0日目
幸福とは
「心が満ち足りていること。またそのさま」
広辞苑より
一言で表せば『幸せ』
幸せとはなにかと聞かれるとキリがないので、先の『幸福』と同じ定義にしよう。
幸せはお金持ちになること、世界が平和になること、長い仕事の後に自分へのご褒美のデザートを召し上がる時間。
人それぞれに様々な幸せが存在する。
これは1人の青年と座敷童子の3日間のお話。
☆
「よし、旅行しようぜ!」
周りは次々と内定を貰えている中、未だ内定が貰えておらず落ち込みながら焦っている俺に無神経にも友人の健太は旅行に誘ってきた。
「おいおい、お前俺がまだ内定貰えてないの知ってるだろ。」
「もちろん。」
そうだ、こいつは俺と違って先に内定とってる組だからそんな気楽な事言えるんだ。
大学で3年以上も一緒にいる仲でこんなにもこいつにムカついたことはない。
「けどそんな淀んだ顔で面接受けたってどこも採ってくれねえぞ。」
確かに彼の言う通り、ここ最近毎日鏡の前に映る自分の顔はいつも暗い表情、誰が見ても良い気分のなるようなものではない。
新卒のほとんどは夏休みか、冬休みに入るまでには内定が決まってるもの....それなのに自分は年も明けたにも関わらず、未だ就職先が決まらないのだからこんな顔になるのもしょうが無いだろう。
東大や京大ほどではないが、それの1つ2つ下の世間でかなり通用するだろう大学に入るため、高校3年間の半分を死に物狂いで勉強し入学することが出来た。
これで就職も楽になるだろう、そう思って大学4年の春まで学ぶ事はしっかり学び、受験期のころに沢山の人に言われた「大学に入れば遊びまくれる」という言葉の通り沢山遊び、その遊びや大学費に必要なお金を稼ぐために空いた時間た全てバイトに費やし、そんな風に大学生らしい大学生生活をおくり何一つ間違いのない生き方をしたつもりだ。
後は、このまま就職先も決まれば文句はない....がそうはいかなかった。
運が悪いのか自分の一個上の世代から就職氷河期と言われる、自分より有名な大学の生徒でさえ内定が貰えないことがあるくらい今は就職が厳しくなっている。
しかし、周りの友人は大手やそれなりに名前を知られている会社から中小企業まで皆内定を貰えているにも関わらず、何故か自分は恵まれていなかった。
ここまで説明をすれば、誰だって俺の気持ちが分かるだろう?
そのことを踏まえて友人は俺を励まそうとある情報をくれた。
「実はよ、俺さ....1年先まで予約がいっぱいっていうすごい宿をゲットしたんだぜ。」
「1年先までいっぱいなのによく空きを取れたな。それでそこに何があるんだ?
そんなに予約がいっぱいなら、何か凄いものがあるんだろ?」
彼の「凄い」はあてにはならないので、そこまで期待はしないようにしつつ、きっと大きな露天風呂とか部屋が豪華だとかそういう類だろうと少し期待してしまっていた。
「出るんだよ」
彼の言葉を聞き返す。
「でる?」
「そう、出るんだ。」
まさかのオカルトジャンルだった。
「お化けとかいわく付きの宿だったら俺は行かないぞ。」
ただでさえ辛い状況なのに、そんなバカな所へ泊まってる暇はない。
「違う違う、座敷わらしがでるんだよ。」
「座敷わらし?」
「そうそう、日本の妖怪の一つでさ....」
「いやいや、妖怪ってホラーじゃん嫌だよー。」
「最後まで話を聞けって。
座敷わらしってのは住みついた家やその姿を見た人を幸せにしてくれるっていわれている、とても善良的な妖怪なんだよ。
それがその宿に住みついてるんだってさ。」
そんな、都合のいい妖怪が存在するわけ無いだろ。
きっと、そんな胡散臭い噂を利用して宿泊客を呼び寄せている悪徳宿屋なんだろ。
「あ、浩介。お前、俺が嘘ついてるとかその宿が客寄せのために適当に作った噂話だ!とかそんな風に思ってるだろ?!」
「じゃなきゃ、そんなリアルに上手い話が出来るわけないだろ。」
「まったく、お前はもう少し人の話信じようぜ。」
「生憎俺はオカルトを信じてないからな。」
そんな、現実味のないものを頼ったところで時間の無駄だ。
「さっきホラーは嫌だとか言ってたくせにか?」
「うるせー」
「まぁ、ところがどっこい、この話を聞けばお前も信じるだろ。」
いまどき「ところがどっこい」なんて言葉使う人初めてだ。
「多額の借金を抱えたとある男性がその宿で座敷わらしを目撃して3日過ごしたら、その人は一生かけても返せないような借金を1年で返済出来たんだぜ。」
「うっそだ~」
「それだけじゃあない!
