表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

変身

「殺すなんてだめだよ!どうしてこんなことしちゃったのさ!」

「......」


 僕は自室で項垂れていた。

 彼等は死を望み、死に満足していた。僕は否定するつもりはない。にも拘らず、思い出す度に涙が出る。

 僕と同じように悩みを抱えて、生きる人間と死ぬ人間が、何故同じ空間にいたんだ。僕は生きることを選んで、彼等は死ぬことしか選ばなかった。彼等と僕のどんなところに差があったというのか。


 いや、そんなことは分かってる。妖精の差だ。僕は選ばれてしまった。彼等は選ばれなかった。それだけ。

 こんなの現実的じゃない。僕は僕の人生の主人公であって、誰かの物語の主人公なんかじゃない。そんな資格なんてない。僕は僕だけのための僕なんだ。

 だから僕は首に巻かれていたスカーフを解き、妖精に手渡した。


「僕には......無理だ」

「あっ」


 妖精は驚くというよりも、スカーフを叩きつけられないかみたいな、物への心配の方が勝っているようだった。

 

「いいけど。このスカーフ、他の人に渡っちゃって貴方が変身出来ないかもしれないけど、それでもいいの?」

「いい」

「そう。ま、元気にやってよね!じゃ、また」


 そう言うと妖精はPCモニターに消えた。

 我ながら物語としては最低の主人公だ。でも、これで僕はあの時の自殺者たちと同じ土俵に、上がろうとするところまで来れた。


 僕は七輪を見つめる。だが七輪は僕の存在など知らないかのように存在していた。誤った使い方をしてしまえば、僕の命など簡単に消し飛ぶ。七輪からすれば誰も彼もが皆平等なのかもしれない。

 少し気楽になれそうなマインドだ。人にも当てはまるのだろうか。例えば僕か、僕以外か、みたいな。でもそれでは良くない。僕以外の人間がいて、初めて僕は確立されるのだから。そういうぶっきらぼうというか雑な考え方は、あまりしない方がいいのかもしれない。

 さて、ヒーローになることを諦め、ブルーライトを浴びながらキーボードをカタカタと言わせることしか出来ないようになってしまって、どうだろう。やはり刺激が無いし、特別なことも無い。


 仮に僕の物語を読んでいる人間からすれば退屈そのものだろう。

 

 ............。


 ............。


 ......。


 ゲームを起動する。閉じる。

 ゲームを起動する。閉じる。

 ゲームを起動する。閉じる。


 …………。


 …………。


 ……。


 音楽を流す。曲はドビュッシーのベルガマスク組曲より月の光。


 …………。


 …………。


 ……。


 今頃、鬱だった友達は元気にやっているんだろうな。この前結婚してたし。学生時代は相談もしてたっけ。勉強もゲームも。

 いや今考えるのはよそう。嫉妬で僕自身が燃え尽きてしまいそうになる。

 

 月の光って有名で僕も好きなんだけど、4曲から成るベルガマスク組曲の中の1曲目のプレリュードも好きなんだよな。始まり方とか、特に。まあどうなんだろう。長調が良い感じに聞ける曲が好きなのかな。分からないけど。あんま詳しくないし。

 そういえば、羊は安らかに草を食み、のフルート演奏は好きだな。あれを聞いてるときは魂が安らかになるよ。うまく言えない。後はリバーダンスとかもいいね。クラシックな曲とは違って下半身の動きだけでダンスする、舞台作品ってことでいいのかな。あれを見てるときも熱くなるよ。動画投稿サイトに全編あるから今でもたまに見るけど、初めて家で親父がビデオかなんかで見せてくれたときは驚いたなあ。


 …………。


 …………。


 話すこともなくなったな。

 ベッドに飛び込む。このまま何かしらの要因で死ねたら、どんなに楽だろうか。

 小説を書く手間も省ける。同じことの繰り返しなら同じことを書けばいいだけだから。そして終われば物語を終わりにできるから。


 はは…………。物語の終わりか。でも…………ちょっと違和感があるな。アニメや特撮なんかで主人公が途中でいなくなってしまう作品は多少ある。僕は自分が退場したら物語が終わるって話をしていて、これは食い違いがあるな。僕が死んでも人間の物語は終わらない。だとすれば、僕がいなくなった後、この物語は何を描くんだろう。取り敢えず言えることは、その物語にずっと僕はいなくて、僕の人生の脇役だった人間が主役として活躍する物語になるんだろうってこと。それって、皆ハッピーじゃないか?僕だけが苦しめばいい。その僕すらも苦しいと口に出すことはない。

 僕はずっと平和を求めてる。僕の求めてた平和ってそういうことなのかも。もしかしたら……ね。自殺することにムカつきを覚えるけど、別に周りがそうじゃないなら別に自殺しても良いのかも。


 あ、そうだ。自殺がよく逃げだって言われるの、ちょっとそれはそれでムカつくんだよな。自殺は思考の放棄であるから一見逃げなんだけれど、逃げじゃないと思ってる。逃げるってのは、まあ良い意味も悪い意味もあるから、都合よく悪いところだけをフォーカスして喋って逃げじゃないと言うのは簡単。でも僕は逆張りだから良い意味でも悪い意味でも逃げは当てはまらないと考える。……でもなんと言語化すれば良いのだろう。自殺は終了だとしたら。面白いもハッピーも無い、ただの終了。命を事務的に返す行為。

