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第15話 異変・混乱・想定外

 

「え、ええと……」


 無表情になってしまった詩乃を前に、誠治は必死で頭を回転させていた。


 彼女は「それだけですか?」と言った。つまりそれ以外のリアクションが欲しい、ということだろう。それは分かる。

 私、頑張ったよ。または、私、役に立ったでしょ、と。

 問題は、褒めて欲しいのか、感謝して欲しいのか。経験上、女性はここを間違うと面倒くさ……良くないことになりそうな気がするが。


「…………」


 ええい、わからん。

 とりあえず両方行っとけ!


「詩乃ちゃん」


 誠治は詩乃に顔を寄せると、耳もとで話しかけた。


「君のおかげでピンチを乗り切れた。よくやった。ありがとうな」


「…………」


 どうだ?!

 誠治は緊張して反応を待った。


 すると、詩乃の表情がみるみる明るくなる。


「……うん。うん! どういたしまして!!」


 少女の顔に可憐な花が咲いた。





 王城の廊下を、多数の人間が行き交っていた。

 異世界の勇者たちを歓待する夜会の裏で、使用人たちがその運営のため、慌ただしく動きまわっているのだ。


 晩餐会後の夜会……正確に言えば、食堂の晩餐会と並行して催されていた大広間の夜会には、多数の貴族が参加しており、彼らに供する飲食物の補充だけでも大仕事であった。


 今は晩餐会も終わり、王と勇者たちも夜会に合流している。忙しさはピークを迎えつつあった。



 そんな廊下を、一人の小柄なメイドが早足で歩いていた。

 ダークブラウンの髪に白いヘッドドレスをつけ、ポニーテールを揺らしながら歩く彼女に注意を払う者は誰もいない。


 見た目が幼く、十二、三にすら見えるそのメイドの少女は、向こうからやってきた同じくメイド姿の女性に目を留めると、その腕をむんずと掴み、廊下の端に引っ張って行った。


「……どういうこと? ターゲットらしき人間がいない」


 手の中にあった大きいビー玉のような物を見せながら、小声で問うロリメイド。

 問われた方の、見た目明らかに年上なメイドがそれに答える。


「晩餐会の途中で、二人の勇者が体調不良で自室に戻ったらしいわ」


「何それ? 聞いてない」


「私もさっき聞いたばかりよ」


 年上メイドは顔をしかめて見せた。

 少女はさらに声を落として尋ねる。


「部屋は分かる?」


「琥珀宮の二階と三階。気分の悪くなった女の子に男性が付き添ったって話だから、多分二階でしょう」


「わかった。あとはなんとかする」


 二人のメイドはそこで別れ、それぞれ反対の方向に歩いて行った。





 その部屋に入って気になったのは、鼻をつくアンモニア臭だった。


 部屋の中に誰かがいて気を失っていることは、扉を開ける前から分かっていた。臭いの主と気絶してる誰かさんは同一人物だろう、とあたりをつける。


 ロリメイドは用心深く足を進めながら、部屋の様子を確認していた。

 正面の壁際には、ワゴンがひっくり返っている。明らかな争いの痕跡。

 さらに前に進むと、ベッドの陰に誰かが倒れているのを見つけた。メイド姿の女が、汚水の水たまりに倒れている。


 少女はエプロンのポケットから先ほど仲間に見せたビー玉のようなものを取り出すと、その玉を通して右目で倒れている女を覗き見た。


 女をうっすらと緑の空気が包んでいる。


「違う。ターゲットじゃない。…………!!」



 次の瞬間、少女は左に横っ飛びに飛び退いた。


 刹那、それまで彼女がいた場所をナイフが飛んでゆく。


 彼女はそのまま前転でゴロゴロと転がり、勢いを殺さずに立ち上がると、入口の扉を睨んだ。


 扉の前には、いつの間にか黒装束の男が立っていた。


「勇者じゃないな。ネズミか」


 男の言葉に、ロリメイドは顔をしかめる。


「こんなにかわいい女の子をつかまえて『ネズミ』とか、あまりに失礼。訂正を要求する」


「それじゃあ、女の子らしくカラダに訊いてやるよ。お嬢さん?」


 黒男は両腕を交差させ、腰のベルトから二本のナイフを取り出すと、猛然と少女に襲いかかった。





「…………という訳で、この上なら夜景が見えると聞いて来たんですが」


 誠治が門塔一階の当直室にいた宿直の兵士たちに事情を説明すると、彼らは顔を見合わせた。


「そういうことなら……なぁ?」


「まぁ、勇者様だしな……」


 先ほどすれ違った巡回の兵士たちと同じことを考えたのだろう。あっさり二人を通してくれることになった。


 誠治が先に門塔に入り、続いて詩乃が扉をくぐろうとした時、


 ドォン!!


 突然の爆発音。

 門塔の壁が、ビリビリ震えた。


「!?」


 とっさに背後を振り返る、詩乃と誠治。


 見ると、夜空の下、詩乃たちの部屋があった来客用宮殿の二階の一部が吹き飛び、壁がくずれて廊下が丸見えになっていた。



「ちょっとどいてくれ!!」


 誠治たちを押し退け、慌てて兵士たちが外に飛び出す。


「こ、これは……」


 絶句する兵士たち。


「くそ、賊の進入を許すとは……! よし。お前とお前は門に残れ。あとの奴は俺に続け!!」


 隊長と思しき屈強な中年が指示を出すと、兵士たちは機敏に隊列を作り、中庭を駆けだした。


 残された兵士が、声をかけてくる。


「勇者様たちも、塔の中へ」


 誠治と詩乃は顔を合わせ、頷き合った。




 兵士の一人に案内され、宿直室の壁際にあった螺旋階段を登ると、塔の三階のところで主城門の上に出た。


 塔そのものは五階建てだったが、城門の上が露天の渡り廊下となっており、反対側の門塔まで歩いて行けるようになっている。


「なるほど。ここなら眺めが良さそうだ」


 眼下には、遙か向こうまで街の灯りが広がっていた。

 その灯りは、現代日本の夜景に比べるとささやかな明るさではあったが、どこか暖かみがあり人の営みを感じさせるものだった。



 誠治と詩乃はそのまま進み、渡り廊下の真ん中、門の直上のあたりに来た。


 案内してくれた兵士は、門塔の階段脇に立ち、爆発のあった宮殿の方を眺めている。

 誠治たちもなんとなくつられて、そちらを見た。


「爆発で吹き飛んだの、僕らがいた部屋のあたりだよね」


「……っ!」


 詩乃は息を飲んだ。


「あのままあそこに残ってたら、どうなってたことやら……」


 誠治は、はぁ、と溜息をついて首を振る。


「だけどまぁ、なんとかここまで来れたんだ。もう少しでここから脱出できるから、あとちょっとだけ辛抱してな?」


「……はいっ」


 誠治の言葉に、詩乃は力強く頷いた。



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