きない誠治に業を煮やし、フライングボディプレスをかましてきたらしい。

 なぜいつも被害を被るのは左脇腹なのだろうか。


 左手の窓からは日の光が差し込み、窓際に立つ人物の顔は逆光になってよく見えない。が、それが誰かはすぐに分かった。


「…………ラーナさん。いつまでおじさまの上に乗っかってるんですか?」


 聞き覚えのある女の子の声。

 だが、その声は真冬のブリザードのように寒々としていた。


 ラーナは仕方なさそうにもぞもぞとベッドから降りると、表情を変えずに口を開いた。


「私は、最も効果的な方法でセージを起こしただけ。逆恨みされても困る」


「さ、逆恨みって……」


 詩乃がラーナを睨む。


 ラーナは両手を上に向け、やれやれ、というポーズをしてみせた。


「大体、パルミラから最初にセージを起こすように言われたのはシノの方。起こしに行ったままいつまでも戻って来ないから私が様子を見にきた。私に怒りを向ける前に説明して欲しい。なんで起こしに来たはずのあなたが、セージの布団にはいっ……」


「ああああああ!!」


 突然、詩乃が叫んだ。

 誠治はびっくりして彼女を見る。


「そ、そういえば、もうすぐお昼ご飯なんだって! 早く行かないと。ね、おじさま?!」


「え?! 俺??」


 いきなり振られ、慌てる誠治。


 詩乃は顔を赤くし、誠治の腕をとって立たせると、自分の腕をからめてずりずりと食堂に引きずって行った。



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