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07:作曲家の喜劇の始まり始まり


07:作曲家の喜劇の始まり



夢を、みていた


真っ白なウエディングドレスを身に着けた私は、ゆったりとした足取りで教会の中を歩む。

青色のステンドグラスが輝き、赤い絨毯と白い大理石の空間のコントラストが美しい。


教壇の背後には巨大な金の十字架。

そして、中央にあるのは白いグランドピアノ。



振り向けば、同じく純白の衣装に身を包んだ青年がいた。



私が微笑めば、彼は剣の柄を強く握りしめた。


何故か頬に涙がつたわる。


どうしてか、わからない

ここが何処で、私が誰で



彼の顔がぼやけてみえない。








*****







「っ……………?」


ぼんやりとする視界の中、ゆっくりと身体を起こす。


「ここは………」


マリアがきょろきょろと周囲を見渡せば、いつも見慣れた自室であることがわかる。

この城に来てからマリアに与えられた、淡いブルーの壁紙の部屋。

自らの身体はふかふかのベッドの上に横たわっており、窓からは西日が差しこんでいて夕食時を告げていた。


「ん…?私は、いったい…。あの子、は?」


ズキンと鈍い痛みが脳を襲う。


「っ………」


額に手を当て、痛みに耐える。


うっすらと思い出すのは、あの美しい女性。

楽団との最後の練習の帰り道に、連れて行かれた彼女の「庭」。

そこは、とても美しく、きれいで。

そこで私は、ピアノを―――――――――――――。



コンコンコン


マリアの思考を止めるかのように鳴り響くノックの音。


「マリア様。アノでございます。入ってもよろしいでしょうか」

「は、はい!」


マリアは、とっさに身なりを整えると扉に駆け寄る。


開かれた扉の向こうには、両手に荷物を抱えた侍女のアノの姿があった。


「あ、あのどうされたんですか?」

「マリア様!今から女王陛下が来られます」

「っ…………へ?」

「明日の舞踏会の衣装合わせがまだでしたから」

「え、衣装…?」


アノの言葉に首をかしげるも、先日の食事会での女王陛下の言葉がマリアの脳裏によぎる。


「あ、あの言葉は本当だ「マリアさん!ご機嫌麗しゅう!」

「っ!?じょ、女王陛下っ!」

「お辞儀なんてしなくていいわ!あなたに似合うと思って10着ほどもってきたの!さぁ、着替えましょうか!」

「っ…………!!」

「私のお古もあるんだけどねー!キャーどうしましょう!この花柄も似合うわね…でも、このストライプも捨てがたいわ」


目をらんらんと輝かせた女王は、つぎつぎにマリアの身体に服を合わせて声を上げる。


「ねぇ、アノ?楽団の方々は何色の衣装かしら?」

「今回は…薄黄色ベースの衣装ですわ、女王陛下」

「あら、そうなの。そうねー、アリアさんの髪はゴールド。瞳はとーってもきれいなスカイブルー……よしっ!これなんてどうかしら?」


楽しそうに、マリアの衣装を選ぶ女王にマリアは恥ずかしそうに微笑んだ。


「女王陛下、ありがとうございます」

「何をいっているの、マリアさん!むしろ、感謝するのはこちらの方よ!」


オレンジと白のストライプのふんわりとした膝丈のドレス。

ふんだんにあしらわれたレースは最新のもので。

トップは演奏しやすいようにきちんと首元までしまったレースとオフオレンジのシャツ。

袖口も最新の流行を取り入れたふんわりとしたもの。コルセットは茶色ベースで、紐を通す穴には小さな宝石があしらわれていた。


マリアの髪を優しく結いながら、楽しそうに女王は言葉を続ける。


「私ね、娘がほしかったのよ。ずーっと。クランツを生んで育てるのに、思ったより時間がかかっちゃってね…気づいたら、こんなに歳を重ねてしまっていて」

「そ、そんな…。女王陛下はまだまだお若いのに…」

