出会い
「やっと、できた・……」
作業を初めて二時間、ようやく能力の付加が成功した。今私が着ている白いワンピースに能力を付加した。
本当なら、剣や盾、鎧、アクセサリー等にするのが一般的(母さんの仕事を見ている限りでは)だったのだが、今私の手元にあるのはほんのわずかなお金とそれらを入れている小さなポーチだけである。携帯食料なども欲しかったけれど、貴族の屋敷にはそんなものはなかった。
なので、私が取れた選択肢は今着ているワンピースにお金、小さなポーチである。靴は三年間庭以外で外出しなかったのでなかったし、奴隷に靴を与える人もいない。なので今も靴は履いていない。
お金は論外であり、ワンピースと小さなポーチが残る。そしてなんとなくワンピースに決めて付加をはじめた。
何度も付加を試みて、終わったあとに魔法が使えるか試して確認し、魔法が使えたら再度付加を試みて確認の繰り返し。
ついに魔法が使えなくなったので多分成功してるんだと思う。
ふぁ~……、そろそろ眠ろう。そして明日五時にここを出よう。
じゃあ、おやすみなさい。
「ふぅ……」
たった今門を通り抜けてきたけれど、少し危なかった。
こんな朝早く、一人で、小さな女の子が(見た目は)、裸足で、武器も持たず通り抜けようとしたんだからすごく怪しまれた。
それにゾインが死んだことはすでに広がっているらしく、犯人は13歳の少年でゾインの奴隷であり、魔法が使えるそうだ。ちなみに名前はユウらしい。
そう、恐らく首輪からの情報だろう。ユウという名前はもう使わないほうがいいのかもしれない。私自身結構気に入っていたのに……。
それで、結構怪しまれはしたんだけれど、私は女の子(見た目)であり、魔力もなしと判断されたので捕まることなく通り抜けることができた。
ちなみに魔力の検査はそれ以外の情報で怪しい、当てはまる、といった人物がいたらその人のみ行うそうだ。
「確か、この街道を歩いていけば一日で街に着くはず……」
屋敷の本で国の周辺の地図みたいなのがあって、それに載っていた覚えがある。
その街はさっきまでいた国の領内だけれど、一度そこに寄って王国外に行くためのお金を稼ごうと思っている。
流石にゾインを殺した場所に何日もいたくない。なので一番近くにある街で、となった。
さて、魔物に出会わないよう祈りながら行こう。
一応街道なんだし、大丈夫なはずっ!
街道を歩いて三時間程経った。歩き始めて一時間位した頃から段々を街道は細くなっていき、周りには木が立ち並び始め、現在では完全に森の中を歩いている。とは言ってもちゃんと通り道はあるので大丈夫だと思う。
この世界に生まれて13年。街の外に出たのは初めてなのでこの世界の森を見るのは初めてだった。
この世界の森は前世で見た森とは少し違っていた。森ではなく木が前世で見た木よりも少し大きい気がした。
やっぱり、異世界なんだなぁ~と今更感があったが思っていると、突然後ろから大きな雄叫びが聞こえ、ビクッと反応し、振り返ってみると、そこには三メートル位はありそうな茶色い体毛のクマが私を狙っていた。
え…この森にはこんなのはいないはず……。
この森は街道が通っているため、ギルドでの依頼として危険な魔物は退治され、ほとんど小動物、いても犬より少し大きい程度のウルフ位と本には書いてあった。
こんな大きなクマがいたらすぐに討伐依頼が出されて、討伐されるはず。
ということは、まだ未発見で以来が出されていない状況というのが妥当。
そんなことは後でゆっくり考えればいい、今は逃げないと!!
魔法は使いたくはないけれど、こういう状況でなら話は別だ。と言いたいけれど、昨日は私はなんて馬鹿だったんだ……。
私の魔力を消しているのは今着ているワンピース。つまり、魔法を使うためには服を脱がなければならない。
服を脱ぎ裸になれば助かるならばそれでもいいのだが、私には裸になれない理由がある。
私は女として生きる、とはいったけれど、体は男であり、裸で逃げているところを誰かに見られでもしたら、私が犯人だとバレる可能性はかぎりなく無に等しいがあるにはある。
ゾインが殺されて翌日、朝早く王都を出ようとしていたとても街の外に出るような格好ではない怪しい少女が実は少年でした、なんてことになるかもしれない。
それだけは防ぎたい、けれど死ぬのも嫌。
なら、魔法を使わずに逃げ切ればいい。
その答えに至った私は直ぐに自分に出せる最大速度で逃げ出した。が、生まれて13年、ほとんど運動すらしていない体で出せる速さは、クマにとって止まっているかのように見えたかもしれない。
それに体力のない体で、既に数時間歩き続けているので体力は残っている訳もなく、わずか百メートル程走っただけでフラフラになり、近くにあった木にもたれかかってなんとか倒れずに済んだ。
もう私には逃げる体力がないとわかっているのか、ゆっくりと近づいてくるクマ。
こうなったら魔法でも使って最後の抵抗でもしてみようか、あ、服脱ぐのが無理かもしれない。
あぁ、痛みもなく一瞬で死ねるようにお願いしておこう。
そう思い目を瞑るが、一向に痛みが来ない。痛む間もなく死ねるように願ってはいたが、実際は無理だと思う。なのに一向に来ない痛み。不審に思い目を開けると、そこには両手を手首付近から両断されたクマが立っていた。
クマも何が起きたのか分かっていない様子で、当然私も何が起きたのかわからない。
そして、次の瞬間クマは首を切られ、血を噴出しながらドスンと重い音を立てて倒れた。
「大丈夫ですか? どこか怪我などは・……っ?! サクアリア様!? 大丈夫ですか!? ―――――」
助かった、そう気がついたら急に眠くなった。数年ぶりに長時間歩いたことや全速力で走ったこと、クマに殺されるという恐怖でとても疲れていたんだなぁと思いながら私は意識を失った。
それと、私を助けてくれたのは嬉しいけれどサクアリア様じゃないです。