二
雨の日は道を急いで、ゆっくりと周りを見ることはなかったが、今日は外に出て被写体を探した。雨が降っているだけで、いつも見ている大学の構内で色々な変化を見つけた。
アスファルトの道が濡れて色を変え、木々には水滴が付いていた。歩いている人の傘は色とりどりで変化に富んでいた。古泉も普段はその人たちと同じで、目的地に行くことだけを考えて歩く。雨の日は。
一人が天水のカメラで撮影し、一人が撮影者のために傘を持ち、一人が周囲の邪魔にならないように気を配った。時間を気にせずに被写体と向き合うのも好きだが、写真部に入ってから、こうやって誰かと協力して撮ることも悪くないと思い始めた。
古泉のカメラにはファインダーが付いていないため、ファインダーのある天水のカメラを使うのは違和感があった。
「ライブビューって言って、『LV』のボタンを押すと液晶に表示されるよ」
天水にそう教えてもらったが、せっかくなのでファインダーを使った。古泉の好きな接写ができないレンズだったが、時間をかけて何枚かいいと思える紫陽花の写真が撮れた。二人はその間待っていてくれた。
一緒に写真を撮りに行くということは何度もあったが、こうやって人が撮影しているところをじっくり見る機会は今までなかった。天水は歩いている人に声をかけて写真を撮らせてもらうなど、傘を持つ人に焦点を当てていた。水上はズームレンズを広角寄りで使い、人や木々を含めた風景を撮っていた。
二人が角度や距離を変えて被写体に向かっている姿を見て、視点や着眼点の違いを感じた。それは人が撮った写真た時にも感じることだ。
違うからこそ、なぜそこに注目したのかを考える。違うからこそ、互いの価値観を認め合えるし、意見も言い合える。それは、決して悪いことではない。
部室に戻り、天水はブロアーでカメラに付いた水滴を飛ばし、タオルで拭いた。自分の髪や服は後に回された。
撮った写真をパソコンのモニターで見ていると、夏川が「こんにちは」と言って部室に入ってきた。三人がバラバラに挨拶を返すと、彼は鞄を置いてモニターをのぞいた。
「大学内ですね。いつ撮ったものですか?」
「さっき」
「三人で、ですか?」
「うん」
夏川の問に古泉が答えた。夏川は携帯電話を取りだして、なにやら操作した。二十秒くらいで顔をあげ、
「今週末は雨なので、雨の中の撮影をしませんか? ちょうど今月号の特集ですし」
さっきのに参加できなかったのが悔しかったのか、夏川は本棚を指差して言った。みんなあの雑誌を読んだのか、と古泉は思った。
「賛成」
すかさず天水が言った。
「二人とも、いい?」
「うん」
「いいよ」
二人は同時に答えた。
前向きという点ではこの二人は似ているのかもしれない。古泉は今回と次回の提案者を見て、そう思った。