3日目
まだ暗く、日が明けていない。
時計の針は6時を指していた。
そんな時間に目を覚ました。
起きてすぐに隣を確認した。
「やっぱりか。けど、こんな早い時間でもか....」
また少女の姿はない。
けど、何処にいるかはもう分かっている。
「やっぱりここか。」
始めはここに倒れて、2回目はここで雪で遊んで、次は1人座って空を見ていた。
「もう起きちゃったの?」
「君こそ。それに折角靴買ってあげたのに履いてないじゃないか。」
「あれ、ほんとだ。忘れちゃった。」
「全く....なんで毎朝ここにいるの?」
少女はまた少し悩んで、出た答えは「分からない」だ。
「まぁ、いいじゃない。
ほら、太陽が出てきたよ。」
暗闇に光る星々はうっすらと消えていき、明るい水色が暗い闇をグラデーションに染めていく。
明るい日差しは、そこら中の雪に反射し目を普通に開いているのが辛かった。
パジャマのまま出てきた浩介は震えながらこう言った。
「寒いからさっさと帰ろう中に戻ろう。」
「うん。」
それから、朝食はあらかじめ昨日買い溜めしておいたパンや牛乳で済ませた。
「よし!勝負だ!」
それから昨晩と同様人生ゲームをやり始めた。
しかし、何度やってもゴールに辿りつけず負ける。
「あぁあ!」
なかなか勝てずうなだれた。
「人生ゲームっていいよなぁ。」
「....?」
「確かにゲームとしてもいいよ。波乱万丈ではあるけど、最後は億万長者になってゴールっていいじゃん。
俺は昔、自分もこのゲームみたいな人生送るのかなって思ってたよ。
でも現実は厳しいよな....就職先も見つからないし、こんなにもうまく行かないなんて。」
あ、そうか。人生ゲームって複数の人数で遊ぶけど必ずビリができるから、間違っていないのか。
まさにそのビリが自分であると浩介は納得していた。
「そうね....このゲームはちゃんと就職できるし、選択肢次第で絶対結婚もできるもんね。」
自分がこのゲームが好きなのはこのゲームのような人生に憧れているのからかもしれない。
「でもこのゴールって幸せなのかな。」
「億万長者になれるんだから幸せなんじゃないか?」
「億万長者になってもそれが人生のゴールじゃないでしょ。」
「確かにそうだけど....」
人生のゴール。
つまり死ということになるのだろうか。
「ねぇ、浩介はいつ帰るの?」
そうだ、この子と一緒にいることが楽しくて何も考えていなかった。
けど、ずっとこのままでもいいかな。
「まだここにいようかな。」
「それはダメ。」
「あぁ、そうか。ここって他にも泊まる人がいるんだっけ?」
「他に泊まりに来る人はいないけど....」
「なら、君のおばあちゃんがここに戻ってくるまででいいでしょ?
君一人にさせておくわけにも行かないし。
あ、でも元々三日間の予定だったし今日か明日にはおばあちゃんも戻ってくるか。」
「そうだね。」
それから外側暗くなるまで暖かい家の中でゲームなどをして少女とひたすら遊び尽くした。
この時間がずっと続けばいいなとロマンチストのように考えるが、その意志に対し状況は一転した。
「ねぇ、もうお菓子ないの?」
「あー、一昨日全部食ったし昨日は買い忘れちゃったな....。
俺のバッグの底にまだ残りってるかも
。探してみて。」
「うん。」
少女は浩介のバッグを無造作に漁る。
「こうすけー。」
少女は中から、どこかのチラシと一緒に一通の封筒を取り出して聞いた。
「なんだ?」
「なんで手紙が中にあるの?」
初日朝家を出る際急いでいて、確認する時間が無かったのでポストの手紙をまとめてバッグの中に押し入れていたのを思い出した。
「そういや忘れてたな。」
「はいこれ。」
渡された封筒の宛名を確認して差出人の箇所も確認した。
思わぬ所からだった。
自分が年明ける前に最後に面接を受けた会社からだった。
「多分不採用通知だ。」
「開けて確認してみないとダメだよ。」
誰かのいる前で開けるのは気が進まないが、少女がそう言うのだから開けるしかない。
たくさんの会社から落とされ、なかなか通知の来ないここもてっきり落ちたのかと思っていたが。
「に....二次面接....の説明?」
思わず何度も確認した。
初めての二次面接だ。
「よかったね。」
「ああ、でもこれ....」
記された日付は翌日の午前中。
「明日の朝から出ても間に合わないな。せっかくだけど....」
「行きなよ。
今からなら間に合うでしょ?
