1日目
1日目
寒すぎて朝早く目が覚めた。
外は未だに大雪で外に出れそうにない。
雪でこの建物が潰れないか心配だ。
冷たさで麻痺し何も感じなくなった足裏で床を踏んで立ち上がり、ゆっくりと二階へ様子を見に行った。
「おーい。起きてるか~?」
返事は無かった、戸を開けて中に入る。
「....え?いない?」
布団は畳まずに、寝た痕跡を残してあの子の姿はなくなっていた。
「どこにいった?」
二階にはいない、一階浴室、台所にリビング全て探したがどこにもいない。
「消えたってことは、まさか本当に....座敷童子だった....のか?」
すると、外から雪を踏むザクっとした足音が聞こえてきた。
「まさか!?」
急いで玄関口に行き、靴を履いて外に出ようとする。
雪のせいか固く閉じられている戸を引いた途端、外から雪がが中に流れ込む。
外に出ると、強い吹雪が浩介を襲った。
雪の上に足をのせて歩き始めようとすると、足は一気に雪に埋もれ、膝下まで積もった雪の中に入る。
「こんな一晩でここまで積もるのかよ。」
雪を蹴りながら家の周りをぐるっと周る。
途中で明らかに何かが雪に埋もれていそうに小さな山になってる部分を見つけては駆け寄る。
上にのった雪をどけると、あの子が息をあげて倒れ込んでいた。
「おい大丈夫か!?」
声をかけても起きそうにはない。
とりあえず寒い外にいるより、建物の中に入った方がいい。
そうするためにその子を持ち上げようとすると、その子はまるで空気のように軽く、思わず力を入れすぎて腰を抜かしそうになった。
*
「お、目が覚めたか。」
二階の部屋の布団で寝かせていた少女は目を覚ました。
「あれ、私....」
「外で倒れてたんだよ。」
「そう....」
「なんでこんな吹雪の中外に出たんだよ。」
尋ねると少女は何か考えるように時間をとってこう返した。
「....ストーブ。」
「ストーブ?」
「そう!ストーブのオイルが家の裏にあるから。ほら、浩介寒いでしょ?」
ストーブ?そんなものあったっけ?
不思議と部屋の中を見渡すと隅にストーブが置いてあることに気づいた。
まじか。
「けどな....」
寝転がっている少女に頭に手をぽんと置いて言った。
「こんな吹雪の中一人で出ていくなんて危ないだろ。それに心配するな。
俺は大丈夫だから。」
「....うん。」
昨日より妙に大人しいな。
ずっと体が震えてるから寒さに負けて、大人しいのだろう。
「そんなに寒いか?」
「....」
自分のバッグを探りカイロを出して少女に渡した。
「ほら、これ使えば少しはあったかいだろ?」
少女は小さく頷いて布団に潜り込んだ。
「ありがとう。」
「おう。」
数秒すると布団から飛び出し元気そうにこう言ってきた。
「あーっ!!なんで昨晩自分にこれ使わなかったの!?」
「あ、いや今思い出したからさ。」
「本当に馬鹿ね。」
「あははー。」
良かった、思った以上に元気じゃん。
「それにしても、雪やばいなー。
こんな降ったら、この家も潰れちゃうんじゃ....どうした?」
さっきまで楽しそうにしていた表情が、また少し辛そうな重い表情になっていた。
「....」
まだ調子がわるいのかな?
「じゃあ、俺はお腹空いたし下の冷蔵庫に何かないか探してみるよ。」
立ち上がろうとする浩介のズボンを少女が引っ張った。
「なんだよ、まだ調子悪いんだから大人しく寝てろよ。
元気になったら今度こそ一緒に遊んであげるから。」
「違う。一緒にいて欲しいの。」
「大丈夫、外には出れないし....」
「違う....」
「わ、わかったよ。」
「ありがと。それじゃあ....」
少女は布団の隣に来いよと言わんばかりに、布団を持ち上げて隣のスペースをアピールする。
「いや、でもそれは。」
「大丈夫、誰かに見られてるわけじゃないし、浩介はロリコンなんかじゃないし私に手を出すほどの勇気はないでしょ?」
知ったようなふりをして言う少女に腹はたつが、確かにロリコンではないしそんな度胸はないので何とも言えない。
「ね....お願い」
「....わかった」
少女に言われた通り布団の中に入る。
小さな女の子相手に変な意識する俺がおかしいのだろうな。
っま、この子が寝るまでの間だけだ....
狭い布団に2人入るのはきついはずだが、そうでもなかった。
俺が入ってもさらに女の子一人入るくらいのスペースはあるか。
「やっぱりあったかいね。」
「確かに布団はあったかいなー」
すると少女は浩介を抱き枕のように抱きついた。
「少しだけ。」
そんな、寂しいそうに言うセリフはいろいろ考えさせられる。
ずっとこの家に1人でいて寂しかったのだろう。
布団はあっても誰かと一緒にいるという温もりは感じられなかったのかもしれない。
だから、抱きついてくるこの子の体はこうも温かく無いのだろう。
どうしてもこの子がかわいそうに思えた。
「ああ。」
いろいろ同情した上断ることもできず、静かに待つことにした。
少女の持つカイロが自分のお腹に乗り、そこから徐々に温かさを感じ次第に眠気を感じてきた。
たった一日とはいえ、こんなにも布団がいいものとは思ったことはない。
少しだけ。
少女が最後に言った台詞を自分の中で繰り返す。
俺も少し寝よう。
ゆっくり目を閉じて、真っ暗で真っ白な世界に入っていった。
しばらくして、目を覚ましまず隣を確認した。少女もまだ隣で寝ていた。
部屋の時計を見ると既に正午を過ぎてちょうどお腹も空いてきていた。
窓は未だに外の吹雪でガタガタと音をたてていた。
外には出られないし、どうしたものか....