 ……まあそれも逃げだと言われればどうしようもない。でもこれを言うことで僕が前にエリアオブエフェクトを使って行ったことの意味合いが少し変わる。

 僕は彼等の人生の最後の一行で介入したんだ。僕が奪った。物語も、命も。彼等はあれで良かったかもしれないが、僕がヒーローとしてやった行為は、救済を与えず、奪う行為だったんだ。……ああクソ。死にたくなってきた。僕はその時その時の衝動でやってしまった。あの涙はきっとそのせいだ。そうだ。きっと。目の前の自殺を救うことも認めることもできなかったんだ。

 

 死にたい。僕は人殺しの思想なんて持っていたのか。

 死ぬべきではないか。そんな人間。

 いや。僕……俺にはもっと考える力が必要だ。こんな所で死んでいられるか。


 例えば、自分の考えた結果が既に哲学者によって提唱されていたとして、その哲学者の考えた結果が後世に残っているのは何故だ。

 ……勿論生きて結果を残したからだ。

 なら結果を残さずに死ぬことは、なんだ。


 無駄、だ。


 そう無駄なんだ。お前が生きてきた数十年は、人間の進化に影響を及ぼさずして無駄に終わるんだ。そして人間は他人にどこで影響を与えるか、タイミングが分からないんだ。つまり、生きるしかないんだよ。人間は死ぬまで、な。

 俺が生きる理由はできた。じゃあ他人は?

 他人って。お前は他人に自分の思想を押し付けるのかよ。

 いや、そんなつもりは。


 お前は他人に自分の思想を押し付けるのか? そんなありふれたヒーローみたいなことがお前のやりたいことなのかよ。恩着せがましくて、自分のやることが一番の正義だ、って言うのかよ。

 違う…………違うぞ。俺は他人が生きるかどうかのときにどういう救いの手を差し伸べられるのか、考えておくべきだと思っているんだ。

 他人が生きるかどうかは他人が決める。お前はつまり他人が生きるきっかけになりたいんだな?


 そうだ。俺は─────


「誰かの生きるきっかけに、なりたい!!!」


 立ち上がる。俺はPCモニターに手を伸ばす。異空間へは行けるようだ。俺は迷わず異空間へ入った。

 緑の大地の上に立つ。日差しが眩しいが気にしてはいられない。右手を首の前で構える。スカーフは無い。が、首の周りが光り始める。驚くことはなかった。何故ならヘルプページには、その存在を知る者の首に巻かれる、と記載があった。


「来いよ......未来は、俺が創る!変身!」


 スカーフが首に巻かれ、俺は特殊な空間に放り込まれた。もう装甲はない。スーツのみが下から着せられる。

 空間から放り出され、俺は再び緑の大地に立った。 ネオアクタを使わず、鋼色のスーツを見に纏い俺は見た。


「怪人が......俺の過去を食ってる?」


 ようやく認識できた。ここは俺の心の中だ。不思議と人間の表情が認識できなかったのは、記憶の中で風化しつつあったからなのだろうか。

 確かに俺は、何故死にたいのかを上手く認識できていなかった。怪人カコイイットによって過去を食べられていたのだ。

 過去、俺はその恥ずべき過去によって自殺未遂をした。確かに過去によって死にたいと思っていた筈なのに、それすらも忘れていた。


 今は怪人の行為が、数が、手に取るようにわかる。この異空間は、心の中は、地球のように丸いことも分かる。やる......やるしかない。

 俺は最後の装甲も無くなった胸の光球と両手の甲の光球をくっつけた。


「エリアオブエフェクト」


 半径10kmを消し飛ばす。そして空を蹴る。再びエリアオブエフェクト。更に空を蹴る。その繰り返し。

 怪人の破片で出来た人間は、人間に見えるだけの記憶だ。次々に記憶が戻る。


 中学生の頃に彼女にフラれたこと。勉強ができなくて虐められていたこと。好きな女の子に生理的に拒否されたこと。部活の練習で何も上手くいかなかったこと。勉強を頑張らなかったこと。仕事を忘れていたこと。仕事を間違わないように話せない方法をとって防いでいたこと。クレーム電話で罵倒されたこと。どうしようもないときに謝り続けたこと。医者の制止を振り切って自殺未遂したこと。


 思い出した。

 異空間が突如、バグを起こしたように崩れ始めた。俺の怪人は消滅した、という事なのだろう。

 俺は確実に、新しい俺に変身出来た、と感じる。


 俺は崩壊する世界の中で、大地に座り、スカーフをくるくると指に巻き付けて遊んでいた。




「......父さん?」

 

 霞む視界から父さんの姿を見つけた。昔自殺未遂したときも、偶然父さんが見つけてくれたっけ。

 父さんは泣いて、抱きしめてくれた。

 俺は抱きしめ返そうと腕を伸ばした。そこで気付いた。俺に着せられていたのは、緑色の服だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