確か終電まで後30分あるよ。」
「けど....」
「大丈夫だよ、明日までにはおばあちゃん帰ってくるし一晩くらい大丈夫だよ。」
少女がここまで言ってくれているんだ。覚悟を決めないといけない。
「わかった。でも、終わったらすぐここに戻ってくるから。」
「うん、待ってるね。」
急いで自分の荷物をまとめ、宿を出る。
少女も買ってあげた赤いパンプスを履いて外まで見送ってくれた。
相変わらず服装とは似合わなかった。
しかし、女の子らしいと言えるのだろう。
丘を降りていき、振り返ると座敷屋をバックに少女が手を振って叫んだ。
「私の将来の夢はねーっ!
可愛いお嫁さんになることーっ!」
「なれるよ!絶対!」
自分も手を振って一旦別れの言葉を叫んだ。
「じゃあね!さっちゃん!!」
少女はそれを聞いてポロポロと涙を流しながら笑顔でこう返した。
「じゃあねー!こうすけーっ!」
滑る地面に気をつけつつ急いで丘を下って暗く静寂な町を駆け抜けて電車に乗り込んだ。
大きく揺れる車両で少しのあいだ揺られ、途中下車し運がいいのか乗り遅れたら1時間以上は待たなくてはいけないバスが丁度バス停に停車していた。
眠くなりそうなバスの暖かさと揺れに耐え、やっと新幹線に乗り込む。
同じ車両には誰一人と乗客はいない、静かに揺れる電車の中でやっと寝れると椅子をいっぱいに倒し寝ようとすると胸ポケットからバイブの振動がそれを邪魔した。
「あれ、携帯こんなところに....って電池も回復してる。」
そうか、多分あの子が町に下りたときに勝手に充電しておいてくれたのだろう。
携帯の通知が大量に溜まっていたおかげでバイブレーションがなかなか鳴り止まなかった。
メールのほとんどは友人の健太からだ。
『浩介大丈夫か?』
『電話でろよ』
などと、心配しているようなものばかり。
取り敢えず折り返しに電話する。
「もしもし?」
『おお!浩介!やっと繋がった!!
なかなか繋がらなかったから心配したぞ。』
「悪い!電池が切れててなかなか充電出来なくて!!
それよりもさ、俺二次面接来た!!」
『おお、よかった!座敷童子のおかげか?』
「かもな。」
おかしいよなと、笑いながら言った。
『じゃなくて、お前には間違えた場所教えてたみたいなんだ』
「それなら大丈夫だよ、ちゃんと座敷童子のいる宿に泊まれたよ。」
分かっていた、あの子はに生きている人間じゃないってのは。
初めは本当の女の子だと思っていたが、一緒の布団にいる時少女の体温は無かった。
なにかの儀式なのか一緒に寝ていたはずなのにいつの間に少女は外にいたりした。それだけじゃ、分からないが玄関以外に外に出る方法がないあの宿で玄関内に雪を入れる事無く戸を開けることは出来ない、特に積もってた日は開け閉めも少女一人にできるとは思えない。にも関わらず少女は毎度外に出ることが出来た。
この時点で、実物の人間ではないのだろうと思った。
妖怪が普通に寒いと感じたり、食べ物や飲み物欲したり、普通に町の人たちと会話したりするのすこし不思議に思う。自分は妖怪についてはよく知らないが、ただあの子と一緒にいる間はとても幸せなのだから、そんなことを気にするのは馬鹿だと思っていた。
『宿の人に電話しても来ていないって言うから。』
「でもちゃんと着いたし、泊まれたぞ。座敷屋に。」
『だから、その座敷屋ってどこのこと言ってるんだよ。
俺が予約していたのは《わらしの宿》ってところだぞ。』
「え....あ、そうだよきっと座敷童子が出るのはそこだけじゃなかったなんだよ。」
これ以上納得する答えなんてない。
『そう...か?まぁいいか。今回はほんとごめんな。』
「全くだ。お詫びは焼肉食い放題おごりな。」
本当はあの子と楽しく過ごせたので全くだ恨んではいないが、せっかくなので奢りを要求した。
『ぐ....まぁいい、お前就職祝いということも兼ねて奢ってやる。』
「まだ確定じゃないけどな。」
『まぁ、ポジティブにいけよ』
「おう。じゃ。」
『じゃ』