ひとまず、少女を起こさないように布団を出て、静かに一階へ降り台所に置かれた冷蔵庫の中を確認する。
「....ですよねぇー」
もちろん、中に何も無ければ、冷蔵庫自体稼動しておらず、冷えてさえいなかった。
電気が通って無いんだから当然だよな....そもそも、電気も通ってないのになんで冷蔵庫なんて置いてあるんだよ。
次にシンクの水道レバーを上げるが、シャワーヘッドから水が出る様子はない。
「....んん?」
急いで風呂場に向かって、昨晩風呂に使った水を出した蛇口を回した。
「....ちょ....ええ!!」
蛇口を何度も回す。
それでも水が出る気配はない。
この寒さの中考えることはたった一つだ。
水道が凍結して水が流れなくなっている。
これは、困った。
前に健太から「人間はお腹が空いていても、水さえあれば一週間は耐えられる。」って聞いたことあるから、せめて水だけでも確保出来ればって思っていたが....
「どうするんだよこれ!!」
と一人風呂場で叫ぶと、すぐ隣の湯船に溜まった残り水が目に入った。
「......」
*
「何読んでるの?」
部屋の壁に背もたれて、座っていると少女が寄ってきて尋ねてきた。
「あ....ああ。起きたのか。暇だったから面接の本でも読んでたんだよ。」
「面接?」
「うん、就職面接。俺、この時期になってもまだ仕事決まって無いんだぜ。」
「笑えるよな。」と言ってもまだ子供のこの子にはその自虐を理解するのは難しいだろう。
「へ~、大変なんだね。じゃあ、忙しいの?」
「もう何回も読んだし、ただの暇つぶしなだけだよ。」
「じゃあ、暇なら私と遊ぼうよ。」
携帯の電源もつかないし、1人で出来ることはこの本を読む以外にはなくて暇だしこの子と付き合って暇を潰すしかないな。
特に躊躇うこともなくいいよと返事をした。
「その前に、喉が乾いた~。」
「....凍結して水道の水は出ないぜ....」
「え、じゃあこの喉の乾きはどうすれば....」
「でも、そこに俺が昨日持ってきた水の入ったペットボトルならあるよ。」
「やった!それ貰うね!」
少女はなんの迷いもなく、ペットボトルの水を飲む。
勿論この水は純粋な水などではない、
この子はこの水が例の水だとは知らずに飲んでいる。
仕方が無いんだ。これは彼女の為でもあるんだ!俺は悪くない!
少しでも自分の罪を軽くしようと一人心の中で言い訳をする。
「浩介?どうした?」
「世の中知らない方がいいこともあるんだぞ。」
「え?え?いきなりリアルなこと言い出した!?」
それからして部屋に大量に置かれたぬいぐるみなどを使って、いかにも女の子っぽい遊びに付き合ってあげた。
外も暗くなり、だいぶ静かになった。
窓を開けて外を見ると雪は止んでいて、夜空の中に光る星が無数にはっきり見えた。
「雪止んだね!」
「うん、でも....」
下を見下ろすと、予想以上に白い壁が近くに見え、一階の半分近くが雪で埋もれて、しばらく外に出られる様子ではなかった。
「凄い積もったなぁ....それよりよくこの家も耐えられたな。まぁ、外には出れないな....」
「そうだね。
でも、お腹すいた。」
女の子は隣でそのことを必死に忘れようとしている浩介になんの躊躇いもなく言った。
そこで、ふとある事を思い出した。
「そうだ。」
「?」
浩介は自分のボストンバッグの奥から酒のつまみにと買っておいたお菓子をいくつか取り出すと、少女は目を輝かせてこちらを見つめた。
空腹時に何かを口にすればさらにお腹が空いていしまう、そんなことなんて考えずに、二人でお菓子をガツガツ食べた。
床に置かれたチョコレート菓子を目の前にして少女はどうでもいいようなことを聞いてきた。
「きのこの山とたけのこの里、どっち派?」
なんともメジャーな二択質問だ。
「うーん、そうだな。
『きのこ』か『たけのこ』って聞かれたらやっぱり....」
二人顔を合わせ、口を揃えて言った。
「切り株の森だな。」
「切り株の森でしょ?」
浩介はこんなマイナーな菓子を知ってる上に、同じ好みであるとしって嬉しくなる。
「おお!!まじか!」
「切り株が一番よね。」
「そうだよな!」
そんな喜びもつかの間。持っていたお菓子を全て食べ終えると、下手に何かを食べたせいか、更なる空腹感が2人を襲った。
その晩、少しでも空腹で苦しむ時間を減らすため昼寝の時のように少女と同じ布団で寝ることになった。
*
すごい轟音と揺れとともに真夜中に目が覚めた。
なんだ!?
家の地震のように大きく揺れ、外は何かがなだれ落ちる轟音が聞こえる。
隣の少女はその揺れに怯え、浩介の体をぎゅっと強く抱きついた。
「....怖い....よ....」
少女をそっと優しく抱き返してあげた。
「大丈夫....大丈夫だ。」
そうつぶやくと、少女の力んでいた小さな腕は緩み、怯えた顔も安心したように表情が緩んだ。
何事もないよう祈りながら再び睡眠に入った。