とある人は結ばれたい人と一緒に泊まったら、1週間後プロポーズされたり、
リストラされ家族にも捨てられた人は泊まり終えた翌日に全てが元通り、
他にも寿命残り半年と言われた女性が....」
「わ、わかったわかった。」
このまま通販サイトの体験談に書かれていそうなことを話させたらキリが無いし、そんな話をいくつも聞いていたら本当に信じてしまいそうで恐ろしいので話を止めさせた。
「はぁ...」
落ち込む俺を励ますために居酒屋にきて一緒に酒を飲んでいるっていうのに、こいつの方が先に酔っているんじゃないか?
「んでよ~お前もそこ泊まればいいとこに就職出来るんじゃねえのって、優しい俺がその宿をとってやったんだぜ~」
ああ、これはもう完全に酔いが入ってますね。
「それで、そこに泊まるお前の目的は?」
「俺はロト買って大当たりする!」
やはりそうか。
少しでも彼の優しさに感動しそうになった自分が馬鹿みたいだ。
「よし!じゃあ、来週行こう。どうせ年明けしばらくは入社試験とかないだろ。」
二次面接まできていればある可能性はあるが、その可能性がほぼ0の自分はなんの予定も入っていない。
「ああ....」
「よし決定!」
こうして、二人で酒を飲みかわしながら、旅行に行くことを決めた1月のはじめ。
その数日後、その友人から1通のメールが送られた。
*
0日目
3日間過ごすための衣服や携帯の充電器、カイロや酒のおつまみになるようなお菓子を入れたボストンバックを肩にかけ、冷えた手をコートのポケットに突っ込んで1人駅の前で待っていた。
「ったく....あいつおせえな~」
この旅行の2日前に送られた彼のメールには「すまん、いま俺実家にいるから現地で待ち合わせな。」という1行の文面と、この駅までの路線や宿の位置を殴り書きで書いた紙を写した写メが添付してあった。
向こうから誘っておいてこれはないだろと思いながら渋々、書かれている通り都心から新幹線、そこから私鉄に乗換え、さらに30分に1本という運転間隔の遅いバスに乗り換え、加えてそこから6時間に1本しか走らない超ド田舎を走る電車に乗ってここまで来た。
「こっちは遅れないようにと思って焦って家を出たっていうのに!」
来るだけでも既に半日以上の時間をかけていてクタクタだった。
夕日も暮れ、人ひとり見かけない寂れた町に1人でいるのを実感するとさらに寒さが増してきた。
1時間近く待って彼に電話してみたが出る様子はなかった。
朝からずっと乗り物に揺られ何も食べずに来たので、取り敢えず1人で先に夕食でも済ましてしまおうと駅前を離れすぐの商店街に出向いた。
目新しい建物は何一つなく、年明けとはいえ、1週間以上経っているのに開店しているお店は見当たらない。シャッター街となりえて、不気味なくらい静かだった。
「こんな静かだったっけ?」
ポツリと呟いた自分の言葉に違和感を感じだ。
あれ、ここ一度来たことあったっけ?
