彼女が通った
登校する場所に辿り着くと、彼女がもう待っていた。
澄んだ空を見たり、通り過ぎる人を眺めたり、せわしなく身体を動かしている。
まるでウサギのようだと思い、俺は声をかける。
「おはよう」
「あ!! おほよう!!」
彼女が満面の笑みを浮かべ、手を振ってくる。
そのはしゃぎかたが、いつもと違うので、
「どうした?」
率直に聞いてみることにした。
「えっと、その、実は…」
彼女は告白でもするように、もじもじし始める。
俺は苛つかず、何だろうと不思議に見つめる。
彼女は周りを見つめ、誰も来ないことを確認すると、カバンを開ける。
「あのね、実は…」
「おう。何だ?」
びっくり箱でも出そうとしている道化師みたいに、彼女はカバンから何かを取り出してきた。
「はい、これ!!」
「え…? …封筒?」
彼女は白い封筒を出し、ぺろりと舌を出す。
「実は通ったのよ!!」
「通ったって…まさかアイドルの?」
彼女は嬉しそうにうなずく。
「まじで? 本当に?」
俺も興奮し始め、封筒を見つめる。
彼女は丁重に封筒から、書類を出すと、渡してくる。
「何、何…? この度はご応募、ありがとうございます。書類審査が通りましたので、お知らせいたします…!!」
俺は書類から顔を上げると、彼女が待っていて微笑む。手を差し出すと、2人でハイタッチする。
「やったな、おい!!」
「うん!! 1番に報告したくて!!」
「そうなのか? ありがとうな」
彼女をに抱きつくと、少し恥ずかしそうにしてくる。
俺は気にせず、背中を軽く叩く。
「良かった…!! 夢が叶う第一歩だ!!」
「そうなんだけどね。実は…」
彼女はやんわり俺の身体を押してくると、心配そうな表情を浮かべる。
「次、ダンスと歌の審査みたいなのよ。困ったことに」
「ダンスと歌…?」
彼女から身体を離し、書類を見る。
確かに次は歌とダンスの審査らしく、場所と日時が書かれている。
「もうすぐじゃないか!! 早く練習しないと」
「そうなんだけど、どこで練習しようか?」
「どこって…あ、そうだ!!カラオケとか」
俺が良い案だと思うと、彼女も緊張を少し和らげてくる。
「カラオケか…。誰の歌にしよう?」
「お前、あの人の歌が好きじゃないか。歌声も綺麗だし」
「そう? それなら、それにしよっと。練習、手伝ってくれる?」
「いいけど、ダンスはな…。MV見ながら、真似するか」
「そうなのよね。ダンスがね…。やったことがないからな」
「Tic Tockでもやるか? …でもそれだと、お前が美人なのが分かっちゃうしな。駄目だ、駄目」
「私って、美人なの? ありがとうね」
「おう。俺の自慢の彼女だ」
はっきり言うと、彼女が耳まで赤くなる。
くー、可愛すぎる!!
俺はまた抱きたいのを我慢し、言う。
「体育の先生に相談しようぜ。いずれは授業でダンスを習わないといけないんだし」
「体育の先生か…。嫌いなタイプじゃないから、頼んでみようかな」
「そうしろよ。あとは自主連だな。とりあえず、見様見真似でいいから、アイドルのMVを見ながら、練習しようぜ。俺も手伝うし」
「本当!! やった!!」
1人で不安だったのか、彼女は拳を作り、手を振る。
その嬉しさが俺にも伝わってきて、一緒に喜ぶ。
「じゃあ今日の放課後からな。分かった?」
「分かった。お願いします」
彼女が頭を下げてきたので、俺も「おう」と男らしく答える。
彼女がアイドか…。
その姿を想像して、頬を赤く染める。
心配した水着審査はなさそうなので、ほっとしていた。
「よっしゃ!! 頑張るぞ!!」
空に向かって大声を出すと、鳥達が飛んでいく。
まるでオーディションの審査員のところまで届けてくれるかのような、そんな感じだった。
俺が彼女の夢を叶えてやる!!
そう決意し、彼女を安心させるように、肩を抱いたのだった。