「あら、ありがとう。でも、身体がもうダメみたいなの」

「え…?」

「ふふ。だから、あなたみたいな可愛らしい娘さんをクランツが連れてきたときはうれしくって」


優しげな声が、部屋に響く。

王子と同じ黒い瞳。華麗に結い上げられた柔らかい茶色の髪。

同性でもほれぼれするとはこのことだろう。


「私も、昔はピアノを弾いてたのよ」

「え!?そうなんですか!?」

「えぇ、あ…でもマリアさんみたいには弾けないけど。本当に教養のひとつとして、ね」


ウインクしてみせるその姿はとても可愛らしい。

女王はマリアのおでこにそっとキスを落とす。


「っ!?女王陛下っ!?」

「ふふ、可愛い。明日はこれでいきましょう?ね、アノ」

「はい。とてもお似合いですわ、マリア様!」

「え、えっと…」


マリアがおろおろとしていると、もうじきくる夕食のために再び結い上げた髪をおろしながら女王は話始めた。


「私の祖国では、家族の額にキスをするのよ」

「女王陛下の、祖国?」

「えぇ。ここから、ずっと東にあるのよ。水がきれいで、冬がとっても長いの」

「冬…」

「そう。雪も沢山降るし、氷も厚い。でも、家族の絆はとっても暖かいのよ」



そういえば…と、マリアは昔習った王家の歴史の記憶を紐解く。

今の女王陛下は珍しく国外からきた女性だった。

この国では、国内の令嬢を妃にむかえるのが通例だったのだ。変に他国の中の一か国と婚姻という名の同盟を組むということを極端に避けていたのも理由のひとつであったとか。


「……マリアさん。私にとって、貴女はもう家族も同然なの。何かあったらいつでも来て頂戴。……嫁入り前の女性が一人、例え国内であっても…親元を離れるのは辛かったでしょう?」

「っ………もしかして、女王陛下も…?」

「えぇ、ここに一人で来たときは毎日泣いていたわ。家族のみんな、私のことどうでもいいんだって…恨んだ時もあったわ」



つい、その言葉にマリアは振り向いた。

そこには優しそうに微笑む女性の顔があった。


ゆっくりと、白く美しい指がマリアの頬を撫でる。


「可愛い顔が、台無しよ」

「っ………じょうおっ…へい、か」

「クランツにばれたらどうしましょう。私がマリアさんを泣かせたって怒られちゃうわ」

「っ、ちが」

「さ、涙を拭いて。目が腫れたら大変」

「はいっ…」



一人で来る馬車の中で、ずっと考えていた。

例え王国の人の命令で迎えが来たとしても、家族のだれかが止めてくれるって。

形だけでもよかった。

家族のお荷物になっている自覚はあったのだけれど。



でも、淡い期待とは裏腹に、見送りなんてものも無かった。

家族は私のことなんて、どうでもいいんだ。

やっぱり、いらない存在なんだって。


女王陛下や王様、王子の和やかな食事の風景が無性に羨ましくって。

何度も自分の家族とは比べて泣いた。


それでも時折家族の出てくる夢をみては、心が締め付けられるように痛くって。


「マリアさん、きっと……あなたが知らないところで、気づかないところで…家族は家族のことを思っているはずよ」


優しい女王陛下の顔が、マリアの心を晴らしてゆく。

一人じゃない。そう思えただけで、なんとなく心が軽くなった気がした。


「それに……きっと、あなたのピアノの演奏が、家族をつなぐはずよ」

「演奏、が?」

「えぇ、きっと。………あなたと、息子を…クランツを繋いだみたいに」









その日は、女王陛下と手を繋いで食事をする講堂まで歩いた。



心が不思議とあったかくなっていた、夕暮れ時。






























使用BGM


前半 「妖/精(ピアノver)」 M/a/y/'/n 


後半 「時/に/は/昔/の/話/を」 加/藤/登/紀/子

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