そんなわけないよな...これがデジャブというやつか。
色々と探し歩くとシャッターも閉まっておらず、電気の明かりが漏れ出ている一軒のラーメン屋を見つけた。
他に開いている店はなさそうなので、仕方なくその店にしようと決めた。
長く使い古された暖簾をくぐり抜け、店に入る。
中は特におかしなところもなく、至って普通なラーメン屋だ。
豚骨ラーメンを一杯注文し、そばに置いた携帯電話が鳴るのを待った。
「豚骨ラーメン一杯あがり。」
店主のおじさんがラーメンを自分の前に置くと、携帯電話が小刻みに短く震えた。
あいつからのメールだ。
携帯のロック画面を外しメールボックスからメールを開き内容を確認した。
『すまん、先に宿に行っててくれ。』
その一言だけだった。
....あいつほんとに自分勝手なやつだな!
このイライラを食欲にまわし出されたラーメンを飲み物を飲むように、ガバガバと胃の中に流し込こんだ。
食べ終えるとカウンター席に座る自分の向かいで鍋を洗っている店主に声をかけた。
「あの、すみません。」
「なんだね?」
「この近くに座敷わらしが出るって言う宿しりませんか?」
友人の彼から教えてもらったのは、ここまでの行き先と座敷わらしがでる宿の予約を取れたってだけで、宿の場所や宿の名前さえも教えてもらっていなかった。
「座敷わらし?」
「ええ、馬鹿みたいな話ですけどそんな噂がたっている宿があるはずなんですが....」
「ああ、『座敷屋』のこったな。
それなら町を少し出て、むこうの丘の林道に沿っていけば見つかるぞ。」
「ありがとうございます。それじゃあ。」
「お勘定か、豚骨ラーメン一杯750円!」
財布から千円札を出し、お釣りの250円を受け取りボストンバッグを抱えて再び外を歩き始めた。
外は真っ暗になり、寂れた町の街頭は点滅を静かに繰り返し、さらに不気味さを増した。
しかし、まだ灯りがあるだけましだ、町を出てすぐに丘に入るとすぐ闇に覆われてしまう。
車の通る車道はしっかり舗装されているものの灯り一つなく、まっすぐと上に伸びる一本の道を左右で挟むのは数え切れない木々だけ。
何か出てきてもおかしくないこのシチュエーションに怯えながらも、1人車道のすぐ横を歩いた。
「....やっぱ怖えぇよ」
一度町に戻ろうかと思うが、その前にポケットから携帯を取り出し、この旅行の発案者に電話することにした。
決して気を紛らわしたいからとかではなく、彼に文句を言いたいからだ。
『どうした浩介?』
「どうしたじゃねえよ!」
『ああ、そうだ。俺行けなくなった。』
「おい、なんだよそれ!ドタキャンしやがって!お前のせいでこんな寒くて暗い中を座敷屋目指して俺一人で歩いてるんだぞ!ふざけるなよ。」
『いや、悪いって。あと、もう一つ。
座敷わらしが出るなんて宿なかったわ。』
「は?何を今更。座敷わらしが出ないとか。」
『ってか、浩介今どこにいるんだ?』
「よく分からない丘の道歩かされてる。」
『丘?そもそも座敷屋って.....』
プツッ。
「なんだよ、座敷屋がなんだって?」
携帯のマイクに尋ねるが、既に通話は切れていた。
というよりかは、何を押しても携帯画面は点灯する様子を見せないので、電池切れになってしまったみたいだ。
ったく、健太のやつ本当に適当な野郎だな....
そんな適当な野郎に俺は就職を先に越されているんだったことを思い出し、虚しくなった。
まぁいい、早く宿を見つけて温まろう。
次第に歩く速さを上げていった。
「あれか....?」
車道に沿って一軒の建物が見えた。
看板も立っていて『座敷屋』と書かれている。
「よし、やっとついた。」
近くで見れば大きさや形は宿ってほどのものではなく、どこにでもある安っぽい2階建ての部屋が3、4つくらいしかない家のような建物だった。
今はそんなことを気にしている場合じゃなく、冷えきった体を温めるべく、早く暖をとらなければならない。
「すみませーん。」
呼んで少し待つと、どこからかこの宿の女将らしき老婆が出てきてはこう言った。
「あら、お久しぶりですね。」
ん?久しぶり?この人ボケているのかな?
