テルパノの冬
掲載日:2013/09/28
テルパノには時々、雪が降る。
空中を漂う小さな生き物の死骸が、大気に含まれる微細な石結晶を纏って、
白い綿埃として落ちていく。
触れるとひやりとして、嫌いじゃない。
埃だらけで使い物にはならず、作業車の排気系に絡むから、大概の連中には嫌われているが。
「なあ」
「何だ」
俺は機翼に力を入れて石結晶の塊を持ち上げながら、横の男に話しかけた。
「雪って、好きか」
男は労働歌を歌う口を止め、ふうんと唸った。
男が歌っていたのは、翼鼠族が宙を漂う藻の塊を刈る時に歌う、古い歌だった。
「そうだなあ」
男は特有の細い身体つきをしていたが、背に生きた翼はなかった。
張った胸筋が動くのを、ひとつ息をつきながら見ていた。
「嫌いじゃないな。できれば休みの日に見たいが」
「それは違いない」
腕に抱えた塊を作業車の籠に放り込むと、俺はまた漂う鉱脈に目を戻した。
その時、ひらりと目の前を白いものがかすめた。
空の上から空の下へ、次から次へとひらひら落ちていく。
遥か眼下、黄色い雲の向こうへ吸い込まれていく、無数の綿埃。
男の歌声が違う旋律に変わっていた。
冬の祭礼。
ああ、そういえば昔、この星には冬があったと聞く。
気流の関係で雪が大量に降る時期があり、石結晶を含む雪が気温を下げたのだと。
今は、もうない。