「あのー、町田健太の名前で予約でこの宿をとったのですが....」
「あら、ごめんなさい。人違いしちゃったみたい、歳のせいか最近人の顔を覚え間違えることが多くてねぇ....」
「はぁ....」
無関心に適当な返事し、話を戻した。
「それで、当の本人が来れなくなったみたいで。」
「あら、そうですか。それではお一人様でいいですね。ささ、お上がりください。コートもこちらのハンガーにかけてお預かりいたしますよ。」
こくりと頷くとコートを玄関のハンガーに掛け二階に案内された。
二階には見たところ一部屋しかなかった。
「あの、他に宿泊者は?」
「ヒヒヒ、この宿は一組様限定で部屋はそちらの一室のみですよ。」
少し不気味だが、逆に自分1人が泊まれると考えると、自分が特別になれたような優越感に浸れた。
中を覗くと長方形に十畳近く敷き詰められた畳の和室は広くも狭くも無い筈なのに、両隅には異様な程多種の人形やぬいぐるみが置かれているせいか少し狭く感じる。
正直、その部屋の第一印象に「げ....」と言う言葉が漏れてしまった。
「あの....この大量に人形は....」
「ええ、この人形達は以前ここに泊まって下さった客が置いてってくれたものでして、あまりお気になさらず。」
人形と言っても、日本人形などホラー要素が多そうなものではなく、熊のぬいぐるみなどと可愛らしいものばかりだが。
こんな人形だらけの部屋で寝るなんて初めてだぞ....気にしないわけがないだろ。
「あと、夕食は済ませてありますか?」
「あ、一応町でラーメン食べてきたので。」
「それは良かったです。この宿では食事を提供していないので、町に降りるか持参していただく形になります。
いまから夜道歩くのは危険ですので先に済ませておいて良かったです。
それではごゆっくりしていってください。」
「分かりました。」
女将は下へ降りていき、自分はひとまず部屋へ寝転がった。
「ふう....やっと落ち着ける~」
天井の木目をボーット見つめていると、ふとあることを思い出して起き上がり、荷物の中から携帯の充電器を取り出した。
「コンセント、コンセント~....
あれ。」
部屋の中を探し回るが見つからない。
「ど....どこだ?」
探しているといつの間にか目の前にあの老婆が立っていて驚いて後ろに仰け反った。
「うおぉ!」
「浩介さん、これお布団です。」
わざわざ布団を持ってきてくれたのか。
「あ、ありがとうございます。
それよりも、コンセントってどこにありますか?」
「すみませんねぇ、ここには電気が通っていなくてねぇ、部屋灯りも乾電池使ってるくらいですから。
あ、でもガスはあるので大丈夫ですよ。」
電気が必須になるこの時代大丈夫じゃないでしょ...
めっきり都会っ子の自分には慣れない環境だ。
まぁいいや、明日町に下りれば充電で出来る場所を探すか。
「それでは、私はここから出ていきますね。」
「え、女将さん?」
「私の自宅は別の所にあるので、私は帰ります。」
「ええ!それってここは俺一人ってことですか!?」
「ウヒヒ、大丈夫ですよ、あなた一人ではありませんよ。」
老婆は奇妙な笑いと気になるようなことを最後に残して宿を出て行った。
「それって...座敷わらしのこと...だよな?」
急に背筋に悪寒が走りブルっと震えた。
「いや、まて。まだ聞いておかなくちゃいけないことが!」
浩介は急いで宿の外へでて、まだ遠くへ行っていないはずの女将の姿を探す。
「嘘だろ、もういないのか!」
何処まで自由に使っていいか聞いておきたかったが、まぁ、大丈夫だよな...
ひとまず風呂にでも入るか。
布団と一緒に女将が持ってきてくれた真っ白なタオル1枚持って一階の浴室に迷うことなく辿りついた。
一階はキッチンとリビングが一緒になった少し大きな部屋とトイレ、浴室しかない建物だから迷うことはない。
俺一人みたいだし、いつもどおりでいても大丈夫だよな。
もちろん、宿ではあるので少しはわきまえようとは思う。
といっても、宿に来て迷わずお風呂を使おうとする時点でわきまえているとはいえないな。
更衣室の中で服を脱ぎ、服入れようの籠にぽいと投げ込む。
浴室に入ると、そこにあるのは小さな浴槽だけ、しかも今時回してお湯を沸かすタイプのやつだ。
「まじかよ....」
電気が通ってないから当然か...
まぁ、直接火を炊いて作るよりかはましだよな....
このタイプの浴槽は実は言うと初めてではない、昔何処かで使ったことがあるので使い方に困ることはないが。
面倒なうえ時間がかかる。
レバーを回しても火がつくことが無かったりして、イライラする。
着火してから後はお湯が貯まるのを待たないといけないので、寒い中震えながらお湯がある程度まで貯まるのを待つハメになった。
それから少しは貯まるとお湯に浸かりはじめた。
「ふぅ....温まるぅ~」
気持ちよくお湯に浸かっていると、浴室の曇りガラスの窓がガタガタ揺れ、外からすごい風の音がするのが聞こえた。
「げ、雪!?」
ガラスの向こうでは沢山の白い粒が荒れ狂うように舞っている。
降り出したのが自分が宿に着いた後で良かったと幸福と一緒に更に深く湯に浸かった。
満足して風呂場を出て、着替えの服を持ってくるのを忘れてたことに気づく。
どうせこの家には誰もいないから大丈夫だよな。
腰に巻いたタオル1枚のみで身を装い、他者の建物をうろつく、社会のマナーを学んだ就活生とは思えないことをしでかした。
2階への階段を上り、自分の部屋に入ろうとする瞬間、ふとおかしな点に気づいた。
「あれ、部屋の引き戸閉めていったっけ?」
閉まっている部屋の襖を閉じた。
「お風呂どうだった?」
「ああ。いい湯だったぜ~」
ってあれ?
いるはずもない誰かに質問され、普通に返事を返してしまったが、おかしすぎる。
部屋の隅にいたせいかすぐには気づかなかったが、まだ小学生中ぐらいの着物を着た女の子がポツンと座り込んでいた。
あまりの衝撃に、青年の手の力が抜け使用済みの服を手から落とした。
それと一緒に腰に巻いていたタオルがずり落ちた。
「ぎゃぁあああ!!」
浩介の悲鳴に続き少女は悲鳴をあげた。
「きやぁああ!」
女の子はすぐに部屋を出て襖を閉めて叫ぶ。
「早く服を着てよ!!」
「あ、はい。」
焦ってバッグから替えの着替えを取り出すてそれらを着る。
そもそも、なんで女の子がこんなところに?
「....もう大丈夫だよ....」
「そう、じゃあ入る。」
「そこに座りなさい。」
「....はい」
何を言葉にすればいいか分からないのかよせいか言われるがままに卓袱台を互いが向かい合う様に敷かれた座布団の上に正座した。
「ねぇ、人の家を裸で平気で歩き回っていいと思ってるの?」
「着替えを部屋に忘れたから....」
「それだったら、その使用済みの服着ればいいでしょ?」
「はい....すいません....」
実質この家は違う人のものだし、自分がいた愚かな行為に関しては返す言葉がない。
「っていうか、そもそもなんで君みたいな女の子がここにいるんだ?」
「はぁ?だってここは私の家でここは私の部屋。なに?浩介は自分が自分の家の自分の部屋にいたらおかしいって言うの?」
浩介は自分がここに来た時はさっきの女将以外に誰もいないことを確認した。
何処かに隠れていたという様子はなく、まるでお化けのように突然出てきた....と言うよりかは目に映るようにな感じだった。
そこで浩介には噂の座敷童子の言葉を思い出してこの状況を飲み込めた。
「わかった。君は座敷童子なんだね!
すごいなぁ、最近の妖怪は人がはっきり見ることできて、初対面の名前までも知ることができるんだな。」
そうだ。こいつは座敷童子....
ちょっと待てよ、それって逆に怖くないか?目の前に妖怪が....
女の子は正座していた脚を崩して胡座をかき、女の子がするようなはしたない体勢に変えた。
「はぁ?なに言ってるの?座敷わらしなんているわけ無いじゃない。
私はさっきのお婆ちゃんの孫娘で、あなたの名前もその人から聞いたの。」
確かに、さっきの女将と同じ着物を着てるし何か関係しているのか。
「いや、でも、だって....この宿には座敷わらしが住みついてるって....
あ、ほら。前にここに泊まりに来た人はみんな幸せになってるって。」
「はぁ....だから座敷童子なんてそんな不確かな存在は存在しないの。
以前に泊まりに来てくれた人達はみんなちゃんと私と遊んでくれて、とも優しい人達だから幸せになって欲しいとは思っているけど、実際に彼らが幸せになったかどうかは知らない。そもそも、幸せって本人が幸せって感じるから幸せなだけで、幸せって思うだけでいい事が起きてるように思い込んじゃってるんじゃないの?」
俺よりもずっと若い女の子が凄いこと言ってるぞ....
それにしても、それじゃあこの子はどうやって?自分が座敷童子だって気づいてないだけか?
「ね、わかったでしょ?」
「う....じゃあ、俺はどうすればいいんだ。ここは宿なんかじゃなくて、君の家なんだろ?なら俺は出ていった方が....」
「いえ、ここは私の家でもあるけど宿でもあるのよ。この宿は三日間私と一緒に遊んで一緒に過ごすことが条件の、癒しの宿よ。」
「癒しの宿って、女の子と二人きりにさせる宿って危険じゃないか!」
普通におかしい。そもそも、こんな人里離れたような場所に女の子1人にさせるなんてのがおかしすぎる。
「私のこと心配してくれるの?」
「心配もなにも、当前だろ!女の子1人こんなところに住まわせて、しかも知らない人を泊まらせたりしてるんだぞ。」
「へぇ、浩介は優しいんだね。けど今日は外が大雪で危ないし、町に降りられないから泊まっていくでしょ?」
「う....うん。しょうがない。」
「それじゃあ、今日は疲れたでしょ。もう寝よ?」
「そうだね。」
壁に寄せていた布団を広げて、仲良く一緒の布団の中に....
「って、いやいや!同じ布団はまずいって。」
「まずい?あー、浩介はこんな小さな幼女に変な気を持っちゃう性癖?」
ニヤニヤとムカつく顔をする少女のほっぺを引っ張った。
「違うよ、俺みたいな見ず知らずの人と狭い布団で一緒に寝かせるなんて、君が可愛そうじゃないか。」
「私は別に....」
「だめだ。他に布団探してくるから、君はそこでもう寝な。」
そう言って少女を部屋において、1人1階へ降りて探索を始めた。
「....ッヘクション!」
カッコつけた所でこの建物に布団はあの1つのみで自分は1階の部屋でコートを布団代わりに使い冷たい床で寝た。
「そういえば、あの部屋の押し入れは見てなかったな。
いや、もしそこに布団があるんだったら、女将がわざわざ布団を持ってこないよな....まさか今まで泊まりに来た人はあの子と同じ布団に入って寝てたのか!?」
寒さを紛らわそうと、1人でブツブツ呟くが虚しいくなって、余計に寒くなる気がした。
ブルブルブル
体を震わせながらゆっくり眠りに入った。